86 / 169
反省~言葉という凶器~
しおりを挟む
噴水広場を抜け出した俺たちは、フリルの姿を求め周囲を見渡すがもうすでにこの場から遠くに離れてしまったらしく、当然のごとく見つけることは叶わなかった。
「テレア、フリルがどこに行ったかわかるかな?」
「えっとね……商店街の方に向かってるよ」
そう言ってテレアが商店街の方角を指さす。
テレアは自身の魔力で視覚や聴覚や感覚などを強化する術を持っている。完全な位置の特定まではできないまでも、大体の位置がわかるとのことで連れてきて正解だった。
恐らくこういう事態を想定してレリスはテレアをお供に連れて行かせたのだろうな。さすがと言わざるを得ない。
早速商店街に向けて走り出そうとしたところで、ティアが俺の手を振りほどいた。
「なぜわらわがフリルを探しに行かねばならんのじゃ!!」
激高するティアに視線を向ける。
ここまで走ったきたからか、それとも怒りでかはわからないが顔は真っ赤になっていて肩で息をしている。
そうだよなぁ、まずはこの子を説得なり、自分が何をしてしまったのかを分からせてあげないといけないよな。
「テレア、ちょっとの間フリルの動きに注意しといてくれ」
「うん……!」
テレアにそう言ってから、俺はティアの目の前に歩いて行きしゃがみ込んで視線の高さを合わせる。
そしてまっすぐにティアの目を見ながら、俺は口を開いた。
「なぜかって?そりゃあティアがフリルのことを傷つけたからだよ?だからティアはフリルにそのことを謝らないといけないんだ」
「わらわがフリルを傷つけた……?」
「人は必ずしも言われたくない言葉ってのがあるんだよ、ティアはその言葉をフリルに言ってしまったんだ」
「そんな言葉は言っておらん!わらわはフリルが卑怯なことをしたからそれを指摘しただけじゃ!仮にその言葉で逃げ出したとしたら、フリルにやましいことがあるからなのじゃ!わらわは悪くないのじゃ!!」
一瞬手が出そうになるものの、それはもうスチカがやっている。
だからこそ俺はそうならないように、その衝動を自制し言葉を選びながらティアに言い聞かせていく。
「ティアはスチカの出生とか魔力がない代わりに絶対記憶力という能力があることを知ってるか?」
「勿論知っておる!わらわとスチカは親友じゃ!お互いに隠し事はしないと誓いを立てたのじゃ!」
一体何があってこの子とスチカの関係が出来上がったのか非常に興味があるものの、今はそれを気にしている場合じゃないな。
「じゃあスチカがどういう風に機械を作ってるか知ってるよな?あの子は自分のその才能と、努力して自身の手先の器用さを高めて、その全てを機械作りに生かしてるんだ」
「そうなのじゃ!スチカは凄いのじゃ!わらわはそんなスチカを尊敬しておる!フリルとは大違いじゃ!」
「ほんとうに違うと思うか?」
「……どういう意味じゃ?」
これでわかってくれるなら楽だったんだけどやっぱり無理か。
もうちょっとわかりやすく直接的に言わないとダメか……。
「じゃあもしも俺がスチカに「お前の作る機械は神様にもらったインチキ能力のおかげだから卑怯だ!」って言ったらどうする?」
「そんなもの絶対に許さないのじゃ!!スチカの能力がインチキなんてそんなことは絶対にないのじゃ!」
「それを踏まえて考えてほしいんだけど、フリルの歌に魔力が込められていたこともインチキで卑怯なことなのかな?」
「卑怯に決まっておろう!だって……あれ……?」
良かった、これで気が付かないようだったら今すぐ引き返してティアをスチカに押し付けなきゃならないところだった。
多分だけどこの子は自分の言葉で誰かが傷つくなんて思ったことがないんだろうな。
この子の普段の振る舞いや言動がこのままなら、それで怒りを覚えたり傷つけられた人なんてそれこそ数えられないくらいいただろうけど、恐らくそういう部分を見せられないように育てられたのだと思う。
だからこそ言葉が持つ精神的な凶器としての側面を知らないんだろう。
「フリルの歌にはたしかに魔力が込められている。そこは否定しない。でもあの子はその魔力を悪いこと……ましてや洗脳なんかに使ったことなんて一度もないよ?」
「でも……でも……」
「フリルの歌に込められた魔力は、自身の歌を聴いてくれた人の心に少しでも響くように、ちょっと手助けするくらいの小さな魔力なんだ……あの子が歌で誰かを洗脳するような子じゃないことは俺が保証する」
ティアが俯いて黙ってしまった。
だがちゃんと聞いてくれていると信じて、俺は言葉を続けていく。
「そこはスチカと変わらないと思うんだよ。スチカと同じようにフリルだって自分のその才能を大好きな歌の為に使ってるんだ」
「そ……それは……」
「それにな?フリルは一度その能力のせいで自分や周りを傷つける原因を作ったことがあるんだ」
「そうなのか……?」
あの時のフリルの表情は今でも忘れならない。
あれからそれなりに時間が過ぎたから吹っ切れたのかと思っていたけど、やはりそんなことはなかったんだ。
ティアばかりのせいにはできない、これはそのことに気がつけなかった俺にも責任はある。
「フリルは本当は物凄く優しい子なんだよ?ティアにはそう映らなかったかもしれないけど、あの子はあの子なりにティアのことを気にかけてくれていたよ?」
俺たちの拠点に泊めることに対しても反対はしなかったし、ティアが外に出たいと行った時も変装させればいいとみんなに助言したりね。
「それにこれは俺の予想なんだけど……ティアは昔スチカと一緒にルーデンス旅芸人一座の公演を見たことあるんじゃないかな?」
「そうじゃが……なぜわかったのじゃ?」
やっぱりそうだったか……スチカがあの一座の公演を見たことあるって聞いた時にそうなんじゃないかと思ったんだ。
ティアのこのスチカへのべったりぶりを見れば、一緒に見に行ったと考えるのは容易だった。
「その一座の公演の最後に、新緑の歌姫と呼ばれる女の子が歌を歌わなかった?」
「歌っていたのじゃ!丁度さっきのフリルのように歌に魔力を込めていたので、座長の元に直接文句を言いに行ったのじゃ!」
やっぱりそうなのか……なぜフリルがティアに対して辛辣な態度を取っていたのかその理由がようやくはっきりした。
恐らくティアからのクレームを、ルーデンスさんかラフタさんから直接聞いてしまったんだろう。
「それがフリルなんだよ」
「なっ……!?」
俺のその言葉に、ティアが絶句して固まる。
フリルって実は良くも悪くも自分にされたことを忘れない一面がある。
しかも頑固な性分も合わさって、いつまでもそれを忘れないのだ。
今回はそれが良くない方面に転がった最たる例だな。
「ちょっと酷な言い方をするけど、フリルのティアへの態度はティアの自業自得なんだよ?」
「だってその時はフリルのことを知らなくて……」
「そりゃあ知ってたら言わなかっただろうね?だからって知らないからって言っていいってもんじゃないんだよ?ティアだって言われたくない言葉の一つや二つはあるだろ?」
多分この子のことだからフリルのことを覚えていても言ったかもしれないが、今そこはスルーしよう。話がややこしくなるからね。
「そろそろなんでスチカが怒ってティアのことビンタしたかわかってきたかな?」
「……」
すっかり意気消沈した様子で、ティアが小さく頷いた。
多分俺が思ってるよりもティアは賢い子だろうから、落ち着いて順を追って説明すればわかってもらえるとは思っていた。
フリルの過去のことについてわからないのは仕方のないことだが、ある種自分の拠り所かもしれない歌を卑怯呼ばわりされたフリルの心境を考えると心が痛む。
ティアもそのことをちゃんとわかってくれるといいんだけどね。
「わらわは、どうすればいいのじゃ……?」
「簡単なことだよ、フリルに謝ればいいんだ。「ごめんなさい」ってね」
「謝る……わらわは生まれてこの方誰かに謝ったことなんてない……」
まあそうだろうね。
もしそうなら今頃こんな面倒な事態になってないだろうし。
「ティアはフリルの歌どうだった?」
「……凄かったのじゃ……わらわの歌にないものをたくさん持っておった……」
「じゃあ謝りついでに、それもフリルに伝えてあげればいいよ」
そう言って俺はようやく立ち上がり、不安げに俺を見上げるティアに向けて俺は手を差し出した。
「そんじゃフリルを探しに行くか!一緒にさ?」
「……うむ……」
表情は暗いままだが、ティア大きく頷いて俺の手を取ってくれた。
そのまま少し離れて俺たちを心配そうに見ていたテレアの元に駆け寄った。
「待たせてごめんなテレア?」
「ううん、大丈夫だよ?……えっとティアちゃんは大丈夫かな?」
「……迷惑を掛けて……ごめんなさい……なのじゃ」
心配そうに顔を覗き込んできたテレアに対し、ティアが申し訳なさそうにたどたどしい言葉で謝った。
「うん、テレアは大丈夫だから、その言葉はフリルお姉ちゃんに言ってあげてほしいな?」
「わかっておる……のじゃ」
気のせいかテレアが物凄くお姉さんに見える。
俺たちの中で一番年下だから気が付かなったのかもしれないが、もしかしたらテレアって結構なお姉さん気質なのかもしれない。
「そんじゃ遅くなったけどフリルを探しにいくか!テレア、フリルの動向はちゃんと抑えてくれてるか?」
「うん!今は商店街のあたりで動きが止まってるみたい」
なら急げば追いつけるかもしれないな。
俺たちは互いに頷きあい、商店街に向けて走り出した。
五分ほど走り続けて、俺たちは商店街へと到着した。
相変わらず人で賑わっているなここは……この人ごみの中からフリルを探し出すのは骨だなぁ。
だがこちらにはテレアがいる!
「テレア、フリルはどっちにいる?」
「えっと……これだけ人が多いとわからないかも……ごめんねお兄ちゃん」
おーのー!
いくらテレアと言えどずっと感覚強化を使っていると疲弊してしまうので、一旦感覚強化を切って休憩を挟んだのだが……。
いざ商店街に来て再び感覚強化を使ったところ、人の多さに紛れてしまってフリルの補足が出来なくなってしまったらしい。
「しゃあない……ここからは自力で探すか!」
「どうしよう?手分けしたほうがいいかな?」
テレアのその提案に少し考えこむ。
さすがにティアを一人にするわけにはいかないから俺かテレアのどちらかが連れていくしかないんだよな……。
とはいえいくらテレアが強いと言っても一人にしてしまうのはさすがに心配だし……。
「フリルを探すのじゃな?ならわらわに任せるのじゃ」
悩んでいた俺とテレアに向けて、ティアがなんか自信満々な様子でそう言ってきた。
「スチカには人前で使うなと言われておるが、今は緊急事態じゃ、やむを得まい」
「なんか手があるのか?」
「人に見られるのはまずいのじゃ……できればどこか物陰に」
この面子で物陰に行くとか俺の社会的体裁に関わるんだけど、まあここは緊急事態ということで……。
そんな風に自分に言い訳をしつつ、丁度いい建物の隙間があったのでそこへ三人で入り込む。
「今からすることは他言無用じゃ!もしスチカに知られたらわらわは怒られてしまう」
そう言って俺とテレアに対して念入りに釘を刺してきた。
一体何が始まるんだ?
「わらわ……クルスティア=アーデンハイツが願う……わらわの魔力を糧として今ここに顕現せよ……」
その詠唱とも呼べる言葉と共に、ティアの魔力が活性化し一気に膨れ上がっていく。
そしてティアの身体が淡い光に包まれたかと思うと、その光がティアから離れて一か所に集まっていく。
なんだろう……こんな光景を割と頻繁に見てる気がするぞ?
「青龍よ!顕現するのじゃ!」
その言葉と共に、光の中から青色の小さな龍が姿を現した。
「テレア、フリルがどこに行ったかわかるかな?」
「えっとね……商店街の方に向かってるよ」
そう言ってテレアが商店街の方角を指さす。
テレアは自身の魔力で視覚や聴覚や感覚などを強化する術を持っている。完全な位置の特定まではできないまでも、大体の位置がわかるとのことで連れてきて正解だった。
恐らくこういう事態を想定してレリスはテレアをお供に連れて行かせたのだろうな。さすがと言わざるを得ない。
早速商店街に向けて走り出そうとしたところで、ティアが俺の手を振りほどいた。
「なぜわらわがフリルを探しに行かねばならんのじゃ!!」
激高するティアに視線を向ける。
ここまで走ったきたからか、それとも怒りでかはわからないが顔は真っ赤になっていて肩で息をしている。
そうだよなぁ、まずはこの子を説得なり、自分が何をしてしまったのかを分からせてあげないといけないよな。
「テレア、ちょっとの間フリルの動きに注意しといてくれ」
「うん……!」
テレアにそう言ってから、俺はティアの目の前に歩いて行きしゃがみ込んで視線の高さを合わせる。
そしてまっすぐにティアの目を見ながら、俺は口を開いた。
「なぜかって?そりゃあティアがフリルのことを傷つけたからだよ?だからティアはフリルにそのことを謝らないといけないんだ」
「わらわがフリルを傷つけた……?」
「人は必ずしも言われたくない言葉ってのがあるんだよ、ティアはその言葉をフリルに言ってしまったんだ」
「そんな言葉は言っておらん!わらわはフリルが卑怯なことをしたからそれを指摘しただけじゃ!仮にその言葉で逃げ出したとしたら、フリルにやましいことがあるからなのじゃ!わらわは悪くないのじゃ!!」
一瞬手が出そうになるものの、それはもうスチカがやっている。
だからこそ俺はそうならないように、その衝動を自制し言葉を選びながらティアに言い聞かせていく。
「ティアはスチカの出生とか魔力がない代わりに絶対記憶力という能力があることを知ってるか?」
「勿論知っておる!わらわとスチカは親友じゃ!お互いに隠し事はしないと誓いを立てたのじゃ!」
一体何があってこの子とスチカの関係が出来上がったのか非常に興味があるものの、今はそれを気にしている場合じゃないな。
「じゃあスチカがどういう風に機械を作ってるか知ってるよな?あの子は自分のその才能と、努力して自身の手先の器用さを高めて、その全てを機械作りに生かしてるんだ」
「そうなのじゃ!スチカは凄いのじゃ!わらわはそんなスチカを尊敬しておる!フリルとは大違いじゃ!」
「ほんとうに違うと思うか?」
「……どういう意味じゃ?」
これでわかってくれるなら楽だったんだけどやっぱり無理か。
もうちょっとわかりやすく直接的に言わないとダメか……。
「じゃあもしも俺がスチカに「お前の作る機械は神様にもらったインチキ能力のおかげだから卑怯だ!」って言ったらどうする?」
「そんなもの絶対に許さないのじゃ!!スチカの能力がインチキなんてそんなことは絶対にないのじゃ!」
「それを踏まえて考えてほしいんだけど、フリルの歌に魔力が込められていたこともインチキで卑怯なことなのかな?」
「卑怯に決まっておろう!だって……あれ……?」
良かった、これで気が付かないようだったら今すぐ引き返してティアをスチカに押し付けなきゃならないところだった。
多分だけどこの子は自分の言葉で誰かが傷つくなんて思ったことがないんだろうな。
この子の普段の振る舞いや言動がこのままなら、それで怒りを覚えたり傷つけられた人なんてそれこそ数えられないくらいいただろうけど、恐らくそういう部分を見せられないように育てられたのだと思う。
だからこそ言葉が持つ精神的な凶器としての側面を知らないんだろう。
「フリルの歌にはたしかに魔力が込められている。そこは否定しない。でもあの子はその魔力を悪いこと……ましてや洗脳なんかに使ったことなんて一度もないよ?」
「でも……でも……」
「フリルの歌に込められた魔力は、自身の歌を聴いてくれた人の心に少しでも響くように、ちょっと手助けするくらいの小さな魔力なんだ……あの子が歌で誰かを洗脳するような子じゃないことは俺が保証する」
ティアが俯いて黙ってしまった。
だがちゃんと聞いてくれていると信じて、俺は言葉を続けていく。
「そこはスチカと変わらないと思うんだよ。スチカと同じようにフリルだって自分のその才能を大好きな歌の為に使ってるんだ」
「そ……それは……」
「それにな?フリルは一度その能力のせいで自分や周りを傷つける原因を作ったことがあるんだ」
「そうなのか……?」
あの時のフリルの表情は今でも忘れならない。
あれからそれなりに時間が過ぎたから吹っ切れたのかと思っていたけど、やはりそんなことはなかったんだ。
ティアばかりのせいにはできない、これはそのことに気がつけなかった俺にも責任はある。
「フリルは本当は物凄く優しい子なんだよ?ティアにはそう映らなかったかもしれないけど、あの子はあの子なりにティアのことを気にかけてくれていたよ?」
俺たちの拠点に泊めることに対しても反対はしなかったし、ティアが外に出たいと行った時も変装させればいいとみんなに助言したりね。
「それにこれは俺の予想なんだけど……ティアは昔スチカと一緒にルーデンス旅芸人一座の公演を見たことあるんじゃないかな?」
「そうじゃが……なぜわかったのじゃ?」
やっぱりそうだったか……スチカがあの一座の公演を見たことあるって聞いた時にそうなんじゃないかと思ったんだ。
ティアのこのスチカへのべったりぶりを見れば、一緒に見に行ったと考えるのは容易だった。
「その一座の公演の最後に、新緑の歌姫と呼ばれる女の子が歌を歌わなかった?」
「歌っていたのじゃ!丁度さっきのフリルのように歌に魔力を込めていたので、座長の元に直接文句を言いに行ったのじゃ!」
やっぱりそうなのか……なぜフリルがティアに対して辛辣な態度を取っていたのかその理由がようやくはっきりした。
恐らくティアからのクレームを、ルーデンスさんかラフタさんから直接聞いてしまったんだろう。
「それがフリルなんだよ」
「なっ……!?」
俺のその言葉に、ティアが絶句して固まる。
フリルって実は良くも悪くも自分にされたことを忘れない一面がある。
しかも頑固な性分も合わさって、いつまでもそれを忘れないのだ。
今回はそれが良くない方面に転がった最たる例だな。
「ちょっと酷な言い方をするけど、フリルのティアへの態度はティアの自業自得なんだよ?」
「だってその時はフリルのことを知らなくて……」
「そりゃあ知ってたら言わなかっただろうね?だからって知らないからって言っていいってもんじゃないんだよ?ティアだって言われたくない言葉の一つや二つはあるだろ?」
多分この子のことだからフリルのことを覚えていても言ったかもしれないが、今そこはスルーしよう。話がややこしくなるからね。
「そろそろなんでスチカが怒ってティアのことビンタしたかわかってきたかな?」
「……」
すっかり意気消沈した様子で、ティアが小さく頷いた。
多分俺が思ってるよりもティアは賢い子だろうから、落ち着いて順を追って説明すればわかってもらえるとは思っていた。
フリルの過去のことについてわからないのは仕方のないことだが、ある種自分の拠り所かもしれない歌を卑怯呼ばわりされたフリルの心境を考えると心が痛む。
ティアもそのことをちゃんとわかってくれるといいんだけどね。
「わらわは、どうすればいいのじゃ……?」
「簡単なことだよ、フリルに謝ればいいんだ。「ごめんなさい」ってね」
「謝る……わらわは生まれてこの方誰かに謝ったことなんてない……」
まあそうだろうね。
もしそうなら今頃こんな面倒な事態になってないだろうし。
「ティアはフリルの歌どうだった?」
「……凄かったのじゃ……わらわの歌にないものをたくさん持っておった……」
「じゃあ謝りついでに、それもフリルに伝えてあげればいいよ」
そう言って俺はようやく立ち上がり、不安げに俺を見上げるティアに向けて俺は手を差し出した。
「そんじゃフリルを探しに行くか!一緒にさ?」
「……うむ……」
表情は暗いままだが、ティア大きく頷いて俺の手を取ってくれた。
そのまま少し離れて俺たちを心配そうに見ていたテレアの元に駆け寄った。
「待たせてごめんなテレア?」
「ううん、大丈夫だよ?……えっとティアちゃんは大丈夫かな?」
「……迷惑を掛けて……ごめんなさい……なのじゃ」
心配そうに顔を覗き込んできたテレアに対し、ティアが申し訳なさそうにたどたどしい言葉で謝った。
「うん、テレアは大丈夫だから、その言葉はフリルお姉ちゃんに言ってあげてほしいな?」
「わかっておる……のじゃ」
気のせいかテレアが物凄くお姉さんに見える。
俺たちの中で一番年下だから気が付かなったのかもしれないが、もしかしたらテレアって結構なお姉さん気質なのかもしれない。
「そんじゃ遅くなったけどフリルを探しにいくか!テレア、フリルの動向はちゃんと抑えてくれてるか?」
「うん!今は商店街のあたりで動きが止まってるみたい」
なら急げば追いつけるかもしれないな。
俺たちは互いに頷きあい、商店街に向けて走り出した。
五分ほど走り続けて、俺たちは商店街へと到着した。
相変わらず人で賑わっているなここは……この人ごみの中からフリルを探し出すのは骨だなぁ。
だがこちらにはテレアがいる!
「テレア、フリルはどっちにいる?」
「えっと……これだけ人が多いとわからないかも……ごめんねお兄ちゃん」
おーのー!
いくらテレアと言えどずっと感覚強化を使っていると疲弊してしまうので、一旦感覚強化を切って休憩を挟んだのだが……。
いざ商店街に来て再び感覚強化を使ったところ、人の多さに紛れてしまってフリルの補足が出来なくなってしまったらしい。
「しゃあない……ここからは自力で探すか!」
「どうしよう?手分けしたほうがいいかな?」
テレアのその提案に少し考えこむ。
さすがにティアを一人にするわけにはいかないから俺かテレアのどちらかが連れていくしかないんだよな……。
とはいえいくらテレアが強いと言っても一人にしてしまうのはさすがに心配だし……。
「フリルを探すのじゃな?ならわらわに任せるのじゃ」
悩んでいた俺とテレアに向けて、ティアがなんか自信満々な様子でそう言ってきた。
「スチカには人前で使うなと言われておるが、今は緊急事態じゃ、やむを得まい」
「なんか手があるのか?」
「人に見られるのはまずいのじゃ……できればどこか物陰に」
この面子で物陰に行くとか俺の社会的体裁に関わるんだけど、まあここは緊急事態ということで……。
そんな風に自分に言い訳をしつつ、丁度いい建物の隙間があったのでそこへ三人で入り込む。
「今からすることは他言無用じゃ!もしスチカに知られたらわらわは怒られてしまう」
そう言って俺とテレアに対して念入りに釘を刺してきた。
一体何が始まるんだ?
「わらわ……クルスティア=アーデンハイツが願う……わらわの魔力を糧として今ここに顕現せよ……」
その詠唱とも呼べる言葉と共に、ティアの魔力が活性化し一気に膨れ上がっていく。
そしてティアの身体が淡い光に包まれたかと思うと、その光がティアから離れて一か所に集まっていく。
なんだろう……こんな光景を割と頻繁に見てる気がするぞ?
「青龍よ!顕現するのじゃ!」
その言葉と共に、光の中から青色の小さな龍が姿を現した。
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる