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返上~汚名を挽回~
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「さすがに今回ばかりはお人好しが過ぎます!私は反対ですよ!」
「いくらテレアちゃんたってのお願いと言えど、さすがにエナさんの意見に賛成ですわね」
フリルを除いた全員で朝食を頂いた後、コランズの処遇について話し合いが始まったものの、開始一分も経たないうちの発言がこれである。
「……まだ何も言ってないんですが?」
「いい加減わかりますよ……シューイチさんのお人好し加減は散々見せられてるんですから」
下手に付き合いが長くなるとこういう弊害が出てくるんだなぁ……などど呑気の考えてしまう俺であった。
「本人の前で言っちゃうのはあれですけど、本当に洗脳が解けているのかどうかも怪しい物です」
「―――そうですね、気持ちはわかると思います」
「わかっちゃうのかよ」
お前さんの今後を左右する話をしとる真っ最中やぞ?
議題そのものである本人は食後のお茶を啜りつつ、呑気なものである。
「―――僕自身も本当に洗脳が解けているのか少し疑わしいと思っていますから」
「でも別に俺たちと敵対する意思もないんだろ?」
「―――敵対もなにも、特にこれといった感情を持ち合わせていませんから」
冷めてるぅ~。
自分のことなのに物凄く客観的だよなぁ……洗脳による弊害なのか、もしくは元々こうなのか。
「たしかにみんなの気持ちもわかるよ……元々敵だったんだし、ぶっちゃけると俺だって少しは警戒してるよ。でもさすがに行く当てもないらしい子供をほっぽり出すことは出来ないくらいの気持ちは持ち合わせてるわけよ?」
「それをお人好しというんです」
取り付く島もないな……肝心の言い出しっぺのテレアも、何も言いだすことが出来ずにオロオロとしてしまっている。
そして基本的に部外者であるスチカとティアも食後のお茶を啜りながら、事の成り行きを見守っている状況だ。
俺としては洗脳が解けておらず、最悪また暴れ出すことがあったとしても、この拠点には俺もエナもテレアもレリスもいるから、全員で押さえつけてしまえば大丈夫という安心感もあるんだが……。
テレアの為にもなんとか話をいい方向に持って行ってあげたいんだけど……。
「実際のところお前さんはこれからどうしたいと思ってるんだ?」
「―――両親もおらず教団にも見捨てられた以上もうどこにも行く当てはありませんから、なるようにしかならないと思ってます」
朝食の時にチラッと聞いたんだけど、スチカと同じく赤ん坊のころに両親に捨てられた後カルマ教団に拾われ、教団の実行部隊として戦闘技術を仕込まれて、五年ほど教団の為に洗脳によって何の疑問も持たされることなく自身の手を血で染めてきたとのこと。
もはや完全なる戦闘マシーンである。
「そんじゃ質問を変えるな?お前さんはまた以前のように人を殺していく生活に戻りたいか?」
「―――それはもう嫌です」
若干声のトーンが下がった。
この辺は本心とみて間違いないだろうな……テレアと戦っていた時にも人を殺したくないとは言っていたし。
「そういうことらしいよ?俺がお人好しなのも充分理解してるしみんなが渋る気持ちだってわかってるよ。でも俺はこのままこの子を見捨てることはできないんだ」
「……わかりますよ?私だって本当は何とかしてあげたいとは思うんですよ?でももし私たちの目が届かない時になにか問題でも起きたら……」
「ちょーっといいですかね?」
それまで黙って部屋の隅で成り行きを見守っていたシエルが手を挙げて口を開いた。
全員の視線が集まったのを確認してから、シエルがコランズの元まで歩いてきてこう言った。
「詰まるところ皆さんは自分たちのいない間に何かされることを心配してるんですよね?それなら私が常に彼を監視しますよ」
「え?……でもそれは大丈夫なのですか?」
突然のシエルの発言に、レリスが心配そうな面持ちで尋ねる。
「確かに私神様見習いとしての力を封印されてはいますが、実のところここにいる皆さんが束になって掛かって来たとしてもあしらえる自信がありますし……不安なら試してみますか?」
あっけらかんと言い放ったその発言に対し、その場の全員が唖然とする。
なにそれ?そんなの聞いてないんだけど!?
「そうなの!?如何にも弱そうなのに!?」
「失礼ですね……まあ今まで基本的に傍観者に徹してましたから信じられないのもわかりますがねぇ」
「それは少しばかり聞き捨てなりませんわね」
それを聞いて黙ってられないとばかりに立ち上がったのが、うちのアタッカーであるレリスさん。
それに倣ってなぜかエナまで立ち上がった。
「じゃあこうしましょうか?今から反対派であるエナさんとレリスさんと手合わせしますから、それで私が勝ったらコランズ君を私の部下として迎え入れるということで」
なんか勝負ごとに話を持っていくついでに、さらっと自分の部下にする発言までかましてきた。
いくらなんでもエナとレリスを同時に相手取るのは無謀だと思うんだけど……。
「いいでしょう!そこまで言うならやりましょう!」
「もしもわたくしたちが負けることがあれば、その時はシエルさんの提案に従いますわ!」
プライドを刺激されたのか、あっさりと二人はシエルの提案に乗ってしまった。
なんだろう……エナとレリスの発言がフラグにしか聞こえないんだけど……。
そんなこんなで俺たちは庭へとやって来た。
もはやおなじみとなったメイド服を身に纏いはたきを持ちちょこんと佇むシエルと、やる気満々とばかりのエナとレリスが対峙する光景を目の前にしつつ、観戦者となった残りの面子である俺たちはお茶請けを片手にそれ見守ることとなる。
……緊張感ねえなー。
「最初に言っておきますけど、すぐに勝負がついても後から文句言わないでくださいね?」
「随分と余裕ですね」
「さすがにわたくしたちを甘く見すぎですわね」
シエルの奴煽るなぁ。
そしてエナもレリスも挑発に乗りすぎだろ。
さすがにちょっと心配になったので、俺はシエルの元へと歩いて行く。
「本当に大丈夫なのか?」
「問題ないと思いますよ?それにここらで私の汚名を挽回……おっと、返上しないと示しがつきませんからねぇ……あっお二人の好きなタイミングで初めてもらってもいいですよ?」
その余裕たっぷりな発言がエナとレリスの闘争本能に火をつけたのか、エナが魔力を活性化させ魔力を練り上げ、レリスも魔法を発動させて風を身に纏い、一気に戦闘態勢に移行した。
ここにいたら巻き込まれるため、俺は駆け足でテレアたちの元へと戻った。
「行きますよレリスさん!」
「後ろはお任せしますわエナさん!」
実のところこの二人のペアは恐ろしく強い。
前衛と後衛と役割がはっきりしている上に、二人とも相性がいいらしく息ぴったりなので恐ろしいコンビネーションを発揮する。
先日の戦いのときに、玄武の力を得てパワーアップしたゴルマ相手に一歩も引いてなかったことから、その実力の高さが伺える。
対するシエルは相変わらずはたきを手にしたまま、二人をのんびりと眺めている。
いくらなんでも余裕見せすぎだろ……本当に大丈夫なのか?
「ブラインド・フォッグ!」
エナの放った魔法により、シエルの周りに濃度の高い霧が発生し視界を塞ぐ。
その隙に風の魔法により加速したレリスが相手へと超スピードで接近し、一気に斬り伏せるというこの二人の必勝パターンだ。
ていうか二人とも本気出しすぎだろ!?シエルを殺すつもりなの!?
「捕らえましたわ!!」
レリスが霧の中にいるシエルの位置を正確に捕らえて剣を振り下ろすが、そこにはすでにシエルはおらず、レリスの剣は空を切る結果となった。
「……え?あれ?」
まさかの事態にレリスが困惑しつつ声を上げる。
「レリスさん!後ろです!」
「ほいっと」
エナの叫びも空しく、突然かがんだ状態で後ろに現れたシエルがレリスの両足を手にしたはたきで払いのけると、綺麗な弧を描きながらレリスが地面に倒れた。
「えいっ」
倒れたレリスの背中にはたきをこつんと当てると、なんかそれだけで物凄い衝撃が発生し、声を上げる間もなくレリスが気絶してしまった。
「……はい?」
そしてその光景に唖然としているエナの真後ろに瞬時にして現れたシエルが、先程と全く同じ動作でエナを転ばして背中にはたきを当てて、あっという間に無力化してしまった。
「ふう……これで文句ないですかね?」
まさかの結果に、その場の全員があっけに取られて声すら上げられずにいた。
「テレア……今の見えた?」
「……見える見えないとかの問題じゃないよ……」
「なんや、瞬きしとる間に二人が倒されとるやん……」
「何が起きたのかさっぱりじゃ」
腐っても神様見習いということなのか……いやはや恐ろしい。
「手も足もでないという領域ではありませんでしたわね……」
「わたしもです……戦いにすらなってませんでしたね……」
「なんというか……二人とも元気出して?」
エナとレリスを起こすと、自分たちがあっさり負けたという事実をきちんと認識してるらしく、目に見えて意気消沈してしまったので、一応慰めてはみた物の二人の耳には届いていないようだった。
「これでわかってもらえましたかね?たとえコランズ君が何かの拍子にまた暴れ出したとしても私が見てる以上大丈夫だということが」
「―――僕が突然暴れ出すキャラクターだと思われているのはなぜなんでしょう?」
「まあ大人には色々あるんだよ……」
釈然としない感じで呟いたコランズに対し、俺は適当な言い訳でお茶を濁した。
「約束ですからね……コランズ君のことはシエルさんに任せます」
「ここまで力の差を見せられては、反対する気すら起きませんわね」
「決まりですね!それではコランズ君!あなたは今日から私の給仕係としての後輩ということになりましたから、よろしくお願いしますね!」
「―――戦闘部隊の間違いではないんですか?」
「そう思いたくなる気もわかるけど、違うからな?」
俺たちがそんなことを話していると、なんか嬉々とした様子のシエルがコランズの元に歩み寄って来た。
近年まれにみるご機嫌っぷりだな。
「これからおねーさんが給仕係とはなんたるかを丁寧に指導してあげますからね!」
「―――はあ、よろしくお願いします」
その言葉を受けてコランズが丁寧にお辞儀をした。
お前さんだって給仕係になってからそんなに日が経ってないくせに、随分と偉そうですなぁ。
それにしてもコランズが給仕係ねぇ……まあ落としどころとしては悪くはない……のかな?
「テレアはこれでいいと思う?」
「えっと……コランズ君がいいと思うならいいんじゃない……かな?」
俺の問いに、テレアが苦笑いで答える。
そんな俺たちの会話が聞こえたのかはわからないが、コランズが俺とテレアに向き直ってお辞儀してきた。
「―――二人のおかげで僕は住む場所を手に入れました。ありがとうございます」
「……やっぱりコランズ君は戦いたくなかったんだね?」
「―――どうなのでしょう……でも今僕が感じているこの安心感に理由をつけるとしたら、それが一番当てはまりますね」
「そっか……それならこれからよろしくねコランズ君!」
そう言ってテレアが握手を求めると、コランズも握手でもってテレアに答えた。
なんにせよ、これで丸く収まるならいいのかもな……だがな……。
俺はテレアと握手しているコランズの頭に手を置いてニッコリと微笑む。
「お前さんにうちのテレアはやらんからな?」
「お兄ちゃん、何言ってるの!?」
朝も早い住宅街に、テレアの叫びがこだました。
そんなこんなで、コランズの問題はシエルの部下になるということで一応の解決をしたのだった。
「いくらテレアちゃんたってのお願いと言えど、さすがにエナさんの意見に賛成ですわね」
フリルを除いた全員で朝食を頂いた後、コランズの処遇について話し合いが始まったものの、開始一分も経たないうちの発言がこれである。
「……まだ何も言ってないんですが?」
「いい加減わかりますよ……シューイチさんのお人好し加減は散々見せられてるんですから」
下手に付き合いが長くなるとこういう弊害が出てくるんだなぁ……などど呑気の考えてしまう俺であった。
「本人の前で言っちゃうのはあれですけど、本当に洗脳が解けているのかどうかも怪しい物です」
「―――そうですね、気持ちはわかると思います」
「わかっちゃうのかよ」
お前さんの今後を左右する話をしとる真っ最中やぞ?
議題そのものである本人は食後のお茶を啜りつつ、呑気なものである。
「―――僕自身も本当に洗脳が解けているのか少し疑わしいと思っていますから」
「でも別に俺たちと敵対する意思もないんだろ?」
「―――敵対もなにも、特にこれといった感情を持ち合わせていませんから」
冷めてるぅ~。
自分のことなのに物凄く客観的だよなぁ……洗脳による弊害なのか、もしくは元々こうなのか。
「たしかにみんなの気持ちもわかるよ……元々敵だったんだし、ぶっちゃけると俺だって少しは警戒してるよ。でもさすがに行く当てもないらしい子供をほっぽり出すことは出来ないくらいの気持ちは持ち合わせてるわけよ?」
「それをお人好しというんです」
取り付く島もないな……肝心の言い出しっぺのテレアも、何も言いだすことが出来ずにオロオロとしてしまっている。
そして基本的に部外者であるスチカとティアも食後のお茶を啜りながら、事の成り行きを見守っている状況だ。
俺としては洗脳が解けておらず、最悪また暴れ出すことがあったとしても、この拠点には俺もエナもテレアもレリスもいるから、全員で押さえつけてしまえば大丈夫という安心感もあるんだが……。
テレアの為にもなんとか話をいい方向に持って行ってあげたいんだけど……。
「実際のところお前さんはこれからどうしたいと思ってるんだ?」
「―――両親もおらず教団にも見捨てられた以上もうどこにも行く当てはありませんから、なるようにしかならないと思ってます」
朝食の時にチラッと聞いたんだけど、スチカと同じく赤ん坊のころに両親に捨てられた後カルマ教団に拾われ、教団の実行部隊として戦闘技術を仕込まれて、五年ほど教団の為に洗脳によって何の疑問も持たされることなく自身の手を血で染めてきたとのこと。
もはや完全なる戦闘マシーンである。
「そんじゃ質問を変えるな?お前さんはまた以前のように人を殺していく生活に戻りたいか?」
「―――それはもう嫌です」
若干声のトーンが下がった。
この辺は本心とみて間違いないだろうな……テレアと戦っていた時にも人を殺したくないとは言っていたし。
「そういうことらしいよ?俺がお人好しなのも充分理解してるしみんなが渋る気持ちだってわかってるよ。でも俺はこのままこの子を見捨てることはできないんだ」
「……わかりますよ?私だって本当は何とかしてあげたいとは思うんですよ?でももし私たちの目が届かない時になにか問題でも起きたら……」
「ちょーっといいですかね?」
それまで黙って部屋の隅で成り行きを見守っていたシエルが手を挙げて口を開いた。
全員の視線が集まったのを確認してから、シエルがコランズの元まで歩いてきてこう言った。
「詰まるところ皆さんは自分たちのいない間に何かされることを心配してるんですよね?それなら私が常に彼を監視しますよ」
「え?……でもそれは大丈夫なのですか?」
突然のシエルの発言に、レリスが心配そうな面持ちで尋ねる。
「確かに私神様見習いとしての力を封印されてはいますが、実のところここにいる皆さんが束になって掛かって来たとしてもあしらえる自信がありますし……不安なら試してみますか?」
あっけらかんと言い放ったその発言に対し、その場の全員が唖然とする。
なにそれ?そんなの聞いてないんだけど!?
「そうなの!?如何にも弱そうなのに!?」
「失礼ですね……まあ今まで基本的に傍観者に徹してましたから信じられないのもわかりますがねぇ」
「それは少しばかり聞き捨てなりませんわね」
それを聞いて黙ってられないとばかりに立ち上がったのが、うちのアタッカーであるレリスさん。
それに倣ってなぜかエナまで立ち上がった。
「じゃあこうしましょうか?今から反対派であるエナさんとレリスさんと手合わせしますから、それで私が勝ったらコランズ君を私の部下として迎え入れるということで」
なんか勝負ごとに話を持っていくついでに、さらっと自分の部下にする発言までかましてきた。
いくらなんでもエナとレリスを同時に相手取るのは無謀だと思うんだけど……。
「いいでしょう!そこまで言うならやりましょう!」
「もしもわたくしたちが負けることがあれば、その時はシエルさんの提案に従いますわ!」
プライドを刺激されたのか、あっさりと二人はシエルの提案に乗ってしまった。
なんだろう……エナとレリスの発言がフラグにしか聞こえないんだけど……。
そんなこんなで俺たちは庭へとやって来た。
もはやおなじみとなったメイド服を身に纏いはたきを持ちちょこんと佇むシエルと、やる気満々とばかりのエナとレリスが対峙する光景を目の前にしつつ、観戦者となった残りの面子である俺たちはお茶請けを片手にそれ見守ることとなる。
……緊張感ねえなー。
「最初に言っておきますけど、すぐに勝負がついても後から文句言わないでくださいね?」
「随分と余裕ですね」
「さすがにわたくしたちを甘く見すぎですわね」
シエルの奴煽るなぁ。
そしてエナもレリスも挑発に乗りすぎだろ。
さすがにちょっと心配になったので、俺はシエルの元へと歩いて行く。
「本当に大丈夫なのか?」
「問題ないと思いますよ?それにここらで私の汚名を挽回……おっと、返上しないと示しがつきませんからねぇ……あっお二人の好きなタイミングで初めてもらってもいいですよ?」
その余裕たっぷりな発言がエナとレリスの闘争本能に火をつけたのか、エナが魔力を活性化させ魔力を練り上げ、レリスも魔法を発動させて風を身に纏い、一気に戦闘態勢に移行した。
ここにいたら巻き込まれるため、俺は駆け足でテレアたちの元へと戻った。
「行きますよレリスさん!」
「後ろはお任せしますわエナさん!」
実のところこの二人のペアは恐ろしく強い。
前衛と後衛と役割がはっきりしている上に、二人とも相性がいいらしく息ぴったりなので恐ろしいコンビネーションを発揮する。
先日の戦いのときに、玄武の力を得てパワーアップしたゴルマ相手に一歩も引いてなかったことから、その実力の高さが伺える。
対するシエルは相変わらずはたきを手にしたまま、二人をのんびりと眺めている。
いくらなんでも余裕見せすぎだろ……本当に大丈夫なのか?
「ブラインド・フォッグ!」
エナの放った魔法により、シエルの周りに濃度の高い霧が発生し視界を塞ぐ。
その隙に風の魔法により加速したレリスが相手へと超スピードで接近し、一気に斬り伏せるというこの二人の必勝パターンだ。
ていうか二人とも本気出しすぎだろ!?シエルを殺すつもりなの!?
「捕らえましたわ!!」
レリスが霧の中にいるシエルの位置を正確に捕らえて剣を振り下ろすが、そこにはすでにシエルはおらず、レリスの剣は空を切る結果となった。
「……え?あれ?」
まさかの事態にレリスが困惑しつつ声を上げる。
「レリスさん!後ろです!」
「ほいっと」
エナの叫びも空しく、突然かがんだ状態で後ろに現れたシエルがレリスの両足を手にしたはたきで払いのけると、綺麗な弧を描きながらレリスが地面に倒れた。
「えいっ」
倒れたレリスの背中にはたきをこつんと当てると、なんかそれだけで物凄い衝撃が発生し、声を上げる間もなくレリスが気絶してしまった。
「……はい?」
そしてその光景に唖然としているエナの真後ろに瞬時にして現れたシエルが、先程と全く同じ動作でエナを転ばして背中にはたきを当てて、あっという間に無力化してしまった。
「ふう……これで文句ないですかね?」
まさかの結果に、その場の全員があっけに取られて声すら上げられずにいた。
「テレア……今の見えた?」
「……見える見えないとかの問題じゃないよ……」
「なんや、瞬きしとる間に二人が倒されとるやん……」
「何が起きたのかさっぱりじゃ」
腐っても神様見習いということなのか……いやはや恐ろしい。
「手も足もでないという領域ではありませんでしたわね……」
「わたしもです……戦いにすらなってませんでしたね……」
「なんというか……二人とも元気出して?」
エナとレリスを起こすと、自分たちがあっさり負けたという事実をきちんと認識してるらしく、目に見えて意気消沈してしまったので、一応慰めてはみた物の二人の耳には届いていないようだった。
「これでわかってもらえましたかね?たとえコランズ君が何かの拍子にまた暴れ出したとしても私が見てる以上大丈夫だということが」
「―――僕が突然暴れ出すキャラクターだと思われているのはなぜなんでしょう?」
「まあ大人には色々あるんだよ……」
釈然としない感じで呟いたコランズに対し、俺は適当な言い訳でお茶を濁した。
「約束ですからね……コランズ君のことはシエルさんに任せます」
「ここまで力の差を見せられては、反対する気すら起きませんわね」
「決まりですね!それではコランズ君!あなたは今日から私の給仕係としての後輩ということになりましたから、よろしくお願いしますね!」
「―――戦闘部隊の間違いではないんですか?」
「そう思いたくなる気もわかるけど、違うからな?」
俺たちがそんなことを話していると、なんか嬉々とした様子のシエルがコランズの元に歩み寄って来た。
近年まれにみるご機嫌っぷりだな。
「これからおねーさんが給仕係とはなんたるかを丁寧に指導してあげますからね!」
「―――はあ、よろしくお願いします」
その言葉を受けてコランズが丁寧にお辞儀をした。
お前さんだって給仕係になってからそんなに日が経ってないくせに、随分と偉そうですなぁ。
それにしてもコランズが給仕係ねぇ……まあ落としどころとしては悪くはない……のかな?
「テレアはこれでいいと思う?」
「えっと……コランズ君がいいと思うならいいんじゃない……かな?」
俺の問いに、テレアが苦笑いで答える。
そんな俺たちの会話が聞こえたのかはわからないが、コランズが俺とテレアに向き直ってお辞儀してきた。
「―――二人のおかげで僕は住む場所を手に入れました。ありがとうございます」
「……やっぱりコランズ君は戦いたくなかったんだね?」
「―――どうなのでしょう……でも今僕が感じているこの安心感に理由をつけるとしたら、それが一番当てはまりますね」
「そっか……それならこれからよろしくねコランズ君!」
そう言ってテレアが握手を求めると、コランズも握手でもってテレアに答えた。
なんにせよ、これで丸く収まるならいいのかもな……だがな……。
俺はテレアと握手しているコランズの頭に手を置いてニッコリと微笑む。
「お前さんにうちのテレアはやらんからな?」
「お兄ちゃん、何言ってるの!?」
朝も早い住宅街に、テレアの叫びがこだました。
そんなこんなで、コランズの問題はシエルの部下になるということで一応の解決をしたのだった。
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◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

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