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反省~言葉という凶器~

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 噴水広場を抜け出した俺たちは、フリルの姿を求め周囲を見渡すがもうすでにこの場から遠くに離れてしまったらしく、当然のごとく見つけることは叶わなかった。

「テレア、フリルがどこに行ったかわかるかな?」
「えっとね……商店街の方に向かってるよ」

 そう言ってテレアが商店街の方角を指さす。
 テレアは自身の魔力で視覚や聴覚や感覚などを強化する術を持っている。完全な位置の特定まではできないまでも、大体の位置がわかるとのことで連れてきて正解だった。
 恐らくこういう事態を想定してレリスはテレアをお供に連れて行かせたのだろうな。さすがと言わざるを得ない。
 早速商店街に向けて走り出そうとしたところで、ティアが俺の手を振りほどいた。

「なぜわらわがフリルを探しに行かねばならんのじゃ!!」

 激高するティアに視線を向ける。
 ここまで走ったきたからか、それとも怒りでかはわからないが顔は真っ赤になっていて肩で息をしている。
 そうだよなぁ、まずはこの子を説得なり、自分が何をしてしまったのかを分からせてあげないといけないよな。

「テレア、ちょっとの間フリルの動きに注意しといてくれ」
「うん……!」

 テレアにそう言ってから、俺はティアの目の前に歩いて行きしゃがみ込んで視線の高さを合わせる。
 そしてまっすぐにティアの目を見ながら、俺は口を開いた。

「なぜかって?そりゃあティアがフリルのことを傷つけたからだよ?だからティアはフリルにそのことを謝らないといけないんだ」
「わらわがフリルを傷つけた……?」
「人は必ずしも言われたくない言葉ってのがあるんだよ、ティアはその言葉をフリルに言ってしまったんだ」
「そんな言葉は言っておらん!わらわはフリルが卑怯なことをしたからそれを指摘しただけじゃ!仮にその言葉で逃げ出したとしたら、フリルにやましいことがあるからなのじゃ!わらわは悪くないのじゃ!!」

 一瞬手が出そうになるものの、それはもうスチカがやっている。
 だからこそ俺はそうならないように、その衝動を自制し言葉を選びながらティアに言い聞かせていく。

「ティアはスチカの出生とか魔力がない代わりに絶対記憶力という能力があることを知ってるか?」
「勿論知っておる!わらわとスチカは親友じゃ!お互いに隠し事はしないと誓いを立てたのじゃ!」

 一体何があってこの子とスチカの関係が出来上がったのか非常に興味があるものの、今はそれを気にしている場合じゃないな。

「じゃあスチカがどういう風に機械を作ってるか知ってるよな?あの子は自分のその才能と、努力して自身の手先の器用さを高めて、その全てを機械作りに生かしてるんだ」
「そうなのじゃ!スチカは凄いのじゃ!わらわはそんなスチカを尊敬しておる!フリルとは大違いじゃ!」
「ほんとうに違うと思うか?」
「……どういう意味じゃ?」

 これでわかってくれるなら楽だったんだけどやっぱり無理か。
 もうちょっとわかりやすく直接的に言わないとダメか……。

「じゃあもしも俺がスチカに「お前の作る機械は神様にもらったインチキ能力のおかげだから卑怯だ!」って言ったらどうする?」
「そんなもの絶対に許さないのじゃ!!スチカの能力がインチキなんてそんなことは絶対にないのじゃ!」
「それを踏まえて考えてほしいんだけど、フリルの歌に魔力が込められていたこともインチキで卑怯なことなのかな?」
「卑怯に決まっておろう!だって……あれ……?」

 良かった、これで気が付かないようだったら今すぐ引き返してティアをスチカに押し付けなきゃならないところだった。
 多分だけどこの子は自分の言葉で誰かが傷つくなんて思ったことがないんだろうな。
 この子の普段の振る舞いや言動がこのままなら、それで怒りを覚えたり傷つけられた人なんてそれこそ数えられないくらいいただろうけど、恐らくそういう部分を見せられないように育てられたのだと思う。
 だからこそ言葉が持つ精神的な凶器としての側面を知らないんだろう。

「フリルの歌にはたしかに魔力が込められている。そこは否定しない。でもあの子はその魔力を悪いこと……ましてや洗脳なんかに使ったことなんて一度もないよ?」
「でも……でも……」
「フリルの歌に込められた魔力は、自身の歌を聴いてくれた人の心に少しでも響くように、ちょっと手助けするくらいの小さな魔力なんだ……あの子が歌で誰かを洗脳するような子じゃないことは俺が保証する」

 ティアが俯いて黙ってしまった。
 だがちゃんと聞いてくれていると信じて、俺は言葉を続けていく。

「そこはスチカと変わらないと思うんだよ。スチカと同じようにフリルだって自分のその才能を大好きな歌の為に使ってるんだ」
「そ……それは……」
「それにな?フリルは一度その能力のせいで自分や周りを傷つける原因を作ったことがあるんだ」
「そうなのか……?」

 あの時のフリルの表情は今でも忘れならない。
 あれからそれなりに時間が過ぎたから吹っ切れたのかと思っていたけど、やはりそんなことはなかったんだ。
 ティアばかりのせいにはできない、これはそのことに気がつけなかった俺にも責任はある。

「フリルは本当は物凄く優しい子なんだよ?ティアにはそう映らなかったかもしれないけど、あの子はあの子なりにティアのことを気にかけてくれていたよ?」

 俺たちの拠点に泊めることに対しても反対はしなかったし、ティアが外に出たいと行った時も変装させればいいとみんなに助言したりね。

「それにこれは俺の予想なんだけど……ティアは昔スチカと一緒にルーデンス旅芸人一座の公演を見たことあるんじゃないかな?」
「そうじゃが……なぜわかったのじゃ?」

 やっぱりそうだったか……スチカがあの一座の公演を見たことあるって聞いた時にそうなんじゃないかと思ったんだ。
 ティアのこのスチカへのべったりぶりを見れば、一緒に見に行ったと考えるのは容易だった。

「その一座の公演の最後に、新緑の歌姫と呼ばれる女の子が歌を歌わなかった?」
「歌っていたのじゃ!丁度さっきのフリルのように歌に魔力を込めていたので、座長の元に直接文句を言いに行ったのじゃ!」

 やっぱりそうなのか……なぜフリルがティアに対して辛辣な態度を取っていたのかその理由がようやくはっきりした。
 恐らくティアからのクレームを、ルーデンスさんかラフタさんから直接聞いてしまったんだろう。

「それがフリルなんだよ」
「なっ……!?」

 俺のその言葉に、ティアが絶句して固まる。
 フリルって実は良くも悪くも自分にされたことを忘れない一面がある。
 しかも頑固な性分も合わさって、いつまでもそれを忘れないのだ。
 今回はそれが良くない方面に転がった最たる例だな。

「ちょっと酷な言い方をするけど、フリルのティアへの態度はティアの自業自得なんだよ?」
「だってその時はフリルのことを知らなくて……」
「そりゃあ知ってたら言わなかっただろうね?だからって知らないからって言っていいってもんじゃないんだよ?ティアだって言われたくない言葉の一つや二つはあるだろ?」

 多分この子のことだからフリルのことを覚えていても言ったかもしれないが、今そこはスルーしよう。話がややこしくなるからね。

「そろそろなんでスチカが怒ってティアのことビンタしたかわかってきたかな?」
「……」

 すっかり意気消沈した様子で、ティアが小さく頷いた。
 多分俺が思ってるよりもティアは賢い子だろうから、落ち着いて順を追って説明すればわかってもらえるとは思っていた。
 フリルの過去のことについてわからないのは仕方のないことだが、ある種自分の拠り所かもしれない歌を卑怯呼ばわりされたフリルの心境を考えると心が痛む。
 ティアもそのことをちゃんとわかってくれるといいんだけどね。
 
「わらわは、どうすればいいのじゃ……?」
「簡単なことだよ、フリルに謝ればいいんだ。「ごめんなさい」ってね」
「謝る……わらわは生まれてこの方誰かに謝ったことなんてない……」

 まあそうだろうね。
 もしそうなら今頃こんな面倒な事態になってないだろうし。

「ティアはフリルの歌どうだった?」
「……凄かったのじゃ……わらわの歌にないものをたくさん持っておった……」
「じゃあ謝りついでに、それもフリルに伝えてあげればいいよ」

 そう言って俺はようやく立ち上がり、不安げに俺を見上げるティアに向けて俺は手を差し出した。

「そんじゃフリルを探しに行くか!一緒にさ?」
「……うむ……」

 表情は暗いままだが、ティア大きく頷いて俺の手を取ってくれた。
 そのまま少し離れて俺たちを心配そうに見ていたテレアの元に駆け寄った。

「待たせてごめんなテレア?」
「ううん、大丈夫だよ?……えっとティアちゃんは大丈夫かな?」
「……迷惑を掛けて……ごめんなさい……なのじゃ」

 心配そうに顔を覗き込んできたテレアに対し、ティアが申し訳なさそうにたどたどしい言葉で謝った。

「うん、テレアは大丈夫だから、その言葉はフリルお姉ちゃんに言ってあげてほしいな?」
「わかっておる……のじゃ」

 気のせいかテレアが物凄くお姉さんに見える。
 俺たちの中で一番年下だから気が付かなったのかもしれないが、もしかしたらテレアって結構なお姉さん気質なのかもしれない。

「そんじゃ遅くなったけどフリルを探しにいくか!テレア、フリルの動向はちゃんと抑えてくれてるか?」
「うん!今は商店街のあたりで動きが止まってるみたい」

 なら急げば追いつけるかもしれないな。
 俺たちは互いに頷きあい、商店街に向けて走り出した。



 五分ほど走り続けて、俺たちは商店街へと到着した。
 相変わらず人で賑わっているなここは……この人ごみの中からフリルを探し出すのは骨だなぁ。
 だがこちらにはテレアがいる!

「テレア、フリルはどっちにいる?」
「えっと……これだけ人が多いとわからないかも……ごめんねお兄ちゃん」

 おーのー!
 いくらテレアと言えどずっと感覚強化を使っていると疲弊してしまうので、一旦感覚強化を切って休憩を挟んだのだが……。
 いざ商店街に来て再び感覚強化を使ったところ、人の多さに紛れてしまってフリルの補足が出来なくなってしまったらしい。

「しゃあない……ここからは自力で探すか!」
「どうしよう?手分けしたほうがいいかな?」

 テレアのその提案に少し考えこむ。
 さすがにティアを一人にするわけにはいかないから俺かテレアのどちらかが連れていくしかないんだよな……。
 とはいえいくらテレアが強いと言っても一人にしてしまうのはさすがに心配だし……。

「フリルを探すのじゃな?ならわらわに任せるのじゃ」

 悩んでいた俺とテレアに向けて、ティアがなんか自信満々な様子でそう言ってきた。

「スチカには人前で使うなと言われておるが、今は緊急事態じゃ、やむを得まい」
「なんか手があるのか?」
「人に見られるのはまずいのじゃ……できればどこか物陰に」

 この面子で物陰に行くとか俺の社会的体裁に関わるんだけど、まあここは緊急事態ということで……。
 そんな風に自分に言い訳をしつつ、丁度いい建物の隙間があったのでそこへ三人で入り込む。

「今からすることは他言無用じゃ!もしスチカに知られたらわらわは怒られてしまう」

 そう言って俺とテレアに対して念入りに釘を刺してきた。
 一体何が始まるんだ?

「わらわ……クルスティア=アーデンハイツが願う……わらわの魔力を糧として今ここに顕現せよ……」

 その詠唱とも呼べる言葉と共に、ティアの魔力が活性化し一気に膨れ上がっていく。
 そしてティアの身体が淡い光に包まれたかと思うと、その光がティアから離れて一か所に集まっていく。
 なんだろう……こんな光景を割と頻繁に見てる気がするぞ?

「青龍よ!顕現するのじゃ!」

 その言葉と共に、光の中から青色の小さな龍が姿を現した。
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