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下層~鍾乳洞のミノタウロス~
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「……あれ?ここ地上じゃないよな?」
たしか俺とエナとレリスの三人でダンジョンのボスを倒して、地上へ帰るための魔法陣に乗って……え?
俺は慌てて周囲を振り返る。
そこは鍾乳洞と言った感じの、ひんやりとした空気の漂う空間だった。
俺のすぐ近くには大きな地底湖がある。
「どう見てもダンジョンの中なんですけどー!?」
しかもひんやりした空気に相反して、さっきの階層よりも圧倒的に空気中の魔力の質が濃い。
これってかなり下の階層まで来てるんじゃないのか?
地上に帰るための魔法陣に乗ったはずなのになんで……もしかして誤作動でもしたのか?
「こうなったらスクロールで……」
そう思って道具袋を漁るが、二分くらい探したところで帰還用のスクロールはエナに預けてあったことを思いだして、俺はその場でがっくりと膝をついた。
「マジかよ……どうすりゃいいんだこれ?」
ダンジョンに来る前から感じていた嫌な予感の正体はこれだったのか……。
見たところエナもレリスもいないし……ていうかあの二人は無事に地上に戻れたのか?
確認をしようにも今日は通信機を持ってないからどうしようもないし、そもそもダンジョン内で通信機は使えるんだろうか?
通信……そうだ!
『シエル!聞こえるか?』
シエルと念話の出来る宝玉だけはいつも肌身離さずに持ち歩いているのだが……どうだ?
『はーい、聞こえますよー』
『今日ほどお前と念話が出来て良かったと思った日はないわー』
『のっけから失礼ですね……それで、どうしたんですかそんなに慌てて?』
『実はな……ダンジョンに下見に行ったら、俺だけダンジョンの下層に取り残された』
『はぁ……はぁ!?』
驚くシエルに、俺は事の経緯を細かく説明していく。
『そんなことってあるんですねぇ……』
『こりゃ詫び石案件だな』
『そんなことより……どうするつもりなんですか?正直なところ私はあんまり心配はしてないんですけども?』
いや心配してくれよ!?と思うけども、俺には裸になったら無敵になる能力があるから、心配するだけ無駄だというシエルの言葉もわからんでもない。
実際俺自体もそこまでの危機感は感じてなかったりする。
とは言っても全裸状態なら難なく最下層までたどり着ける気がするけど、仮にそこの朱雀がいたら戦わないといけないし、戦っても多分勝てないんだよなぁ……負けもしないだろうけど。
『とりあえず何とかして地上に戻ってみるよ。それからテレアとフリルが帰ってきたらこのことをルカーナさんに伝えてもらえるように頼んでおいてくれない?』
『わかりましたー!気を付けてくださいね?』
『また何かあったら念話飛ばすよ!それじゃあ!』
さてどうしたものかな?
とりあえずはこの階層のボスを探し出して手っ取り早くぶちのめして地上への魔法陣を出現させて……。
そんなことを考えていると、物陰から何者かの気配がしたので恐る恐る振り返る。
「ブモ―――……」
そこにはなにやら牛人間とも呼べるべき大きな斧を装備した二足歩行の牛がこちらを見てじりじりとにじり寄って来ていた。
言うなれば物凄い典型的なミノタウロスだった。
「どうみても友好的な雰囲気じゃないよな……」
エナかレリスかもしれないと淡い希望を抱いたが、見事に打ち砕かれた。
「ブモ―――!!!」
ミノタウロスは雄たけびを上げると予備動作もなしにいきなり俺に向けて突進してきた。
いきなりかよ!?少しは事前準備くらいさせろや!?
「うわっと!!」
すんでのところで身をひるがえしかわすと、そのままミノタウロスは俺の後ろにあった地底湖にダイブしていった。
そのまま沈んでてくれると非常にありがたいが……。
そう思った矢先、ミノタウロスは持っていた斧を突然放り投げて、天井に突き刺した。
重量のあった斧を手放すことで浮力を稼いだミノタウロスが、陸へと上がるために泳いで……ってお前泳げるのかよ!?その見た目で!?
「呆気に取られてる場合じゃない!!」
急いで全裸になろうと服に手を掛けるが、その時天井に突き刺さっていた斧が天井からすっぽ抜けて、俺の目の前に落ちてきた。
「おわっ!!びっくりした……!?」
斧に気を取られている間に、ミノタウロスが陸に上がってきていた。
こりゃ全裸になってる暇はないな……自力でなんとかしないと……!
俺は覚悟を決めて腰の剣を引きぬき、地面に突き刺さっていた斧を手にしたミノタウロスを睨みつける。
「ブモ―――!!!」
ミノタウロスが雄たけびを上げて斧を大きく振りかぶり俺に向けて勢いよく振り下ろすも、あらかじめ身体強化を発動させていた俺はサイドステップで斧をかわし、一気にミノタウロスの死角に入り込んだ。
俺を見失ったミノタウロスが慌ててキョロキョロと首を振るも、俺はその隙に奴の胴体に向けて剣で斬りかかった。
「おりゃあ!!」
一階層で戦った蛇ほどの防御力はないらしく、俺の予想よりも剣は深く入ったようだ。
「ブッブモ―――!!??」
突然死角から斬りつけられたミノタウロスがそのダメージに……というよりは攻撃されたことに対して驚いて声を上げながら俺から距離を取る。
思ったよりもダメージがないな……だけどこの反応速度ならちまちま削っていけばそのうち勝てる!
あとは集中力を切らさないようにしないと……。
そう思った矢先、背後にまたも何者かの気配を感じ取った俺は後ろを振り返ると―――
「ブモ―――!!!」
まさかの二体目のミノタウロスが立っていた。
「え?ちょっおま!?ええっ!!??」
突然の二体目襲来に驚いていると一体目がその隙に俺に目掛けて斧を振りぬいてきた。
「あぐっ!!」
とっさに後ろに跳びながら剣で防いだものの、そのまま吹っ飛ばされて壁に激突した。
背中から全身に激痛が走る。
「しっ……しまった……」
痛みで思考が鈍る。
一体だけなら何とかなったかもしれないけど、二体もいたら今の俺の実力では太刀打ちできない……何としてでも逃げないと……。
なんとか立ち上がるもダメージのせいで全身がズキズキと痛み、顔を上げるのも精いっぱいだった。
目の前にはじりじりとにじり寄ってくる二体のミノタウロス。
どう考えても絶望的な状況だが、頭が働くうちはまだ諦めるわけにはいかない。
フラッシュの魔法で相手の視力を奪えば……だがもしもこいつらが視力に頼らず聴力に頼っているのなら効果はないだろうし……危険を承知でこの場で服を脱ぐか……?
あーやばい……思った以上にダメージ受けてるなこれ……段々視界がぼやけて……。
「―――っ!!!」
誰かがこの場に現れた気がしたが、俺の視界はほとんど何も映さなくなっていて、それが誰なのかもわからなかった。
その現れた誰かが必死に俺の名前を呼んでる気がしたけど、それに答えることも出来ずに俺は意識を手放した。
「シューイチ様!!」
気が付いた時には、なぜか俺を女の子が見降ろしていた。
あれ?この子誰だっけ?……ああそうだ!
「れ……レリス?」
「はい!レリスですわ!シューイチ様、大丈夫ですか!?」
起き上がろうとしたものの、背中からの痛みでそれもままならず、俺は小さくうめき声をあげた。
「まだ起き上がらないでくださいな、今ポーションを用意しますから……!」
何が起こったんだ?確か俺はミノタウロスに追い詰められて……そしたら誰かが……あっその誰かがレリスだったのか。
段々思考がクリアになって来たぞ……どうやら危ないところを駆け付けたレリスが助けてくれたみたいだ。
……っていうかなんでレリスがここにいるんだ!?
「どうぞシューイチ様、ポーションですわ!これで身体の痛みも楽になるかと」
「ありがとう……」
ご丁寧にレリスがその手で俺にポーションを飲ませてくれた。
……うん、身体の痛みがかなりなくなって楽になって来たぞ!
「ありがとうレリス!助かったよ!」
俺は起き上がりお礼を言うと、レリスは安堵した表情になる。
「洞窟内を彷徨っていたら、この魔物に囲まれているシューイチ様がいるのですもの……びっくりいたしましたわ」
その言葉に周りを見回すと、綺麗に首を跳ね飛ばされたミノタウロスの死体が二体転がっていた。
どうやらこの辺の雑魚くらいでは二体いたところでレリスには敵わないらしい。
しかし恐れていた最悪の事態になってしまっているようだ。
「俺がこの場所まで来てるってことは、エナやレリスもだろうとは思ってたけど……」
「幸いと言っていいのかわかりませんが、エナさんは見かけておりませんわね」
もしも俺たちと同じようにこの階層のどこかに飛ばされたのなら見つけてあげないといけないが……エナだけ外に出てる可能性だって十分ありうる。
エナが拠点に帰ってきたらシエルを通して念話で教えてくれるだろうし、それまで待たないとな。
「とりあえずわたくしたちはどういたしましょうか?」
「そうだなぁ……セオリー通りならこの階層のボスを倒して地上への魔法陣で帰還する流れになるんだけど……」
レリスがいればそれも可能かもしれないが、そうなるともしこの階層にエナも迷い込んでいるとしたら、置き去りにしてしまうことになる。
それならばエナを見つけるためにこの階層をくまなく散策するか、シエルからの連絡を待つ方が無難だよな。
でもどの道俺たちがここを脱出するためにはこの階層のボスは倒さないといけない。
「多分あと少しでエナの安否がわかるかもだからここでしばらく待機しようか」
「どうしてそんなことがわかるのですか?」
あー何も知らない人からすればそこ疑問に思うよなぁ……。
「実は、地上にいる知り合いと連絡を取れる手段を持ってるんだよ。そいつが今俺たちの拠点にいるはずだからもしエナが帰ってこれば連絡が来るだろうし、その連絡がないならエナがここにいる可能性が高いから探しに行けばいいかなってさ」
「シューイチ様は不思議な方だと常々思っていましたが……」
「まあとりあえず今は信じてくれなくてもいいよ。ここから無事に出られたらちゃんと詳しいことを話すからさ」
「はあ……」
いまいち釈然としていないレリスを見ていると、シエルから念話が飛んできた。
『シューイチさーん、生きてますかー?』
『ちょっと危なかったけどなんとかね』
『たった今エナさんが帰ってきまして、シューイチさんたちとはぐれてしまったと……』
どうやら心配事の一つは消えたようだった。
『そうか、エナは無事に地上に戻れたんだな……それだけでも少し安心したよ』
『これから私を除いた全員でルカーナさんのところへ行って、国とギルドに頼んで捜索隊を出してもらうから、それまでなんとか生き延びてほしいと』
一瞬そこまでのことか?なんて思ったが、冒険者二人がダンジョンの転送ミスで行方不明になってるんだから、そりゃあ捜索隊も組まれるよなあ……と一人で納得してしまった。
『ただ、シューイチさんのたちのいる階層までたどり着ける保障はないとのことなので、捜索隊を待たずに地上へ戻る手段を探した方が早いかも……とも』
まあ階層のボスを倒せば地上へ帰還できる可能性もあるんだから、そうなるよな。
幸いこちらには手練れのレリスがいるし、もしレリスをもってして敵わない敵だったら俺が全裸になればなんとかなるだろうしな。
これで俺たちの行動方針が決まったな。
『わかった、捜索隊のことは来てくれたらいいな程度に考えて、俺たちは俺たちでなんとか脱出の手段を探してみるよ!状況は随時シエルに念話で報告するから、そっちはそっちで通信機を誰か二人に持たせてそのうちの一人を拠点に待機させておいてくれ!』
『わっかりました!……ごめんなさい私何もできなくて』
『何言ってんの、こうして連絡が取れるだけでも大助かりだよ?それじゃあ頼むな!』
そう言って念話を終わらせた。
実際問題、こうして地上と連絡を取れるのは本当にありがたいので、今回ばかりはシエルと念話出来ることは大きな助けとなってくれた。
「どうやらエナは無事に地上に戻れたみたいだよ」
「そうですか!それだけでも救いですわね!」
それじゃ、俺たちは俺たちで行動を開始しないとな。
たしか俺とエナとレリスの三人でダンジョンのボスを倒して、地上へ帰るための魔法陣に乗って……え?
俺は慌てて周囲を振り返る。
そこは鍾乳洞と言った感じの、ひんやりとした空気の漂う空間だった。
俺のすぐ近くには大きな地底湖がある。
「どう見てもダンジョンの中なんですけどー!?」
しかもひんやりした空気に相反して、さっきの階層よりも圧倒的に空気中の魔力の質が濃い。
これってかなり下の階層まで来てるんじゃないのか?
地上に帰るための魔法陣に乗ったはずなのになんで……もしかして誤作動でもしたのか?
「こうなったらスクロールで……」
そう思って道具袋を漁るが、二分くらい探したところで帰還用のスクロールはエナに預けてあったことを思いだして、俺はその場でがっくりと膝をついた。
「マジかよ……どうすりゃいいんだこれ?」
ダンジョンに来る前から感じていた嫌な予感の正体はこれだったのか……。
見たところエナもレリスもいないし……ていうかあの二人は無事に地上に戻れたのか?
確認をしようにも今日は通信機を持ってないからどうしようもないし、そもそもダンジョン内で通信機は使えるんだろうか?
通信……そうだ!
『シエル!聞こえるか?』
シエルと念話の出来る宝玉だけはいつも肌身離さずに持ち歩いているのだが……どうだ?
『はーい、聞こえますよー』
『今日ほどお前と念話が出来て良かったと思った日はないわー』
『のっけから失礼ですね……それで、どうしたんですかそんなに慌てて?』
『実はな……ダンジョンに下見に行ったら、俺だけダンジョンの下層に取り残された』
『はぁ……はぁ!?』
驚くシエルに、俺は事の経緯を細かく説明していく。
『そんなことってあるんですねぇ……』
『こりゃ詫び石案件だな』
『そんなことより……どうするつもりなんですか?正直なところ私はあんまり心配はしてないんですけども?』
いや心配してくれよ!?と思うけども、俺には裸になったら無敵になる能力があるから、心配するだけ無駄だというシエルの言葉もわからんでもない。
実際俺自体もそこまでの危機感は感じてなかったりする。
とは言っても全裸状態なら難なく最下層までたどり着ける気がするけど、仮にそこの朱雀がいたら戦わないといけないし、戦っても多分勝てないんだよなぁ……負けもしないだろうけど。
『とりあえず何とかして地上に戻ってみるよ。それからテレアとフリルが帰ってきたらこのことをルカーナさんに伝えてもらえるように頼んでおいてくれない?』
『わかりましたー!気を付けてくださいね?』
『また何かあったら念話飛ばすよ!それじゃあ!』
さてどうしたものかな?
とりあえずはこの階層のボスを探し出して手っ取り早くぶちのめして地上への魔法陣を出現させて……。
そんなことを考えていると、物陰から何者かの気配がしたので恐る恐る振り返る。
「ブモ―――……」
そこにはなにやら牛人間とも呼べるべき大きな斧を装備した二足歩行の牛がこちらを見てじりじりとにじり寄って来ていた。
言うなれば物凄い典型的なミノタウロスだった。
「どうみても友好的な雰囲気じゃないよな……」
エナかレリスかもしれないと淡い希望を抱いたが、見事に打ち砕かれた。
「ブモ―――!!!」
ミノタウロスは雄たけびを上げると予備動作もなしにいきなり俺に向けて突進してきた。
いきなりかよ!?少しは事前準備くらいさせろや!?
「うわっと!!」
すんでのところで身をひるがえしかわすと、そのままミノタウロスは俺の後ろにあった地底湖にダイブしていった。
そのまま沈んでてくれると非常にありがたいが……。
そう思った矢先、ミノタウロスは持っていた斧を突然放り投げて、天井に突き刺した。
重量のあった斧を手放すことで浮力を稼いだミノタウロスが、陸へと上がるために泳いで……ってお前泳げるのかよ!?その見た目で!?
「呆気に取られてる場合じゃない!!」
急いで全裸になろうと服に手を掛けるが、その時天井に突き刺さっていた斧が天井からすっぽ抜けて、俺の目の前に落ちてきた。
「おわっ!!びっくりした……!?」
斧に気を取られている間に、ミノタウロスが陸に上がってきていた。
こりゃ全裸になってる暇はないな……自力でなんとかしないと……!
俺は覚悟を決めて腰の剣を引きぬき、地面に突き刺さっていた斧を手にしたミノタウロスを睨みつける。
「ブモ―――!!!」
ミノタウロスが雄たけびを上げて斧を大きく振りかぶり俺に向けて勢いよく振り下ろすも、あらかじめ身体強化を発動させていた俺はサイドステップで斧をかわし、一気にミノタウロスの死角に入り込んだ。
俺を見失ったミノタウロスが慌ててキョロキョロと首を振るも、俺はその隙に奴の胴体に向けて剣で斬りかかった。
「おりゃあ!!」
一階層で戦った蛇ほどの防御力はないらしく、俺の予想よりも剣は深く入ったようだ。
「ブッブモ―――!!??」
突然死角から斬りつけられたミノタウロスがそのダメージに……というよりは攻撃されたことに対して驚いて声を上げながら俺から距離を取る。
思ったよりもダメージがないな……だけどこの反応速度ならちまちま削っていけばそのうち勝てる!
あとは集中力を切らさないようにしないと……。
そう思った矢先、背後にまたも何者かの気配を感じ取った俺は後ろを振り返ると―――
「ブモ―――!!!」
まさかの二体目のミノタウロスが立っていた。
「え?ちょっおま!?ええっ!!??」
突然の二体目襲来に驚いていると一体目がその隙に俺に目掛けて斧を振りぬいてきた。
「あぐっ!!」
とっさに後ろに跳びながら剣で防いだものの、そのまま吹っ飛ばされて壁に激突した。
背中から全身に激痛が走る。
「しっ……しまった……」
痛みで思考が鈍る。
一体だけなら何とかなったかもしれないけど、二体もいたら今の俺の実力では太刀打ちできない……何としてでも逃げないと……。
なんとか立ち上がるもダメージのせいで全身がズキズキと痛み、顔を上げるのも精いっぱいだった。
目の前にはじりじりとにじり寄ってくる二体のミノタウロス。
どう考えても絶望的な状況だが、頭が働くうちはまだ諦めるわけにはいかない。
フラッシュの魔法で相手の視力を奪えば……だがもしもこいつらが視力に頼らず聴力に頼っているのなら効果はないだろうし……危険を承知でこの場で服を脱ぐか……?
あーやばい……思った以上にダメージ受けてるなこれ……段々視界がぼやけて……。
「―――っ!!!」
誰かがこの場に現れた気がしたが、俺の視界はほとんど何も映さなくなっていて、それが誰なのかもわからなかった。
その現れた誰かが必死に俺の名前を呼んでる気がしたけど、それに答えることも出来ずに俺は意識を手放した。
「シューイチ様!!」
気が付いた時には、なぜか俺を女の子が見降ろしていた。
あれ?この子誰だっけ?……ああそうだ!
「れ……レリス?」
「はい!レリスですわ!シューイチ様、大丈夫ですか!?」
起き上がろうとしたものの、背中からの痛みでそれもままならず、俺は小さくうめき声をあげた。
「まだ起き上がらないでくださいな、今ポーションを用意しますから……!」
何が起こったんだ?確か俺はミノタウロスに追い詰められて……そしたら誰かが……あっその誰かがレリスだったのか。
段々思考がクリアになって来たぞ……どうやら危ないところを駆け付けたレリスが助けてくれたみたいだ。
……っていうかなんでレリスがここにいるんだ!?
「どうぞシューイチ様、ポーションですわ!これで身体の痛みも楽になるかと」
「ありがとう……」
ご丁寧にレリスがその手で俺にポーションを飲ませてくれた。
……うん、身体の痛みがかなりなくなって楽になって来たぞ!
「ありがとうレリス!助かったよ!」
俺は起き上がりお礼を言うと、レリスは安堵した表情になる。
「洞窟内を彷徨っていたら、この魔物に囲まれているシューイチ様がいるのですもの……びっくりいたしましたわ」
その言葉に周りを見回すと、綺麗に首を跳ね飛ばされたミノタウロスの死体が二体転がっていた。
どうやらこの辺の雑魚くらいでは二体いたところでレリスには敵わないらしい。
しかし恐れていた最悪の事態になってしまっているようだ。
「俺がこの場所まで来てるってことは、エナやレリスもだろうとは思ってたけど……」
「幸いと言っていいのかわかりませんが、エナさんは見かけておりませんわね」
もしも俺たちと同じようにこの階層のどこかに飛ばされたのなら見つけてあげないといけないが……エナだけ外に出てる可能性だって十分ありうる。
エナが拠点に帰ってきたらシエルを通して念話で教えてくれるだろうし、それまで待たないとな。
「とりあえずわたくしたちはどういたしましょうか?」
「そうだなぁ……セオリー通りならこの階層のボスを倒して地上への魔法陣で帰還する流れになるんだけど……」
レリスがいればそれも可能かもしれないが、そうなるともしこの階層にエナも迷い込んでいるとしたら、置き去りにしてしまうことになる。
それならばエナを見つけるためにこの階層をくまなく散策するか、シエルからの連絡を待つ方が無難だよな。
でもどの道俺たちがここを脱出するためにはこの階層のボスは倒さないといけない。
「多分あと少しでエナの安否がわかるかもだからここでしばらく待機しようか」
「どうしてそんなことがわかるのですか?」
あー何も知らない人からすればそこ疑問に思うよなぁ……。
「実は、地上にいる知り合いと連絡を取れる手段を持ってるんだよ。そいつが今俺たちの拠点にいるはずだからもしエナが帰ってこれば連絡が来るだろうし、その連絡がないならエナがここにいる可能性が高いから探しに行けばいいかなってさ」
「シューイチ様は不思議な方だと常々思っていましたが……」
「まあとりあえず今は信じてくれなくてもいいよ。ここから無事に出られたらちゃんと詳しいことを話すからさ」
「はあ……」
いまいち釈然としていないレリスを見ていると、シエルから念話が飛んできた。
『シューイチさーん、生きてますかー?』
『ちょっと危なかったけどなんとかね』
『たった今エナさんが帰ってきまして、シューイチさんたちとはぐれてしまったと……』
どうやら心配事の一つは消えたようだった。
『そうか、エナは無事に地上に戻れたんだな……それだけでも少し安心したよ』
『これから私を除いた全員でルカーナさんのところへ行って、国とギルドに頼んで捜索隊を出してもらうから、それまでなんとか生き延びてほしいと』
一瞬そこまでのことか?なんて思ったが、冒険者二人がダンジョンの転送ミスで行方不明になってるんだから、そりゃあ捜索隊も組まれるよなあ……と一人で納得してしまった。
『ただ、シューイチさんのたちのいる階層までたどり着ける保障はないとのことなので、捜索隊を待たずに地上へ戻る手段を探した方が早いかも……とも』
まあ階層のボスを倒せば地上へ帰還できる可能性もあるんだから、そうなるよな。
幸いこちらには手練れのレリスがいるし、もしレリスをもってして敵わない敵だったら俺が全裸になればなんとかなるだろうしな。
これで俺たちの行動方針が決まったな。
『わかった、捜索隊のことは来てくれたらいいな程度に考えて、俺たちは俺たちでなんとか脱出の手段を探してみるよ!状況は随時シエルに念話で報告するから、そっちはそっちで通信機を誰か二人に持たせてそのうちの一人を拠点に待機させておいてくれ!』
『わっかりました!……ごめんなさい私何もできなくて』
『何言ってんの、こうして連絡が取れるだけでも大助かりだよ?それじゃあ頼むな!』
そう言って念話を終わらせた。
実際問題、こうして地上と連絡を取れるのは本当にありがたいので、今回ばかりはシエルと念話出来ることは大きな助けとなってくれた。
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