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電撃~防戦一方~
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宇宙まで飛ばすつもりで放り投げたのだが、まさか難なく戻ってくるとは……。
物理的に倒すことも出来ず、遠くに飛ばしても戻ってくるんじゃはっきり言ってどうしようもない。
やはりフリルの歌魔法で封印するなりしないと無理っぽいな。
まさかこんな形でこの全裸になったら無敵になる能力の弱点が露呈するとは……。
俺自身の攻撃力とか防御力や魔力なんかは無尽蔵になるものの、こういった特別な手段を使わないと倒せないような敵が出てくると、決め手に欠けるんだな。
そんなことを考えていると、神獣が再び咆哮を上げたかと思うと、俺を目掛けて黒い雷を落としてきた。
「うわっ!?」
俺自身にダメージはないものの、床を見ると俺の周囲2メートルくらいが真っ黒に焦げていた。
……これ普通の人間がまともに食らったらこの床と同じように真っ黒になるんじゃなかろうか?
「お兄ちゃん!今凄い雷が落ちたけど大丈夫!?」
蝙蝠を拳で叩き落としながら、テレアが俺の心配をしてくる。
「ああ俺なら大丈夫だから、そっちはそっちで集中してくれ!」
「ほっ本当に平気なんだね……」
「だから言ったじゃないですかテレアちゃん、シューイチさんは全裸になると本当に無敵になるんですから」
なんか余裕かましてるようにな会話に聞こえるだろうが、実は二人とも結構一杯一杯である。
エナは見るからに表情に疲労の色が浮かんできてるし、テレアの動きもだんだん精細さを欠いてきている。
早めに決着をつけてあげたいんだけど、倒すたびに復活するんじゃどうしようもない。
「ルオオオオオオオ!!!!」
「今度は何をするつもりだよ……?」
再び神獣が咆哮を上げたので、うんざりした気持ちで顔をそちらに向ける。
神獣の身体の周りをあの黒い霧が包み込んでいき、なにやらバチバチと帯電し始める。
……なんかこれヤバい気がする!
「テレア!今すぐエナのそばに戻るんだ!」
「えっ!?」
「エナはテレアがそばに戻ってきたらいつもより強力な結界を自分たちの周りに張るんだ!」
「はっはい!」
俺が指示を飛ばしてる間にも、神獣はまるでチャージするかのように黒い霧に雷の力を溜めていく。
エナはいつもよりも強力な結界を張ろうと膨大な魔力を練り上げている関係上、魔法の発動に時間が掛かってるようだ。
ダメだ!多分間に合わない!
「ええい、くそっ!!!」
身体強化を発動し、猛ダッシュでエナたちの元へ駆け寄る。
見よう見まねだけどやるしかない!!
「お兄ちゃん!?」
突然自分たちの目の間にすっ飛んできた俺に対し、テレアが驚き声を上げる。
その瞬間神獣の周りを包んでいるあの黒い霧から、さっき俺に落とした黒い電撃をめちゃくちゃに発射しだした。
思った通りの、全方位攻撃のようだった。
無差別に放たれた電撃が、客席やステージを……公演会場をめちゃくちゃに破壊していく。
「プロテクション!」
エナが使っているのを散々見てるからイメージしやすかったおかげで、何とか俺にもプロテクションを使うことが出来た。
「フル・プロテクション!!」
俺から数秒遅れてエナの全方位の防御魔法を発動させた。
これで多分大丈夫なはず……。
そう思った刹那、俺の張ったプロテクションに黒い電撃が直撃し、粉々に砕け散った。
「えっ!?ちょっマジかよっ!!」
そりゃあエナのようにはいかないけど、ありったけの魔力を込めたはずなのに一発で粉々かよ!
もう一度張りなおそうと魔力を活性化させた瞬間、ランダムに放たれた黒い電撃の一本が真正面から俺に直撃する。
俺自身にダメージはないものの、身体で受けとめきれなかった電撃がエナの張った防御壁に直撃する。
「きゃあっ!!」
「あうぅぅ!!」
電撃自体は防いだものの、一発で防御壁が壊されただけでなく、その衝撃でエナたちが吹き飛ばされた。
無茶苦茶に放たれた黒い電撃がようやく収まり、神獣の周りを包んでいた黒い霧が役目を終えたとばかりに霧散したが、再び周囲に黒い霧が集まり出していく。
あの野郎、俺を倒せないのが分かったから、エナたちを倒そうとしたのか?
今回は何とか防げたものの、何回もこんな攻撃されたら俺はともかくエナたちは耐えれないぞ!?
亀のくせに結構頭が回るみたいだ。
「エナ!テレア!大丈夫か!?」
「うっうん……なんとか……」
「今回は防げましたけど、次やられたら多分防げません……!」
吹っ飛ばされた衝撃で多少のダメージは負ったものの、何とか無事みたいだ。
しかしエナの防御壁をあっさり破壊する威力となると、次は本格的にヤバいかもしれない。
とにかくあの攻撃は何としても阻止しないと……!
「そう何度も打たせてたまるかよ!!」
駆けだした俺の目前に突然黒い霧が現れ、そこから蝙蝠ではなく神獣を小さくしたような亀の魔物が数匹湧き出てきた。
足止めするつもりか?こんなのにかまってたらまたあの電撃を撃たれてしまう……相手してられない!
俺は目の前に現れた亀だけを蹴散らしつつ神獣に向かうものの、残りの亀が思ったよりも早いスピードでエナたちの方に向かっていく。
「エナお姉ちゃん、下がって!」
テレアが迎撃するため前に出て亀を勢いよく蹴りつけたが、あの蝙蝠よりもはるかに頑丈らしく、一撃では倒しきれないようだった。
「かっ硬い……!」
テレアの表情が苦痛にゆがむ。
あまりの硬さに攻撃したテレアのほうがダメージを受けてるのか!?
どうする……?今すぐエナたちに加勢するべきか?
だが神獣をこのまま放置してたらまたあの電撃が飛んでくるし……今アレを撃たれたら俺はともかく多分エナたちは耐えれない!
「お兄ちゃん!テレアたちは大丈夫だから!」
「シューイチさんは神獣の方を止めてください!」
やはりそれしかないか……!
神獣を倒せば再生するまで時間が掛かるから、その間にあの亀の魔物を倒せばなんとかなるはずだ。
そう思って神獣に向きなおろうとしたものの、エナたちの頭上にあの帯電状態の黒い霧が発生しているのが見えた。
もしかして精密射撃もできるのか!?しかもエナたちはそれに気が付いていない!
俺は踵を返し急いでエナたちのもとに戻り、真上に向かって手を伸ばし魔法を発動する。
「プロテクション!!」
その瞬間、黒い霧から放たれた電撃が俺の防御壁に直撃して、先程と同じように粉々に砕け散る。
「あ……危なかった……!」
「お兄ちゃん!あれ!」
テレアが指さした方向を視線で追うと、チャージが完了した神獣が今まさに先ほどの全方位攻撃を放とうとしている瞬間だった。
なんかさっきよりもチャージが早くなってるぞおい!
「くそっ!矢継ぎ早に……プロテクション二枚張り!!」
目の前に防御壁を張り、その先1メートルにももう一枚張った。
神獣からあの全方位電撃が放たれ、二枚目の防御壁にぶつかり粉々になるものの、俺はその隙にもう一枚防御壁を張りなおす。
三枚目の壁を張った直後に撃破され、四枚目を張りなおそうとした瞬間、目の前の防御壁を電撃で破壊されるも、その攻撃を最後に神獣の全方位攻撃が終わった。
「防ぎ切った……」
しかしこの状況はまずい……俺が守りに入ってしまったら神獣の攻撃を止めることが出来ない。
今回は運よく防げたが、次はどうなるかわからない。
焦りつつも神獣の様子を伺うと、先程のように黒い霧を集めようとしているものの、思うように集められず苦戦してるように見える。
どうやらあの攻撃は神獣自体の力をかなり消耗するようだ。
とにかく今がチャンスだ!何か手を考えないと!
「……うっ……うーん……」
その時今まで気を失っていたフリルがようやく目を覚ました。
「フリルちゃん!無事ですか!?」
「……エナっち……テレア……?」
状況を呑み込めないフリルが周囲を見渡す。
二度に渡る神獣の全方位攻撃で、公演会場は無残にもボロボロになってしまっていた。
それを見たフリルの表情に悲しみが宿る。
「……なんでこんな……?」
「ロイに操られたフリルの歌で神獣が復活したんだ」
「……えっ!?」
俺のその言葉にフリルが驚愕の声を上げる。
酷な現実だと思うが、この現状では下手な誤魔化しはできない。
「シューイチさん!何も今そんなことを……!」
「ごめん……俺がフリルを守り切れていれば、こんなことにならなかったはずだ」
「お兄ちゃん……」
「さっきまでなんとか戦ってたけど、このままだと俺たちは負ける」
フリルを全力で守るって言ったはずなのにこの体たらくだ。
だからこそ、この神獣だけは絶対に何とかしないといけない。
「だから頼むフリル……あの神獣を何とかするために力を貸してくれ!」
「……私の歌で?」
「そうだ、フリルの歌でだ」
俺の言葉を受けて、フリルの顔に決意の色が宿る。
無敵能力で太刀打ちできないのなら、もうフリルの歌魔法に頼るしかない。
たとえ封印の唄がどんな歌かわからなくても、俺たちがこの場を切り抜けるにはもうそれに賭けるしかないのだ。
だが肝心のフリルは、神獣復活の歌魔法を使ったせいで魔力切れを起こしてるらしく、立ち上がろうとするものの、足に力が入らないようだった。
「……ごめんシューイチ……動けない……」
折角フリルが目を覚まして、神獣が行動を停止してる今この時がチャンスなのに、肝心のフリルがこの状態では……。
それでも尚立ち上がろうとするフリルを見ていたエナが、意を決したように立ち上がる。
「えっと……皆に先に謝っておきますね?」
「エナお姉ちゃん?」
「今から私、ちょーっと無理をしますんで」
エナが目を閉じ、魔力を活性化……いや違う、これ魔力じゃないぞ?
突如、エナの身体が神々しい光に包まれた。
「大いなる創造主よ、かの者の失った力を蘇らせ、再び立ち上がる力を」
エナから発するその光は、詠唱が進む度に輝きをましていく。
「エンジェル・ライフ!!」
エナが魔法を唱えた瞬間、その輝きがフリルへと移り、目を開けてられないほどの閃光となって消えた。
「……身体が軽くなった……?」
魔力切れでぐったりしていたフリルが、何事もなかったように立ち上がった。
まさか今のエナの魔法でフリルの魔力切れが治ったのか?
「ああよかった……せいこうしました……」
「エナ!」
そのフリルとは対照的に、まるで糸が切れたように膝から崩れ落ち倒れそうになったエナを咄嗟に抱き留めた。
もしかしてエナの魔力をフリルに分け与えた……?
いやでもさっきのあの光は魔力じゃなかった。
「ごめんなさい……私は先にお休みしますね……」
「おいエナ!しっかりしろ!!」
「エナお姉ちゃん!」
「……エナっち!!」
その言葉を最後にエナが意識を手放し、寝息を立て始める。
何が何だかわからないが、とりあえずエナのおかげでフリルが回復したことだけはわかった。
物理的に倒すことも出来ず、遠くに飛ばしても戻ってくるんじゃはっきり言ってどうしようもない。
やはりフリルの歌魔法で封印するなりしないと無理っぽいな。
まさかこんな形でこの全裸になったら無敵になる能力の弱点が露呈するとは……。
俺自身の攻撃力とか防御力や魔力なんかは無尽蔵になるものの、こういった特別な手段を使わないと倒せないような敵が出てくると、決め手に欠けるんだな。
そんなことを考えていると、神獣が再び咆哮を上げたかと思うと、俺を目掛けて黒い雷を落としてきた。
「うわっ!?」
俺自身にダメージはないものの、床を見ると俺の周囲2メートルくらいが真っ黒に焦げていた。
……これ普通の人間がまともに食らったらこの床と同じように真っ黒になるんじゃなかろうか?
「お兄ちゃん!今凄い雷が落ちたけど大丈夫!?」
蝙蝠を拳で叩き落としながら、テレアが俺の心配をしてくる。
「ああ俺なら大丈夫だから、そっちはそっちで集中してくれ!」
「ほっ本当に平気なんだね……」
「だから言ったじゃないですかテレアちゃん、シューイチさんは全裸になると本当に無敵になるんですから」
なんか余裕かましてるようにな会話に聞こえるだろうが、実は二人とも結構一杯一杯である。
エナは見るからに表情に疲労の色が浮かんできてるし、テレアの動きもだんだん精細さを欠いてきている。
早めに決着をつけてあげたいんだけど、倒すたびに復活するんじゃどうしようもない。
「ルオオオオオオオ!!!!」
「今度は何をするつもりだよ……?」
再び神獣が咆哮を上げたので、うんざりした気持ちで顔をそちらに向ける。
神獣の身体の周りをあの黒い霧が包み込んでいき、なにやらバチバチと帯電し始める。
……なんかこれヤバい気がする!
「テレア!今すぐエナのそばに戻るんだ!」
「えっ!?」
「エナはテレアがそばに戻ってきたらいつもより強力な結界を自分たちの周りに張るんだ!」
「はっはい!」
俺が指示を飛ばしてる間にも、神獣はまるでチャージするかのように黒い霧に雷の力を溜めていく。
エナはいつもよりも強力な結界を張ろうと膨大な魔力を練り上げている関係上、魔法の発動に時間が掛かってるようだ。
ダメだ!多分間に合わない!
「ええい、くそっ!!!」
身体強化を発動し、猛ダッシュでエナたちの元へ駆け寄る。
見よう見まねだけどやるしかない!!
「お兄ちゃん!?」
突然自分たちの目の間にすっ飛んできた俺に対し、テレアが驚き声を上げる。
その瞬間神獣の周りを包んでいるあの黒い霧から、さっき俺に落とした黒い電撃をめちゃくちゃに発射しだした。
思った通りの、全方位攻撃のようだった。
無差別に放たれた電撃が、客席やステージを……公演会場をめちゃくちゃに破壊していく。
「プロテクション!」
エナが使っているのを散々見てるからイメージしやすかったおかげで、何とか俺にもプロテクションを使うことが出来た。
「フル・プロテクション!!」
俺から数秒遅れてエナの全方位の防御魔法を発動させた。
これで多分大丈夫なはず……。
そう思った刹那、俺の張ったプロテクションに黒い電撃が直撃し、粉々に砕け散った。
「えっ!?ちょっマジかよっ!!」
そりゃあエナのようにはいかないけど、ありったけの魔力を込めたはずなのに一発で粉々かよ!
もう一度張りなおそうと魔力を活性化させた瞬間、ランダムに放たれた黒い電撃の一本が真正面から俺に直撃する。
俺自身にダメージはないものの、身体で受けとめきれなかった電撃がエナの張った防御壁に直撃する。
「きゃあっ!!」
「あうぅぅ!!」
電撃自体は防いだものの、一発で防御壁が壊されただけでなく、その衝撃でエナたちが吹き飛ばされた。
無茶苦茶に放たれた黒い電撃がようやく収まり、神獣の周りを包んでいた黒い霧が役目を終えたとばかりに霧散したが、再び周囲に黒い霧が集まり出していく。
あの野郎、俺を倒せないのが分かったから、エナたちを倒そうとしたのか?
今回は何とか防げたものの、何回もこんな攻撃されたら俺はともかくエナたちは耐えれないぞ!?
亀のくせに結構頭が回るみたいだ。
「エナ!テレア!大丈夫か!?」
「うっうん……なんとか……」
「今回は防げましたけど、次やられたら多分防げません……!」
吹っ飛ばされた衝撃で多少のダメージは負ったものの、何とか無事みたいだ。
しかしエナの防御壁をあっさり破壊する威力となると、次は本格的にヤバいかもしれない。
とにかくあの攻撃は何としても阻止しないと……!
「そう何度も打たせてたまるかよ!!」
駆けだした俺の目前に突然黒い霧が現れ、そこから蝙蝠ではなく神獣を小さくしたような亀の魔物が数匹湧き出てきた。
足止めするつもりか?こんなのにかまってたらまたあの電撃を撃たれてしまう……相手してられない!
俺は目の前に現れた亀だけを蹴散らしつつ神獣に向かうものの、残りの亀が思ったよりも早いスピードでエナたちの方に向かっていく。
「エナお姉ちゃん、下がって!」
テレアが迎撃するため前に出て亀を勢いよく蹴りつけたが、あの蝙蝠よりもはるかに頑丈らしく、一撃では倒しきれないようだった。
「かっ硬い……!」
テレアの表情が苦痛にゆがむ。
あまりの硬さに攻撃したテレアのほうがダメージを受けてるのか!?
どうする……?今すぐエナたちに加勢するべきか?
だが神獣をこのまま放置してたらまたあの電撃が飛んでくるし……今アレを撃たれたら俺はともかく多分エナたちは耐えれない!
「お兄ちゃん!テレアたちは大丈夫だから!」
「シューイチさんは神獣の方を止めてください!」
やはりそれしかないか……!
神獣を倒せば再生するまで時間が掛かるから、その間にあの亀の魔物を倒せばなんとかなるはずだ。
そう思って神獣に向きなおろうとしたものの、エナたちの頭上にあの帯電状態の黒い霧が発生しているのが見えた。
もしかして精密射撃もできるのか!?しかもエナたちはそれに気が付いていない!
俺は踵を返し急いでエナたちのもとに戻り、真上に向かって手を伸ばし魔法を発動する。
「プロテクション!!」
その瞬間、黒い霧から放たれた電撃が俺の防御壁に直撃して、先程と同じように粉々に砕け散る。
「あ……危なかった……!」
「お兄ちゃん!あれ!」
テレアが指さした方向を視線で追うと、チャージが完了した神獣が今まさに先ほどの全方位攻撃を放とうとしている瞬間だった。
なんかさっきよりもチャージが早くなってるぞおい!
「くそっ!矢継ぎ早に……プロテクション二枚張り!!」
目の前に防御壁を張り、その先1メートルにももう一枚張った。
神獣からあの全方位電撃が放たれ、二枚目の防御壁にぶつかり粉々になるものの、俺はその隙にもう一枚防御壁を張りなおす。
三枚目の壁を張った直後に撃破され、四枚目を張りなおそうとした瞬間、目の前の防御壁を電撃で破壊されるも、その攻撃を最後に神獣の全方位攻撃が終わった。
「防ぎ切った……」
しかしこの状況はまずい……俺が守りに入ってしまったら神獣の攻撃を止めることが出来ない。
今回は運よく防げたが、次はどうなるかわからない。
焦りつつも神獣の様子を伺うと、先程のように黒い霧を集めようとしているものの、思うように集められず苦戦してるように見える。
どうやらあの攻撃は神獣自体の力をかなり消耗するようだ。
とにかく今がチャンスだ!何か手を考えないと!
「……うっ……うーん……」
その時今まで気を失っていたフリルがようやく目を覚ました。
「フリルちゃん!無事ですか!?」
「……エナっち……テレア……?」
状況を呑み込めないフリルが周囲を見渡す。
二度に渡る神獣の全方位攻撃で、公演会場は無残にもボロボロになってしまっていた。
それを見たフリルの表情に悲しみが宿る。
「……なんでこんな……?」
「ロイに操られたフリルの歌で神獣が復活したんだ」
「……えっ!?」
俺のその言葉にフリルが驚愕の声を上げる。
酷な現実だと思うが、この現状では下手な誤魔化しはできない。
「シューイチさん!何も今そんなことを……!」
「ごめん……俺がフリルを守り切れていれば、こんなことにならなかったはずだ」
「お兄ちゃん……」
「さっきまでなんとか戦ってたけど、このままだと俺たちは負ける」
フリルを全力で守るって言ったはずなのにこの体たらくだ。
だからこそ、この神獣だけは絶対に何とかしないといけない。
「だから頼むフリル……あの神獣を何とかするために力を貸してくれ!」
「……私の歌で?」
「そうだ、フリルの歌でだ」
俺の言葉を受けて、フリルの顔に決意の色が宿る。
無敵能力で太刀打ちできないのなら、もうフリルの歌魔法に頼るしかない。
たとえ封印の唄がどんな歌かわからなくても、俺たちがこの場を切り抜けるにはもうそれに賭けるしかないのだ。
だが肝心のフリルは、神獣復活の歌魔法を使ったせいで魔力切れを起こしてるらしく、立ち上がろうとするものの、足に力が入らないようだった。
「……ごめんシューイチ……動けない……」
折角フリルが目を覚まして、神獣が行動を停止してる今この時がチャンスなのに、肝心のフリルがこの状態では……。
それでも尚立ち上がろうとするフリルを見ていたエナが、意を決したように立ち上がる。
「えっと……皆に先に謝っておきますね?」
「エナお姉ちゃん?」
「今から私、ちょーっと無理をしますんで」
エナが目を閉じ、魔力を活性化……いや違う、これ魔力じゃないぞ?
突如、エナの身体が神々しい光に包まれた。
「大いなる創造主よ、かの者の失った力を蘇らせ、再び立ち上がる力を」
エナから発するその光は、詠唱が進む度に輝きをましていく。
「エンジェル・ライフ!!」
エナが魔法を唱えた瞬間、その輝きがフリルへと移り、目を開けてられないほどの閃光となって消えた。
「……身体が軽くなった……?」
魔力切れでぐったりしていたフリルが、何事もなかったように立ち上がった。
まさか今のエナの魔法でフリルの魔力切れが治ったのか?
「ああよかった……せいこうしました……」
「エナ!」
そのフリルとは対照的に、まるで糸が切れたように膝から崩れ落ち倒れそうになったエナを咄嗟に抱き留めた。
もしかしてエナの魔力をフリルに分け与えた……?
いやでもさっきのあの光は魔力じゃなかった。
「ごめんなさい……私は先にお休みしますね……」
「おいエナ!しっかりしろ!!」
「エナお姉ちゃん!」
「……エナっち!!」
その言葉を最後にエナが意識を手放し、寝息を立て始める。
何が何だかわからないが、とりあえずエナのおかげでフリルが回復したことだけはわかった。
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