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上品~謎の剣士レリス~

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「へっへっへ……お嬢さん、死にたくなければ金目の物を置いていきな?」
「なんなら、お嬢さん自身を差し出してくれてもいいんだぜ?」

 こういう状況でのテンプレのような台詞を吐きながら、盗賊たちがニタニタと笑う。
 一人の女の子を複数人の男が寄ってたかってという状況って、傍から見るとほんと情けないな。

「……」
「なんだ?怖くて声も出ないってか?」
「それならそれでちょうどいいや!大人しくしてろよ?」

 相手が黙ってるのをいいことに、周りの盗賊たちが段々と調子づいてきているな。
 テレアと顔を見合わせて、出ていくタイミングを見計らおうと思ったところで、ようやく囲まれている女の子が口を開いた。

「……こ」
「こ?」
「これが盗賊なる者なのですね!わたくし初めて見ましたわ!!」

 なにやら嬉しそうに声を上げたその子を見て、俺は思わずズッコケそうになった。
 この危機的状況で何を言ってるんだこの子は!?

「はっ?おいおいお嬢さん、今の状況わかってるのかよ?」
「もちろん存じておりますわよ?わたしくし今盗賊に囲まれておりますのよね?」

 なんか凄い目が輝いていらっしゃる。
 なんだろう……口調からしてお嬢様っぽいな。

「そういうことだよ!だからさっさと金目の物を……」
「申し訳ありませんが、お断りしますわ」
「だからそんなこと言える状況かよ!」
「忠告しておきますが、怪我をしたくないなら今すぐお引き取り願いますわ」

 おいおい、なんで相手を挑発するようなことを言ってるんだあの子は!?
 思わず飛び出しそうになった俺の服のすそをテレアが掴んで止めた。

「えっとね……多分なんだけど大丈夫だと思うよ?」
「え?」

 俺たちが小声でそんな会話をしていると、盗賊の一人がダガーを構えて女の子に斬りかかった。

「ふざけてんじゃねーぞ!」

 だが女の子はその攻撃を身体を少し横にずらしてかわすだけでなく、自身の足で盗賊の足を引っかけて盛大に転ばせた。
 転ばされた盗賊Aは豪快に顔面から地面にダイブし、何やら情けない声を上げながら鼻を抑えている。

「てめえ、やりやがったな!」
「構わねえ!少し痛い目に合わせてやろうぜ!!」
「覚悟しろオラぁ!!」

 そう言って口々に叫びながら、それぞれの武器を構えながら盗賊たちが一斉に女の子に襲い掛かる。
 多勢に無勢もいいところだが、それをまったく苦にした様子もなくその女の子はひらりひらりと、盗賊たちの攻撃をかわしていく。
 テレアが大丈夫と言った意味がわかった……全く盗賊たちの攻撃が当たる様子がない。

「そろそろ攻撃してもよろしいでしょうか?」
「なにぃ!?」

 女の子がそう宣言し、腰に下げた剣を鞘ごと手にして、特に構えることなくその場に棒立ちになる。
 一見隙だらけに見えるけど、多分そんなことはないんだろうなぁ。
 実際、それを見て不用意に近づいてきた盗賊の一人の胸に、恐ろしいスピードで剣戟を打ち込んだ。

「ぎゃああああああ!!!」

 たったその一撃で、悲鳴と共にそいつがもんどりをうち床に倒れこんで動かなくなった。
 あの勢いだと骨の一本や二本折れたんじゃなかろうか?

「なっなんだと!?」

 それを見て思わず足を止めた盗賊に向けて、女の子が一瞬で間を詰めて同じようにがら空きの胸に剣を打ち込んで、そいつを無力化させた。
 力量差がありすぎて、多勢に無勢という状況にまったく意味がない。
 
「盗賊家業を営んでおられるのですから、もう少し戦える方たちなのかと思いましたけど、そういうわけではないのですね?」
「ふっふざけんじゃねーぞ!?何者なんだお前は!?」
「名前を名乗られてもいないのに、こちらから名乗ってもらえるとでも?」

 先ほどから挑発染みた発言が多いなと思っていたが、あれ多分挑発じゃなくて素で言ってるんだろうな。
 女の子の表情が挑発で相手のペースを乱してやろうというそれではなく、純粋な疑問で彩られているからだ。
 フリルとはまた別のベクトルで不思議な女の子だ。
 これなら俺たちの出番はなさそうだな。

「あっ!」

 そう思った刹那、テレアが思わず声を上げて指を差したので、そちらに目を向けると気配を殺し女の子の後ろに回り込んで今まさに斬りかかろうとしている盗賊が目に映った。
 やばい!あの子気が付いてないぞ!!

「間に合うか……!」

 俺は咄嗟に体内の魔力を活性化させて魔力を練り上げる。
 今は裸じゃないけど、やり方は神獣戦の時に覚えたからできるはずだ……!

「プロテクション!!」

 俺が魔法を唱えるのと、そいつが女の子に斬りかかるのは、ほぼ同時だった。
 突如現れた防御壁に盗賊の振り下ろした剣は音と共に弾かれ床に落ちた。

「なにぃっ!?」
「え!?」

 その音と声でようやく女の子が振り返り、後ろにいた盗賊に気が付いたものの、それをチャンスとばかりに目の前にいた盗賊が武器を構えて女の子に向かって突進していく。
 だがそのチャンスを逃さなかったのはこちらの少女も同じことだ。

「えーい!!」
「ぐはあぁ!!??」

 勢いをつけたテレアの飛び蹴りが、突進していた盗賊の頭を捕らえて大きく吹き飛ばした。
 俺がプロテクションを唱えたと同時に、すでにテレアは状況を判断して飛び出していたのだ。

「お姉ちゃん後ろ!」
「はっ!?」

 着地したテレアがその女の子の後ろに向かって指さしながら叫ぶと、落とした武器を拾って再び斬りかかろうとしていた盗賊がいた。

「えいっ!!」

  突然のテレアの乱入に気を取られていたその子がすぐに剣を構えなおし、盗賊が武器を振り下ろす前に剣戟を撃ち込んだ。

「うぐっ……」

 小さく悲鳴を上げたそいつは、膝から崩れ落ちて動かなくなった。
 四人もいた盗賊はその全てが倒されて、場に静寂が訪れた。

「今のは少し危なかったですわね……油断しすぎましたわ……」

 言いながらその子は手にした剣を腰のベルトに付け直した。

「助かりましたわ!えっとあなたは……?」
「えっと……テレアは……」

 持ち前の人見知りを発動したテレアが真っ赤になりながらしどろもどろになるのを見て、俺は二人のもとに駆け寄っていく。
 そんな俺を見てその子は警戒を強め腰の剣に手を伸ばすが、俺を見るテレアの表情を見て何かを察したらしく構えを解いてくれた。

「ナイス判断だったぞテレア!」
「お兄ちゃん!」

 駆け寄ってきた俺の背中にテレアが隠れた。
 相変わらずの人見知りっぷりだなこの子は。

「えっと……俺は葉山宗一で、この子がテレア=シルクス」
「これはご丁寧に……わたくしはレリス=エレニカと申します」

 簡単な自己紹介をしながら、レリスと名乗ったその子は上品なしぐさでお辞儀をした。

「危ないところを助けていただき、感謝しますわ」
「えっと、怪我とかは?」
「この通り、おかげさまで無傷ですわ」

 そう言って上品に微笑むレリスを観察する。
 肩にギリギリ届く長さで綺麗にそろえられた黒い髪に、エナとは違う美人系の整った顔立ちに、つるのない鼻に直接かけるタイプの小さめの鼻眼鏡。
 そしてなによりもっとも注目するべきポイントがその胸の大きな二つの膨らみだ。
 今はマントに隠れて見えないが、先程の戦闘中に翻ったマントの隙間から見えたそれは男を魅了してやまない大きさだった。
 あの非常時になにを観察してるんだと思われるかもしれないが、俺だって男なんだから仕方ないじゃん?な?

「しかし、あれが盗賊という方々なのですね……想像以上に品がありませんでしたわね」

 そりゃあ盗賊だからな。
 品のある奴ならわざわざ盗賊に身を堕とすこともないだろうし。

「とりあえずこいつらどうしたらいいんだろう?」

 周囲で完全にのびている盗賊たちを見ながらどうしたもんかと呟く。

「えっと……縛り上げて動けないようにしておけば、巡回で通る憲兵団の人が見つけて連行してくれるって、お父さんが言ってたよ?」
「あっそういうもんなのね?」

 そう言うことならと、いつぞやと同じように盗賊たちの来ていたローブを剥ぎ取り即席ロープを作り出し、四人まとめて木に縛り付けた。
 あとは憲兵団が見つけてくれるのを待つだけだな。

「さてと……じゃあ俺たちは馬車に戻るとするか」
「あの、少し伺ってもよろしいでしょうか?」

 馬車へ引き返そうとした俺たちを、レリスが引き留めた。

「見たところ随分と腕が立つようですが、もしかして冒険者という方々でしょうか?」
「まあ一応……」

 俺自身は全く大したことないが、テレアの腕が立つことは何も間違ってないので、とりあえずはそう答えた。
 するとレリスは目を輝かせて、俺たちを見てくる。

「初めて冒険者の方と出会えましたわ!もっとお話を聞かせていただいてもよろしいですか!?」
「おおう!?」

 目を輝かせながら詰め寄られて、思わずのけぞる。
 冒険者なんてそんなに珍しい物なのか?

「とっとりあえず落ち着いて!レリスさん?」
「レリスで構いませんわ!」
「じゃあ……俺もシューイチでいいから」
「シューイチ様!もっとお話を聞かせてくださいませ!」

 勢い止まらないなこの子!?

「えっと……レリスお姉ちゃんはこんなところでなにをやってたのかな?」

 テレアが助け舟を出すかのように、レリスに質問を投げかけた。
 その言葉にようやく身体を引いてくれたレリスが、コホンと咳ばらいをして姿勢を正した。
 ……倒れるかと思ったぞおい。

「申し訳ありません、少々興奮してしまいましたわ……わたくし冒険者になるためにこの先にあるエルサイムに向かっていましたの」
「冒険者になるために?」
「はい!」

 俺の質問に笑顔でレリスが答えた。
 冒険者になるためにエルサイムにねぇ……。

「それとエルサイムには、凄腕の剣士がいらっしゃるらしいので、腕試しをしたいと思いまして」
「そんな人がエルサイムにいるの?」
「えっと……テレアはわからないかも……」

 こういう事情はエナのほうが詳しそうではある。
 しかし目的地が一緒なのは何かの偶然なのかな?

「エルサイムには歩いて?」
「はい!こうして旅に出て早四日経ちましたわね」

 四日も一人で街道歩いてるのか……見た目によらずタフな子だな。
 どうしたもんかと思いつつ、テレアに視線を向けると何かを言いたげに俺を見上げていた。
 あー……わかっておりますよー。
 これまた誰かさんにお人よしと言われるパターンだな。

「実は俺たちも用事があってエルサイムに向かってる最中なんだよ」
「あら?奇遇ですわね?」
「今ここにはいないけど、俺たちは四人で馬車でエルサイムに向かっているんだ……もし良ければエルサイムまで乗り合わせていかないか?」

 俺の提案に、レリスが再び目を輝かせる。

「よろしいのですか!?」
「ほら?一人じゃ危ないしさ?」
「またさっきみたいに盗賊に襲われちゃうかもしれないし……」

 先ほどの戦いぶりを見るによほど油断しない限りは、盗賊ごときに遅れを取るとは思えないが万が一ということもあるしな。

「それでは申し訳ないのですが、エルサイムまでご一緒させていただきたく思いますわ」
「ああ!短い間だけどよろしくな?」
「よろしくね!レリスお姉ちゃん!」
「改めてよろしくお願いいたしますわね」

 そう言ってレリスが再び上品なしぐさでお辞儀をしてきたので、俺たちもそれに倣って上品にお辞儀を返すのだった。
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