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試合~高次元のやりとり~
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試合開始の合図と共に飛び出したのはテレアだった。
テレアはその低い身長を生かした、地面すれすれの低姿勢のダッシュで一気にレリスとの距離を詰める。
対するレリスは、テレアのいきなりの接近に驚いた様子もなく、接近してくるテレアを冷静に迎え撃つべく視線を常にテレアから外さない。
テレアは何分身長のせいでリーチが短いのでかなり接近しないといけないが、レリスに至ってはその限りではない。
早速射程距離に入って来たテレアに向けて、レリスが挨拶代わりと言わんばかりの正拳突きを繰り出す。
それを右手で受け流しつつ、空いた左手を打ち込むテレアだったが、距離が十分ではなかったためレリスにスウェーバックでかわされるものの、そのまま一気に自分のレンジに持ち込んだ。
こうなるとテレアの攻撃は止まらない。
まるで火が付いたような勢いで連撃を繰り出すテレアの猛攻に、レリスが防戦一方になっていく。
テレアと何度も組み手をしているからわかるんだけど、テレアは動きが素早い上に自分の身長の低さを生かして瞬時に視界から消え、そのまま死角に潜り込まれてそこから容赦なく鋭い攻撃が幾度となく飛んでくる。
対峙してる相手からすると突然テレアが目の前から消えたかと思えば、いきなり横に現れて攻撃を繰り出してくるのだからたまったものではない。
最近は大分その動きにも慣れてきたけど、慣れたら慣れたで今度はまた別の動きでこちらを翻弄してくるものだから本当に質が悪い。
だが今回の相手は俺ではなくレリスだ。
さすがにテレアに勝負を挑んでくるだけあって、レリスはテレアの猛攻を冷静にさばいている。
最初こそテレアの素早い動きに翻弄されて防戦一方だったものの、今は段々その動きに慣れてきており、所々でしっかり対処している。
俺からすれば突然消えたかのように見えるテレアのあの動きにもしっかり反応していて、チャンスがあれば攻撃に転じる余裕も出てきたようだ。
「段々レリスさんの攻撃の頻度も上がってきましたね……!」
「……どっちも凄い」
観戦しているエナとフリルも、二人のその攻防に息をのむのも忘れて見入っている。
気が付いたら同じ休憩スペースで休んでいた他の冒険者までもが観客として見物していた。
なんだよお前ら見世物じゃないぞ?観戦料取るぞこの野郎。
……と審判である俺が試合から目を離すわけにはいかないな。
いくらテレアと言えど動き続けていれば必ずそこに隙が生じる。
ほんの一瞬、呼吸を整えるべくテレアが足を止めた。
対するレリスはその隙を逃さず、テレアに目掛けて鋭いローキックを放つ。
その攻撃は見事テレアに左足にヒットした。
「レリス、一ポイント!」
俺のその声と共に、ローキックでバランスを崩したテレアに向けて、レリスが前蹴りを繰り出した。
なんとか身体を逸らすことでかわそうとしたテレアだったが、かわしきることができず左肩にその前蹴りをもらってしまった。
「レリス、二ポイント!」
あっという間にレリスに王手が掛かってしまった。あと一回レリスが攻撃を当てればテレアは負けになる。
だが俺は攻撃をヒットさせたレリスの表情が、なんだか釈然としていないのを見逃さなかった。
テレアは蹴りを食らった左肩を抑えながら、大きくバックステップで後退して距離を取った。
レリスは距離を取ったテレアを無理に追撃しようとはせず、その場に留まり呼吸を整える。
これが俺だったらあと一ポイント取れば勝てる!と勝負を急いでしまい、そこをテレアに一気に突かれて逆転される流れになるだろうが……さすがにレリスは冷静だな。
「……レリっち冷静」
「これがシューイチさんなら、深追いしてきたところを待ってましたとばかりと言わんばかりのテレアちゃんに一気に逆転される流れですね」
ほらな?
ていうかまたフリルが変なあだ名をレリスに着けてるし……ってそれはともかくだ!
フリルにツッコミたい衝動を抑えつつテレアとレリスに目を向けると、二人は距離を保ったまま膠着状態に陥っていた。
一見ただ睨み合ってるだけに見えるけど、二人の脳内では凄まじい心理戦が繰り広げられてるはずだ。
状況的には有利なはずのレリスの表情に、なぜか焦りの色が見える。
対するテレアは、まったく焦ってはおらず、そればかりか構えていた両手を少しずつ下げていく。
これはあれだな……テレアがレリスを誘ってるんだけど、肝心のレリスが警戒して攻めあぐねてるんだな。
あと一ポイント取れば勝てる勝負ではあるものの、その一ポイントをやすやすと取らせてくれる相手ではないことは、レリスも重々承知しているということか。
だがこのまま睨みあっていたのでは勝負はつかない。
延々と続くかと思われた膠着状態を破ったのは、しびれを切らし飛び出したレリスだった。
……結果だけ言えばその時点ですでに勝敗は決していたと言ってもいい。
待ってましたと言わんばかりに、テレアが全く同じタイミングで……いやテレアのほうがほんの一瞬早くレリスへと飛び出していた。
だがそのほんの一瞬が、レリスの動揺を誘ったのだ。
まるで自分の動きを先読みされたかのようなテレアの動きに、一瞬とは言え動揺してしまったレリスは隙を見せてしまった。
そこからはもう本当に一瞬だった。
テレアの突進の勢いを生かした、お得意の低姿勢のスライディングがレリスの右足を捕らえた。
「なっ!?」
「テレア、一ポ―――」
俺が宣言するよりも早く、急停止したテレアが立ち上がりながらも、その反動を利用した背中から当たる体当たり―――鉄山靠をバランスを崩したレリスにお見舞いした。
「ああっ!!」
バランスを崩していたところに体当たりをされたレリスが横ばいに倒れた。
「てっテレア、二ポ―――」
俺の宣言など知ったことかと倒れているレリスに追撃を食らわせるべく、テレアがダッシュで詰め寄っていく。
そして―――
「はい……テレアの勝ち」
そう言ってテレアがレリスのおでこにコツンと小突いた。
その光景に周りが呆気に取られて、静まり返る。
「えっと……合計三ポイント!勝者テレア!!」
俺が高らかに宣言すると、周りから歓声と拍手が沸いた。
「やるなぁ!あのお嬢ちゃん!!」
「どっちも凄かったぞ!!」
「いいもの見せてもらったわー!!」
別に君たちに見せるためではないのよ?
まあ他の冒険者もいる街道の休憩スペースでこんな派手な模擬戦してれば、いやでも見物客が集まるのもしかたないか。
やがて見物客たちは口々に今の模擬戦の感想を言いながら自分のキャンプへと戻っていった。
「……最後あっという間でしたね」
「……テレア凄かった」
もうちょっと長引くのかな?と思ったら本当にあっという間に終わってしまって拍子抜けしたくらいだ。
「えっと……大丈夫レリスお姉ちゃん?」
「ええ、大丈夫ですわ」
差し出されたテレアの手を取り、レリスが立ち上がる。
「二人ともいい勝負だったな」
「いえ……はっきり言って勝負にすらなってませんでしたわ。終始テレアちゃんの思い通りに事を運ばれてましたので……」
「え?そうなんですか?最初はレリスさんが押していたように見えたんですけど?」
俺にもそう見えたんだけど、戦っていた本人からすればどうやら違うらしい。
「何と言いますか……序盤はテレアちゃんの素早い動きに慣れるために回避中心で動いて隙あらば攻撃をしていましたが、あれはわたくしがテレアちゃんの動きに慣れたのではなく、慣れたと思い込まされていたのですわ」
つまり、レリスの油断を誘うためにわざと少しづつ動きを遅くして、動きに慣れたと思い込まされたわけか。
「最初の攻撃が当たった時は上手く隙を付けたと思いましたが、その次の攻撃が当たった時に「あれ?」と思いまして……いくらバランスを崩したと言えどあの攻撃がテレアちゃんに当たるとは思っていなかったので……」
「もしかしてテレア……あの攻撃わざと食らったのか?」
「ええっと……うん」
まあ恐ろしい!
わざと攻撃を食らうことで不利になる代わりに、レリスにあと一ポイントで勝てるという慢心と、もしや誘い込まれているのでは?という不安感を同時に与えたのか!?
あの時レリスがなんだか釈然としない表情をした意味がわかった。
「その後はもう完全にテレアちゃんのペースでしたわね……脳内でどうシミュレーションしても、わたくしが負ける未来しか想像できませんでしたもの」
「……と対戦相手が仰っておりますが、いかがでしょうかテレア選手?」
「選手?えっと……レリスお姉ちゃんの動きって、習った動きを丁寧に正確に再現しようとする動きだったから、結構わかりやすかったよ?」
いや全然わかんなかったから!
そんな「このステージの敵の玉は全部自機狙いだから、よく見れば簡単に対処できます」みたいに言われてもわかんないから!!
「たったしかに……」
「多分頭の中でその動きを再現しないといけないって無意識に思っちゃってるんじゃないかな?そのせいで動きが単調になってるところがあるから……」
「ようするに意識して違う動きを取り入れていけと?」
「うん……あとやっぱり武器を使ってた時の方が動きが良かったから、素手で戦う時もそれを意識したらいいんじゃないかな?」
「なるほど……!目からうろこの気分ですわね!」
なんかすごい高次元の会話してるな。
しかしやはり凄いのはテレアだよなぁ……。
レリスも結構な強さだと思うんだけど、それでもテレアには届かないわけだし。
ちなみに後からテレアから聞いた話だけど、今回危なげなく勝てたのはお互いにお互いの手の内をよく知らなかったから、一段スピードを遅くした動きを試合の最中に相手に覚えこませて、そこをうまく突いたから勝てたとのことだが、はっきり言って何言ってるのかわかんなかった。
このテレアを防御に回っていたにも関わらず追い詰めたあの槍の男は凄かったんだなぁ……。
「いやはや……凄い物を見ましたね」
「……どっちも凄かった」
「テレアちゃんの最後のあの背中から体当たりする奴かっこよかったです!えっと……こんな感じの……!」
言いながらエナが立ち上がり、テレアの繰り出した鉄山靠の動きを真似するが、どう見てもよくわからない不気味な踊りにしか見えなかった。
「……エナっち……生命力を吸い取られそうな踊りしないで」
「してませんよそんな踊り!?」
この二人随分仲良くなったなぁ。
「テレアちゃん!またそのうちお手合わせ願えませんでしょうか?」
「うん!テレアで良ければ」
こっちはこっちで武闘派の二人が親睦を深めていた。
俺は誰と親睦を深めればいいんだろうな?
脳内で一瞬だけシエルの顔が浮かんだが、あのボンクラ見習い神さまと一緒くたにされるのはちょっと嫌だな……。
脳内シエルが「なんでですかー!?」と怒ってきたが勿論そんな抗議はスルーだ。
その後はテレアとレリスの二人に戦闘訓練を受けながら、就寝時間を迎えることとなった。
テレアはその低い身長を生かした、地面すれすれの低姿勢のダッシュで一気にレリスとの距離を詰める。
対するレリスは、テレアのいきなりの接近に驚いた様子もなく、接近してくるテレアを冷静に迎え撃つべく視線を常にテレアから外さない。
テレアは何分身長のせいでリーチが短いのでかなり接近しないといけないが、レリスに至ってはその限りではない。
早速射程距離に入って来たテレアに向けて、レリスが挨拶代わりと言わんばかりの正拳突きを繰り出す。
それを右手で受け流しつつ、空いた左手を打ち込むテレアだったが、距離が十分ではなかったためレリスにスウェーバックでかわされるものの、そのまま一気に自分のレンジに持ち込んだ。
こうなるとテレアの攻撃は止まらない。
まるで火が付いたような勢いで連撃を繰り出すテレアの猛攻に、レリスが防戦一方になっていく。
テレアと何度も組み手をしているからわかるんだけど、テレアは動きが素早い上に自分の身長の低さを生かして瞬時に視界から消え、そのまま死角に潜り込まれてそこから容赦なく鋭い攻撃が幾度となく飛んでくる。
対峙してる相手からすると突然テレアが目の前から消えたかと思えば、いきなり横に現れて攻撃を繰り出してくるのだからたまったものではない。
最近は大分その動きにも慣れてきたけど、慣れたら慣れたで今度はまた別の動きでこちらを翻弄してくるものだから本当に質が悪い。
だが今回の相手は俺ではなくレリスだ。
さすがにテレアに勝負を挑んでくるだけあって、レリスはテレアの猛攻を冷静にさばいている。
最初こそテレアの素早い動きに翻弄されて防戦一方だったものの、今は段々その動きに慣れてきており、所々でしっかり対処している。
俺からすれば突然消えたかのように見えるテレアのあの動きにもしっかり反応していて、チャンスがあれば攻撃に転じる余裕も出てきたようだ。
「段々レリスさんの攻撃の頻度も上がってきましたね……!」
「……どっちも凄い」
観戦しているエナとフリルも、二人のその攻防に息をのむのも忘れて見入っている。
気が付いたら同じ休憩スペースで休んでいた他の冒険者までもが観客として見物していた。
なんだよお前ら見世物じゃないぞ?観戦料取るぞこの野郎。
……と審判である俺が試合から目を離すわけにはいかないな。
いくらテレアと言えど動き続けていれば必ずそこに隙が生じる。
ほんの一瞬、呼吸を整えるべくテレアが足を止めた。
対するレリスはその隙を逃さず、テレアに目掛けて鋭いローキックを放つ。
その攻撃は見事テレアに左足にヒットした。
「レリス、一ポイント!」
俺のその声と共に、ローキックでバランスを崩したテレアに向けて、レリスが前蹴りを繰り出した。
なんとか身体を逸らすことでかわそうとしたテレアだったが、かわしきることができず左肩にその前蹴りをもらってしまった。
「レリス、二ポイント!」
あっという間にレリスに王手が掛かってしまった。あと一回レリスが攻撃を当てればテレアは負けになる。
だが俺は攻撃をヒットさせたレリスの表情が、なんだか釈然としていないのを見逃さなかった。
テレアは蹴りを食らった左肩を抑えながら、大きくバックステップで後退して距離を取った。
レリスは距離を取ったテレアを無理に追撃しようとはせず、その場に留まり呼吸を整える。
これが俺だったらあと一ポイント取れば勝てる!と勝負を急いでしまい、そこをテレアに一気に突かれて逆転される流れになるだろうが……さすがにレリスは冷静だな。
「……レリっち冷静」
「これがシューイチさんなら、深追いしてきたところを待ってましたとばかりと言わんばかりのテレアちゃんに一気に逆転される流れですね」
ほらな?
ていうかまたフリルが変なあだ名をレリスに着けてるし……ってそれはともかくだ!
フリルにツッコミたい衝動を抑えつつテレアとレリスに目を向けると、二人は距離を保ったまま膠着状態に陥っていた。
一見ただ睨み合ってるだけに見えるけど、二人の脳内では凄まじい心理戦が繰り広げられてるはずだ。
状況的には有利なはずのレリスの表情に、なぜか焦りの色が見える。
対するテレアは、まったく焦ってはおらず、そればかりか構えていた両手を少しずつ下げていく。
これはあれだな……テレアがレリスを誘ってるんだけど、肝心のレリスが警戒して攻めあぐねてるんだな。
あと一ポイント取れば勝てる勝負ではあるものの、その一ポイントをやすやすと取らせてくれる相手ではないことは、レリスも重々承知しているということか。
だがこのまま睨みあっていたのでは勝負はつかない。
延々と続くかと思われた膠着状態を破ったのは、しびれを切らし飛び出したレリスだった。
……結果だけ言えばその時点ですでに勝敗は決していたと言ってもいい。
待ってましたと言わんばかりに、テレアが全く同じタイミングで……いやテレアのほうがほんの一瞬早くレリスへと飛び出していた。
だがそのほんの一瞬が、レリスの動揺を誘ったのだ。
まるで自分の動きを先読みされたかのようなテレアの動きに、一瞬とは言え動揺してしまったレリスは隙を見せてしまった。
そこからはもう本当に一瞬だった。
テレアの突進の勢いを生かした、お得意の低姿勢のスライディングがレリスの右足を捕らえた。
「なっ!?」
「テレア、一ポ―――」
俺が宣言するよりも早く、急停止したテレアが立ち上がりながらも、その反動を利用した背中から当たる体当たり―――鉄山靠をバランスを崩したレリスにお見舞いした。
「ああっ!!」
バランスを崩していたところに体当たりをされたレリスが横ばいに倒れた。
「てっテレア、二ポ―――」
俺の宣言など知ったことかと倒れているレリスに追撃を食らわせるべく、テレアがダッシュで詰め寄っていく。
そして―――
「はい……テレアの勝ち」
そう言ってテレアがレリスのおでこにコツンと小突いた。
その光景に周りが呆気に取られて、静まり返る。
「えっと……合計三ポイント!勝者テレア!!」
俺が高らかに宣言すると、周りから歓声と拍手が沸いた。
「やるなぁ!あのお嬢ちゃん!!」
「どっちも凄かったぞ!!」
「いいもの見せてもらったわー!!」
別に君たちに見せるためではないのよ?
まあ他の冒険者もいる街道の休憩スペースでこんな派手な模擬戦してれば、いやでも見物客が集まるのもしかたないか。
やがて見物客たちは口々に今の模擬戦の感想を言いながら自分のキャンプへと戻っていった。
「……最後あっという間でしたね」
「……テレア凄かった」
もうちょっと長引くのかな?と思ったら本当にあっという間に終わってしまって拍子抜けしたくらいだ。
「えっと……大丈夫レリスお姉ちゃん?」
「ええ、大丈夫ですわ」
差し出されたテレアの手を取り、レリスが立ち上がる。
「二人ともいい勝負だったな」
「いえ……はっきり言って勝負にすらなってませんでしたわ。終始テレアちゃんの思い通りに事を運ばれてましたので……」
「え?そうなんですか?最初はレリスさんが押していたように見えたんですけど?」
俺にもそう見えたんだけど、戦っていた本人からすればどうやら違うらしい。
「何と言いますか……序盤はテレアちゃんの素早い動きに慣れるために回避中心で動いて隙あらば攻撃をしていましたが、あれはわたくしがテレアちゃんの動きに慣れたのではなく、慣れたと思い込まされていたのですわ」
つまり、レリスの油断を誘うためにわざと少しづつ動きを遅くして、動きに慣れたと思い込まされたわけか。
「最初の攻撃が当たった時は上手く隙を付けたと思いましたが、その次の攻撃が当たった時に「あれ?」と思いまして……いくらバランスを崩したと言えどあの攻撃がテレアちゃんに当たるとは思っていなかったので……」
「もしかしてテレア……あの攻撃わざと食らったのか?」
「ええっと……うん」
まあ恐ろしい!
わざと攻撃を食らうことで不利になる代わりに、レリスにあと一ポイントで勝てるという慢心と、もしや誘い込まれているのでは?という不安感を同時に与えたのか!?
あの時レリスがなんだか釈然としない表情をした意味がわかった。
「その後はもう完全にテレアちゃんのペースでしたわね……脳内でどうシミュレーションしても、わたくしが負ける未来しか想像できませんでしたもの」
「……と対戦相手が仰っておりますが、いかがでしょうかテレア選手?」
「選手?えっと……レリスお姉ちゃんの動きって、習った動きを丁寧に正確に再現しようとする動きだったから、結構わかりやすかったよ?」
いや全然わかんなかったから!
そんな「このステージの敵の玉は全部自機狙いだから、よく見れば簡単に対処できます」みたいに言われてもわかんないから!!
「たったしかに……」
「多分頭の中でその動きを再現しないといけないって無意識に思っちゃってるんじゃないかな?そのせいで動きが単調になってるところがあるから……」
「ようするに意識して違う動きを取り入れていけと?」
「うん……あとやっぱり武器を使ってた時の方が動きが良かったから、素手で戦う時もそれを意識したらいいんじゃないかな?」
「なるほど……!目からうろこの気分ですわね!」
なんかすごい高次元の会話してるな。
しかしやはり凄いのはテレアだよなぁ……。
レリスも結構な強さだと思うんだけど、それでもテレアには届かないわけだし。
ちなみに後からテレアから聞いた話だけど、今回危なげなく勝てたのはお互いにお互いの手の内をよく知らなかったから、一段スピードを遅くした動きを試合の最中に相手に覚えこませて、そこをうまく突いたから勝てたとのことだが、はっきり言って何言ってるのかわかんなかった。
このテレアを防御に回っていたにも関わらず追い詰めたあの槍の男は凄かったんだなぁ……。
「いやはや……凄い物を見ましたね」
「……どっちも凄かった」
「テレアちゃんの最後のあの背中から体当たりする奴かっこよかったです!えっと……こんな感じの……!」
言いながらエナが立ち上がり、テレアの繰り出した鉄山靠の動きを真似するが、どう見てもよくわからない不気味な踊りにしか見えなかった。
「……エナっち……生命力を吸い取られそうな踊りしないで」
「してませんよそんな踊り!?」
この二人随分仲良くなったなぁ。
「テレアちゃん!またそのうちお手合わせ願えませんでしょうか?」
「うん!テレアで良ければ」
こっちはこっちで武闘派の二人が親睦を深めていた。
俺は誰と親睦を深めればいいんだろうな?
脳内で一瞬だけシエルの顔が浮かんだが、あのボンクラ見習い神さまと一緒くたにされるのはちょっと嫌だな……。
脳内シエルが「なんでですかー!?」と怒ってきたが勿論そんな抗議はスルーだ。
その後はテレアとレリスの二人に戦闘訓練を受けながら、就寝時間を迎えることとなった。
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