無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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談笑~まるで不死鳥のようだった~

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 ルーデンスさんたちとの話を終えた俺は、思い思いに過ごす団員たちに軽く挨拶しつつ宿舎を後にする。
 その足でサーカステントへとやってくると、練習をする団員たちからも挨拶されるので、それに軽く返しながらテントの中へと足を運んでいく。
 この数日、何度も通ってるのと、コックルたちが暴れた時に全裸になったせいで、すっかり顔を覚えられてしまった。
 だが団員のほとんどから「全裸のにーちゃん」と呼ばれるのだけは本当に勘弁してもらいたい。
 しかもそう呼んでくる団員たちに悪気が一切感じられないのが余計に質が悪い。
 これについてはもう愛称みたいなものだと思うことにして、気にしない方向にした。

「おっシューイチにーちゃん!」
「ダックス?お前足はもういいのか?」

 他の団員たちの練習風景を眺めていたダックスが俺に気が付いて声を掛けてきた。
 足首には痛々しく包帯が巻かれているものの、本人はそんなに痛そうにしてない。

「フリルもにーちゃんも大げさなんだって!本当に軽く捻っただけなんだからさ!……まあ今日は念のため練習は休めって言われてるけど」
「明日の公演には出られそうか?」
「多分出られると思うから、明日はにーちゃんも見に来てくれよな!」

 初対面の時に比べたら随分と懐かれたもんだ。
 あの時はフリルにちょっかいを掛ける怪しい人物だと思われてたってのあるんだけどね。

「エナとテレアがこっちに来てるはずだけど」
「あの二人ならフリルのところに行ってると思うぜ?多分あっちのほう」

 ダックスと別れてフリルのもとへと行くと、テレアとなにやら談笑していて、エナがその様子をちょっと離れたところから眺めていた。

「あっ、シューイチさん」
「お待たせ、フリルの様子どう?」
「朝に比べたら随分元気になってますね」

 エナの言葉を受けて談笑している二人に顔を向けると、テレアの話をフリルがいつもの無表情で聞き手に回っている光景があった。
 一見するとテレアが一方的に喋り倒してるように見えるが、フリルの言葉にテレアが笑顔で返してる場面もあるので、あれでちゃんと会話が成立しているみたいだ。

「ルーデンスさんたちとの話はどうなりました?」
「そのことをフリルを含めて話したいけど、あの二人の邪魔するのは気が引けるなぁ」
「テレアちゃんも楽しそうですしね、歳が近いからか話も合うみたいですし、見てると姉妹のようでちょっと微笑ましいですね」

 エナとテレアも傍から見たら姉妹みたいだけどね。
 まあ仲良きことは美しきことかな。

「エナには先に話しておくけど、明日の一座の公演が勝負どころだから」
「次の公演日が勝負だとは私も思ってましたけど、明日ですか……」

 エナもやはり俺と同じように次の公演の時に、ロイが仕掛けてくると予想してたみたいだ。
 エナとロイ……何やら因縁がありそうなこの二人。
 ロイはどうだか知らないが、エナはロイに対して憎悪にも似た感情を持っているのが節々から見て取れる。
 このリンデフランデに来て三日経ったが、その間にエナの過去に関わる出来事や人物のおかげで少しずつこの子のことがわかって来たものの、やはりまだまだ謎が多い。
 基本的にはエナが話してくれるのを待つ方針なんだが、周りがどんどんエナの情報を押し付けてくるのが現状である。

「リンデフランデに来てもう三日ですか……本来なら昨日にはすでに出発してるはずなんですけどね」
「俺が首を突っ込んだせいで申し訳ない」
「いいですよー?シューイチさんて多分そういう人ですからー?」

 なんか含みを持たせた言い方をしてきた。

「でもそのおかげでシエルさんやテレアちゃんにフリルちゃん……ほかにも沢山の人たちと知り合えました」
「エナって俺と会う前はずっと一人で旅してたんだよな?」

 俺の言葉にエナが頷いて、少し遠い目をしながら上を見上げる。

「冒険者である関係上、ギルドの依頼で割と色んな地域に足を運んで色んな人と知り合いましたけど、誰かと一緒に旅をするのは初めてのことですね。正直な話一人のほうが色々と楽ではありましたけど、誰かと一緒に旅するのもこれはこれでいいものです」

 顔を俺に向けて、エナが薄く微笑む。
 この子自然にこういうアクションしてくるんだけど、俺がそれを目の当たりにする度にドキドキしてしまうのを、もうちょっと自覚してほしいなぁ。

「多分テレアちゃんも同じこと考えてると思いますけど、シューイチさんと出会ってから一気に自分を取り巻く環境が変わっちゃいましたよ」
「まるで俺がトラブルメーカーみたいな言い方やめてほしいんだけど」
「自覚がなかったんですか?」

 実は少し自覚してるし、それについては申し訳ない気持ちで一杯である。

「あっ小指なら詰めますんで」
「いりませんよ……でも別に嫌なわけじゃないんですよ?もし嫌だったらこうして一緒に旅なんてしてませんし、テレアちゃんだってもしかしたらヤクトさんたちのところに残ってたかもしれませんしね」

 エナもテレアも傍におらず、たった一人でこの異世界で生きてる状況とか死んでもいやだな。
 でもこの世界に転生した直後にエナに出会えなかったら、そういう未来に一直線だったわけで……エナには本当に感謝している。

「シューイチさんのそういうところ不思議ですよね……でもそれは間違いなくシューイチさんの魅力だと思いますので、その魅力は無くさないでほしいですね」
「そういうのってなくしたくてもなくせるもんじゃないだろう」
「ええ、ですからこれからも程々に色んなことに首突っ込んでくださいね?私も程々に付き合いますから」

 ニッコリと笑うエナの笑顔を見ていると、この子の過去なんてどうでもよくなってくる。
 この笑顔を見られなくなるくらいなら、現状を崩したくないと思うけども、多分この先色々な状況がそれを許さないんだろうな。特にあのロイのせいで。あいつはほんとあいつは!

「あれっ?お兄ちゃんいつの間に来てたの?」
「……シューイチ?」

 エナの隣に座る俺に、ようやくテレアが気が付いてそれに倣ってフリルも俺に顔を向ける。

「なんか楽しそうに話してたから、邪魔しちゃ悪いと思ってさ」
「お兄ちゃんが邪魔なわけないよ!」

 言いながら俺のもとにテレアが駆け寄ってきた。
 この子も随分と俺に懐いてくれてるけど、なんでこんなに懐いてくれてるのだろうとたまに疑問に思うこともある。
 一瞬だけリリアさんの意味ありげな微笑みが脳裏をよぎったが、俺はそれを見ないふりをした。
 ええわかってますよ、わかってますとも!

「嬉しいことを言ってくれるねぇ、お前さんはぁ」
「お兄ちゃんなんだかお年寄りみたい」

 言いながら頭をなでなですると、テレアが苦笑いしながら俺をお年寄り扱いしてきた。
 フリルがそんな俺とテレアの様子を、何か言いたそうな顔で見てくる。

「……何か言いたいことでも?」
「いやそれ俺の台詞だからな?」

 相変わらずフリルは何考えてるかわかんないな。
 でも昼前に会った時よりも大分調子を戻してるみたいで安心した。

「それじゃあ全員揃ったことだし、明日のことについて詳しく話したいから、座ってくれ」

 俺の声に従って、テレアとフリルがその場に腰を下ろす。
 それを合図に俺はルーデンスさんと話し合い決めたことを、三人に伝えていくのだった。



「そういうことだから、フリルは明日の公演は一回休みな?」
「……歌いたいのに」

 俺の説明を聞き終わったフリルが面白くなさそうな顔でそう言った。
 気持ちは痛いほどわかるんだけど、ここは我慢してもらわないといけない。

「フリルの歌を利用されて公演中に神獣が復活するなんてことになったら、最悪の事態になるからな……フリルだってそんなのは嫌だろ?」
「……一座のみんなには代えられない……わかった」

 自分のせいで一座が危険に晒されることを天秤にかけたのだろう、フリルが渋々ながらも承諾してくれた。
 
「その代わりフリルちゃんのことは私たちがちゃんと守りますからね?」
「テレアも頑張って、フリルお姉ちゃんのこと守るよ!」

 二人のやる気も十分みたいだな。
 ここは俺も気合を入れないといけない。
 とここで気になったことがあったので聞いてみることにする。

「そういや俺全然知らないんだけど、神獣ってどんな姿なんだろうな?」
「調べていた時はいろいろ著説が出てきたんですが、一番多かったのが巨大な亀のような見た目だったとのことですね」

 亀か……俺の世界で言うところの玄武みたいなもんかな?
 もしそうなら少なくともその亀を含めて神獣が四体はいることになるな。
 玄武、朱雀、青龍、白虎。
 ……うんあんまり深く考えるのはやめよう。

「亀か……防御力は高そうだけど動きは鈍い感じがするな」
「もし仮に復活しちゃったら、ちゃんと戦えるのかな……?」

 テレアができれば避けたい未来を想像して、暗い表情になっていく。

「復活するなんて考えたくもないけど、最悪の場合また俺が裸になる必要があるだろうなぁ……」
「お兄ちゃんが……」
「裸に……」

 テレアとエナがそれぞれ呟いて頬を染めながら俺から顔を逸らした。
 やめて!そのアクションは傷つくから!
 ていうかテレアにもちゃんと説明したんだから受け入れてほしいもんだ……。

「……露出狂?」
「俺自身の名誉のために言うけど、それは違うぞ?」

 何も好き好んで裸になるわけじゃないんだ。
 俺がもっと強くなれば裸になる機会も減るとは思うが、ぶっちゃけ今の俺はテレアにすら手も足もでないので、こればっかりはどうしようもないのである。

「でも裸になったお兄ちゃん凄かったもんね……炎の中から蘇ってきたときはテレア本当にびっくりしたもん」
「あの時は心配させてすまなかったねぇ」

 テレア泣き叫んでたもんなぁ……。
 裸という状態じゃなければ、あの時の俺は最高にかっこよかったはずだけに本当にこの能力が憎々しい。

「とっとにかく!神獣と戦うことになるなんて未来は絶対に避けなければいけませんね!」
「そっそうだね!復活しちゃったら大変なことになっちゃうもんね!」
「……シューイチが?」
「「……」」

 フリルがボソッと呟いた言葉に反応して、無理やり引き上げた二人のテンションが急下降した。

「フリル、お口にチャック」
「……うい」

 そんなアホな会話を挟みつつ、明日の公演に向けての対策を話し合う俺たちであった。
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