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神獣~覆っていく歴史~
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俺たちがリンデフランデを出国し、初日の夜を迎えた。
街道の休憩スペースに辿り着いた俺たちはそこにキャンプを張り休むこととなった。
この初日で色々とフリルについてわかったことがある。
さすが物心ついたときにはすでに旅芸人一座にいたこともあり、旅の基本的な心得については完全に理解しており、馬も扱えるしキャンプを張る際もてきぱきと効率よく動くし、なによりも現状俺たちの誰よりもキャンプ料理に精通していた。
俺たちは旅に出てようやくまともなキャンプ料理にありつけることができたわけで……。
「うめぇ!飯が美味いって素敵なことだよな!」
「フリルお姉ちゃん凄いよ!美味しい!」
泣きながらフリルの簡単なキャンプ料理を貪る俺とテレアに、フリルが若干引き気味になっていた。
「……このくらいはちょっと聞きかじればできるけど?」
「私だってちょっと練習すればこのくらいは……」
俺たちのリンデフランデまでの道のりの料理事情はそりゃあもう酷い物だったからなぁ。
誰のせいとは言わないが、主にエナのせいで。
やっぱりご飯が美味しいって素晴らしいことだよな!
「ご馳走様!食った食った!」
「ごちそうさまでした!美味しかったよフリルお姉ちゃん!」
「……おそまつさま」
お腹が満たされた俺たちの間にまったりムードが漂い始める。
エナはなにやら魔法書を開いて読みふけっており、テレアはフリルにキャンプ料理について教わっていた。
俺はというと特にやることもなくうつらうつらしていたが、ふと思い出したことがあるのでちょっと聞いてみることにする。
「そういえばフリルに聞きたいことがあるんだけど」
「……スリーサイズはNG」
「ちげーよ!この前神獣を歌で鎮めた後、光になった神獣がフリルの中に吸い込まれていっただろ?あれ何だったんだ?」
「え?なんですかそれ?私初耳なんですけど?」
俺の言葉になぜかエナが反応を示した。
そういえばエナはあの時謎の力を使った影響で寝てしまっていたんだっけ。
「……なんか私に力を貸したいって言ってた」
「あれ以来何か身体に異変とかないか?」
「……?」
どうやらなにもないっぽい。
でも確実になにかあるはずなんだよな……フリル曰く神獣本人が力を貸したいと言ったわけだし。
そういえば、あの時シエルからもらっていた謎の魔力みたいなのも今は全然感じられない。
「一つ聞きたいんですけど、フリルちゃんって自分の魔力を知覚できてますか?」
エナの問いかけにフリルは首を左右に振ることで答えた。
歌魔法を使うときだって無意識にやってるみたいだし、元々魔力を知覚するのだって魔法学校に行って教わらないといけないらしいしそこは仕方ないだろう。
「なあエナ?俺に前にしてくれたようにフリルにも魔力を知覚させてあげることできないかな?」
「できなくはありませんけど……本来あれは門外不出の裏技なのでおいそれとやるわけにはいかないんですけどね……」
でもこれはなんとなくなんだけど、フリルは魔力知覚できるようになっとくべきだと思うんだよね。
「多分必要なことですし、やっておいて損はないですよね……じゃあフリルちゃん、他の人に見られるわけにはいかないのでちょっとテントまで一緒に来てくれませんか?」
「……貞操の危機?」
「なんでそうなるんですか!……とにかく一緒に来てください」
なにやら疲れた様子のエナと共にフリルがテントの中へと入っていく。
「エナお姉ちゃんたち、何かするのかな?」
「うーん……なんというべきか……」
そういえばリリアさん曰く、テレアは誰に教わるわけでもなく自力で魔力の活性化ができるようになってたらしいんだよね。末恐ろしい子だ。
俺が魔法を使えるようになった経緯をテレアに説明していると、なにやら感動した様子のフリルがテントから出てきて、その後に続くようにエナもテントから出てきた。
「さて……魔力の活性化ができるようになったわけですけど……どうですかフリルちゃん?」
「……ちょっと待って……」
エナに聞かれたフリルが目を閉じて集中し始める。
まだ慣れておらず手間取ってるものの、ほどなくしてフリルが魔力の活性化をすることができた。
「……うん……うん……わかった」
なにやらフリルが誰かと会話しているかのように、うんうんと頷いている。
誰と話してるんだ?イマジナリーフレンドか?
「……えっと姿を見せるって」
「誰が?」
「……亀が」
フリルがそう答えた瞬間、俺たちの目の間に小さな光が現れ、徐々に何かを型取り始める。
ほどなくしてそれはあんまり見たくなかった亀の形に収まった。
「神獣じゃねえか!!」
俺の叫びと共に、フリルを除いた全員が立ち上がり距離を取り戦闘隊形に移行した。
『待つが良い!我はお主たちに危害を加えるつもりはない!警戒を解くのだ!』
なにやら慌てた様子でフリルの中から現れたミニ神獣がそう言ったので、俺たちは恐る恐る元の位置に座りなおした。
「いきなり電撃落としてきたりしない?」
『暴走した我と一戦交えたのだ……気持ちは察するが今の我にはそんな力はない!安心するがよい』
「それならいいんだけど……」
俺たちが戦った神獣は赤黒くそりゃあもう刺々しく恐ろしい外見をしていたが、今俺たちの目の前にいるそれは全身真っ白でありなんだが丸みを帯びたデザインになっている。
このまま業者に売り込んでマスコットにできるんじゃないかって感じのデフォルメ加減だ。
「えっと……神獣でいいんですよね?」
『そうだ。前々から外に出る機会を伺っておったが、この娘が魔力を扱えるようになったことでようやくこうして外に出ることができるようになったのだ。まずはお主たちには礼を言いたい……暴走していた我を鎮めてくれて感謝する』
「お前倒しても倒しても再生すんのやめろよ!マジ苦労したんだぞ!!」
『それを今言われても……というかお主は何者なのだ!?暴走し力も増していた我をあそこまでたやすく倒せるものなど人間とは思えぬ!』
「まあ……?いまそこはいいじゃん……?」
『良くはないが……まあとにかくお主たちには礼を言う』
そう言ってミニ神獣がペコリと頭を下げる。
『我の名は玄武という。この世界を守護する四神獣の内が一人である』
「「「え?」」」
その自己紹介に俺とエナとテレアの三人がそろって声を上げた。
「四神獣……って」
「まさかとは思いますけど、あなたみたいなのが」
「あと三匹いるの……?」
『その通りだ。我玄武を含め、青龍、鳳凰、白虎の四人がおる』
うわー……前に俺が思った通りじゃん……本当に四匹いるのかよ!
『それにしても見事な唄であった……暴走していた我をあそこまでたやすく鎮められるとはな……だから我はその娘に敬意を示し力を貸すこととしたのだ』
まあ実際に神様見習いが力貸していただけあって、文字通りあの時のフリルは神がかってたからな。
ていうかさっきから気になるワードを連発してるよなこいつ?
「あのさ……さっきから暴走してたって言ってるけど、しん……玄武って堕落しきったリンデフランデを粛清するために破壊神になったんじゃないの?」
『なぜそのようにな話になっているのかはわからぬが、我は元々あの国を守護していたわけではないし、我の意志で人間たちに危害を加えることはしない。邪神カルマによって我は暴走させられていたところを、たまたまあの国に封印されていたのだ』
リンデフランデの歴史観があっさり覆る発言が飛び出してきた。
「ちょっと待ってください!邪神カルマは大昔に封印されて以来一度も封印が解かれてないはずなんですけど!?」
『たしかに封印は解けてはおらぬが、あやつは封印のほころびから己の力を流出させ、今この時にもこの世界に悪影響を及ぼしておるぞ?』
何か聞きたくない事実がどんどん明かされてるんですけど!?
ていうか封印のほころびから力を流出させてって……なんかせこいやり方してんなその邪神。
「とっ……とにかく!こんな話はこんな誰が聞いてるかもわからない場所でするもんじゃないよな!」
「そっそうですね!この話はまた改めて!!」
ていうかこんな物騒な話二度としたくない!
「玄武がフリルに力を貸すって……要するにフリルが玄武を召喚することができるようになったのか?」
『この娘の今の力量で我本来の姿で召喚することは無理だが、我の酷使する力の一端を使うことはできるはずだ』
「例えば、あの雷を落としたり……とかかな?」
『あの力は邪神に力を植え付けられ暴走していた時のみの物だ。本来の我は守りにおいてその力を発揮する』
まあ亀だしね。
「……雷落としてみたかった」
『そんなにがっかりされても困るのだが……もしや我は変な娘の中に入ったのか?』
そのもしやですがなにか?
「まあ変な子ではあるけど良い子だから大丈夫だよ?」
『この娘が清い心を持っていることは我が一番知っておるが……まあよい』
「……ごめんそろそろ無理」
『むっ?そうか……やはりまだ我を長い間具現化できるほど魔力を操作することは出来ぬか……まあ仕方ない』
どうやらこの姿でも神獣を具現化させるのは今のフリルには負担が大きいらしい。
『とにかくそういうわけだ……今後、我の力が必要な時は遠慮なく頼るが良い』
「……うい」
その言葉を最後に、神獣は再び光となってフリルの中へと戻っていた。
フリルが疲れたため息を吐くと、しばらく俺たちの間を沈黙が包み込む。
「なんだかとんでもない話を聞いてしまったような気がしますね」
「こりゃカルマ教団との縁も長いこと続くんだろうな……」
俺とエナがそろってため息を吐いた。
「えっと……二人とも元気出して……ね?」
「……疲れた……眠い」
そんな感じでその日は過ぎていったのだった。
明けて翌日。
俺たちの馬車の旅は順調に進んでいく。
ゆっくりと流れていく景色を眺めつつ、うつらうつらとしていると、馬車を引いていたテレアが馬を止めた。
「どうしたんだテレア?」
「うん……なんかね、この先で誰かが揉めてるみたいなの」
その言葉に俺たちの間で緊張が走る。
目を凝らしてテレアが指さした方角を見るものの、俺には何も見えない。
テレアは普段から自身の魔力を巧みに操作して、視力を一時的に強化したり、感覚をより鋭くしているらしい。
その能力は戦闘中にいかんなく発揮されており、それがテレアの強さに繋がっているのだ。
そのテレアがこの先で誰かが揉めてるというのだから間違いないだろう。
「どんな感じかわかるか?」
「えっと……誰か一人を複数の人が囲んでるみたい」
聞いた感じ穏やかじゃないな……。
「よし、様子を見に行ってみるか!俺とテレアの二人で行ってくるから、エナとフリルはここに残って、いざという時に備えておいてくれ!」
「わかりました!」
「……うい」
馬車から降りた俺とテレアは気配を殺しながら、その場所へと近づいていく。
ちょうど大きな木が生えていたのでそこに身を隠し、息を殺しながら俺たちは様子を伺う。
そこにはマントを全身に羽織った一人の女の子を、盗賊みたいな奴らが四人で囲んでる光景が広がっていた。
街道の休憩スペースに辿り着いた俺たちはそこにキャンプを張り休むこととなった。
この初日で色々とフリルについてわかったことがある。
さすが物心ついたときにはすでに旅芸人一座にいたこともあり、旅の基本的な心得については完全に理解しており、馬も扱えるしキャンプを張る際もてきぱきと効率よく動くし、なによりも現状俺たちの誰よりもキャンプ料理に精通していた。
俺たちは旅に出てようやくまともなキャンプ料理にありつけることができたわけで……。
「うめぇ!飯が美味いって素敵なことだよな!」
「フリルお姉ちゃん凄いよ!美味しい!」
泣きながらフリルの簡単なキャンプ料理を貪る俺とテレアに、フリルが若干引き気味になっていた。
「……このくらいはちょっと聞きかじればできるけど?」
「私だってちょっと練習すればこのくらいは……」
俺たちのリンデフランデまでの道のりの料理事情はそりゃあもう酷い物だったからなぁ。
誰のせいとは言わないが、主にエナのせいで。
やっぱりご飯が美味しいって素晴らしいことだよな!
「ご馳走様!食った食った!」
「ごちそうさまでした!美味しかったよフリルお姉ちゃん!」
「……おそまつさま」
お腹が満たされた俺たちの間にまったりムードが漂い始める。
エナはなにやら魔法書を開いて読みふけっており、テレアはフリルにキャンプ料理について教わっていた。
俺はというと特にやることもなくうつらうつらしていたが、ふと思い出したことがあるのでちょっと聞いてみることにする。
「そういえばフリルに聞きたいことがあるんだけど」
「……スリーサイズはNG」
「ちげーよ!この前神獣を歌で鎮めた後、光になった神獣がフリルの中に吸い込まれていっただろ?あれ何だったんだ?」
「え?なんですかそれ?私初耳なんですけど?」
俺の言葉になぜかエナが反応を示した。
そういえばエナはあの時謎の力を使った影響で寝てしまっていたんだっけ。
「……なんか私に力を貸したいって言ってた」
「あれ以来何か身体に異変とかないか?」
「……?」
どうやらなにもないっぽい。
でも確実になにかあるはずなんだよな……フリル曰く神獣本人が力を貸したいと言ったわけだし。
そういえば、あの時シエルからもらっていた謎の魔力みたいなのも今は全然感じられない。
「一つ聞きたいんですけど、フリルちゃんって自分の魔力を知覚できてますか?」
エナの問いかけにフリルは首を左右に振ることで答えた。
歌魔法を使うときだって無意識にやってるみたいだし、元々魔力を知覚するのだって魔法学校に行って教わらないといけないらしいしそこは仕方ないだろう。
「なあエナ?俺に前にしてくれたようにフリルにも魔力を知覚させてあげることできないかな?」
「できなくはありませんけど……本来あれは門外不出の裏技なのでおいそれとやるわけにはいかないんですけどね……」
でもこれはなんとなくなんだけど、フリルは魔力知覚できるようになっとくべきだと思うんだよね。
「多分必要なことですし、やっておいて損はないですよね……じゃあフリルちゃん、他の人に見られるわけにはいかないのでちょっとテントまで一緒に来てくれませんか?」
「……貞操の危機?」
「なんでそうなるんですか!……とにかく一緒に来てください」
なにやら疲れた様子のエナと共にフリルがテントの中へと入っていく。
「エナお姉ちゃんたち、何かするのかな?」
「うーん……なんというべきか……」
そういえばリリアさん曰く、テレアは誰に教わるわけでもなく自力で魔力の活性化ができるようになってたらしいんだよね。末恐ろしい子だ。
俺が魔法を使えるようになった経緯をテレアに説明していると、なにやら感動した様子のフリルがテントから出てきて、その後に続くようにエナもテントから出てきた。
「さて……魔力の活性化ができるようになったわけですけど……どうですかフリルちゃん?」
「……ちょっと待って……」
エナに聞かれたフリルが目を閉じて集中し始める。
まだ慣れておらず手間取ってるものの、ほどなくしてフリルが魔力の活性化をすることができた。
「……うん……うん……わかった」
なにやらフリルが誰かと会話しているかのように、うんうんと頷いている。
誰と話してるんだ?イマジナリーフレンドか?
「……えっと姿を見せるって」
「誰が?」
「……亀が」
フリルがそう答えた瞬間、俺たちの目の間に小さな光が現れ、徐々に何かを型取り始める。
ほどなくしてそれはあんまり見たくなかった亀の形に収まった。
「神獣じゃねえか!!」
俺の叫びと共に、フリルを除いた全員が立ち上がり距離を取り戦闘隊形に移行した。
『待つが良い!我はお主たちに危害を加えるつもりはない!警戒を解くのだ!』
なにやら慌てた様子でフリルの中から現れたミニ神獣がそう言ったので、俺たちは恐る恐る元の位置に座りなおした。
「いきなり電撃落としてきたりしない?」
『暴走した我と一戦交えたのだ……気持ちは察するが今の我にはそんな力はない!安心するがよい』
「それならいいんだけど……」
俺たちが戦った神獣は赤黒くそりゃあもう刺々しく恐ろしい外見をしていたが、今俺たちの目の前にいるそれは全身真っ白でありなんだが丸みを帯びたデザインになっている。
このまま業者に売り込んでマスコットにできるんじゃないかって感じのデフォルメ加減だ。
「えっと……神獣でいいんですよね?」
『そうだ。前々から外に出る機会を伺っておったが、この娘が魔力を扱えるようになったことでようやくこうして外に出ることができるようになったのだ。まずはお主たちには礼を言いたい……暴走していた我を鎮めてくれて感謝する』
「お前倒しても倒しても再生すんのやめろよ!マジ苦労したんだぞ!!」
『それを今言われても……というかお主は何者なのだ!?暴走し力も増していた我をあそこまでたやすく倒せるものなど人間とは思えぬ!』
「まあ……?いまそこはいいじゃん……?」
『良くはないが……まあとにかくお主たちには礼を言う』
そう言ってミニ神獣がペコリと頭を下げる。
『我の名は玄武という。この世界を守護する四神獣の内が一人である』
「「「え?」」」
その自己紹介に俺とエナとテレアの三人がそろって声を上げた。
「四神獣……って」
「まさかとは思いますけど、あなたみたいなのが」
「あと三匹いるの……?」
『その通りだ。我玄武を含め、青龍、鳳凰、白虎の四人がおる』
うわー……前に俺が思った通りじゃん……本当に四匹いるのかよ!
『それにしても見事な唄であった……暴走していた我をあそこまでたやすく鎮められるとはな……だから我はその娘に敬意を示し力を貸すこととしたのだ』
まあ実際に神様見習いが力貸していただけあって、文字通りあの時のフリルは神がかってたからな。
ていうかさっきから気になるワードを連発してるよなこいつ?
「あのさ……さっきから暴走してたって言ってるけど、しん……玄武って堕落しきったリンデフランデを粛清するために破壊神になったんじゃないの?」
『なぜそのようにな話になっているのかはわからぬが、我は元々あの国を守護していたわけではないし、我の意志で人間たちに危害を加えることはしない。邪神カルマによって我は暴走させられていたところを、たまたまあの国に封印されていたのだ』
リンデフランデの歴史観があっさり覆る発言が飛び出してきた。
「ちょっと待ってください!邪神カルマは大昔に封印されて以来一度も封印が解かれてないはずなんですけど!?」
『たしかに封印は解けてはおらぬが、あやつは封印のほころびから己の力を流出させ、今この時にもこの世界に悪影響を及ぼしておるぞ?』
何か聞きたくない事実がどんどん明かされてるんですけど!?
ていうか封印のほころびから力を流出させてって……なんかせこいやり方してんなその邪神。
「とっ……とにかく!こんな話はこんな誰が聞いてるかもわからない場所でするもんじゃないよな!」
「そっそうですね!この話はまた改めて!!」
ていうかこんな物騒な話二度としたくない!
「玄武がフリルに力を貸すって……要するにフリルが玄武を召喚することができるようになったのか?」
『この娘の今の力量で我本来の姿で召喚することは無理だが、我の酷使する力の一端を使うことはできるはずだ』
「例えば、あの雷を落としたり……とかかな?」
『あの力は邪神に力を植え付けられ暴走していた時のみの物だ。本来の我は守りにおいてその力を発揮する』
まあ亀だしね。
「……雷落としてみたかった」
『そんなにがっかりされても困るのだが……もしや我は変な娘の中に入ったのか?』
そのもしやですがなにか?
「まあ変な子ではあるけど良い子だから大丈夫だよ?」
『この娘が清い心を持っていることは我が一番知っておるが……まあよい』
「……ごめんそろそろ無理」
『むっ?そうか……やはりまだ我を長い間具現化できるほど魔力を操作することは出来ぬか……まあ仕方ない』
どうやらこの姿でも神獣を具現化させるのは今のフリルには負担が大きいらしい。
『とにかくそういうわけだ……今後、我の力が必要な時は遠慮なく頼るが良い』
「……うい」
その言葉を最後に、神獣は再び光となってフリルの中へと戻っていた。
フリルが疲れたため息を吐くと、しばらく俺たちの間を沈黙が包み込む。
「なんだかとんでもない話を聞いてしまったような気がしますね」
「こりゃカルマ教団との縁も長いこと続くんだろうな……」
俺とエナがそろってため息を吐いた。
「えっと……二人とも元気出して……ね?」
「……疲れた……眠い」
そんな感じでその日は過ぎていったのだった。
明けて翌日。
俺たちの馬車の旅は順調に進んでいく。
ゆっくりと流れていく景色を眺めつつ、うつらうつらとしていると、馬車を引いていたテレアが馬を止めた。
「どうしたんだテレア?」
「うん……なんかね、この先で誰かが揉めてるみたいなの」
その言葉に俺たちの間で緊張が走る。
目を凝らしてテレアが指さした方角を見るものの、俺には何も見えない。
テレアは普段から自身の魔力を巧みに操作して、視力を一時的に強化したり、感覚をより鋭くしているらしい。
その能力は戦闘中にいかんなく発揮されており、それがテレアの強さに繋がっているのだ。
そのテレアがこの先で誰かが揉めてるというのだから間違いないだろう。
「どんな感じかわかるか?」
「えっと……誰か一人を複数の人が囲んでるみたい」
聞いた感じ穏やかじゃないな……。
「よし、様子を見に行ってみるか!俺とテレアの二人で行ってくるから、エナとフリルはここに残って、いざという時に備えておいてくれ!」
「わかりました!」
「……うい」
馬車から降りた俺とテレアは気配を殺しながら、その場所へと近づいていく。
ちょうど大きな木が生えていたのでそこに身を隠し、息を殺しながら俺たちは様子を伺う。
そこにはマントを全身に羽織った一人の女の子を、盗賊みたいな奴らが四人で囲んでる光景が広がっていた。
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