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濃密~女の戦い~

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 あれから速攻でシエルによって掃除された部屋にスチカと王女様を通したものの……。

「わらわは王女じゃぞ!?こんな狭い部屋に閉じ込めるなど!!」
「庶民的にはここは十分広い部屋や!我慢せい!」

 王女様が難癖付けるひと悶着があったものの、スチカに言いくるめられて渋々従う光景が展開された。
 しかし……いくら過保護に育てたからってここまで我儘になるものかねぇ?
 日本にいた頃の団地時代でもここまで我儘で自分勝手に振舞う子なんていなかったぞ?
 二人に部屋を割り当てた後、みんなと今回アーデンハイツの王様と交わした取引について話すため、応接間に逆戻りする。
 部屋に戻るとみんなが俺を待っていたらしく、机を囲んだソファに座っていた。

「ごめんなみんな、待たせちゃって」
「それは全然いいんですけど……結局のところなにがあったんですか?」
「とりあえずあの二人が来た時のことから説明するよ……」

 そんなこんなで、あの二人が庭に停めてある飛行機に乗ってここまで飛んできたことや、俺は全く覚えてないけどスチカが昔俺と面識があったこと、そして俺の生まれ故郷である日本に行ったことあること……そしてアーデンハイツの王様がなぜか神獣のことについて把握していて、それをネタに俺に交渉を持ち掛けてきたことを、隠さず全てを話した。

「……ってことなんだけど、みんなはどう思うかな?」

 みんなと相談せずに勝手に王様との交渉に乗ってしまったことを謝罪した後、みんなにも意見を聞いてみる。

「シューイチ様の元居た世界について知っているという部分は正直羨ましいですわね」
「レリス?」
「ああいえ!……ごほん!わたくしも生まれてからずっとアーデンハイツにいましたが、国が神獣の件を秘匿しているなんていう話は聞いたことがありませんわね」
「私もありませんね……まあ国が秘匿するほどのことでしょうから、まず外部には漏らさないようにするとは思いますけど」

 そりゃあそんなものがいるかもしれないってわかったら、国民が黙っちゃいないだろうしな。

「なんにせよ、打開策を求めてアーデンハイツに行こうって計画自体は間違ってなかったってことだよな」
「ですね。仮に約束を反故されてもアーデンハイツに手がかりがあるのがわかってるんですから、大きく前進したも同然ですよ」
「でも王女様を三日間預かったあとはどっちにしろアーデンハイツには行かないといけないんだよね?」

 そうなんだよなぁ……ちょっとした旅行気分で行けるならいいんだけどそうじゃないんだよなぁ……。
 テレアのその言葉に、この場空気が少し落ち込む。
 住み慣れた場所を一時的に離れるってだけでも結構憂鬱だ。
 スチカたちみたいに空飛んでいけたらどんなに楽なことか。

「ちなみにエルサイムからアーデンハイツって馬車でどのくらいかかるのかな?」
「そうですねぇ……マグリドからエルサイムほどの距離はありませんから、良くて四日ほどでつけますね」

 四日かぁ……まあ地道に馬車で行くしかないよな。
 そんなことを考えていると、突如部屋の扉を誰かがノックしてきた。
 扉の傍に控えていたシエルが開けると、そこに立っていたのはスチカだった。

「よっ!邪魔するで!」

 軽い挨拶をしながら、スチカが俺たちの元へ歩いてきて、ソファの空いてるところに腰を掛けた。

「王女様は?」
「疲れて寝てもうた。まあまだ八歳の子供やからな」

 八歳……やっぱりテレアよりも年下だったのか。
 まあ、あんだけ騒いで暴れれば疲れて寝ちゃうだろうな、その歳じゃ。

「まずはみんなに一言……うちが軽はずみにここに来たせいで面倒くさいことに巻き込んでしまって、すまんかった!」

 スチカがテーブルに手をついてそのまま頭をぶつけるんじゃないかって勢いで頭を下げた。

「……それは別に気にしていない」
「いやそれは俺の台詞だからね!?……まあ実際そんなに気にしてないわけだけども」
「いやーいい加減少しは気にしたほうがいいと思いますよー?ねえテレアちゃん?」
「え?……えっと……」

 エナの言葉を受けて、テレアがさっと目を逸らした。
 何そのアクション?お兄ちゃん泣いちゃうぞ?

「顔を上げてくださいなスチカさん?シューイチ様はそんなことで怒りに身を任せる方ではありませんわ?」
「ちょい待ち。なんでレリスがそんなこと言えるん?うちの方が何倍もシュウのことを知っとるんやけど?」

 顔を上げたスチカが、ジト目でレリスを見つめながらそう言った。
 その言葉にカチンときたのか、レリスも負けじと反論するため口を開いた。

「あら?わたくしとシューイチ様はこの国のダンジョンで三日間命がけで戦い抜いてきたのですわ!そんじょそこらの人なんかよりもよっぽど強い絆で結ばれておりますわ!」
「三日?たった三日やって?へそで茶を沸かすわ!うちなんて五年やで五年!」

 俺はその五年を全く覚えてないんだけどね。

「時間の長さは関係ありません!要はいかに濃密な時間を過ごしてきたかですわ!」
「濃密だったんですか?」
「別の意味でね?」

 エナにジト目で睨まれる。変な誤解をしないでほしいんだけどな。
 ていうかなんか女の戦いが始まってるんだけど、なにこれ?

「それこそちゃんちゃらおかしいわ!うちがシュウと過ごした五年間の方がよっぽど濃密やわ!」

 いやそもそも俺は夏休みくらいしかじいちゃんの田舎には行かなかったし、その時にしか会ってなかったのだとしたら、言うほど濃密じゃないかもなんだけど……。

「なっ……でもわたくしは……!」
「それにうちとレリスでは超えられへん壁が一つある……それはな?」
「「「それは?」」」

 なぜかシエルとフリルを除いた女性陣全員がその言葉に息を飲んだ。

「うちはシュウの日本にいた頃の名前の書き方も知っとるし、日本語も完ぺきにマスターしとる!だから……」

 スチカが俺に向き直り、ごほんと咳ばらいをした。

「おーっすシュウ!元気しとるかー?」
「え?まあ元気っちゃあ元気だけど?」

 その短すぎる会話を終えると、再びスチカはレリスに向き直った。

「今の会話……レリスにわかったか?」
「……そんな……聞いたこともない言語でしたわ……!」

 今度はレリスががっくりと膝をついてしまった。
 一体今のスチカとの短い会話の何にショックを受けたんだ?
 まてよ?レリスは聞いたこともない言語と言った……それってつまり。

「スチカ、もしかして今『日本語』で話しかけたのか?」
「その通りや!久しぶりに日本語使ったけど、まだ案外喋れるもんやな!」

 今までなんで日本語がそのまま通じてるのか疑問だったけど、どうやら謎の力が働いて俺の言葉がこの世界の言葉に変換されていたということだったんだな。そして相手の言葉も自然と俺に判別できる言語に翻訳されていたということか。
 そして今スチカに日本語で話しかけられたから俺も無意識に日本語で返したが、レリスにはわからなかったってことか?

「シューイチ様!あとでわたくしにもその日本語というものを教えてくださいませ!」
「別にいいけど……覚えて意味あるのかな?」

 俺と会話する時くらいにしか役に立たないし、自動翻訳が掛かっていることがわかったいま、さらに無用の長物になったんだけど……まあ本人がやる気になってるようだし、水を差すのも悪いか。

「うちは日本に飛ばされた時、まったく言葉が通じなかったから大変やったで……まあ全部葉山のじーさんに教えてもらえたんやけどな」

 そういえばいたなぁ……じいちゃんちに毎年遊びに行くとなんかやけに日本語に不慣れな女の子が。
 毎年行くたびに日本語が上達していって、最後に会った夏ではじいちゃん譲りの関西弁を完全にマスターしてたな。
 ……あれ?なんだ今の?覚えのない記憶がやけにスムーズに思い出せたような……?
 もう一度思い出そうとしたが、なぜが先ほどまで思い出せたその記憶に靄が掛かったように思い出せないくなってしまった。
 ほんと気持ち悪いなこれ……一体何なんだ?

「そんなことはいいんですよ!それよりもスチカさんに聞きたいことがあります!」
「ん?なんや?」

 割とノリノリだったくせに……ってこれいうとエナに怒られるから言わないけど。
 とりあえずおふざけ気分を振り払って、俺が王様に持ち掛けられた交渉の件をスチカに話していく。

「あのおっちゃん、そんなこと言ってきたんか?」

 おっちゃん?一国の王を捕まえておっちゃん!?
 まあ通信機越しでもやたらとフレンドリーに話してたし、スチカの中では当たり前のことなのかもしれないけど。

「スチカお姉ちゃんはなにか神獣のことについて心当たりがあるのかな?」
「うーん……ぶっちゃけるとあるな」
「本当ですか!?」
「でも、おっちゃんがそういう交渉を持ち掛けてきたんやろ?だったらうちがおいそれとそれをみんなに教えるわけにはいかんな」

 ぬう……やっぱりそううまくいく話でもないか。

「でも、これは悪い話やないで?あの国の神獣に関して首突っ込むつもりなら、ティアと仲良くすることはある意味必須事項とも言えるからな?おっちゃんも多分それを見越しとるはずや」
「仲良く……ねぇ」

 俺の言葉が引き金となり、みんなの視線が一斉にフリルに向けられる。
 その本人は何食わぬ顔でお菓子を頬張っていた。

「フリルちゃん?あの王女様と仲良くするつもりは……?」
「……ありませんが?」

 その返答にスチカとフリルを除いた全員がため息を吐く。
 王様ははっきりと期限を指定しなかったが、おそらく三日間がタイムリミットだろう。
 それまでにフリルとあの王女様を仲直りないし仲良くさせないといけないのか……?
 ぶっちゃけ、魔物や神獣と戦う方がよっぽど気楽だな……だって俺が全裸になってしまえば済む問題なんだもん。
 だが人間関係となると俺が全裸になってもどうしようもないし、下手すりゃ露出狂だ。
 こいつは思ったよりも手ごわそうだ……そんな俺の気苦労など知ったことかと、フリルは引き続きお菓子を頬張るのだった。



 みんなが寝静まったであろう深夜。
 俺はなんとなく寝付けなくて、部屋を出て庭で風でも浴びようと廊下を歩いて行く。
 ほどなくして庭に辿り着くと、そこには飛行機のメンテナンスをしているスチカがいた。

「夜遅くまで熱心だな?」

 俺が声を掛けると、一瞬ビクッとなったものの、声を掛けたのが俺だと判明した途端、スチカは安堵のため息を吐いた。

「なんやシュウか……ビックリさせんなや」
「ごめんごめん、まさかこんな時間にこんなことしてるなんて思ってなかったからさ」

 正直、未だにスチカのことは思い出せていない。
 なんかいいところまで思い出せるんだけど、何か不思議な力が働いているのか、まったく思い出せなくなるのだ。
 なんていうか……思い出すのを誰かに邪魔されている感覚というとしっくりくる。

「……なあシュウ?暇なら少し話さんか?」
「ん?別にいいけど?」

 スチカが腰を下ろし胡坐をかきながら、自分の隣をぽんぽんと叩く。
 隣に座れってことかな?それじゃあ失礼して……。

「なーんかこうしてると、昔を思い出すなあ?」
「あー……そうだな?」
「無理せんでええで?どうせ覚えてないんやろ?」
「……ごめんね?」
「謝んなや!忘れたもんは仕方ないわ!」

 俺の謝罪に、スチカが一瞬寂しそうな顔をするが、すぐに笑顔になって俺の肩をバシバシと叩いてくる。
 なんだか無理をさせてしまっているみたいで、非常に申し訳なくなってくる。

「なあスチカ?もし良ければ日本にいた頃のこと詳しく聞かせてくれないか?もしかしたら思い出せるかもしれないし」
「日本にいた頃の話か……長くなるけどええか?」
「長くなってもいいぞ?出来ることならちゃんと思い出してあげたいからさ?」

 俺の言葉にスチカの顔が真っ赤に染まる。

「なっなんやのシュウの癖にそんなこと!うちを惚れさせる気か!?この!この!!」
「凄く痛いんだけど」

 ひとしきり俺の背中を叩いた後気分を落ち着けるように大きく息を吐いたスチカは、ぽつぽつと昔の話を話し始めた。

「そうやな……さっきも言ったけどうちがの日本に飛ばされたのは五歳のときやった」
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