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懇願~早朝の出待ち~
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結局大騒ぎになってしまったことで、国の憲兵団が駆け付けてきたものの、一座の団員たちがもっともらしい適当な言い訳を並べ立て誤魔化したおかげで、疑問を浮かべながら憲兵団は帰っていった。
無事に騒ぎも収束したので、俺たちは再び仮設宿舎のルーデンスさんの部屋へと戻って来た。
ラフタさんが事件の顛末を話し終わった後、ルーデンスさんは俺たちに向き直り再び頭を下げたのだ。
「フリルに続いてあの二匹のことと言い、お前さん方には迷惑をかけたようで……一座を代表してお礼する、ありがとう」
「まあとにかく、何事もなくてよかったですよ」
俺の言葉を受けてルーデンスさんが顔を上げるも、複雑な表情を浮かべていた。
少し考えるそぶりを見せたあと、ルーデンスさんが口を開く。
「今回の件、どう思うかの?」
「人為的に引き起こされた事件ですね、間違いないです」
ルーデンスさんの言葉を受けて、エナがこれ以上にないくらい力強く断言した。
「犯人は……言うまでもないか」
「はい、先程のあの人でしょうね」
あのキザ男以外に誰だというのか。
最悪アイツじゃないにしろ、おそらくはアイツの関係者……カルマ教団の仕業だろう。
昔母親に「証拠もないのに決めつけてはいけません!」と言われたことがあるが、そんな当たり前の常識すら通じない相手ってのはどこの世界にもいるもんなんだなぁ。
「ふむ……しかしわからんのがなぜこの一座を……ひいてはフリルを狙っておるのか」
あれ?もしかしてルーデンスさんってフリルが歌魔法を使えるってこと知らないのか?
ふとエナに視線を向けると、俺の考えを視線から読み取ったらしく、俺を横目でチラ見して小さく頷いた。
エナ曰く使い手の滅多にいない高等な魔法らしいし、エナのように魔法に長けた人じゃないと気が付けない物なのかもな。
「恐らくですが、フリルちゃんは新緑の歌姫として有名ですし、教団としてはそんなフリルちゃんを自分たちの下に引き入れることで、プロバガンダ的な役割をさせる腹積もりなんだと思います」
「カルマ教団はただでさえ評判が良くないからなぁ」
エナのもっともらしい意見に賛同したものの、それが嘘であることは当然知ってのことだ。
フリルの歌魔法については知らせる必要はないと思ったんだろう。
「まったくもって困った連中じゃわい……」
「安心しろよ座長!次アイツが来たときはアタシがぶん殴ってでも追い返すからさ!アタシだってコックルやピースケの件で頭に来てるんだ!」
相当腹に据えかねてるのか、ラフタさんが怒りの形相で殴るアクションをした。
「お前さん方はいつまでこの国に滞在する予定なのかな?」
「二日ほどの予定ではありますが……」
「そうか……悪いことは言わん、明日にはこの国を出た方がいいじゃろうな」
そう言ってルーデンスさんが目を伏せる。
これ以上この件に深入りして、俺たちまでカルマ教団に目を付けられるべきではないという配慮なんだろうなぁ。
部屋中に重い沈黙がのしかかるも、ほどなくしてエナが口を開く。
「そう……ですね。明日にはこの国を発とうと思います」
その言葉を最後にこの会話は打ち切られることとなった。
一座の団員たちに別れをつげ、俺たちはモヤモヤとした気分を抱えたまま、宿への道のりを歩いて行く。
俺たちは誰一人口を開かず、少し気まずい空気が取り巻いている。
「エナお姉ちゃん、あれでよかったのかな?」
その空気に耐えかねたテレアが、エナに対し問いかけた。
「いいんですよテレアちゃん、これ以上深入りしてしまったら座長さんの厚意を無駄にすることになりますから」
「あれはやっぱりそういう意味だったんだな」
「はい……正直なところカルマ教団に深入りするなというのは私も同意見です」
ちゃんと聞いたわけではない物の、エナが過去にあの教団と何らかの関わりがあったことからこその意見なんだろうな。
俺としてはそんなエナの意見を尊重したいと思う反面、テレアのように本当にあれでよかったのか?という思いもあり、その二つが俺の中で複雑に絡み合う。
「でもフリルお姉ちゃんはこのままだとどうなっちゃうのかな?」
テレアなりにちゃんと今回の件を理解しているらしく、狙われてるだろうフリルの安否を心配しているようだ。
優しい子だからなぁ……一度関わってしまった以上、気になってしまうんだろうな。
「お兄ちゃんもやっぱりエナお姉ちゃんと同じ……なのかな?」
「俺は……」
テレアの問いかけに俺はすぐに答えることができなかった。
正直俺だってどうしていいのかわからないのだ。
結局その後はこの件については誰も触れることなく、少し重苦しい空気を引きずったまま宿に着き、俺たちはそれぞれの部屋で就寝したのだった。
明けて翌日。
結局昨日の一件のことがずっと心に棘のように引っかかっていて、そればかり気にするあまりちゃんと寝られなかった。
「はぁ……どうするべきなんだろうな」
もう何度目かもわからないその言葉を呟いた俺は、ベッドから起き上がり軽く身支度を整えて宿の自室を後にした。
軽く外でも散歩してこれば少しは気が晴れるかも……そんなことを思いつつ宿を出ようと出口までやってきた。
「……待ってた」
「うおわっ!?」
外へと続く宿屋の扉を開けた途端、俺を待ち構えていたらしい見知った緑髪の少女と鉢合わせた。
「お前、フリルじゃないか!?何やってんだこんな朝っぱらから!?」
「……シューイチを出待ちしてた」
どっちかというと出待ちされるのはフリルの方なんじゃ……というツッコミをぐっと堪え、俺は話を続ける。
「一人でこんなところに来たら、また一座の人間に心配かけるぞ?」
「……今日は公演ないから大丈夫。……私も絶賛フリー」
「うん、それならいいかってならねーよ!お前もしかして誰にも何も言わずに来たんじゃないだろうな?」
「……それいつものことだから」
相変わらず独特のリズムで話すので、会話がしづらいったらないな!
どうしたもんかと頭を掻いていると、フリルがやけに真剣な眼差しで俺を見ているのに気が付く。
「俺に何か用なのか?」
「……お仕事の依頼に来た」
「仕事の依頼?」
俺の言葉にフリルが小さく頷く。
「……ルーデンス旅芸人一座を助けてほしい」
「めっちゃざっくりしてるな」
「……だめ?」
フリルが首をかしげる。
ダメとかそれ以前の問題が山積みだからな?
「冒険者として俺たちに依頼をしたいなら、まずはギルドを通してこい。話はそれからだ」
「……何日か前にギルドに依頼を出しに行ったことあるけど、話にならないって突っぱねられた」
すでに行っていたとは恐れ入る。見かけによらず行動力あるなこの子。
「そりゃそんなざっくりした内容じゃ断られるのも当たり前だろ」
「……他にどう言えばいいのかわからない」
その内容じゃ仮に正式な依頼として受理されたとしても恐らく誰もやりたいだなんて思わないだろうし、事実をありのままにしてもカルマ教団が関わっているとなると、そんな依頼は誰も受けたがらないだろう。
どの道今回の一件を解決したいなら、まず冒険者ギルドに依頼すること自体が間違いなのだ。
「……おじじは気にしてない風を装ってるけど、実はこの国に来てからずっと嫌がらせされてて結構参ってる」
「この国に来てからって……そもそも一座がこの国きたのって何時なんだ?」
「……10日前で、昨日は二回目の公演だった」
ということは、俺たちがまだマグリドにいた頃からあのキザ野郎がちょっかい出してきてるのか。
見たところルーデンスさんももう歳だし、10日も嫌がらせされ続けてたら相当身体にも精神にも負担が大きいだろうな。
フリルがなんとかしようと冒険者ギルドまで足を運んだのも頷ける。
「……このまま嫌がらせされたからなんて理由で一座を終わらせたくない」
「一つ聞きたいんだけど、フリルは一座が解散することについては容認しているのか?」
「……本当は嫌だけど、おじじがそう決めたのなら仕方ない」
フリルの心を占める割合は、自分の気持ちよりもルーデンスさんの事のほうが上回っているんだろうな。
「一座が解散したら、フリルはどうするんだ?」
「……どうもしない、今までと変わらずおじじの傍にいる」
これはなんとなくだけど、ルーデンスさんはそれを良しとしないと思う。
フリルの両親を見つけるまでは死んでも死にきれないとまで言ってたしな。
「……一座の解散はもう避けられないなら、きちんとした形で終わらせるべきだと思う」
「それには俺も同意だけどな」
あんな奴のせいで、あの素晴らしい一座が潰されていいわけがないんだ。
俺だってそんなことはわかっているし、それはエナだって同じだと思う。
過去の経験が邪魔をしているだけで、本当はエナだってあの一座を……引いてはフリルのことを助けたいと思っているはずなんだ。
だけどカルマ教団には関わらない方がいいという意見は、無視するべきはないというのもまた事実なのであって……。
「……昨日の事件を見て、もうシューイチしか頼れる人がいないって思った」
「全裸だったけどな」
「……全裸でもいい……一座を、おじじを助けてほしい」
さて……思いがけずフリルの一座やルーデンスさんへの想いの強さを知ってしまった。
狙われているのは自分なのに、それでも自分じゃなくて一座やルーデンスさんを助けてほしいとこの子は懇願している。
その想いはとても高尚なものに思える反面、不安定で触れただけで壊れてしまいそうな危うい儚さを含んでいる。
「仮に俺が一座をカルマ教団から救ったとしても、どうせ一座は解散するんだろ?だったら意味なんてないんじゃないのか?」
「……意味がなくなんてない、一座やおじじには最後まで笑顔でいてほしい。……あの教団のせいでみんなが笑顔のまま終わることができないなんて私は嫌」
「そっか」
我ながら意地悪な質問をしてしまったが、これで俺の心も決まった。
結局は俺がどうしたいかってことなんだよな。
「わかったよ、俺に何ができるかって話だけど、あの一座を救ってみせるよ」
「……本当に?」
「ただし救うのは一座だけじゃないぞ?俺はフリルだって助けてやりたい」
「……ロリコン?」
「なんでやねん!」
なんでここにきてネタを挟んでくるかなこの子は!?
折角頑張ってシリアスな空気作ってたのにすべてが台無しだ!
「……冗談、頼りにしてる」
そう言って小さく笑うフリルを見つつ、またエナにお人よしと言われてしまうのだろうな……と思い俺は苦笑を禁じえなかった。
無事に騒ぎも収束したので、俺たちは再び仮設宿舎のルーデンスさんの部屋へと戻って来た。
ラフタさんが事件の顛末を話し終わった後、ルーデンスさんは俺たちに向き直り再び頭を下げたのだ。
「フリルに続いてあの二匹のことと言い、お前さん方には迷惑をかけたようで……一座を代表してお礼する、ありがとう」
「まあとにかく、何事もなくてよかったですよ」
俺の言葉を受けてルーデンスさんが顔を上げるも、複雑な表情を浮かべていた。
少し考えるそぶりを見せたあと、ルーデンスさんが口を開く。
「今回の件、どう思うかの?」
「人為的に引き起こされた事件ですね、間違いないです」
ルーデンスさんの言葉を受けて、エナがこれ以上にないくらい力強く断言した。
「犯人は……言うまでもないか」
「はい、先程のあの人でしょうね」
あのキザ男以外に誰だというのか。
最悪アイツじゃないにしろ、おそらくはアイツの関係者……カルマ教団の仕業だろう。
昔母親に「証拠もないのに決めつけてはいけません!」と言われたことがあるが、そんな当たり前の常識すら通じない相手ってのはどこの世界にもいるもんなんだなぁ。
「ふむ……しかしわからんのがなぜこの一座を……ひいてはフリルを狙っておるのか」
あれ?もしかしてルーデンスさんってフリルが歌魔法を使えるってこと知らないのか?
ふとエナに視線を向けると、俺の考えを視線から読み取ったらしく、俺を横目でチラ見して小さく頷いた。
エナ曰く使い手の滅多にいない高等な魔法らしいし、エナのように魔法に長けた人じゃないと気が付けない物なのかもな。
「恐らくですが、フリルちゃんは新緑の歌姫として有名ですし、教団としてはそんなフリルちゃんを自分たちの下に引き入れることで、プロバガンダ的な役割をさせる腹積もりなんだと思います」
「カルマ教団はただでさえ評判が良くないからなぁ」
エナのもっともらしい意見に賛同したものの、それが嘘であることは当然知ってのことだ。
フリルの歌魔法については知らせる必要はないと思ったんだろう。
「まったくもって困った連中じゃわい……」
「安心しろよ座長!次アイツが来たときはアタシがぶん殴ってでも追い返すからさ!アタシだってコックルやピースケの件で頭に来てるんだ!」
相当腹に据えかねてるのか、ラフタさんが怒りの形相で殴るアクションをした。
「お前さん方はいつまでこの国に滞在する予定なのかな?」
「二日ほどの予定ではありますが……」
「そうか……悪いことは言わん、明日にはこの国を出た方がいいじゃろうな」
そう言ってルーデンスさんが目を伏せる。
これ以上この件に深入りして、俺たちまでカルマ教団に目を付けられるべきではないという配慮なんだろうなぁ。
部屋中に重い沈黙がのしかかるも、ほどなくしてエナが口を開く。
「そう……ですね。明日にはこの国を発とうと思います」
その言葉を最後にこの会話は打ち切られることとなった。
一座の団員たちに別れをつげ、俺たちはモヤモヤとした気分を抱えたまま、宿への道のりを歩いて行く。
俺たちは誰一人口を開かず、少し気まずい空気が取り巻いている。
「エナお姉ちゃん、あれでよかったのかな?」
その空気に耐えかねたテレアが、エナに対し問いかけた。
「いいんですよテレアちゃん、これ以上深入りしてしまったら座長さんの厚意を無駄にすることになりますから」
「あれはやっぱりそういう意味だったんだな」
「はい……正直なところカルマ教団に深入りするなというのは私も同意見です」
ちゃんと聞いたわけではない物の、エナが過去にあの教団と何らかの関わりがあったことからこその意見なんだろうな。
俺としてはそんなエナの意見を尊重したいと思う反面、テレアのように本当にあれでよかったのか?という思いもあり、その二つが俺の中で複雑に絡み合う。
「でもフリルお姉ちゃんはこのままだとどうなっちゃうのかな?」
テレアなりにちゃんと今回の件を理解しているらしく、狙われてるだろうフリルの安否を心配しているようだ。
優しい子だからなぁ……一度関わってしまった以上、気になってしまうんだろうな。
「お兄ちゃんもやっぱりエナお姉ちゃんと同じ……なのかな?」
「俺は……」
テレアの問いかけに俺はすぐに答えることができなかった。
正直俺だってどうしていいのかわからないのだ。
結局その後はこの件については誰も触れることなく、少し重苦しい空気を引きずったまま宿に着き、俺たちはそれぞれの部屋で就寝したのだった。
明けて翌日。
結局昨日の一件のことがずっと心に棘のように引っかかっていて、そればかり気にするあまりちゃんと寝られなかった。
「はぁ……どうするべきなんだろうな」
もう何度目かもわからないその言葉を呟いた俺は、ベッドから起き上がり軽く身支度を整えて宿の自室を後にした。
軽く外でも散歩してこれば少しは気が晴れるかも……そんなことを思いつつ宿を出ようと出口までやってきた。
「……待ってた」
「うおわっ!?」
外へと続く宿屋の扉を開けた途端、俺を待ち構えていたらしい見知った緑髪の少女と鉢合わせた。
「お前、フリルじゃないか!?何やってんだこんな朝っぱらから!?」
「……シューイチを出待ちしてた」
どっちかというと出待ちされるのはフリルの方なんじゃ……というツッコミをぐっと堪え、俺は話を続ける。
「一人でこんなところに来たら、また一座の人間に心配かけるぞ?」
「……今日は公演ないから大丈夫。……私も絶賛フリー」
「うん、それならいいかってならねーよ!お前もしかして誰にも何も言わずに来たんじゃないだろうな?」
「……それいつものことだから」
相変わらず独特のリズムで話すので、会話がしづらいったらないな!
どうしたもんかと頭を掻いていると、フリルがやけに真剣な眼差しで俺を見ているのに気が付く。
「俺に何か用なのか?」
「……お仕事の依頼に来た」
「仕事の依頼?」
俺の言葉にフリルが小さく頷く。
「……ルーデンス旅芸人一座を助けてほしい」
「めっちゃざっくりしてるな」
「……だめ?」
フリルが首をかしげる。
ダメとかそれ以前の問題が山積みだからな?
「冒険者として俺たちに依頼をしたいなら、まずはギルドを通してこい。話はそれからだ」
「……何日か前にギルドに依頼を出しに行ったことあるけど、話にならないって突っぱねられた」
すでに行っていたとは恐れ入る。見かけによらず行動力あるなこの子。
「そりゃそんなざっくりした内容じゃ断られるのも当たり前だろ」
「……他にどう言えばいいのかわからない」
その内容じゃ仮に正式な依頼として受理されたとしても恐らく誰もやりたいだなんて思わないだろうし、事実をありのままにしてもカルマ教団が関わっているとなると、そんな依頼は誰も受けたがらないだろう。
どの道今回の一件を解決したいなら、まず冒険者ギルドに依頼すること自体が間違いなのだ。
「……おじじは気にしてない風を装ってるけど、実はこの国に来てからずっと嫌がらせされてて結構参ってる」
「この国に来てからって……そもそも一座がこの国きたのって何時なんだ?」
「……10日前で、昨日は二回目の公演だった」
ということは、俺たちがまだマグリドにいた頃からあのキザ野郎がちょっかい出してきてるのか。
見たところルーデンスさんももう歳だし、10日も嫌がらせされ続けてたら相当身体にも精神にも負担が大きいだろうな。
フリルがなんとかしようと冒険者ギルドまで足を運んだのも頷ける。
「……このまま嫌がらせされたからなんて理由で一座を終わらせたくない」
「一つ聞きたいんだけど、フリルは一座が解散することについては容認しているのか?」
「……本当は嫌だけど、おじじがそう決めたのなら仕方ない」
フリルの心を占める割合は、自分の気持ちよりもルーデンスさんの事のほうが上回っているんだろうな。
「一座が解散したら、フリルはどうするんだ?」
「……どうもしない、今までと変わらずおじじの傍にいる」
これはなんとなくだけど、ルーデンスさんはそれを良しとしないと思う。
フリルの両親を見つけるまでは死んでも死にきれないとまで言ってたしな。
「……一座の解散はもう避けられないなら、きちんとした形で終わらせるべきだと思う」
「それには俺も同意だけどな」
あんな奴のせいで、あの素晴らしい一座が潰されていいわけがないんだ。
俺だってそんなことはわかっているし、それはエナだって同じだと思う。
過去の経験が邪魔をしているだけで、本当はエナだってあの一座を……引いてはフリルのことを助けたいと思っているはずなんだ。
だけどカルマ教団には関わらない方がいいという意見は、無視するべきはないというのもまた事実なのであって……。
「……昨日の事件を見て、もうシューイチしか頼れる人がいないって思った」
「全裸だったけどな」
「……全裸でもいい……一座を、おじじを助けてほしい」
さて……思いがけずフリルの一座やルーデンスさんへの想いの強さを知ってしまった。
狙われているのは自分なのに、それでも自分じゃなくて一座やルーデンスさんを助けてほしいとこの子は懇願している。
その想いはとても高尚なものに思える反面、不安定で触れただけで壊れてしまいそうな危うい儚さを含んでいる。
「仮に俺が一座をカルマ教団から救ったとしても、どうせ一座は解散するんだろ?だったら意味なんてないんじゃないのか?」
「……意味がなくなんてない、一座やおじじには最後まで笑顔でいてほしい。……あの教団のせいでみんなが笑顔のまま終わることができないなんて私は嫌」
「そっか」
我ながら意地悪な質問をしてしまったが、これで俺の心も決まった。
結局は俺がどうしたいかってことなんだよな。
「わかったよ、俺に何ができるかって話だけど、あの一座を救ってみせるよ」
「……本当に?」
「ただし救うのは一座だけじゃないぞ?俺はフリルだって助けてやりたい」
「……ロリコン?」
「なんでやねん!」
なんでここにきてネタを挟んでくるかなこの子は!?
折角頑張ってシリアスな空気作ってたのにすべてが台無しだ!
「……冗談、頼りにしてる」
そう言って小さく笑うフリルを見つつ、またエナにお人よしと言われてしまうのだろうな……と思い俺は苦笑を禁じえなかった。
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