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勝負~ハイスペックな彼女~
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「まあ、なんとなくこういう展開になるだろうとは思ってました」
あれぇ?なんかエナさんの反応が思ってたのと違いますわ?
レリスを伴って馬車に戻って来た俺たちを出迎えたエナの一言がそれだった。
「シューイチさんだけでもアレなのに、さらにテレアちゃんまで着いて行ってましたからね……大方テレアちゃんにでも頼まれたんじゃないんですか?」
大方その通りなのでぐぅの音も出ない。
なんというか、完全に見抜かれてるなぁ……悔しいようなそれでいて嬉しいような複雑な感情だ。
「わたしく、レリス=エレニカと申します。シューイチ様のご厚意にあずかりエルサイムに着くまでの間、こちらの馬車に同伴させていただくことになりました……ご迷惑をおかけすると思いますが、どうかよろしくお願いいたしますわ」
「あっこれはどうもご丁寧に!私はエナ=アーディスです!」
「……フリル=フルリル」
お互いに自己紹介を済まし、レリスが馬車に乗り込むのを確認して、俺もテレアも馬車に乗り込んだ。
「それでなにがあったんですか?」
「大方の予想通り、この子が盗賊に襲われてたよ」
「でもね!レリスお姉ちゃん凄いんだよ!剣で盗賊たちをどんどん倒して行っちゃうの!」
なにやら興奮した様子でテレアがエナに語っている。
たしかに油断した個所はあったとはいえ、鮮やかな戦いぶりだったもんな。
「わたくしなんてまだまだですわ!テレアちゃんとシューイチ様のアシストがなければ恐らく負けておりましたから!特にシューイチ様の防御魔法のタイミングはお見事でしたわ!」
「シューイチさんって素の状態でもプロテクション使えるようになったんですか?やめてくださいよ、私のアイデンティティを奪うのは!」
「……シューイチ反省して」
え?なんで俺怒られてるの?
人助けして怒られるとはこれ如何に……。
「ごほん!……えっと、それでレリスさんはどうしてエルサイムに?」
「第一の目的は冒険者ギルドに加入することですが、もう一つ目的がありまして……」
「えっとね……エルサイムにいる有名な剣士の人と戦ってみたいんだって」
レリスの言葉をテレアが補足した。
「……腕試し?」
「エルサイムにいる有名な剣士……?」
言いながら首を傾げるエナを見て、心当たりがないのだと判断した。
エナが知らないとなると俺たちではもうお手上げだ。
「そんな人がいるんですか?」
「あまり表に出てこない人らしくて……名前は何と言いましたか……る……ルー……?」
「……覚えてないの?」
「申し訳ありません……ちゃんと覚えていたはずなのですが……エルサイムに着くまでにはちゃんと思い出しますわ」
レリスが申し訳なさそうに頭を下げるのを横目に、俺はレリスが腕試しをしたいと言っているその凄腕の剣士が誰なのかをなんとなくだが予想していた。
教えてあげようかと思ったけど、間違ってたらアレだしな……確証が持てるまでは黙っておこう。
「そういえば皆様はどういった経緯でエルサイムに向かっておられるのですか?」
「俺たちはエルサイムにある拠点に行くために旅してるんだ」
「……そうだったの?」
あれ?俺フリルにその辺の説明してなかったっけ?
そういやエルサイムに向かってることだけは話したけど、その目的までは説明してなかったな。
「エルサイムに拠点を持っているのですか?」
「とはいえ、まだ見たことはないんですけどね」
「え?」
「その拠点っていうのはこのテレアの両親からもらったものなんだよ。その辺の経緯はちょっと話すと長くなるんだけど」
リドアードの一件からもう一週間以上か……本来ならもうすでにエルサイム着いてる計算なんだけど、リンデフランデで色々とあったからなぁ。
待たせてしまっているルカーナさんに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
ヤクトさんは「ルカーナについてはそんなに気にしなくても大丈夫だよ」とは言ってくれていたが、そういうわけにもいかないかなら。
「色々と込み入ってますのね……そういえばテレアちゃんはたしか「シルクス」とおっしゃってましたわよね?」
「うん、テレアはテレア=シルクスだよ?」
「もしかしてあの有名な冒険者夫婦「シルクス夫妻」の娘さんでは?」
「えっと……うん」
恐る恐る頷くテレアを見て、レリスの瞳が途端に輝き始める。
「やはりそうでしたのね!?あの身のこなしもそれなら納得ですわ!ぜひお話を聞かせていただきたいのですが!」
「えっと……お父さんたちのことをテレアに聞かれても……」
それこそ本人たちに聞きなさいという話ではある。
しかしレリスは冒険者に強い憧れでもあるんだろか?
俺たちが冒険者だということが判明したときも目を輝かせていたからな。
それにこのお嬢様口調に上品なしぐさ……。
(なあエナ?もしかしてレリスってどこかいいとこのお嬢様だったりするのかな?)
テレアからシルクス夫妻の話を聞き出そうとして興奮しているレリスを見ながら、隣に座るエナに小声で耳打ちしてみた。
(恐らく、エレニカ財閥の娘さんでしょうね)
(エレニカ財閥?)
(この世界のあらゆる産業を独占しているグループですね……本拠地はアーデンハイツだったはずですけど……私もちょっとこの辺は詳しくないのでなんとも)
それじゃあ正真正銘のお嬢様じゃないか!またとんでもない子が出てきたもんだな。
しかしそんな財閥のお嬢様が冒険者になるためにエルサイムに行くだなんて……お嬢様としてすごしていたほうが平穏無事に人生を送れるだろうに。
まあそこは俺たちも込み入った事情があるように、レリスにも事情があるのだろう。
「そんじゃそろそろ出発しようか?日が暮れるまでには次の休憩地点までたどり着きたいしな」
「それならわたしくが馬車を引きますわ!助けていただいたお礼というほどのものではありませんが、同伴させていただけるのですから、このくらいはさせてください!」
そんなわけで、レリスが引く馬車に揺られながら俺たちは次の休憩地点に向けて歩を進めていくのだった。
「美味い……」
「昨日のフリルお姉ちゃんのご飯も美味しかったけど……」
「……さすがにこれには勝てない」
レリスの作った料理を口に入れた俺たちが口々に声を揃えてその手腕を称えた。
昨日のフリルのキャンプ料理も美味しかったが、レリスの作った料理と比べると申し訳ないが完全に見劣りしてしまう。
「お褒めにお預かり光栄ですわ」
「わっ私だって少し練習すればこの領域に……」
「……エナっちじゃ無理」
「酷い!?」
フリルの鋭いツッコミにエナが泣きそうな顔で返した。
「キャンプ料理は初めてでしたけど、もっとちゃんとした機材があれば本格的な物は作れますわ」
「……ヘイ彼女うちで働かない?」
「どさくさに紛れて勧誘すな」
しかしフリルじゃないけど、ぜひともうちのパーティーにスカウトしたいくらいの人材ではある。
戦闘では前線で戦える強さを持っているし、馬だって引けるし料理も上手い。
これだけの好条件をひっさげたレリスをスカウトしない手はないんだが、本人の事情だってあるだろうしな。
「申し訳ありません……わたくし当分の間はソロで活動したいと思っておりますので」
「まあこの子の言うことはあんまり本気にしないほうがいいよ」
「……お兄ちゃん私美味しいごはんが毎日食べたい」
「ヘイ彼女!うちで働いて行かない?」
「何をしてるんですか二人とも……」
「あはは……」
だって食は人の心を豊かにするんだぞ?仕方ないじゃん?
「レリスさんは冒険者になったらエルサイムを拠点に活動するつもりなんですか?」
「そうですわね。しばらくは自分一人の力でどこまでできるのかを試したいと思っておりますの」
「俺たちも基本的にはエルサイムで活動していくことになるだろうし、もしかしたら同じ依頼を一緒にすることもあるだろうな」
「その時はよろしくお願いしますわ」
ほどなくして俺たちはレリスの料理を食べ終わり、思い思いの時間を過ごすことになる。
完全に日が落ちきる前に、今日の日課をこなさないとな……。
「テレア、食後で悪いけどいつもの頼む」
「うん、修練だね?」
テレアに声を掛けると、待ってましたとばかりにテレアが元気よく立ち上がる。
「お二人とも、何か始めるのですか?」
俺も立ち上がると、その様子を見ていたレリスが質問を投げかけてくる。
「時間ができた時はテレアに頼んで戦闘訓練をしてもらうんだよ」
一刻も早く俺もまともに戦えるようになりたいからな。
テレアは戦闘スタイル的に武器を使わないけど、その身のこなしは覚えて損はないしね。
「ではわたくしもいいでしょうか?テレアちゃんの身のこなしにはわたくしも興味がありますので」
「勿論いいけど、テレアがレリスお姉ちゃんに教えられることなんてあるのかな?」
盗賊と戦ってるときに見たあの身のこなしは、テレアと比べても見劣りしなかったしな。
「そうですわ!もしよろしければなんですけど、一度テレアちゃんと手合わせしてみたいのですが」
「レリスお姉ちゃんと?」
「わたくしこう見えても素手での戦闘もできますのよ?テレアちゃんが嫌なら無理強いはいたしませんが……」
テレア対レリスか……ちょっと面白そうだな。
「いいんじゃないかな?俺もちょっと見てみたい」
「何か面白そうなことが始まるみたいですね?」
「……わくわく」
俺を含めた周りがすっかり観戦ムードになってしまった。
どうしようとばかりに、俺たちを見渡したテレアが少し困ったような顔でレリスを見上げた。
「いいけど……テレアの戦い方ってお父さんの見よう見まねだから参考にはならないと思うよ?」
「構いませんわ!ルールは……先に三回攻撃を当てた方の勝利といたしましょうか?」
「わかった……それじゃあ」
そう言ってテレアがレリスと一定の距離を取り始める。
「じゃあ俺が審判をするよ」
「シューイチさんが審判ですか?シューイチさんなんだかんでテレアちゃんに甘いですからジャッジが隔たりそうですよね」
「……ロリコン?」
「失礼なこと言わないでもらえませんかね?」
特にそこの緑髪の子。
八百長試合じゃあるまいし真剣勝負にそんな水を差すような真似せんわい。
「それじゃルール確認な?時間無制限で先に攻撃を三回当てた方の勝利……これでいいか?」
「うん!」
「それで構いませんわ」
向かい合う二人の空気が緩い物から、緊張感のあるものへと徐々に変わっていく。
二人とも瞬時に気持ちを戦闘に持っていけるの凄いよなぁ。
そういうとこ俺はまだまだだからな……精進あるのみだ。
「どっちが勝ちますかね、フリルちゃん?」
「……料理の下手さ加減なら断然エナっちなんだけど」
「そういう勝負じゃありませんからね!?」
……あの二人は放置しておこう。
「それじゃあ勝負……」
言いながら俺は右手を垂直に上げていき―――
「始め!」
その声と共に右手を振り下ろした。
あれぇ?なんかエナさんの反応が思ってたのと違いますわ?
レリスを伴って馬車に戻って来た俺たちを出迎えたエナの一言がそれだった。
「シューイチさんだけでもアレなのに、さらにテレアちゃんまで着いて行ってましたからね……大方テレアちゃんにでも頼まれたんじゃないんですか?」
大方その通りなのでぐぅの音も出ない。
なんというか、完全に見抜かれてるなぁ……悔しいようなそれでいて嬉しいような複雑な感情だ。
「わたしく、レリス=エレニカと申します。シューイチ様のご厚意にあずかりエルサイムに着くまでの間、こちらの馬車に同伴させていただくことになりました……ご迷惑をおかけすると思いますが、どうかよろしくお願いいたしますわ」
「あっこれはどうもご丁寧に!私はエナ=アーディスです!」
「……フリル=フルリル」
お互いに自己紹介を済まし、レリスが馬車に乗り込むのを確認して、俺もテレアも馬車に乗り込んだ。
「それでなにがあったんですか?」
「大方の予想通り、この子が盗賊に襲われてたよ」
「でもね!レリスお姉ちゃん凄いんだよ!剣で盗賊たちをどんどん倒して行っちゃうの!」
なにやら興奮した様子でテレアがエナに語っている。
たしかに油断した個所はあったとはいえ、鮮やかな戦いぶりだったもんな。
「わたくしなんてまだまだですわ!テレアちゃんとシューイチ様のアシストがなければ恐らく負けておりましたから!特にシューイチ様の防御魔法のタイミングはお見事でしたわ!」
「シューイチさんって素の状態でもプロテクション使えるようになったんですか?やめてくださいよ、私のアイデンティティを奪うのは!」
「……シューイチ反省して」
え?なんで俺怒られてるの?
人助けして怒られるとはこれ如何に……。
「ごほん!……えっと、それでレリスさんはどうしてエルサイムに?」
「第一の目的は冒険者ギルドに加入することですが、もう一つ目的がありまして……」
「えっとね……エルサイムにいる有名な剣士の人と戦ってみたいんだって」
レリスの言葉をテレアが補足した。
「……腕試し?」
「エルサイムにいる有名な剣士……?」
言いながら首を傾げるエナを見て、心当たりがないのだと判断した。
エナが知らないとなると俺たちではもうお手上げだ。
「そんな人がいるんですか?」
「あまり表に出てこない人らしくて……名前は何と言いましたか……る……ルー……?」
「……覚えてないの?」
「申し訳ありません……ちゃんと覚えていたはずなのですが……エルサイムに着くまでにはちゃんと思い出しますわ」
レリスが申し訳なさそうに頭を下げるのを横目に、俺はレリスが腕試しをしたいと言っているその凄腕の剣士が誰なのかをなんとなくだが予想していた。
教えてあげようかと思ったけど、間違ってたらアレだしな……確証が持てるまでは黙っておこう。
「そういえば皆様はどういった経緯でエルサイムに向かっておられるのですか?」
「俺たちはエルサイムにある拠点に行くために旅してるんだ」
「……そうだったの?」
あれ?俺フリルにその辺の説明してなかったっけ?
そういやエルサイムに向かってることだけは話したけど、その目的までは説明してなかったな。
「エルサイムに拠点を持っているのですか?」
「とはいえ、まだ見たことはないんですけどね」
「え?」
「その拠点っていうのはこのテレアの両親からもらったものなんだよ。その辺の経緯はちょっと話すと長くなるんだけど」
リドアードの一件からもう一週間以上か……本来ならもうすでにエルサイム着いてる計算なんだけど、リンデフランデで色々とあったからなぁ。
待たせてしまっているルカーナさんに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
ヤクトさんは「ルカーナについてはそんなに気にしなくても大丈夫だよ」とは言ってくれていたが、そういうわけにもいかないかなら。
「色々と込み入ってますのね……そういえばテレアちゃんはたしか「シルクス」とおっしゃってましたわよね?」
「うん、テレアはテレア=シルクスだよ?」
「もしかしてあの有名な冒険者夫婦「シルクス夫妻」の娘さんでは?」
「えっと……うん」
恐る恐る頷くテレアを見て、レリスの瞳が途端に輝き始める。
「やはりそうでしたのね!?あの身のこなしもそれなら納得ですわ!ぜひお話を聞かせていただきたいのですが!」
「えっと……お父さんたちのことをテレアに聞かれても……」
それこそ本人たちに聞きなさいという話ではある。
しかしレリスは冒険者に強い憧れでもあるんだろか?
俺たちが冒険者だということが判明したときも目を輝かせていたからな。
それにこのお嬢様口調に上品なしぐさ……。
(なあエナ?もしかしてレリスってどこかいいとこのお嬢様だったりするのかな?)
テレアからシルクス夫妻の話を聞き出そうとして興奮しているレリスを見ながら、隣に座るエナに小声で耳打ちしてみた。
(恐らく、エレニカ財閥の娘さんでしょうね)
(エレニカ財閥?)
(この世界のあらゆる産業を独占しているグループですね……本拠地はアーデンハイツだったはずですけど……私もちょっとこの辺は詳しくないのでなんとも)
それじゃあ正真正銘のお嬢様じゃないか!またとんでもない子が出てきたもんだな。
しかしそんな財閥のお嬢様が冒険者になるためにエルサイムに行くだなんて……お嬢様としてすごしていたほうが平穏無事に人生を送れるだろうに。
まあそこは俺たちも込み入った事情があるように、レリスにも事情があるのだろう。
「そんじゃそろそろ出発しようか?日が暮れるまでには次の休憩地点までたどり着きたいしな」
「それならわたしくが馬車を引きますわ!助けていただいたお礼というほどのものではありませんが、同伴させていただけるのですから、このくらいはさせてください!」
そんなわけで、レリスが引く馬車に揺られながら俺たちは次の休憩地点に向けて歩を進めていくのだった。
「美味い……」
「昨日のフリルお姉ちゃんのご飯も美味しかったけど……」
「……さすがにこれには勝てない」
レリスの作った料理を口に入れた俺たちが口々に声を揃えてその手腕を称えた。
昨日のフリルのキャンプ料理も美味しかったが、レリスの作った料理と比べると申し訳ないが完全に見劣りしてしまう。
「お褒めにお預かり光栄ですわ」
「わっ私だって少し練習すればこの領域に……」
「……エナっちじゃ無理」
「酷い!?」
フリルの鋭いツッコミにエナが泣きそうな顔で返した。
「キャンプ料理は初めてでしたけど、もっとちゃんとした機材があれば本格的な物は作れますわ」
「……ヘイ彼女うちで働かない?」
「どさくさに紛れて勧誘すな」
しかしフリルじゃないけど、ぜひともうちのパーティーにスカウトしたいくらいの人材ではある。
戦闘では前線で戦える強さを持っているし、馬だって引けるし料理も上手い。
これだけの好条件をひっさげたレリスをスカウトしない手はないんだが、本人の事情だってあるだろうしな。
「申し訳ありません……わたくし当分の間はソロで活動したいと思っておりますので」
「まあこの子の言うことはあんまり本気にしないほうがいいよ」
「……お兄ちゃん私美味しいごはんが毎日食べたい」
「ヘイ彼女!うちで働いて行かない?」
「何をしてるんですか二人とも……」
「あはは……」
だって食は人の心を豊かにするんだぞ?仕方ないじゃん?
「レリスさんは冒険者になったらエルサイムを拠点に活動するつもりなんですか?」
「そうですわね。しばらくは自分一人の力でどこまでできるのかを試したいと思っておりますの」
「俺たちも基本的にはエルサイムで活動していくことになるだろうし、もしかしたら同じ依頼を一緒にすることもあるだろうな」
「その時はよろしくお願いしますわ」
ほどなくして俺たちはレリスの料理を食べ終わり、思い思いの時間を過ごすことになる。
完全に日が落ちきる前に、今日の日課をこなさないとな……。
「テレア、食後で悪いけどいつもの頼む」
「うん、修練だね?」
テレアに声を掛けると、待ってましたとばかりにテレアが元気よく立ち上がる。
「お二人とも、何か始めるのですか?」
俺も立ち上がると、その様子を見ていたレリスが質問を投げかけてくる。
「時間ができた時はテレアに頼んで戦闘訓練をしてもらうんだよ」
一刻も早く俺もまともに戦えるようになりたいからな。
テレアは戦闘スタイル的に武器を使わないけど、その身のこなしは覚えて損はないしね。
「ではわたくしもいいでしょうか?テレアちゃんの身のこなしにはわたくしも興味がありますので」
「勿論いいけど、テレアがレリスお姉ちゃんに教えられることなんてあるのかな?」
盗賊と戦ってるときに見たあの身のこなしは、テレアと比べても見劣りしなかったしな。
「そうですわ!もしよろしければなんですけど、一度テレアちゃんと手合わせしてみたいのですが」
「レリスお姉ちゃんと?」
「わたくしこう見えても素手での戦闘もできますのよ?テレアちゃんが嫌なら無理強いはいたしませんが……」
テレア対レリスか……ちょっと面白そうだな。
「いいんじゃないかな?俺もちょっと見てみたい」
「何か面白そうなことが始まるみたいですね?」
「……わくわく」
俺を含めた周りがすっかり観戦ムードになってしまった。
どうしようとばかりに、俺たちを見渡したテレアが少し困ったような顔でレリスを見上げた。
「いいけど……テレアの戦い方ってお父さんの見よう見まねだから参考にはならないと思うよ?」
「構いませんわ!ルールは……先に三回攻撃を当てた方の勝利といたしましょうか?」
「わかった……それじゃあ」
そう言ってテレアがレリスと一定の距離を取り始める。
「じゃあ俺が審判をするよ」
「シューイチさんが審判ですか?シューイチさんなんだかんでテレアちゃんに甘いですからジャッジが隔たりそうですよね」
「……ロリコン?」
「失礼なこと言わないでもらえませんかね?」
特にそこの緑髪の子。
八百長試合じゃあるまいし真剣勝負にそんな水を差すような真似せんわい。
「それじゃルール確認な?時間無制限で先に攻撃を三回当てた方の勝利……これでいいか?」
「うん!」
「それで構いませんわ」
向かい合う二人の空気が緩い物から、緊張感のあるものへと徐々に変わっていく。
二人とも瞬時に気持ちを戦闘に持っていけるの凄いよなぁ。
そういうとこ俺はまだまだだからな……精進あるのみだ。
「どっちが勝ちますかね、フリルちゃん?」
「……料理の下手さ加減なら断然エナっちなんだけど」
「そういう勝負じゃありませんからね!?」
……あの二人は放置しておこう。
「それじゃあ勝負……」
言いながら俺は右手を垂直に上げていき―――
「始め!」
その声と共に右手を振り下ろした。
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