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転送~予感的中~

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 ギルドでダンジョンの入場許可と、レリスの依頼達成報告を済ませた俺たちは、はやるレリスを抑えながら城下町を出て30分ほど歩いた森の中にあるダンジョンへとやってきた。
 ちなみにこの入場許可書は三日間効果があり、再び入場許可を得るのに一週間またないといけないとのこと。
 なぜそんな面倒な規則になっているのかというと、ダンジョンもいくら中の魔物や鉱石が再生すると言っても、魔物の乱獲や鉱石を取りすぎてしまうとそれらを補填するためにダンジョンが魔力を消費する。
 それが休みなく続いてしまうとダンジョンの魔力が底をつき、地形と一体化してしまいダンジョンとしての機能が死んでしまうからだ。
 ダンジョンの魔力測量は定期的に行われており、国が定めた基準値よりも魔力量が下回ると、ダンジョンの魔力回復のため一時封鎖することもあるらしい。
 どうやらここ最近は一時閉鎖されていたらしく、今はダンジョンの魔力も回復しているとのこと。
 だからよほどのことがない限りは不測の事態は起きないだろうと、ギルドで説明を受けた物の……。

「どうにも嫌な予感がするんだよなぁ……」
「ん?どうかしましたかシューイチさん?」

 独り言を呟いた俺にエナが反応した。
 さっきから漠然と感じているこの謎の不安感をエナに話すべきか否か……。

「なーんか嫌な予感がしててさ」
「ダンジョンにですか?」
「そう……入場許可書までもらっておいてなんだけど、行くべきじゃないんじゃないか……てさ」
「う~ん……下に降りるわけではありませんから大丈夫だと思うんですけど」

 そうなんだよな、本格的にダンジョン攻略をするわけでもないし、なんでこんなに不安になってるんだろう?
 まあすでにダンジョンの入り口まで来てしまってるわけだから、ここまで来て引き返すのもね。

「お二人ともどうかしたのですか?」
「ごめんごめん、なんでもないよ」

 ダンジョンを目の前にして、レリスが目を輝かせているのを見て、俺は自身が感じている不安を無理やり押し込めた。
 とりあえず入ってみないことにはなにもわからないよな!
 入り口にはギルド職員がいて、入場許可書の提示を求められたので、大人しく提示する。
 本物であることが確認されて、先程ギルドでも聞いた簡単な注意事項を受けた後、俺たち三人はようやくダンジョンの中へと足を踏み入れた。

「なんていうか……外と全然空気が違うな?」
「魔力の海の中に裸で入ったようなものですからね」
「だから空気中にうっすらと魔力が含まれているのですね?」

 レリスの言う通り、ダンジョン内の空気には若干の魔力が含まれている。
 文字通り俺たちは魔力の海の中にいるのだと実感させられた。
 道なりに進むと、下へと続く階段らしきものが見えてくる。

「ここから下に降りることでいよいよ本格的にダンジョンに入ることになります」
「ここが本格的な入り口ってこと?」
「そうですね、降りるとすぐにわかると思いますが今感じている空気中の魔力の質が一気にかわるんですよ」
「一階層とはいえ油断は禁物ですわね」

 階段を目の前にして俺たち三人は揃って息をのむ。

「それでは行きましょうか」

 エナのその声を合図に俺たちは階段を下っていく。
 二分ほど下ると出口が見えてきて、そこから階段を抜けるとさっきまでとは全く違う光景が広がっていた。

「え?これダンジョンなんだよね?」
「どう見ても森の中に見えますが、まぎれもなくダンジョンです」

 魔力の質どころか、風景まで変わってしまって困惑してしまった。
 入り口はよくある武骨な洞穴って感じだったのに……さすが異世界だ、なんでもありだな!
 そこでふと後ろを見るとさっきまであった階段が影も形もなくなっていた。

「ちょっ!?帰り道がなくなってるんだけど!?」
「下への階段を見つけるか、専用のアイテムを使わないと脱出できませんよ?さっき説明されたじゃないですか?」
「あっそうだったね……」

 突然帰り道がなくなったのでショックのあまり間抜けなことを言ってしまった。
 ダンジョンは下の階層に降りると、上に戻る階段が消えてしまう。
 ではどうやって地上まで戻るのかというと、その階層で下への階段を見つけると、同時に地上へと戻る為の魔法陣も出てくるから、それを使うことで地上に戻れるらしい。
 でも途中で力尽きて次の階層への階段を見つけられない冒険者の為に、入り口で支給された「簡易転送魔法陣」のスクロール……いわゆる巻物を使うことで一時的に地上へ戻るための魔法陣を作り出し、それで帰還することが出来るのだ。
 なおこれらの便利な処置は、初めからダンジョンに備わっているものではなく、国の宮廷魔術師たちがダンジョン自体に細工することで可能になっているらしい。

「とりあえずスクロールを使うことで戻れますが、どうしますか?」
「すぐ帰るのはちょっとな……まあ最初の階層ならそこまで危なくないって話だし、下の階段を見つけるまで散策しよう」
「それでは早速行きましょう!」

 さっきからレリスのテンションが上がりっぱなしだ。
 正直な話、このテンションはちょっとばかし危険な気がする。

「レリスさん、あんまり前に出ないようにしてくださいね?浅い階層と言えど危険なことには変わりないんですから」
「わかっておりますわ!」

 本当にわかってるのかな?
 そんなレリスに不安を抱えつつ、俺たちはなるべく固まりながらダンジョン内を散策していく。
 途中、何度か草むらから魔物が飛び出してきていく手を阻まれるも……。

「せいっ!!」
「でやっ!!」

 俺とレリスの剣で問題なく切り伏せていく。

「シューイチ様、前よりも剣筋がよくなりましたわね」
「こう見えて毎日剣の稽古してるからな」

 その他にもここ一週間の間にギルド依頼で様々な魔物とも戦ってきたからなぁ……この世界に来た当初よりは戦えるようになっている自覚はある。

「テレアちゃんも感心してましたよ?シューイチさんは毎日嫌な顔せず真面目に修練に励んでるって」
「シューイチ様は努力家でいらっしゃるのですね」
「よせやい」

 あまり褒められる機会がないので、いざこうして褒められてしまうと反応に困るな。
 しかしながら、まだまだテレアやレリスほど前線でがっつり戦えるレベルではないんだよな……もっと精進あるのみだ。

「倒した魔物の素材は回収しておいた方がいいよね?」
「そうですね、武器の素材にもなりますし、売ってお金にすることも出来ますから」
「そういうことでしたら……」

 倒した魔物の部位を丁寧に剥ぎ取り回収していく。
 そんなことを雑談交じりに繰り返しながら進んでいくと、なにやらまわりが岸壁のように切り取られた岩壁に囲まれた広いスペースに出た。

「なんだここ?」
「どうやらこの階層の出口に辿り着いたようですね」
「出口と言っても、階段が見当たりませんが……?」

 レリスがそう呟いた瞬間、スペースの中央に目視できるほどの魔力が渦巻いていき、瞬く間に巨大な蛇へと変貌を遂げたのだ。
 もしかして、下の階層に降りるにはこの蛇を倒さないといけないのか……!?

「この階層のボスですね。これを倒さないと下への階段は出てきません」
「そういうことは先に言っておいてくれないかな!?」
「すいません、あまりにも順調に散策が続くのでうっかりしてました……」
「どうやらわたくしたちを敵と認識したようですわ」

 レリスの言うと通り、蛇が鋭い目つきで俺たち三人を睨みつける。
 どうやら戦闘は不可避のようだ。
 蛇から感じる迫力が、先程まで倒してきた魔物とは比べ物にならないことを訴えてくる。

「来ますわ!」

 蛇がその巨体を引きずりながら、俺たち目掛けて突進してきた。
 三人が分散することでその突進をかわし、俺はそのまま蛇に走り寄り手にした剣で蛇の胴体に斬りかかった。

「かってえ!!」

 俺の攻撃は金属音と共に弾かれ、蛇のうろこにわずかに傷をつけるだけにとどまった。
 そんな俺に対し、蛇は俺に向けてしっぽを鞭のようにしならせて叩きつけようとしてきたので、大きく横に跳ぶことで回避し、そのまま一旦蛇から距離を取る。
 俺のいた位置に尻尾が叩きつけられて、轟音とともに大きな地響きが発生した。

「大丈夫ですかシューイチさん!」
「ああ、無事によけられたから」

 尻尾の叩きつけから逃れた俺の元に、エナが駆け寄ってくる。
 そんな俺たちに向けて、蛇が突然頭を上に向けたかと思うと、勢いをつけて振り下ろすと同時に口を開けて、そこから謎の液体を吐き出してきた。

「プロテクション!!」

 エナがとっさに張った魔法壁によって、謎の液体のほとんどが阻まれて俺たちに直接降りかかることはなかったものの、地面や岩壁に飛び散った液体が、煙と共にその部分を溶かしていく。

「溶解液かよ……」
「直撃したらやばそうですね……」

 こういうのって大体中途半端に食らうことで服だけが解けてちょっといやーんな感じなるのが定番なんだけど……戦闘中にそんなこと考えるのはアホのすることだというのが、この異世界にきて俺が学んだことだ。
 そんなラッキースケベな状況を考えてるくらいなら、どうやって目の前の敵を倒すことが出来るかに頭を使った方がはるかに建設的だ。

「鱗がアホみたいに硬くて剣が通らなかったな」
「剣にエンチャントしますか?」

 そんなことをエナと相談していると、蛇が再び俺たちに向けて突進しようと構えている。
 話し合ってる暇はないわけね……!

「させませんわ!!」

 その声と共に、レリスがまるで弾丸のように蛇の首元にすっ飛んでいき、すれ違い様に剣を横に振りぬいた。
 蛇の首元に真横に赤い線が出来たかと思うと、蛇の頭が胴体と切り離されて巨大な蛇の魔物は絶命した。
 切り離された頭は地面に落下し、胴体も支える力を失って土煙を上げながら地面へと倒れた。

「一撃ですか……」
「そりゃあレリスが強いのは知ってたけど……」

 まさかあの堅い鱗をものともせずに一撃で切り伏せるとは思わなんだ。
 レリスが剣に付着した魔物の血を布でふき取りながらこちらへ歩いてきた。

「思いのほか手ごたえがありませんでしたわね」
「あの蛇の鱗固くなかった?」
「確かに硬かったですが、わたくしの剣を止められるほどの硬度ではありませんでしたわね」
「魔法剣で剣の強度をあげているんですか?」

 エナがそう言ったのでレリスの剣を見てみるが、以前魔法剣を使っていた時のような魔力の輝きがない。

「あの程度だったら魔法剣を使うまでもないので……咄嗟だったので風の魔法は使いましたが」

 ものすごいスピードで飛んできたもんな……これだけ強いのにルカーナさんには赤子の手を捻る感じで倒されちゃうんだから、もうどうなってるんだって話だ。

「それよりも、どうやら下へ降りる階段が出たみたいですが?」

 そう言ってレリスが指をさしたので、その方向に顔を向けると、そこには下へ降りる階段が出来ていて、その傍らに光を放つ魔法陣が出ていた。

「一応目的は達成できましたし、蛇の素材を回収したら魔法陣で地上に戻りましょう」
「そうだな、レリスのおかげで苦戦せずに済んだな」
「わたくしとしてはもう少し手ごたえのある戦いをしたかったのですが……」

 レリスが物足りないとばかりに目を伏せてため息を吐いた。
 そりゃあレリスからすれば物足りなかっただろうな……一撃だったし。
 そんなことを話しつつ、蛇の部位を剥ぎ取り道具袋に詰め込んだ俺たちは地上へ戻るために魔法陣へと向かう。

「とまあ、ダンジョンはこれの繰り返しになりますね」
「やっぱり話に聞くのと実際に来てみるのでは違うよな……参考になったよ」
「それでは、物足りない気分ではありますが地上へもどりましょうか」

 レリスの言葉を合図に俺たちは揃って魔法陣に足を踏み入れた。
 魔法陣から発せられた光が俺たちを包み込むと、ふわっと身体が浮かび上がる。
 そして―――

「……え?あれ?」

 エナのその言葉を最後に俺は光に包まれて何も見えなくなった。

 そして気が付いた時には、俺は地上ではなくこのダンジョンの更に地下へ進んだところに立っていたのだ。
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