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少女~朱雀の誘い~
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「お前たちがこのダンジョンに足を踏み入れた時からずっと見てたわ。そして待っていたのよ……お前たちがこの最下層に辿り着くのをね」
なんか大層な玉座に座り偉そうに頬杖しながら、俺たちに何かをのたまっている少女がいるけど、こいつはなんなんだろうか?
てゆーかなんでこんなところにこんな小さな女の子がいるんだ?
「お嬢ちゃん、ここは危ないから早く安全な場所に避難した方がいいよ?」
「……は?」
「ここには朱雀とか言うけったいな生き物がいるらしいからさ」
「この私をけったいだって!?」
いや、別にお前さんに言ったわけじゃないぞ?
「シューイチ様、ちょっといいですか?」
「何?どうしたのレリス?」
「単刀直入なのですが……あの子が朱雀なのでは?」
レリスにそう言われて、思わず玉座に偉そうに座る少女をガン見する。
とてもじゃないけどこの子が朱雀には見えない。
「まっさかぁ!」
「でもこの異質な魔力はあの少女から感じるものですけど」
……言われてみればたしかにそうだった。
じゃあこの子が本当に朱雀なのか?
「もっ勿論知ってましたよ?」
「……」
痛い!レリスからの視線が痛い!!
とりあえず気を取り直して……。
「お前が朱雀か?」
「なんだったのよ、今の流れは?」
そこ掘り返さないで!恥ずかしいから!!
「まあいいわ!そのとおり私は朱雀よ!」
朱雀と名乗った少女がおもむろに玉座から立ち上がり、天を仰ぎながら声高らかに宣言した。
精一杯威厳を見せてるつもりなのだろうが、全然威厳があるように見えないぞ?
まあでも話が出来るみたいで、そこは少し安心だな。
玄武の時のように問答無用で戦闘に突入しなかっただけ、かなりましな部類に入ると言えるな。
「とりあえず一つだけいいかな?」
「なに?私に答えられることなら、なんでも答えてあげるわ!」
「一発ぶん殴らせろ?」
そう言って一歩踏み出した俺をレリスが羽交い絞めにしてきた。
「シューイチ様落ち着いてくださいまし!今のシューイチ様がそれをしてしまえば取り返しのつかないことになりますわ!?」
レリスに羽交い絞めにされることにより、背中にあの幸せの感触が舞い戻ってきたことで、俺は冷静さを取り戻すことができました。
ふと朱雀を見ると玉座の後ろに隠れてガクブルと震えていた。
「レリスに感謝しろよ?本来ならぶん殴ってところだからな?」
「おっお前にぶん殴れたら首から上がなくなるじゃない!!」
どうやら俺が、無敵状態であることをご存知のようだ。
そういえばダンジョンに入った時から見てたとか言ってたもんな、恐らくこのダンジョン内で起こった出来事は筒抜けなんだろう。
「えっと……あなたが朱雀だと言うのなら、その姿は一体?」
俺に任せておくと話が進まないと判断したのか、レリスが朱雀に問いかけた。
「簡単なことよ!上手くこのダンジョンの魔力を利用して封印を解いたのは良いけど、私には邪神に植え付けられた暴走の種があるからね……だからその暴走の力ごと私の力の大部分をダンジョンに逃がすことで、暴走を抑えてるってわけ!」
その言葉に俺とレリスはお互いに顔を見合わせて、首を傾げた。
多分本人?はこの上なくわかりやすく説明してくれてるんだろうけど、申し訳ないがまったく意味が分からない。
えっとつまりだなぁ……。
「ようするに、お前さんは一応、暴走状態だけども理性は保ってるってことなの?」
「察しが良いじゃないの?あなた中々頭も回るようね?」
割とあてずっぽうだったけど、間違ってなかったみたいだ。
「つまり、その暴走の力をあなた自身の力と一緒にダンジョンに逃がすことで、暴走の力を結果的に薄めてあなた自身の力で制御できるようにしたわけですわね?」
「そうそう!さすが私の見込んだ人間たちだわ!よくそこまで察してくれるわね!」
大層大はしゃぎである。
こっちとら、扉を開ければ朱雀との戦闘が始まると思ってただけに拍子抜けもいいところだわい。
「それはわかりましたが……でもその姿であることの説明にはなっておりませんわ?」
「あなたたちがここに来た時に朱雀の姿のままだとびっくりさせると思ったから、過去にこのダンジョンに挑んだ冒険者の姿の記憶をちょこーっと借りたのよ!」
過去にこの少女の姿をした冒険者がこのダンジョンに挑んだということか……いやテレアだってこのくらいの見た目と年齢だろうし、別に不思議なことじゃないか。
「じゃあ次の質問だ……なんで俺たちをこのダンジョンに閉じ込めたんだ?」
「決まってるじゃない!玄武の息のかかったあなたたちなら、私の暴走の種もなんとかしてくれるかもって思ったのよ!」
「それなら一気にここまで飛ばしてくれればよかったじゃねーか!」
「仕方ないじゃない……私の力の大部分は迷宮に逃がしてるから不安定だし……それに一緒に逃がした暴走の力が邪魔してきたみたいで、もう一人のあのて……あの子ははじき出されちゃったし」
つまり本意ではなかったというわけか?
それなら多少は留飲を下げてやってもいいが……ていうかエナも連れてくるつもりだったのか?
「じゃあ俺たちが地上に帰れなかったのも、その暴走の力のせいなのか?」
「ううん?それは私が意図的にそうしてたの」
俺は無言で拳を構えながら、朱雀に向けて歩いて行く。
すると先ほどと同じようにレリスが俺を羽交い絞めにして止めてきた。
またしても俺は背中に当たる幸せの感触で我を取り戻すことに成功したのです。
ふと朱雀をみると、玉座に隠れてガクブルしていた。
「だってここで逃がしたら、次にいつ来るかわからなかったんだもん!!」
なにが「だもん!!」だ、可愛い子ぶりやがって。
こっちはそのせいで死ぬかもしれなかったんだぞ!?
「本格的に危ないと思ったら逃がしてあげようと思ってたのよ!本当よ!!」
「どうだか……」
「実際に二人とも危ない状況だったから逃がそうと思ったけど、そしたらあなたがいきなり服脱ぎだしてこの世界の理から外れた存在になって、破竹の勢いでここまで向かってきたからむしろびっくりしたのは私だわ!」
この世界の理から外れた存在?
俺のこの能力って全裸になった無敵になるって力じゃないのか?
……とりあえずそこは保留にして、もうちょっと詳しい話を朱雀から聞き出さないとな。
「お前さんの事情はわかったよ。そんで結局俺たちにどうしてほしいんだ?」
「勿論、玄武にしたように私にも鎮めの唄で暴走の種を消し去ってほしいのよ」
それをしてやりたいのは山々なんだけど、生憎フリルがいないことには無理な話だ。
しかも仮にここから一旦出て、またフリルを連れてここまで戻って来るのは、面倒くさいってレベルじゃないぞ。
何日かかるかわかったもんじゃない。
「……と思ってたんだけどね……ちょっとだけ気が変ったわ」
「なに?」
「そこの眼鏡のあなた!レリスって言ったかしら?」
「ええ、そうですが……?」
そう言ってレリスを勢いよく指さした玄武が、こちらに駆け寄ってきて至近距離でレリスをまじまじといろんな角度から眺める。
そしてにやりと笑いながら―――
「私とちょっとだけ遊んでみない?」
「遊ぶ……?」
などと言ってきたのだ。
「遊ぶとは……?」
「あら?わかるでしょ?」
朱雀は尚も不敵な笑みを崩さないまま言葉を続けていく。
「あなたのこともずっと見てたわ?あなたは自分の力を試したいんでしょう?そして同時に力を欲している……違うかしら?」
「……違い……ませんわね」
レリスがなんだか複雑な表情をしながら、朱雀から目を逸らした。
思えば俺はレリスがどうして一人で旅に出て、わざわざ冒険者になろうなどと思ったのか、全く知らない。
きっとその理由は俺が不用意に踏み込んでいい物ではないだろうし、きっとレリスも踏み込まれたくはないはずなのだ。
「どうやらあなたを私は相性がいいみたいなの。表層の部分だけどあなたの考えてることわかるもの」
「なっ!?」
レリスが驚愕の表情で朱雀から後ずさる。
「あなたが力を示してくれて、ふさわしいと判断したら、この私……朱雀の加護を授けてあげる」
「朱雀の加護……?」
それは玄武がフリルにしたのと同じことなのだろうか?
訝しげな顔をするレリスに、朱雀が近づいてさらに言葉を続ける。
「悪い話じゃないと思うわよ?せっかくここまで来たんだもの、試してみない?」
「しかし、わたくしは力を使い果たしていて、もう戦うことは……」
「ふーん?」
レリスの言葉を受けた朱雀が当然浮かび上がり、レリスに手をかざす。
するとレリスが謎の光に包まれた。
「おい!お前レリスになにしてるんだ!?」
「慌てないでよ!力を使い果たしてるっていうから、元に戻してあげたのよ!」
「……魔力が回復した……!?」
信じられないとばかりに自身の両の掌を見ているレリスを包んでいた光が消え去った。
「このくらいは造作もないのよ?さあ、これでまた戦えるでしょ?」
「ですが……」
レリスが不安げな表情で俺を見てきた。
最終的な判断を俺に任せたいんだろうな……。
正直、朱雀の誘いを受けるのも手だと思う。
朱雀じゃないが、折角ここまで来られたんだから何か一つくらいわかりやすい成果を手に入れて帰るのも全然ありだ。
恐らく負けたからといってレリスの命を奪うようなことはしないだろうしな。
「いいんじゃないかな?胸を借りるつもりで……さ?」
「……わかりました」
迷っていたレリスの表情が、決意を固めた表情に変わった。
そして俺から視線を外し朱雀をまっすぐに見据えた。
「どこまで通用するかはわかりませんが、全力で行かせていただきますわ」
「そうこなくっちゃ♪」
心底楽しそうに笑った朱雀が飛び上がり、レリスと大きく距離を取った。
着地した朱雀の目の前に、俺がストレージの魔法で作り出した黒い小さなゲートと同質のものが現れて、そこから一振りの剣が落ちてきて、地面に突き刺さった。
その剣を無造作に片手で引き抜いた朱雀が、腰にもう片方の手を当てながらレリスを見る。
「あなたと同じ条件で戦ってあげるわ?少しでも私の全力を引き出せるように本気で来なさい?」
「ルールは?」
「ルールなんて必要あるのかしら?」
そう言って朱雀が首を傾げる。
「お互いに倒れるまでやるのが、戦いじゃないのかしら?」
「……確かにその通りですわね」
レリスが腰の剣を引き抜き構えを取った。
そのレリスを見て朱雀がにやりと笑う。
そうしてお互いが睨みあい、緊張が走る……そして!
「ちょっと!早く勝負開始の宣言してよ!」
「え?俺が!?」
「あんた以外に誰がやってくれるのよ!」
ルールなんて必要ないんじゃなかったんかい……まあいいや。
「そんじゃ二人とも準備はいいかー?」
「そういう前口上はいらないから早く始めさせてよ!」
お前後で絶対泣かすからな?覚えておけよ?
「じゃあ、勝負……はじめ!」
俺がやる気のない声でそう宣言すると、レリスと朱雀の戦いが始まったのである。
なんかここ最近審判の立場になることが多い気がするけど、きっと気のせいだよな?
なんか大層な玉座に座り偉そうに頬杖しながら、俺たちに何かをのたまっている少女がいるけど、こいつはなんなんだろうか?
てゆーかなんでこんなところにこんな小さな女の子がいるんだ?
「お嬢ちゃん、ここは危ないから早く安全な場所に避難した方がいいよ?」
「……は?」
「ここには朱雀とか言うけったいな生き物がいるらしいからさ」
「この私をけったいだって!?」
いや、別にお前さんに言ったわけじゃないぞ?
「シューイチ様、ちょっといいですか?」
「何?どうしたのレリス?」
「単刀直入なのですが……あの子が朱雀なのでは?」
レリスにそう言われて、思わず玉座に偉そうに座る少女をガン見する。
とてもじゃないけどこの子が朱雀には見えない。
「まっさかぁ!」
「でもこの異質な魔力はあの少女から感じるものですけど」
……言われてみればたしかにそうだった。
じゃあこの子が本当に朱雀なのか?
「もっ勿論知ってましたよ?」
「……」
痛い!レリスからの視線が痛い!!
とりあえず気を取り直して……。
「お前が朱雀か?」
「なんだったのよ、今の流れは?」
そこ掘り返さないで!恥ずかしいから!!
「まあいいわ!そのとおり私は朱雀よ!」
朱雀と名乗った少女がおもむろに玉座から立ち上がり、天を仰ぎながら声高らかに宣言した。
精一杯威厳を見せてるつもりなのだろうが、全然威厳があるように見えないぞ?
まあでも話が出来るみたいで、そこは少し安心だな。
玄武の時のように問答無用で戦闘に突入しなかっただけ、かなりましな部類に入ると言えるな。
「とりあえず一つだけいいかな?」
「なに?私に答えられることなら、なんでも答えてあげるわ!」
「一発ぶん殴らせろ?」
そう言って一歩踏み出した俺をレリスが羽交い絞めにしてきた。
「シューイチ様落ち着いてくださいまし!今のシューイチ様がそれをしてしまえば取り返しのつかないことになりますわ!?」
レリスに羽交い絞めにされることにより、背中にあの幸せの感触が舞い戻ってきたことで、俺は冷静さを取り戻すことができました。
ふと朱雀を見ると玉座の後ろに隠れてガクブルと震えていた。
「レリスに感謝しろよ?本来ならぶん殴ってところだからな?」
「おっお前にぶん殴れたら首から上がなくなるじゃない!!」
どうやら俺が、無敵状態であることをご存知のようだ。
そういえばダンジョンに入った時から見てたとか言ってたもんな、恐らくこのダンジョン内で起こった出来事は筒抜けなんだろう。
「えっと……あなたが朱雀だと言うのなら、その姿は一体?」
俺に任せておくと話が進まないと判断したのか、レリスが朱雀に問いかけた。
「簡単なことよ!上手くこのダンジョンの魔力を利用して封印を解いたのは良いけど、私には邪神に植え付けられた暴走の種があるからね……だからその暴走の力ごと私の力の大部分をダンジョンに逃がすことで、暴走を抑えてるってわけ!」
その言葉に俺とレリスはお互いに顔を見合わせて、首を傾げた。
多分本人?はこの上なくわかりやすく説明してくれてるんだろうけど、申し訳ないがまったく意味が分からない。
えっとつまりだなぁ……。
「ようするに、お前さんは一応、暴走状態だけども理性は保ってるってことなの?」
「察しが良いじゃないの?あなた中々頭も回るようね?」
割とあてずっぽうだったけど、間違ってなかったみたいだ。
「つまり、その暴走の力をあなた自身の力と一緒にダンジョンに逃がすことで、暴走の力を結果的に薄めてあなた自身の力で制御できるようにしたわけですわね?」
「そうそう!さすが私の見込んだ人間たちだわ!よくそこまで察してくれるわね!」
大層大はしゃぎである。
こっちとら、扉を開ければ朱雀との戦闘が始まると思ってただけに拍子抜けもいいところだわい。
「それはわかりましたが……でもその姿であることの説明にはなっておりませんわ?」
「あなたたちがここに来た時に朱雀の姿のままだとびっくりさせると思ったから、過去にこのダンジョンに挑んだ冒険者の姿の記憶をちょこーっと借りたのよ!」
過去にこの少女の姿をした冒険者がこのダンジョンに挑んだということか……いやテレアだってこのくらいの見た目と年齢だろうし、別に不思議なことじゃないか。
「じゃあ次の質問だ……なんで俺たちをこのダンジョンに閉じ込めたんだ?」
「決まってるじゃない!玄武の息のかかったあなたたちなら、私の暴走の種もなんとかしてくれるかもって思ったのよ!」
「それなら一気にここまで飛ばしてくれればよかったじゃねーか!」
「仕方ないじゃない……私の力の大部分は迷宮に逃がしてるから不安定だし……それに一緒に逃がした暴走の力が邪魔してきたみたいで、もう一人のあのて……あの子ははじき出されちゃったし」
つまり本意ではなかったというわけか?
それなら多少は留飲を下げてやってもいいが……ていうかエナも連れてくるつもりだったのか?
「じゃあ俺たちが地上に帰れなかったのも、その暴走の力のせいなのか?」
「ううん?それは私が意図的にそうしてたの」
俺は無言で拳を構えながら、朱雀に向けて歩いて行く。
すると先ほどと同じようにレリスが俺を羽交い絞めにして止めてきた。
またしても俺は背中に当たる幸せの感触で我を取り戻すことに成功したのです。
ふと朱雀をみると、玉座に隠れてガクブルしていた。
「だってここで逃がしたら、次にいつ来るかわからなかったんだもん!!」
なにが「だもん!!」だ、可愛い子ぶりやがって。
こっちはそのせいで死ぬかもしれなかったんだぞ!?
「本格的に危ないと思ったら逃がしてあげようと思ってたのよ!本当よ!!」
「どうだか……」
「実際に二人とも危ない状況だったから逃がそうと思ったけど、そしたらあなたがいきなり服脱ぎだしてこの世界の理から外れた存在になって、破竹の勢いでここまで向かってきたからむしろびっくりしたのは私だわ!」
この世界の理から外れた存在?
俺のこの能力って全裸になった無敵になるって力じゃないのか?
……とりあえずそこは保留にして、もうちょっと詳しい話を朱雀から聞き出さないとな。
「お前さんの事情はわかったよ。そんで結局俺たちにどうしてほしいんだ?」
「勿論、玄武にしたように私にも鎮めの唄で暴走の種を消し去ってほしいのよ」
それをしてやりたいのは山々なんだけど、生憎フリルがいないことには無理な話だ。
しかも仮にここから一旦出て、またフリルを連れてここまで戻って来るのは、面倒くさいってレベルじゃないぞ。
何日かかるかわかったもんじゃない。
「……と思ってたんだけどね……ちょっとだけ気が変ったわ」
「なに?」
「そこの眼鏡のあなた!レリスって言ったかしら?」
「ええ、そうですが……?」
そう言ってレリスを勢いよく指さした玄武が、こちらに駆け寄ってきて至近距離でレリスをまじまじといろんな角度から眺める。
そしてにやりと笑いながら―――
「私とちょっとだけ遊んでみない?」
「遊ぶ……?」
などと言ってきたのだ。
「遊ぶとは……?」
「あら?わかるでしょ?」
朱雀は尚も不敵な笑みを崩さないまま言葉を続けていく。
「あなたのこともずっと見てたわ?あなたは自分の力を試したいんでしょう?そして同時に力を欲している……違うかしら?」
「……違い……ませんわね」
レリスがなんだか複雑な表情をしながら、朱雀から目を逸らした。
思えば俺はレリスがどうして一人で旅に出て、わざわざ冒険者になろうなどと思ったのか、全く知らない。
きっとその理由は俺が不用意に踏み込んでいい物ではないだろうし、きっとレリスも踏み込まれたくはないはずなのだ。
「どうやらあなたを私は相性がいいみたいなの。表層の部分だけどあなたの考えてることわかるもの」
「なっ!?」
レリスが驚愕の表情で朱雀から後ずさる。
「あなたが力を示してくれて、ふさわしいと判断したら、この私……朱雀の加護を授けてあげる」
「朱雀の加護……?」
それは玄武がフリルにしたのと同じことなのだろうか?
訝しげな顔をするレリスに、朱雀が近づいてさらに言葉を続ける。
「悪い話じゃないと思うわよ?せっかくここまで来たんだもの、試してみない?」
「しかし、わたくしは力を使い果たしていて、もう戦うことは……」
「ふーん?」
レリスの言葉を受けた朱雀が当然浮かび上がり、レリスに手をかざす。
するとレリスが謎の光に包まれた。
「おい!お前レリスになにしてるんだ!?」
「慌てないでよ!力を使い果たしてるっていうから、元に戻してあげたのよ!」
「……魔力が回復した……!?」
信じられないとばかりに自身の両の掌を見ているレリスを包んでいた光が消え去った。
「このくらいは造作もないのよ?さあ、これでまた戦えるでしょ?」
「ですが……」
レリスが不安げな表情で俺を見てきた。
最終的な判断を俺に任せたいんだろうな……。
正直、朱雀の誘いを受けるのも手だと思う。
朱雀じゃないが、折角ここまで来られたんだから何か一つくらいわかりやすい成果を手に入れて帰るのも全然ありだ。
恐らく負けたからといってレリスの命を奪うようなことはしないだろうしな。
「いいんじゃないかな?胸を借りるつもりで……さ?」
「……わかりました」
迷っていたレリスの表情が、決意を固めた表情に変わった。
そして俺から視線を外し朱雀をまっすぐに見据えた。
「どこまで通用するかはわかりませんが、全力で行かせていただきますわ」
「そうこなくっちゃ♪」
心底楽しそうに笑った朱雀が飛び上がり、レリスと大きく距離を取った。
着地した朱雀の目の前に、俺がストレージの魔法で作り出した黒い小さなゲートと同質のものが現れて、そこから一振りの剣が落ちてきて、地面に突き刺さった。
その剣を無造作に片手で引き抜いた朱雀が、腰にもう片方の手を当てながらレリスを見る。
「あなたと同じ条件で戦ってあげるわ?少しでも私の全力を引き出せるように本気で来なさい?」
「ルールは?」
「ルールなんて必要あるのかしら?」
そう言って朱雀が首を傾げる。
「お互いに倒れるまでやるのが、戦いじゃないのかしら?」
「……確かにその通りですわね」
レリスが腰の剣を引き抜き構えを取った。
そのレリスを見て朱雀がにやりと笑う。
そうしてお互いが睨みあい、緊張が走る……そして!
「ちょっと!早く勝負開始の宣言してよ!」
「え?俺が!?」
「あんた以外に誰がやってくれるのよ!」
ルールなんて必要ないんじゃなかったんかい……まあいいや。
「そんじゃ二人とも準備はいいかー?」
「そういう前口上はいらないから早く始めさせてよ!」
お前後で絶対泣かすからな?覚えておけよ?
「じゃあ、勝負……はじめ!」
俺がやる気のない声でそう宣言すると、レリスと朱雀の戦いが始まったのである。
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