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妥協~給仕係爆誕~
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さて、フリルはどこに行ったのだろう?
まあ九分九厘自分の部屋にいるだろうな……時々ふらっと外に出ることはあるけど基本的にはあんまり出歩かない子だからな。
ほどなくしてフリルの部屋の前に来たので、ドアを軽くノックする。
「フリルいるかー?開けるぞー?」
「……いないから開けないで」
「いるじゃねーか、開けるからな?」
部屋の主はいるみたいなので、問答無用でドアを開けて部屋に入り込んだ。
ざっと部屋を見回すと、ベッドでうつ伏せに寝ているフリルがいた。
「さっきはなんであんなこと言ったんだー?シエルの奴泣きそうな顔になってたぞー?」
言いながらフリルのベッドに静かに腰を下ろすものの、フリルが起き上がってくる様子はない。
「……あいつがこの家に居座るのが反対だから反対って言っただけ」
「その理由を聞いてるんだよ」
つーか、あいつ呼ばわりか。
フリルって基本的に心を許してない相手に対して物凄く容赦がないよな。
実のところフリルがなぜシエルに対してこんなに辛辣なのか、少しばかり心当たりがある。
でもいきなり確信をついてしまうと意固地になられるかもしれないから、会話の運びに注意しないとな。
「シエルのこと嫌いなのか?」
「……嫌いとかそれ以前の問題」
「好きでも嫌いでもないと?」
「……関わり合いになりたくない」
こりゃ筋金入りですな。
「どうして?シエルはあんなんでも玄武と戦った時、リスクを背負うことを覚悟で俺たちのこと助けてくれたんだぞ?」
「……それには一応感謝してる」
「フリルは知らないけど、テレアの時もシエルには結構助けてもらったんだ。シエルがいなかったら今ここにはテレアはいなかったかもしれないな」
「……そういうことじゃない」
あーこれはちゃんと自分でも意固地になってるってわかってるんだろうなぁ。
シエルに対して感謝してる気持ち自体はあるものの、それ以上の悪いイメージ先行してるせいで、自分の中で折り合いをつけれないんだろうな。
「シエルが俺を死なせてしまったことが許せない?」
「……」
無言ってことは図星ってことかな。
多分そこが一番許せないところなんだろうとは思っていたけどね。
フリルは相手の気持ちをきちんと読み取れる、優しい女の子だ。
俺自身気が付いていなかった、両親への死んでしまったことによる後悔の念を、この子は気が付いてくれて俺を慰めてくれた。
……正直あの日のことを思いだすと、穴掘って埋まっていたいくらい恥ずかしいのだけどね。
だからこそ、その原因を作ったともいえるシエルのことをどうしても受け入れられないんだろう。
正直な話、俺とフリルが逆の立場だったら、シエルのことを受け入れられるかというと……難しいところだろうな。
「……あいつがシューイチを死なせなければあの時シューイチが泣くこともなかった」
「まあそうなんだけどね……でもあいつだっていいところは結構あるんだぞ?」
「……シューイチは甘い」
「お人よしであるという自覚はあるよ」
もう散々この世界に来てエナに言われてるからな。
「でもさ、逆に考えればシエルのおかげで、俺とフリルは出会えたんじゃないか?」
「……」
「俺だけじゃなくて、エナもそうだし、テレアとも出会えたわけだろ?」
「……でもそれは結果的にそうなっただけ」
「うんたしかにこれは結果論だよな。でもさ……シエルのことを否定されてしまうと、俺たちと出会えたことも否定された気持ちになっちゃうわけよ俺は」
俺のことを死なせたことについては思うところはあるけど、ちゃんとそれをシエルなりに悔いて俺のことをここまで面倒見てくれてるわけだしな。
シエルの性格上あんまりそんな雰囲気を感じられないから、それが余計にフリルの癇に障ったのかもしれない。
「あいつもさ、大きなリスクを背負う覚悟であの時俺たちを助けてくれたんだし、そこだけでも譲歩してやってくれないかな?」
「……でも……」
もう一押しって感じだな。
「フリルは、シエルにどうしてほしいと思ってるんだ?別に俺に対して謝ってほしいとか思ってるわけじゃないんだよな?」
「……うん」
「かといって別にフリルに謝ってほしいわけでもないと?」
「……」
ようやくフリルが起き上がり、無言で頷いた。
「それならフリルが思う形で、シエルに誠意を示させればいいんじゃないかな?」
「……誠意?」
「フリルの物差しでいいからさ?ここまでされたら許すことも考えてやってもいいってことを、シエルにしてもらうんだよ」
ここは円滑に話を進めるためにシエルには犠牲になってもらおう。
話を終えた俺は、フリルを伴い応接間へと戻って来た。
「おかえりなさい二人とも」
「……ただいま」
エナが心配そうな顔をしながら、俺たちを出迎えてくれた。
「あの……フリルちゃん……」
「……私はシューイチを死なせたことを許せない」
ぴしゃりと言い放ったフリルのその言葉に、シエルたちの表情が曇る。
何をおいてもこれだけは絶対に言っておきたいとフリルが譲らなかったので、俺も成り行きを黙って見守る。
「えっとですね……たしかに宗一さんを死なせたのは私です……でも私だってそれを何とも思ってないわけではなくてですね?」
「……言い訳は聞きたくない」
「うぅ……」
あまりのその迫力に、シエルが口を閉ざして怯んでしまった。
この後フリルが何を言い出すのかをちゃんとわかってるんだけど、あまりのその威圧感に俺でさえちょっとたじろぎそうになる。
現にもうシエルはこの世の終わりみたいな顔してるし。
「……でも私だって鬼じゃないしこの間のことは感謝もしてる」
「えっ?」
そう言ったフリルが隣に立つ俺を見上げる。
その先は俺にお任せしますってことね……まあいいけど。
「ようするにだな……フリルはシエルに誠意を見せてほしいんだそうだ」
「誠意……ですか?」
「俺を死なせたことは許せないけど、でも玄武の件については感謝もしてる……でもそう簡単に割り切れるものでもないから、折り合いをつけるためにも誠意をみせてほしいんだってさ」
まあそれをフリルに吹き込んだのは俺だけども、フリルもその意見には賛成してくれたし、この子の意志ってことでも問題ないだろう。
「シエルはどうしてもここに置いてほしいんだよな?」
「もっ勿論です!他に行く当てもないですし、ここに置いてもらえるなら誠意だってなんだって見せますとも!」
ん?今何でもって……ってそんなことはともかく、これで言質は取ったぞ。
「だってさフリル?シエルはここに置いてもらうためならなんだってするそうだぞ?」
「……本当に?」
「ほっ本当です!!」
これ絶対自分の言動に後悔してるな。
まあでも言った以上は誠意を見せてもらおうじゃないか。
「ではフリル様……」
「……うい」
俺が促すと、フリルはシエルの元にトコトコと歩いて行き、ソファに座るシエルをじっと見降ろす。
エナもテレアもその様子を固唾を飲んで見守っている。
重苦しい雰囲気の中、フリルが口を開いた。
「……あなたは今日から私たちの給仕係」
「……きゅうじ……え?」
「……給仕係として精一杯みんなに尽くしてくれるならここにいてもいい」
これが俺とフリルで話し合った末の妥協案だった。
俺も死なせたシエルがのうのうとここで暮らすことは、玄武の件を差し引いても許せないと言ったフリルだったが、給仕係となってみんなに対して誠心誠意尽くしてくれるなら、とりあえず不問にするとのこと。
フリル曰く「私がこれだけ怒ってるんだから、エナっちやテレアだって思うところは絶対ある」らしく、自分だけではなく、俺を死なせたことを反省しているという誠意をみんなに見せてほしいらしい。
これが受け入れられないなら、もうどこへでも行ってくれて構わないとまで言った。
「……シューイチがいつも言ってる……『働かざるもの食うべからず』って」
「まあ私だってただでここに置かせてもらおうだなんて思ってなかったですけど……給仕ですか……」
「……嫌なら」
「いえいえ!嫌じゃないです!!やります給仕係!!」
シエルがそう言ったのを確認して、フリルが俺に振り替える。
どうやらこれで決まったようだな。
「そういうわけなんで、シエルはこれから俺たちの給仕係だからみんなもそのつもりでな?」
「……はあ」
「えっと……フリルお姉ちゃんがそれでいいなら……」
しかし、神様見習いから一転して給仕係か……転落人生の見本のような展開だな。
「まあ俺たちもギルド依頼とかで留守にすることも多いしさ、丁度留守を預かってくれる人材を探してたところだったんだよ」
「でも私給仕係なんてやったことないんですけど……」
そう言うことに詳しそうな人材に心当たりはあるんだけど、今ちょっとどこにいるかわからないんだよなぁ……。
まあこのエルサイムにいることは確かだろうし、今度会うことがあったらその辺について聞いてみるか。
「その辺は追々勉強してけばいいんじゃないか?それよりもまずは形から入ろうぜ?」
「……はい?」
シエルを給仕係に任命してからおよそ二時間後……。
「いいね!すごく似合ってるぞシエル!」
「……この格好さすがに恥ずかしいんですけど」
「何言ってんの!?似合ってるんだからもっと胸を張りなさい胸を!!」
俺たちの前に、メイドカチューシャをつけ、フリフリのエプロンドレスを身に纏ったシエルが、恥ずかしそうに立っていた。
シエルは元がいいから絶対に似合うと思ってたんだけど、はまりすぎて俺のテンションが留まるところをしらない。
「シューイチさん……」
「お兄ちゃん……」
「……シューイチ……」
俺のテンションにみんなが付いて行けず、一歩引いてしまっているが、今の俺は無敵だから痛くもかゆくもないね!!
……嘘ですちょっとだけ悲しいです。
「まあでも確かに似合いますね」
エナがシエルをまじまじと見つめる。
うんうん!そうだろうとも!!
「確かに似合いますけど……わざわざこの服を買いに行ったシューイチさんの情熱はちょっと理解できません」
古来より男の浪漫は、女の子には理解されないものだからなぁ……。
「でもシエルお姉ちゃん、本当のメイドさんみたいだね!」
「そっそうですか?えへへ……お給仕しちゃいますよお嬢様?」
テレアに煽てられて、シエルが調子に乗り始めてきた。
相変わらずちょろいなシエルは。
「ということになったわけだけど……どうよフリル?」
「……落としどころとしては悪くない」
まあ思うところはあるだろうけど、一応フリルも納得はしてくれたようだ。
この問題については片付いたと見ていいだろうな。
「そんじゃ話を戻すんだけど……朱雀を鎮めるためにこの国にあるっていうダンジョンに行かないとだよな」
「テレアちゃんも言ってましたけど、それについてはルカーナさんに頼むのがいいかもしれないですね」
ヤクトさんたちほどじゃないけど、ルカーナさんもこの国から厄介な依頼を持ち込まれるくらいには有名らしいし、明日にでもダンジョンについて相談しに行ってみよう。
まあこんな感じでひと悶着ありつつも、この国のダンジョンに封印されているらしい朱雀を鎮めるために早速明日から行動を開始することとなった俺たちであった。
まあ九分九厘自分の部屋にいるだろうな……時々ふらっと外に出ることはあるけど基本的にはあんまり出歩かない子だからな。
ほどなくしてフリルの部屋の前に来たので、ドアを軽くノックする。
「フリルいるかー?開けるぞー?」
「……いないから開けないで」
「いるじゃねーか、開けるからな?」
部屋の主はいるみたいなので、問答無用でドアを開けて部屋に入り込んだ。
ざっと部屋を見回すと、ベッドでうつ伏せに寝ているフリルがいた。
「さっきはなんであんなこと言ったんだー?シエルの奴泣きそうな顔になってたぞー?」
言いながらフリルのベッドに静かに腰を下ろすものの、フリルが起き上がってくる様子はない。
「……あいつがこの家に居座るのが反対だから反対って言っただけ」
「その理由を聞いてるんだよ」
つーか、あいつ呼ばわりか。
フリルって基本的に心を許してない相手に対して物凄く容赦がないよな。
実のところフリルがなぜシエルに対してこんなに辛辣なのか、少しばかり心当たりがある。
でもいきなり確信をついてしまうと意固地になられるかもしれないから、会話の運びに注意しないとな。
「シエルのこと嫌いなのか?」
「……嫌いとかそれ以前の問題」
「好きでも嫌いでもないと?」
「……関わり合いになりたくない」
こりゃ筋金入りですな。
「どうして?シエルはあんなんでも玄武と戦った時、リスクを背負うことを覚悟で俺たちのこと助けてくれたんだぞ?」
「……それには一応感謝してる」
「フリルは知らないけど、テレアの時もシエルには結構助けてもらったんだ。シエルがいなかったら今ここにはテレアはいなかったかもしれないな」
「……そういうことじゃない」
あーこれはちゃんと自分でも意固地になってるってわかってるんだろうなぁ。
シエルに対して感謝してる気持ち自体はあるものの、それ以上の悪いイメージ先行してるせいで、自分の中で折り合いをつけれないんだろうな。
「シエルが俺を死なせてしまったことが許せない?」
「……」
無言ってことは図星ってことかな。
多分そこが一番許せないところなんだろうとは思っていたけどね。
フリルは相手の気持ちをきちんと読み取れる、優しい女の子だ。
俺自身気が付いていなかった、両親への死んでしまったことによる後悔の念を、この子は気が付いてくれて俺を慰めてくれた。
……正直あの日のことを思いだすと、穴掘って埋まっていたいくらい恥ずかしいのだけどね。
だからこそ、その原因を作ったともいえるシエルのことをどうしても受け入れられないんだろう。
正直な話、俺とフリルが逆の立場だったら、シエルのことを受け入れられるかというと……難しいところだろうな。
「……あいつがシューイチを死なせなければあの時シューイチが泣くこともなかった」
「まあそうなんだけどね……でもあいつだっていいところは結構あるんだぞ?」
「……シューイチは甘い」
「お人よしであるという自覚はあるよ」
もう散々この世界に来てエナに言われてるからな。
「でもさ、逆に考えればシエルのおかげで、俺とフリルは出会えたんじゃないか?」
「……」
「俺だけじゃなくて、エナもそうだし、テレアとも出会えたわけだろ?」
「……でもそれは結果的にそうなっただけ」
「うんたしかにこれは結果論だよな。でもさ……シエルのことを否定されてしまうと、俺たちと出会えたことも否定された気持ちになっちゃうわけよ俺は」
俺のことを死なせたことについては思うところはあるけど、ちゃんとそれをシエルなりに悔いて俺のことをここまで面倒見てくれてるわけだしな。
シエルの性格上あんまりそんな雰囲気を感じられないから、それが余計にフリルの癇に障ったのかもしれない。
「あいつもさ、大きなリスクを背負う覚悟であの時俺たちを助けてくれたんだし、そこだけでも譲歩してやってくれないかな?」
「……でも……」
もう一押しって感じだな。
「フリルは、シエルにどうしてほしいと思ってるんだ?別に俺に対して謝ってほしいとか思ってるわけじゃないんだよな?」
「……うん」
「かといって別にフリルに謝ってほしいわけでもないと?」
「……」
ようやくフリルが起き上がり、無言で頷いた。
「それならフリルが思う形で、シエルに誠意を示させればいいんじゃないかな?」
「……誠意?」
「フリルの物差しでいいからさ?ここまでされたら許すことも考えてやってもいいってことを、シエルにしてもらうんだよ」
ここは円滑に話を進めるためにシエルには犠牲になってもらおう。
話を終えた俺は、フリルを伴い応接間へと戻って来た。
「おかえりなさい二人とも」
「……ただいま」
エナが心配そうな顔をしながら、俺たちを出迎えてくれた。
「あの……フリルちゃん……」
「……私はシューイチを死なせたことを許せない」
ぴしゃりと言い放ったフリルのその言葉に、シエルたちの表情が曇る。
何をおいてもこれだけは絶対に言っておきたいとフリルが譲らなかったので、俺も成り行きを黙って見守る。
「えっとですね……たしかに宗一さんを死なせたのは私です……でも私だってそれを何とも思ってないわけではなくてですね?」
「……言い訳は聞きたくない」
「うぅ……」
あまりのその迫力に、シエルが口を閉ざして怯んでしまった。
この後フリルが何を言い出すのかをちゃんとわかってるんだけど、あまりのその威圧感に俺でさえちょっとたじろぎそうになる。
現にもうシエルはこの世の終わりみたいな顔してるし。
「……でも私だって鬼じゃないしこの間のことは感謝もしてる」
「えっ?」
そう言ったフリルが隣に立つ俺を見上げる。
その先は俺にお任せしますってことね……まあいいけど。
「ようするにだな……フリルはシエルに誠意を見せてほしいんだそうだ」
「誠意……ですか?」
「俺を死なせたことは許せないけど、でも玄武の件については感謝もしてる……でもそう簡単に割り切れるものでもないから、折り合いをつけるためにも誠意をみせてほしいんだってさ」
まあそれをフリルに吹き込んだのは俺だけども、フリルもその意見には賛成してくれたし、この子の意志ってことでも問題ないだろう。
「シエルはどうしてもここに置いてほしいんだよな?」
「もっ勿論です!他に行く当てもないですし、ここに置いてもらえるなら誠意だってなんだって見せますとも!」
ん?今何でもって……ってそんなことはともかく、これで言質は取ったぞ。
「だってさフリル?シエルはここに置いてもらうためならなんだってするそうだぞ?」
「……本当に?」
「ほっ本当です!!」
これ絶対自分の言動に後悔してるな。
まあでも言った以上は誠意を見せてもらおうじゃないか。
「ではフリル様……」
「……うい」
俺が促すと、フリルはシエルの元にトコトコと歩いて行き、ソファに座るシエルをじっと見降ろす。
エナもテレアもその様子を固唾を飲んで見守っている。
重苦しい雰囲気の中、フリルが口を開いた。
「……あなたは今日から私たちの給仕係」
「……きゅうじ……え?」
「……給仕係として精一杯みんなに尽くしてくれるならここにいてもいい」
これが俺とフリルで話し合った末の妥協案だった。
俺も死なせたシエルがのうのうとここで暮らすことは、玄武の件を差し引いても許せないと言ったフリルだったが、給仕係となってみんなに対して誠心誠意尽くしてくれるなら、とりあえず不問にするとのこと。
フリル曰く「私がこれだけ怒ってるんだから、エナっちやテレアだって思うところは絶対ある」らしく、自分だけではなく、俺を死なせたことを反省しているという誠意をみんなに見せてほしいらしい。
これが受け入れられないなら、もうどこへでも行ってくれて構わないとまで言った。
「……シューイチがいつも言ってる……『働かざるもの食うべからず』って」
「まあ私だってただでここに置かせてもらおうだなんて思ってなかったですけど……給仕ですか……」
「……嫌なら」
「いえいえ!嫌じゃないです!!やります給仕係!!」
シエルがそう言ったのを確認して、フリルが俺に振り替える。
どうやらこれで決まったようだな。
「そういうわけなんで、シエルはこれから俺たちの給仕係だからみんなもそのつもりでな?」
「……はあ」
「えっと……フリルお姉ちゃんがそれでいいなら……」
しかし、神様見習いから一転して給仕係か……転落人生の見本のような展開だな。
「まあ俺たちもギルド依頼とかで留守にすることも多いしさ、丁度留守を預かってくれる人材を探してたところだったんだよ」
「でも私給仕係なんてやったことないんですけど……」
そう言うことに詳しそうな人材に心当たりはあるんだけど、今ちょっとどこにいるかわからないんだよなぁ……。
まあこのエルサイムにいることは確かだろうし、今度会うことがあったらその辺について聞いてみるか。
「その辺は追々勉強してけばいいんじゃないか?それよりもまずは形から入ろうぜ?」
「……はい?」
シエルを給仕係に任命してからおよそ二時間後……。
「いいね!すごく似合ってるぞシエル!」
「……この格好さすがに恥ずかしいんですけど」
「何言ってんの!?似合ってるんだからもっと胸を張りなさい胸を!!」
俺たちの前に、メイドカチューシャをつけ、フリフリのエプロンドレスを身に纏ったシエルが、恥ずかしそうに立っていた。
シエルは元がいいから絶対に似合うと思ってたんだけど、はまりすぎて俺のテンションが留まるところをしらない。
「シューイチさん……」
「お兄ちゃん……」
「……シューイチ……」
俺のテンションにみんなが付いて行けず、一歩引いてしまっているが、今の俺は無敵だから痛くもかゆくもないね!!
……嘘ですちょっとだけ悲しいです。
「まあでも確かに似合いますね」
エナがシエルをまじまじと見つめる。
うんうん!そうだろうとも!!
「確かに似合いますけど……わざわざこの服を買いに行ったシューイチさんの情熱はちょっと理解できません」
古来より男の浪漫は、女の子には理解されないものだからなぁ……。
「でもシエルお姉ちゃん、本当のメイドさんみたいだね!」
「そっそうですか?えへへ……お給仕しちゃいますよお嬢様?」
テレアに煽てられて、シエルが調子に乗り始めてきた。
相変わらずちょろいなシエルは。
「ということになったわけだけど……どうよフリル?」
「……落としどころとしては悪くない」
まあ思うところはあるだろうけど、一応フリルも納得はしてくれたようだ。
この問題については片付いたと見ていいだろうな。
「そんじゃ話を戻すんだけど……朱雀を鎮めるためにこの国にあるっていうダンジョンに行かないとだよな」
「テレアちゃんも言ってましたけど、それについてはルカーナさんに頼むのがいいかもしれないですね」
ヤクトさんたちほどじゃないけど、ルカーナさんもこの国から厄介な依頼を持ち込まれるくらいには有名らしいし、明日にでもダンジョンについて相談しに行ってみよう。
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