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剣士~プライドの塊~
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「ここが今日から俺の城になるのか……!」
俺の割り当てとなった部屋を見渡しながら、感激しながら呟いた。
俺の部屋自体は日本にいた頃あったけど、こんな広い部屋ではなかったからな。
しかし掃除こそされているものの、家具がなにもないので買ってこないといけないな。
幸いお金ならリンデフランデで神獣事件を解決した時にギルドからもらった報酬があるから、それを家具の購入費に充てれば一通りの物がそろうはずだ。
ぶっちゃけると俺たち全員がそれなりの家具をそれぞれ買ったとしてもまだ余裕で残るくらいはお金があるんだよね。
しばらくは拠点を自分たちが過ごしやすくするために改造していく日が続くだろうな。
「さて……ルカーナさんにご指名されてるから行かないとな」
とりあえず部屋の隅に荷物を置いて、俺はルカーナさんがいるであろう応接間へと足を運ぶ。
応接間に入ると、ルカーナさんがソファに座って本を読んでいた。
ちなみに応接間には一通り家具が置かれているのだが、これはルカーナさんが俺たちがいつ来てもいいように、話をできる環境をとりあえずこの応接間にだけ整えておいたかららしい。
意外とマメな人だよな。
「お待たせしました」
「……来たか」
呼んでいた本を畳み脇に置いて、ルカーナさんが俺に反対側のソファに座るように促したので、俺もソファに座る。
「えっと……ヤクトさんからはどの程度聞いてるんですか?」
「何も聞いていない」
「……はっ!?」
「ただ「ハヤマ=シューイチという男がテレアを連れてこの拠点に来るから出迎えて色々と世話を焼いてやってくれ」とヤクトに言われただけだ」
「ヤクトさん……」
思わずうなだれる。
なんでちゃんと説明しておいてくれないんだよ……てっきり詳しい話を全部ルカーナさんにしているとばかり思ってたのに!
「あいつはああいう男だ、昔からな。……ただあのヤクトがテレアをお前に預けなければならないほどのことがあったんだろう?その辺と、お前やお前の仲間たちの素性、そしてここに来るまでの経緯を全部説明しろ」
「長くなりますけど……?」
「構わん、全て話せ」
「わかりました……じゃあ……」
とは言ったものの、俺が異世界から来たとことや、全裸になったら無敵になる能力などを話しても信じてもらえないと思うので、そこは適当にはぐらかしつつ、この拠点に来るまでの出来事を事細かにルカーナさんに説明していく。
しかしこうして事の経緯を話してて思うんだけど、とてもじゃないけど信じられないような出来事満載だな……話してる俺ですらこんな荒唐無稽な話信じてもらえないだろうと思ってしまう。
そんな感じでリドアードの引き起こしたテレア誘拐事件や、リンデフランデで起きた神獣事件の詳細を時間をかけてルカーナさんに説明したのだった。
「にわかには信じられんな」
ですよねー。
物的証拠もあった方がいいと思ってマグリドとリンデフランデの推薦状と通信機持ってきてそれらを交えて説明したのだが、全ての経緯を聞いたルカーナさんの第一声がそれだった。
「とはいえ、ちゃんと二つの国からの推薦状もあるし通信機もある……嘘ではないんだろうな」
「今までの説明が嘘だったら俺はとんだ大ほら吹きになっちゃいますよ」
「まあお前たちがここまでに来るまでの経緯がどうであろう正直どうでもいい。そもそも俺はこの世界の事情にそこまで興味がないからな」
じゃあなんで今までの経緯を俺に話させたのこの人……?
「なにか勘違いしてるだろうが、興味がないからと言って知らなくていいという理由にはならん。この国で生きていくためには外の国の情報もある程度は押さえておかないといけないんでな……それと」
「それと?」
「テレアを助けてくれてありがとう」
突然お礼を言われたので、思わず思考停止してしまった。
えっと……なんでいきなりお礼を言い出したのこの人?
「俺とヤクトは同じ村で生まれ共に育った親友だ……その親友の娘とあらば俺にとっても娘のようなものだ……極論だがな」
「まあ、気持ちはわかりますよ」
「だからこそ、テレアを助けてくれたことは俺も感謝している……ありがとう」
もしかして俺だけを指名し呼んだのは、これを俺に言うためだったのかもしれないな……。
なんともはや、不器用な人だ。
「いえ、俺なんてそれ以上にテレアやヤクトさんのお世話になってますから」
「……そうか」
そう言ってルカーナさんが薄く笑った。
「俺からお前に聞きたかったことは以上だ。何か質問があれば答えられる範囲であれば答えるぞ?」
「えっと……俺たちが今日からこの拠点を使うってことは、ルカーナさんはどうするんですか?」
「俺は別にここに住んでいたわけではない。お前たちが来るというから急遽体裁を保てるくらいに中の掃除をしたり応接間の家具を一通り揃えただけだ。俺の住むところはほかにちゃんとある」
よかった、俺たちが来たせいで追い出す形になるんじゃないかと心配してたが、それなら安心だ。
しかしこの人が、この拠点を掃除したり、応接間に家具を買って設置してる姿が全然想像できない。
「あと、このエルサイムに凄腕の剣士がいるって話を聞いたんですけど、知ってますか?」
「……まだそんな噂が出回っているのか」
ルカーナさんが心底鬱陶しそうにため息を吐いた。
もうそのリアクションだけで察してしまった。
「やっぱりその剣士ってルカーナさんのことだったんですね」
「エルサイムに来てからはなるべく目立たないようようにしていたが、一度ギルドにどうしても言われて面倒な依頼を引き受け解決したんだが……その時にうっかり周囲にバレてしまってな」
「そういえばルカーナさんって、昔はヤクトさんと一緒に冒険者をしてたんですか?」
「まあな、最初は俺とヤクトだけだったが、あとでリリアやヤクトの姉とその恋人の男が加わったりもしたが、最終的に俺以外の面子は全員冒険者を引退している」
それなりの人数のパーティーだったのか。
ということは、この拠点はその時に使っていた物なんだろうな。
「なぜそんなことを聞く?」
「いえ、俺の予想だとそろそろ来ると思うんですよね……」
「誰がだ?」
「そりゃあ……」
俺がそこまで言いかけた直後―――
「ごめんくださーい!」
割と聞きなれた声が拠点内に響き渡った。
「タイミングドンピシャだな……」
「なんだ?誰が来たんだ?」
ルカーナさんが心当たりのない来客に首を傾げていると、応接間にエナとテレアが駆け込んできた。
「シューイチさん!レリスさんです!!」
「レリスお姉ちゃんが来たよ!」
「あーうん……そろそろ来るだろうなって話を今してたところ」
「もしかしてお前たちの知り合いか?」
「まあそんなところですよ」
そんなことを言っていると、今度は二時間ほど前に別れたばかりのレリスを連れたフリルが応接間に入って来た。
「シューイチ様!」
「よおレリス!二時間ぶり!」
俺はレリスに手を上げて軽い挨拶をする。
そう遠くない日にまた会うだろうとは思ってたけど、まさかここまで早く再会するとは思わなんだ。
「何しに来たの……ってのは野暮だよなぁ……ルカーナさんに会いに来たんだろ?」
「え?はっはい!その通りですわ!」
俺の言葉に、レリスが佇まいを正す。
「おいシューイチ、これはどういうことだ?」
「それはこの子から聞いた方がいいかと……」
「ルカーナ=スタンテッド様とお見受けします……どうかわたくしと剣でお手合わせお願いできませんでしょうか?」
レリスがいつもの上品なお辞儀をしながら、ルカーナさんに向けてそう言った。
やっぱりレリスが戦いたがってた凄腕の剣士ってルカーナさんのことだったんだな……最初にその話を聞いた時から多分そうじゃないかとは思ってたよ……。
「断る、帰れ」
レリスの願いをルカーナさんは心底面倒くさそうに短く切って捨てた。
「そこをなんとか……!」
「まともな勝負になるとは思えん」
うーん、取り付く島もない感じ。
こりゃ正攻法に頼んでも絶対にルカーナさんが首を縦に振ることはないだろなぁ……。
レリスだってわざわざルカーナさんに会うためにアーデンハイツから来たみたいだし……仕方ない、少し後押ししてあげるか。
「そんなこと言わずに受けてあげればいいじゃないですか?」
「意味のない勝負はしない主義だ」
「どうして意味がないなんて決めつけるんですか?」
「さっきも言ったがまともな勝負になるとは思えないからだ」
「……怖いんですか?負けるのが?」
俺の言葉にルカーナさんがピクリと反応する。
「なんだと?」
「彼女のことはそれなりに知ってますけど、中々の剣の腕ですよ?もしかしたらルカーナさんよりも上かもしれませんね」
「俺の剣を見たこともないのに、なぜそんなことが言える?」
「なら見せてくださいよ、ルカーナさんの剣を」
俺が挑発めいた言い方をすると、ルカーナさんがソファから立ち上がった。
「いいだろう、レリスと言ったな?少し手合わせしてやるから庭まで来い」
「はっはい!!」
「シューイチ、貴様も来い!俺の剣をお前にも見せてやる!」
「ええ、ぜひにとも!」
ルカーナさんが庭に向かって歩いて行くのをレリスが慌ててついていく。
俺も着いて行こうと思ったところでテレアが服のすそを引っ張るので足を止める。
「お兄ちゃんすごいね……ルカーナおじさんをあんなに簡単に動かすなんて」
「あの手のタイプは自分の得意分野にプライド持ってるからな?そこをちょっと刺激すると意外とあっさり動かせるもんなんだよ。テレアも覚えておくといいぞ?」
「うっうん……」
「……シューイチ、テレアにあくどい手口を教えないで」
あくどいとか失礼な!策略と言ってくれ策略と!
「それにしても、レリスさんが会いたがってた凄腕の剣士てやっぱりルカーナさんだったんですね」
「エナも気が付いてたんだ?」
「そりゃあ気が付かないほうがおかしいですよ」
「……うい」
「え?テレアは全然気が付かなかったよ!?」
やっぱりテレアはテレアだった。
拠点の庭に行くと、レリスとルカーナさんが距離を取った状態で向かい合っていた。
どうやら俺たちが来るのを待っていてくれたようだ。
「やっと来たか……それじゃあルールは今から10分間、お前が俺に一撃でも当てられたらお前の勝ちにしてやる。ただし10分間の間に俺に一撃でも当てられなければお前の負けだ。その時は諦めて帰れ」
「……魔法の使用は?」
「構わん、好きなだけ使え。それとハンデをやる。俺は5分経つまでは剣を使わん」
「そっそれはあまりにも!」
「そういうセリフは俺に一撃でも当てられた言え。それじゃあ始めるぞ」
レリスが納得いかないという表情をする。
たしかに5分経つまで剣を使わないなんてさすがにレリスを甘く見すぎだと思うが……。
「なあテレア?ルカーナさんってどのくらい強いか知ってる?」
「えっと……剣の腕だけならお父さんよりもずっと強いって、お父さん本人が言ってたよ?」
それってかなり強いってことじゃ……?
「シューイチ、お前が立ち会い人になれ」
「あっはい!」
ルカーナさんに呼ばれたので、急いで駆け寄り二人の間に立った。
「それじゃあ勝負……はじめ!!」
俺がそう宣言すると、レリスが腰の剣を引き抜いた。
なんだろう?随分と変わった剣だな。
俺の使ってる剣に比べて随分と薄いし、刃の付け根と切っ先にそれぞれなにやら宝石のようなものがはめ込まれている。
そんなことを思っていると、レリスが体内の魔力を活性化せて剣を持っていない左手の人差し指と中指に魔力を集中させていく。
やがて指の先に魔力出てきた光が灯り、その状態の指を刃の付け根に触れて、そのまま切っ先まで指をスライドさせていくと、刀身に魔力が灯り輝き始めた。
それは俺が遺跡での戦いの時に結局お目にかかることが出来なかった、魔法剣そのものだった。
俺の割り当てとなった部屋を見渡しながら、感激しながら呟いた。
俺の部屋自体は日本にいた頃あったけど、こんな広い部屋ではなかったからな。
しかし掃除こそされているものの、家具がなにもないので買ってこないといけないな。
幸いお金ならリンデフランデで神獣事件を解決した時にギルドからもらった報酬があるから、それを家具の購入費に充てれば一通りの物がそろうはずだ。
ぶっちゃけると俺たち全員がそれなりの家具をそれぞれ買ったとしてもまだ余裕で残るくらいはお金があるんだよね。
しばらくは拠点を自分たちが過ごしやすくするために改造していく日が続くだろうな。
「さて……ルカーナさんにご指名されてるから行かないとな」
とりあえず部屋の隅に荷物を置いて、俺はルカーナさんがいるであろう応接間へと足を運ぶ。
応接間に入ると、ルカーナさんがソファに座って本を読んでいた。
ちなみに応接間には一通り家具が置かれているのだが、これはルカーナさんが俺たちがいつ来てもいいように、話をできる環境をとりあえずこの応接間にだけ整えておいたかららしい。
意外とマメな人だよな。
「お待たせしました」
「……来たか」
呼んでいた本を畳み脇に置いて、ルカーナさんが俺に反対側のソファに座るように促したので、俺もソファに座る。
「えっと……ヤクトさんからはどの程度聞いてるんですか?」
「何も聞いていない」
「……はっ!?」
「ただ「ハヤマ=シューイチという男がテレアを連れてこの拠点に来るから出迎えて色々と世話を焼いてやってくれ」とヤクトに言われただけだ」
「ヤクトさん……」
思わずうなだれる。
なんでちゃんと説明しておいてくれないんだよ……てっきり詳しい話を全部ルカーナさんにしているとばかり思ってたのに!
「あいつはああいう男だ、昔からな。……ただあのヤクトがテレアをお前に預けなければならないほどのことがあったんだろう?その辺と、お前やお前の仲間たちの素性、そしてここに来るまでの経緯を全部説明しろ」
「長くなりますけど……?」
「構わん、全て話せ」
「わかりました……じゃあ……」
とは言ったものの、俺が異世界から来たとことや、全裸になったら無敵になる能力などを話しても信じてもらえないと思うので、そこは適当にはぐらかしつつ、この拠点に来るまでの出来事を事細かにルカーナさんに説明していく。
しかしこうして事の経緯を話してて思うんだけど、とてもじゃないけど信じられないような出来事満載だな……話してる俺ですらこんな荒唐無稽な話信じてもらえないだろうと思ってしまう。
そんな感じでリドアードの引き起こしたテレア誘拐事件や、リンデフランデで起きた神獣事件の詳細を時間をかけてルカーナさんに説明したのだった。
「にわかには信じられんな」
ですよねー。
物的証拠もあった方がいいと思ってマグリドとリンデフランデの推薦状と通信機持ってきてそれらを交えて説明したのだが、全ての経緯を聞いたルカーナさんの第一声がそれだった。
「とはいえ、ちゃんと二つの国からの推薦状もあるし通信機もある……嘘ではないんだろうな」
「今までの説明が嘘だったら俺はとんだ大ほら吹きになっちゃいますよ」
「まあお前たちがここまでに来るまでの経緯がどうであろう正直どうでもいい。そもそも俺はこの世界の事情にそこまで興味がないからな」
じゃあなんで今までの経緯を俺に話させたのこの人……?
「なにか勘違いしてるだろうが、興味がないからと言って知らなくていいという理由にはならん。この国で生きていくためには外の国の情報もある程度は押さえておかないといけないんでな……それと」
「それと?」
「テレアを助けてくれてありがとう」
突然お礼を言われたので、思わず思考停止してしまった。
えっと……なんでいきなりお礼を言い出したのこの人?
「俺とヤクトは同じ村で生まれ共に育った親友だ……その親友の娘とあらば俺にとっても娘のようなものだ……極論だがな」
「まあ、気持ちはわかりますよ」
「だからこそ、テレアを助けてくれたことは俺も感謝している……ありがとう」
もしかして俺だけを指名し呼んだのは、これを俺に言うためだったのかもしれないな……。
なんともはや、不器用な人だ。
「いえ、俺なんてそれ以上にテレアやヤクトさんのお世話になってますから」
「……そうか」
そう言ってルカーナさんが薄く笑った。
「俺からお前に聞きたかったことは以上だ。何か質問があれば答えられる範囲であれば答えるぞ?」
「えっと……俺たちが今日からこの拠点を使うってことは、ルカーナさんはどうするんですか?」
「俺は別にここに住んでいたわけではない。お前たちが来るというから急遽体裁を保てるくらいに中の掃除をしたり応接間の家具を一通り揃えただけだ。俺の住むところはほかにちゃんとある」
よかった、俺たちが来たせいで追い出す形になるんじゃないかと心配してたが、それなら安心だ。
しかしこの人が、この拠点を掃除したり、応接間に家具を買って設置してる姿が全然想像できない。
「あと、このエルサイムに凄腕の剣士がいるって話を聞いたんですけど、知ってますか?」
「……まだそんな噂が出回っているのか」
ルカーナさんが心底鬱陶しそうにため息を吐いた。
もうそのリアクションだけで察してしまった。
「やっぱりその剣士ってルカーナさんのことだったんですね」
「エルサイムに来てからはなるべく目立たないようようにしていたが、一度ギルドにどうしても言われて面倒な依頼を引き受け解決したんだが……その時にうっかり周囲にバレてしまってな」
「そういえばルカーナさんって、昔はヤクトさんと一緒に冒険者をしてたんですか?」
「まあな、最初は俺とヤクトだけだったが、あとでリリアやヤクトの姉とその恋人の男が加わったりもしたが、最終的に俺以外の面子は全員冒険者を引退している」
それなりの人数のパーティーだったのか。
ということは、この拠点はその時に使っていた物なんだろうな。
「なぜそんなことを聞く?」
「いえ、俺の予想だとそろそろ来ると思うんですよね……」
「誰がだ?」
「そりゃあ……」
俺がそこまで言いかけた直後―――
「ごめんくださーい!」
割と聞きなれた声が拠点内に響き渡った。
「タイミングドンピシャだな……」
「なんだ?誰が来たんだ?」
ルカーナさんが心当たりのない来客に首を傾げていると、応接間にエナとテレアが駆け込んできた。
「シューイチさん!レリスさんです!!」
「レリスお姉ちゃんが来たよ!」
「あーうん……そろそろ来るだろうなって話を今してたところ」
「もしかしてお前たちの知り合いか?」
「まあそんなところですよ」
そんなことを言っていると、今度は二時間ほど前に別れたばかりのレリスを連れたフリルが応接間に入って来た。
「シューイチ様!」
「よおレリス!二時間ぶり!」
俺はレリスに手を上げて軽い挨拶をする。
そう遠くない日にまた会うだろうとは思ってたけど、まさかここまで早く再会するとは思わなんだ。
「何しに来たの……ってのは野暮だよなぁ……ルカーナさんに会いに来たんだろ?」
「え?はっはい!その通りですわ!」
俺の言葉に、レリスが佇まいを正す。
「おいシューイチ、これはどういうことだ?」
「それはこの子から聞いた方がいいかと……」
「ルカーナ=スタンテッド様とお見受けします……どうかわたくしと剣でお手合わせお願いできませんでしょうか?」
レリスがいつもの上品なお辞儀をしながら、ルカーナさんに向けてそう言った。
やっぱりレリスが戦いたがってた凄腕の剣士ってルカーナさんのことだったんだな……最初にその話を聞いた時から多分そうじゃないかとは思ってたよ……。
「断る、帰れ」
レリスの願いをルカーナさんは心底面倒くさそうに短く切って捨てた。
「そこをなんとか……!」
「まともな勝負になるとは思えん」
うーん、取り付く島もない感じ。
こりゃ正攻法に頼んでも絶対にルカーナさんが首を縦に振ることはないだろなぁ……。
レリスだってわざわざルカーナさんに会うためにアーデンハイツから来たみたいだし……仕方ない、少し後押ししてあげるか。
「そんなこと言わずに受けてあげればいいじゃないですか?」
「意味のない勝負はしない主義だ」
「どうして意味がないなんて決めつけるんですか?」
「さっきも言ったがまともな勝負になるとは思えないからだ」
「……怖いんですか?負けるのが?」
俺の言葉にルカーナさんがピクリと反応する。
「なんだと?」
「彼女のことはそれなりに知ってますけど、中々の剣の腕ですよ?もしかしたらルカーナさんよりも上かもしれませんね」
「俺の剣を見たこともないのに、なぜそんなことが言える?」
「なら見せてくださいよ、ルカーナさんの剣を」
俺が挑発めいた言い方をすると、ルカーナさんがソファから立ち上がった。
「いいだろう、レリスと言ったな?少し手合わせしてやるから庭まで来い」
「はっはい!!」
「シューイチ、貴様も来い!俺の剣をお前にも見せてやる!」
「ええ、ぜひにとも!」
ルカーナさんが庭に向かって歩いて行くのをレリスが慌ててついていく。
俺も着いて行こうと思ったところでテレアが服のすそを引っ張るので足を止める。
「お兄ちゃんすごいね……ルカーナおじさんをあんなに簡単に動かすなんて」
「あの手のタイプは自分の得意分野にプライド持ってるからな?そこをちょっと刺激すると意外とあっさり動かせるもんなんだよ。テレアも覚えておくといいぞ?」
「うっうん……」
「……シューイチ、テレアにあくどい手口を教えないで」
あくどいとか失礼な!策略と言ってくれ策略と!
「それにしても、レリスさんが会いたがってた凄腕の剣士てやっぱりルカーナさんだったんですね」
「エナも気が付いてたんだ?」
「そりゃあ気が付かないほうがおかしいですよ」
「……うい」
「え?テレアは全然気が付かなかったよ!?」
やっぱりテレアはテレアだった。
拠点の庭に行くと、レリスとルカーナさんが距離を取った状態で向かい合っていた。
どうやら俺たちが来るのを待っていてくれたようだ。
「やっと来たか……それじゃあルールは今から10分間、お前が俺に一撃でも当てられたらお前の勝ちにしてやる。ただし10分間の間に俺に一撃でも当てられなければお前の負けだ。その時は諦めて帰れ」
「……魔法の使用は?」
「構わん、好きなだけ使え。それとハンデをやる。俺は5分経つまでは剣を使わん」
「そっそれはあまりにも!」
「そういうセリフは俺に一撃でも当てられた言え。それじゃあ始めるぞ」
レリスが納得いかないという表情をする。
たしかに5分経つまで剣を使わないなんてさすがにレリスを甘く見すぎだと思うが……。
「なあテレア?ルカーナさんってどのくらい強いか知ってる?」
「えっと……剣の腕だけならお父さんよりもずっと強いって、お父さん本人が言ってたよ?」
それってかなり強いってことじゃ……?
「シューイチ、お前が立ち会い人になれ」
「あっはい!」
ルカーナさんに呼ばれたので、急いで駆け寄り二人の間に立った。
「それじゃあ勝負……はじめ!!」
俺がそう宣言すると、レリスが腰の剣を引き抜いた。
なんだろう?随分と変わった剣だな。
俺の使ってる剣に比べて随分と薄いし、刃の付け根と切っ先にそれぞれなにやら宝石のようなものがはめ込まれている。
そんなことを思っていると、レリスが体内の魔力を活性化せて剣を持っていない左手の人差し指と中指に魔力を集中させていく。
やがて指の先に魔力出てきた光が灯り、その状態の指を刃の付け根に触れて、そのまま切っ先まで指をスライドさせていくと、刀身に魔力が灯り輝き始めた。
それは俺が遺跡での戦いの時に結局お目にかかることが出来なかった、魔法剣そのものだった。
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