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結論~一年後の自分は~
しおりを挟む 決断の時が迫っている!なんて格好つけた癖に、ウダウダしてたらあれから五日も経ってしまった。
我ながら何をやっているのかと思いつつも、勢いで動いて後悔しか残らない結果になってしまうのも嫌なので慎重にならざるを得ない俺の心境も察してほしいところではある。
……まあこれは言い訳だよな、わかってはいるんだ。
結局のところ俺はいくじがないんだろうなぁ……なんて答えを返すのかはすでに決めたけども、それをレリスに伝えた時の反応が怖くて仕方ないのだ。
「だけど、今日こそはこのモヤモヤした気持ちに決着をつける」
なんて意気込んでレリスの部屋の前に来たものの、そこで立ち尽くしてしまい硬直してしまう。
こんなところを誰かに見られでもしたら不審者認定待ったなしだ。
そうならないためにもこの扉をノックして部屋の主を呼び出してしまえばいいだけのことなのに、それすらできないでいる。
……いつまでもこうしているわけにもいかないし、一度部屋をノックして返事がなかったら今日のところは諦めよう!そうしよう!
コンコン……
意を決した俺はレリスの部屋の扉をノックした……が。
「……いないのかな?」
決意を固めた俺の心が空気が抜けたように萎んでいく。
うん!いないなら仕方ないな!また今度にしよう!
……そうやって俺はまた問題を先延ばしにして行くんだな……こうして罪悪感が募っていくんだ。
ため息を吐き自分の部屋に戻ろうとして踵を返した。
「あら?シューイチ様!」
ばったりとレリスと遭遇してしまった。
そらノックしても反応ないわけだわ、部屋にいないんだもんよ!
いかん、あまりの突然の事態に当たり前のことを心の中で叫んでしまった。
「わたくしに何か御用なのですか?」
「あーいやーそのー」
なぜここまで来て及び腰になってしまうんだ俺は!
ちゃんと決着つけるつもりで来たんだろ!?
よくよくレリスを観察すると肌も上気して髪がしっとりと濡れており、風呂上りなのがよくわかる。
眼鏡も掛けておらず若干薄着で、レリスのプロポーションも合わさり目に毒なことこの上ない。
「……もしかしたら、例の話でしょうか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし」
「少しここで待っていてくださいな、上着を羽織ってきますので。……外でお話ししましょう」
「あい……」
そう言ってレリスが自身の部屋へ入っていくと、すぐに上着を羽織って出てきた。
「少し歩きますが噴水広場まで行きましょう」
「あい……」
生返事しかすることができず、そのままトボトボとレリスの後ろについていくしかできない俺であった。
夜も遅く静かな街並みを、レリスと連れ立って歩いて行く。
さすがに道行く人も少なく、噴水広場に着くまでに片手で数えられる人数としかすれ違わなかった。
肝心の噴水広場も、人で賑わう昼間とは違いほとんど人が見当たらない。
俺たちは広場の中央にある噴水の周りに設置されたベンチに並んで腰かける。
「少し肌寒いですね……上着を羽織ってきて正解でしたわ」
「そういえば、眼鏡かけてないレリス見るの初めてな気がする」
「そうでしたか?」
「眼鏡なくても大丈夫なの?」
「平気ですわ、そもそもあの眼鏡度が入っておりませんし」
どうやらただのファッションアイテムだったようだ。
そこで会話が一旦途切れ、俺たちを静寂が包み込む。
そよ風が吹いて、レリスの髪がそっとなびく。
もうここまで来てしまったんだ……いい加減に覚悟を決めないといけない。
「えっと……話があるんだけど……」
「はい、なんでしょうか?」
レリスが落ち着いた表情で俺をまっすぐに見据える。
俺はこんなにも心臓が爆発しそうになっているというのに、どうしてこの子はこんなにも冷静なのだろうか?
その事実に頭の中が真っ白になってしまい、言うべきだった言葉がどこかへすっ飛んで行ってしまった。
思わず逃げ出したくなったものの、ふと俺の右手に柔らかく暖かい何かが覆いかぶさった。
見降ろすとレリスが両手で俺の右手を優しく包み込んでいた。
「落ち着いてくださいシューイチ様……慌てなくてもわたくしはここにおりますわ」
俺をまっすぐに見ながら、まるで言い聞かせるように、レリスがふんわりと微笑む。
混乱して真っ白になってしまっていた、俺の頭が次第に落ち着きを取り戻していく。
「ゆっくりでも要領を得なくても構いません、シューイチ様の言葉を聞かせてくださいませ」
「……ありがとうレリス」
あれだけ取り乱していた俺の心が、すっかり平穏を取り戻していた。
今なら思っていたことをすんなり言えそうだ。
「えっと……レリスが俺に告白してくれたあの日からずっと色々考えててさ……」
「はい……」
思えばあれから一週間以上経っている……随分と待たせてしまった。
「俺が返事をする前に一つだけ聞いておかなきゃならないことがあって……レリスはさ、最終的に俺とどうなりたいのかなって」
「そうですわね……わたくしとしてはシューイチ様の伴侶になって傍で支えていきたいと思っておりますわ」
思った通り、結婚まで視野に入れていたようだ。
それならやはり俺の答えは一つしかない。
「だとしたら、最低でも一年は待ってもらわないとだな」
「……と言いますと?」
「この世界ではどうなのか知らないけど、俺のいた世界だと今の年齢じゃ結婚できないんだよね」
「そうなのですか?」
なにもここにきて俺の世界の常識を当てはめる必要なんてこれぽっちもないが、これはいわゆる俺の準備期間だと思ってもらいたい。
さすがに「結婚しましょう、はいそうしましょう」とは気軽に言えないのだ。
「仮に結婚するにしても、結局俺がレリスのことをどう思ってるのかって部分に収束していくんだけどさ?これの答えがずっと出てこなくてなぁ……」
「……」
俺の言葉をレリスが真剣な表情で聴いてくれている。
「でも今こうしてレリスが俺の手に握ってくれた時にわかったんだよ……こんだけ悩むってことはそういうことなんだなって」
何とも思ってない相手の気持ちを考えたって、ここまで悩むことはないはずだ。
遠回しにあれこれ言ってるけど突き詰めると……まあそういうことだ。
「でもなんだかんだ言って、俺とレリスはまだ出会って一か月くらいしか経ってないしさ、そんなに急ぐこともないと思うんだ」
「それはつまり……」
「うん、俺が18になるまでお待ちいただきたいと……」
結局俺が出した結論は、ぶっちゃけ「後一年待ってください」ということだ。
まさか自分が女の子に対してこんな甲斐性もへったくれもない言葉を言うことになることになるとは思わなかった。
悩みに悩んだ結論がこれなんだから、殴られても文句言えないもん。
「……ということなんですが……?」
「……」
レリスがすっかり黙ってしまった。
これは……うん、殴られる覚悟をしておいた方がよさそうだな。
「……ふふふ……やっぱりそうですわよね……エナさんの言った通りでしたわ」
「はい?」
なんでレリスが嬉しそうに笑ってるのかもわからないし、どうしてここでエナの名前が出てくるのかも不明だった。
「実はわたくし今回の件をエナさんに相談してましたの」
「なんてことを」
「そしたらエナさんは……」
「シューイチさんのことですから、恐らくはっきりとした結論は出せないでしょうね。大方あと一年くらい待ってくれとか言うと思いますよ?お人よしですからあの人は」
……なんというか、さすがエナである。
シエルに次いで付き合いが長いことだけはある。
「エナさんの言っていたことと内容がほとんど変わらなかったので、思わず笑ってしまいました。お気に障ったのなら謝罪しますわ」
「いや、俺の方こそ怒らせてしまったのかと……ていうかごめんな?こんな結論でさ」
「まあこれならはっきりと断ってくれた方が気が楽ではありますわね」
「断るって選択はなかったなぁ」
あれ?この発想って結構最低じゃね?
個人的にはレリスのことは前向きに考えてるけど、レリスからすれば一年もモヤモヤしなければいけないし。
「……シューイチ様に一つだけ我儘を言ってもいいでしょうか?」
「なんなりと」
「一言で構いません……今のシューイチ様がわたくしに抱いてる想いを聞かせていただけませんか?」
あーやっぱりそこはそれっぽい言葉で取り繕ってもダメですよねー!
言うのが恥ずかしいから避けてたんだけど、はっきり伝えないといけないよなぁ。
「えっと……なんだ……レリスのこと嫌いじゃない……」
「嫌いじゃない?」
「……好きだと思い……ます……よ?」
ここではっきりと言えないあたり、ヘタレるのもいい加減にしろと我ながら思う。
「……今はそれでいいですわ。あとはわたくしの頑張りしだいですし」
「もうほんと面目ない……」
「正直わたくしも抜け駆けしてしまっておりますので、これ以上を望んでしまうのは悪いですし」
抜け……駆け?
「何を抜いて駆け抜けてきたのかな?」
「心当たりがおありなのでは?」
ないということにしたいなぁ。
「わたくしにもそういう事情がありますので、今はシューイチ様から「好き」という単語が聞けただけで充分です」
エナが「覚悟しておけ」と言った意味が少しわかって来た。
恐らく今回のことはこれから起こりうることへの布石なのだろう。
何が起こるのかって?
それはきっと嬉しいことである反面、俺の頭から湯気が出るくらい悩ませる事であることは想像に難しくない。
「ここでシューイチ様の気苦労を和らげる情報を一つ……この世界では一定の条件を満たせば重婚は可能ですわ」
「そうなの!?」
さすが異世界!都合がいいな!
ってそうじゃなくて!!
「ちなみにその条件とは……?」
「あら?そこはご自分でお調べになればよろしいかと?」
そう言ってレリスが俺の肩にそっと寄り添ってきた。
いきなり何するのこの子!?そういうことされると心臓爆発しちゃうでしょ!?
「これからは、わたくし遠慮しませんので」
「お手やわらかにお願いします……」
俺を見上げるレリスの表情があまりにも幸せそうなので、結局俺は何も言うことができずレリスの気が済むまでその状態を続けることとなった。
レリスの温もりを肩で感じながら、俺は今後のことを考えていく。
こんなあやふや関係になったというのに、この子は今はそれでもいいと言ってくれたのだから、これからは意識して俺の意識改革をしていないとな。
それと必要かどうかはわからないが、重婚の条件も一応調べておかないといけない気がする。
あんまり必要な状況になってほしくないけどなぁ……そこまで多くの物を抱えきれないだろうし。
しかし一年か……一年たったら俺はどうなっているんだろうな?
そんなことをぼんやりと思いながら、夜空で輝きを放つ星たちを眺めていた。
そんなことがあって数日が経ち、俺たちの拠点にとある人物が訪ねてくることで、再び大きな騒動に巻まれることになる。
その騒動の中で、俺は予想だにしなかった人と再会することになるのだ。
我ながら何をやっているのかと思いつつも、勢いで動いて後悔しか残らない結果になってしまうのも嫌なので慎重にならざるを得ない俺の心境も察してほしいところではある。
……まあこれは言い訳だよな、わかってはいるんだ。
結局のところ俺はいくじがないんだろうなぁ……なんて答えを返すのかはすでに決めたけども、それをレリスに伝えた時の反応が怖くて仕方ないのだ。
「だけど、今日こそはこのモヤモヤした気持ちに決着をつける」
なんて意気込んでレリスの部屋の前に来たものの、そこで立ち尽くしてしまい硬直してしまう。
こんなところを誰かに見られでもしたら不審者認定待ったなしだ。
そうならないためにもこの扉をノックして部屋の主を呼び出してしまえばいいだけのことなのに、それすらできないでいる。
……いつまでもこうしているわけにもいかないし、一度部屋をノックして返事がなかったら今日のところは諦めよう!そうしよう!
コンコン……
意を決した俺はレリスの部屋の扉をノックした……が。
「……いないのかな?」
決意を固めた俺の心が空気が抜けたように萎んでいく。
うん!いないなら仕方ないな!また今度にしよう!
……そうやって俺はまた問題を先延ばしにして行くんだな……こうして罪悪感が募っていくんだ。
ため息を吐き自分の部屋に戻ろうとして踵を返した。
「あら?シューイチ様!」
ばったりとレリスと遭遇してしまった。
そらノックしても反応ないわけだわ、部屋にいないんだもんよ!
いかん、あまりの突然の事態に当たり前のことを心の中で叫んでしまった。
「わたくしに何か御用なのですか?」
「あーいやーそのー」
なぜここまで来て及び腰になってしまうんだ俺は!
ちゃんと決着つけるつもりで来たんだろ!?
よくよくレリスを観察すると肌も上気して髪がしっとりと濡れており、風呂上りなのがよくわかる。
眼鏡も掛けておらず若干薄着で、レリスのプロポーションも合わさり目に毒なことこの上ない。
「……もしかしたら、例の話でしょうか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし」
「少しここで待っていてくださいな、上着を羽織ってきますので。……外でお話ししましょう」
「あい……」
そう言ってレリスが自身の部屋へ入っていくと、すぐに上着を羽織って出てきた。
「少し歩きますが噴水広場まで行きましょう」
「あい……」
生返事しかすることができず、そのままトボトボとレリスの後ろについていくしかできない俺であった。
夜も遅く静かな街並みを、レリスと連れ立って歩いて行く。
さすがに道行く人も少なく、噴水広場に着くまでに片手で数えられる人数としかすれ違わなかった。
肝心の噴水広場も、人で賑わう昼間とは違いほとんど人が見当たらない。
俺たちは広場の中央にある噴水の周りに設置されたベンチに並んで腰かける。
「少し肌寒いですね……上着を羽織ってきて正解でしたわ」
「そういえば、眼鏡かけてないレリス見るの初めてな気がする」
「そうでしたか?」
「眼鏡なくても大丈夫なの?」
「平気ですわ、そもそもあの眼鏡度が入っておりませんし」
どうやらただのファッションアイテムだったようだ。
そこで会話が一旦途切れ、俺たちを静寂が包み込む。
そよ風が吹いて、レリスの髪がそっとなびく。
もうここまで来てしまったんだ……いい加減に覚悟を決めないといけない。
「えっと……話があるんだけど……」
「はい、なんでしょうか?」
レリスが落ち着いた表情で俺をまっすぐに見据える。
俺はこんなにも心臓が爆発しそうになっているというのに、どうしてこの子はこんなにも冷静なのだろうか?
その事実に頭の中が真っ白になってしまい、言うべきだった言葉がどこかへすっ飛んで行ってしまった。
思わず逃げ出したくなったものの、ふと俺の右手に柔らかく暖かい何かが覆いかぶさった。
見降ろすとレリスが両手で俺の右手を優しく包み込んでいた。
「落ち着いてくださいシューイチ様……慌てなくてもわたくしはここにおりますわ」
俺をまっすぐに見ながら、まるで言い聞かせるように、レリスがふんわりと微笑む。
混乱して真っ白になってしまっていた、俺の頭が次第に落ち着きを取り戻していく。
「ゆっくりでも要領を得なくても構いません、シューイチ様の言葉を聞かせてくださいませ」
「……ありがとうレリス」
あれだけ取り乱していた俺の心が、すっかり平穏を取り戻していた。
今なら思っていたことをすんなり言えそうだ。
「えっと……レリスが俺に告白してくれたあの日からずっと色々考えててさ……」
「はい……」
思えばあれから一週間以上経っている……随分と待たせてしまった。
「俺が返事をする前に一つだけ聞いておかなきゃならないことがあって……レリスはさ、最終的に俺とどうなりたいのかなって」
「そうですわね……わたくしとしてはシューイチ様の伴侶になって傍で支えていきたいと思っておりますわ」
思った通り、結婚まで視野に入れていたようだ。
それならやはり俺の答えは一つしかない。
「だとしたら、最低でも一年は待ってもらわないとだな」
「……と言いますと?」
「この世界ではどうなのか知らないけど、俺のいた世界だと今の年齢じゃ結婚できないんだよね」
「そうなのですか?」
なにもここにきて俺の世界の常識を当てはめる必要なんてこれぽっちもないが、これはいわゆる俺の準備期間だと思ってもらいたい。
さすがに「結婚しましょう、はいそうしましょう」とは気軽に言えないのだ。
「仮に結婚するにしても、結局俺がレリスのことをどう思ってるのかって部分に収束していくんだけどさ?これの答えがずっと出てこなくてなぁ……」
「……」
俺の言葉をレリスが真剣な表情で聴いてくれている。
「でも今こうしてレリスが俺の手に握ってくれた時にわかったんだよ……こんだけ悩むってことはそういうことなんだなって」
何とも思ってない相手の気持ちを考えたって、ここまで悩むことはないはずだ。
遠回しにあれこれ言ってるけど突き詰めると……まあそういうことだ。
「でもなんだかんだ言って、俺とレリスはまだ出会って一か月くらいしか経ってないしさ、そんなに急ぐこともないと思うんだ」
「それはつまり……」
「うん、俺が18になるまでお待ちいただきたいと……」
結局俺が出した結論は、ぶっちゃけ「後一年待ってください」ということだ。
まさか自分が女の子に対してこんな甲斐性もへったくれもない言葉を言うことになることになるとは思わなかった。
悩みに悩んだ結論がこれなんだから、殴られても文句言えないもん。
「……ということなんですが……?」
「……」
レリスがすっかり黙ってしまった。
これは……うん、殴られる覚悟をしておいた方がよさそうだな。
「……ふふふ……やっぱりそうですわよね……エナさんの言った通りでしたわ」
「はい?」
なんでレリスが嬉しそうに笑ってるのかもわからないし、どうしてここでエナの名前が出てくるのかも不明だった。
「実はわたくし今回の件をエナさんに相談してましたの」
「なんてことを」
「そしたらエナさんは……」
「シューイチさんのことですから、恐らくはっきりとした結論は出せないでしょうね。大方あと一年くらい待ってくれとか言うと思いますよ?お人よしですからあの人は」
……なんというか、さすがエナである。
シエルに次いで付き合いが長いことだけはある。
「エナさんの言っていたことと内容がほとんど変わらなかったので、思わず笑ってしまいました。お気に障ったのなら謝罪しますわ」
「いや、俺の方こそ怒らせてしまったのかと……ていうかごめんな?こんな結論でさ」
「まあこれならはっきりと断ってくれた方が気が楽ではありますわね」
「断るって選択はなかったなぁ」
あれ?この発想って結構最低じゃね?
個人的にはレリスのことは前向きに考えてるけど、レリスからすれば一年もモヤモヤしなければいけないし。
「……シューイチ様に一つだけ我儘を言ってもいいでしょうか?」
「なんなりと」
「一言で構いません……今のシューイチ様がわたくしに抱いてる想いを聞かせていただけませんか?」
あーやっぱりそこはそれっぽい言葉で取り繕ってもダメですよねー!
言うのが恥ずかしいから避けてたんだけど、はっきり伝えないといけないよなぁ。
「えっと……なんだ……レリスのこと嫌いじゃない……」
「嫌いじゃない?」
「……好きだと思い……ます……よ?」
ここではっきりと言えないあたり、ヘタレるのもいい加減にしろと我ながら思う。
「……今はそれでいいですわ。あとはわたくしの頑張りしだいですし」
「もうほんと面目ない……」
「正直わたくしも抜け駆けしてしまっておりますので、これ以上を望んでしまうのは悪いですし」
抜け……駆け?
「何を抜いて駆け抜けてきたのかな?」
「心当たりがおありなのでは?」
ないということにしたいなぁ。
「わたくしにもそういう事情がありますので、今はシューイチ様から「好き」という単語が聞けただけで充分です」
エナが「覚悟しておけ」と言った意味が少しわかって来た。
恐らく今回のことはこれから起こりうることへの布石なのだろう。
何が起こるのかって?
それはきっと嬉しいことである反面、俺の頭から湯気が出るくらい悩ませる事であることは想像に難しくない。
「ここでシューイチ様の気苦労を和らげる情報を一つ……この世界では一定の条件を満たせば重婚は可能ですわ」
「そうなの!?」
さすが異世界!都合がいいな!
ってそうじゃなくて!!
「ちなみにその条件とは……?」
「あら?そこはご自分でお調べになればよろしいかと?」
そう言ってレリスが俺の肩にそっと寄り添ってきた。
いきなり何するのこの子!?そういうことされると心臓爆発しちゃうでしょ!?
「これからは、わたくし遠慮しませんので」
「お手やわらかにお願いします……」
俺を見上げるレリスの表情があまりにも幸せそうなので、結局俺は何も言うことができずレリスの気が済むまでその状態を続けることとなった。
レリスの温もりを肩で感じながら、俺は今後のことを考えていく。
こんなあやふや関係になったというのに、この子は今はそれでもいいと言ってくれたのだから、これからは意識して俺の意識改革をしていないとな。
それと必要かどうかはわからないが、重婚の条件も一応調べておかないといけない気がする。
あんまり必要な状況になってほしくないけどなぁ……そこまで多くの物を抱えきれないだろうし。
しかし一年か……一年たったら俺はどうなっているんだろうな?
そんなことをぼんやりと思いながら、夜空で輝きを放つ星たちを眺めていた。
そんなことがあって数日が経ち、俺たちの拠点にとある人物が訪ねてくることで、再び大きな騒動に巻まれることになる。
その騒動の中で、俺は予想だにしなかった人と再会することになるのだ。
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