18 / 169
宝物~幸せの花飾り~
しおりを挟む
テレアを仲間に加えて、いざすぐにエルサイムへ!……とはいかないもので、長旅には準備が必要になってくる。
それは旅の必需品だったり、友達や親との一時の別れだったり。
エルサイムへの遠征は5日後とした俺たちは、ヤクトさんのご厚意もあり出発の日までそのまま宿に泊まることになった。
実のところ、ヤクトさんからの連絡がいつ来るかわからなかったこともあり、二人して宿にこもりっぱなしだったので、いい機会とばかりに旅の準備と観光も兼ねてマグリドの城下町をエナと二人して練り歩いたのが昨日の話。
そして本題(?)は出発を4日後に控えた今日である。
「う~ん……どうしよう?」
アクセサリーショップのショーケースの前で悩むこと10分。
絶対に似合うと思うんだよなぁ……値段的には全然買えちゃうんだけど……でもなぁ……。
「やはり買おう!」と思ったら、「いややっぱ待てよ?」となりショーケースの前をうろうろしてるのでさぞかし今の俺は怪しい男に見られてることだろう。すいませんねぇこっちもちょっと必死なんですよ。
そうして30分ほど怪しい男の見本であり続けた俺はついに決心し、ショーケースの中の商品を購入するに至った。
「か……買ってしまった……!」
心臓がバクバクと早鐘している。
父親の秘蔵コレクションのエッチなDVDをこっそり拝借する時ですら、クールにこなしたこの俺がなんてざまだ……情けない。
しかし勢いで買ってしまったものの、これどうしようかな?
いやどうするもなにも折角買ったんだから、然るべき人物に渡せばいいだけなんだけど……いいだけなんだけど!
「あれ?シューイチさん、こんなところでなにしてるんですか?」
「違います僕そういうんじゃないです」
「こんなところでなにしてるんですか?シューイチさん」
くそっ誤魔化せなかった。
まさかここでエナに遭遇してしまうとは予想外だった。
「折角「人違いしちゃって恥ずかしい思いしちゃった……次からは気を付けないと!」って気分にさせてあげようとしたのに、なんでスルーするかな?」
「嫌ですよそんな気分になるのは」
「それで?エナはこんなところで何してるの?」
「それを私が聞いたんですけど……」
エナが軽くため息を吐く。
適当なことを言って誤魔化す作戦は失敗してしまったみたいだ。
「暇だったからさ、ちょっとブラブラ~っとね」
「そうだったんですか?実は私もなんですよ」
そうか、エナも暇なのか……暇なのか。
後でエナを探して声をかける予定だったから、これは渡りに船かもしれない。誘うなら絶好のチャンスだ。
ほらいけ!ちょっと軽く「暇なら俺と一緒に行こうぜ?」くらい言えるだろ?ほら言えって!
「良かったらシューイチさんも一緒にどうですか?暇なんですよね?」
ほらぁ!ぼやぼやしてるからエナに先手とられちゃったじゃん!!
「あーうん、そうだな!一緒に行くか!暇人同士さ!」
「なんかその言い方引っかかりますね……まあ確かに暇人なんですけどー」
もう自分のグダグダ加減に嫌気が差してきた。
「昨日も思ったんだけどやっぱマグリドってライノスに比べて都会だよなぁ」
昨日と同じようにエナと連れ立ってマグリドの城下町を散歩する。
努めて冷静に振舞うものの、すれ違う男どもからの「なんであんな可愛い子がこんな冴えない野郎と……」な視線が引っ切り無しに突き刺さってくるものだから、俺の心はすでに弱音を吐き続けている。
ライノスでの時もそうだったが、エナと一緒に歩くといつもこうだ。
「ライノスは王の方針で森などを必要以上に切り開かず、なるべく自然のままを保ち外観をよくするように心がけてるって話ですからね」
そりゃまたエコなことで。
でもその方針のおかげでライノスの空気はとても澄んでいたし、なんだか居心地が良かったんだよな。
とはいえマグリドにはライノスにはない都会っぽさもあるので一長一短って感じだ。
街中を歩く人たちのファッションもライノスよりもおしゃれな感じするし。
「そういや気になってたんだけど、エナってああいうおしゃれな服とか着ないのか?」
「う~ん……着たいって気持ちはありますよ?私だって女の子ですからね」
「それなら着ればいいんじゃないの?」
「だってああいう服って基本的に旅をし続けてる冒険者には耐久度的にも頼りないし、結局丈夫で機能性の高い服を選んじゃうんですよね」
まあバリバリのおしゃれをして冒険者してる奴なんて見たこと……いや探せばそれなりにいると思うけど、少なくとも俺は見たことないしな。
「そっそれならさ?アクセサリーとか……いいんじゃね?」
「そう思って以前可愛いお花の髪飾りをつけてたことがあるんですけど、魔物の攻撃をかわしたときに木にぶつかって壊して以来、つけるのやめました……」
なんでそういうこと言っちゃうかな?渡しづらいじゃん!!
いや、エナに悪気はないんだ……悪いのはこの時代と世界と魔物と木だ。お前ら名前覚えたからな?
「冒険者をやめてどこか静かな町にでも腰を据えるなら、ああいう可愛い格好したいですね」
「一応人並みにおしゃれしたい欲はあるわけね?」
「そりゃありますよー!……でも今のところ冒険者をやめるという選択肢はないですね」
そう言ったエナの顔に心なしか影が差したような気がした。
実のところエナって謎が多いんだよな。
12歳の頃から一人で冒険者をしてるみたいだし、門外不出な魔力の活性化の手段を知っていたり……聞いてみたい気もするけど、まだそう言った事情に踏み込むのは早いんじゃないか?と思う心がその欲求を押しとどめる。
この辺の線引きって難しいところだよな……下手に踏み込んでもしもエナの不興を買ってしまい、もう俺と一緒に行くことはできないなんて言われたら、後悔してもしきれないと思う。
「あのシューイチさん……もしかして具合悪いですか?」
よほど難しい顔でもしていたのだろうか、エナが心配して様子を伺ってきた。
「ごめんごめん!大丈夫全然元気だからさ!」
「でもさっきから心ここにあらずって感じでしたよね?」
やだこの子、俺のことよく見てるじゃない!
エナの顔がだんだん不安で彩られていく。
「えっと……もしかして私邪魔でしたか?何なら私先に帰りますけど……?」
「邪魔じゃないよ!全然邪魔じゃないから!帰らなくていいから!!」
いきなりネガティブスイッチ入れないでほしい!
「そっそうですか……?それならいいんですけど?」
ふう……なんとか誤魔化すことが出来たぞ。
でも「これ」どうしよう……なんかものすごく渡しづらくなっちゃったなぁ……。
「そういえばシューイチさん、さっきアクセサリーショップから出てきましたよね?何か買ったんですか?」
「それ俺じゃなくてショーイチ君っていう俺の友達の知り合いだよ?」
「なにか隠してませんか?」
アクセサリーショップから出てきたところから見られてたのかよ……もう誤魔化しきれないじゃん……。
もういいや、素直に白状しよう。いらないって言われたらテレアにプレゼントすればいいんだし。
「実はこれを買ってたんだ……」
そう言ってエナに紙袋を手渡して「開けてもいいよ?」と目で促す。
「え?なんですかこれ?開けてもいいんですか?」
「うん、エナの為に買ったものだし」
「私に……?」
なんだが壊れ物を扱うような手つきで丁寧に袋を開けていく。
そして中に入ってた透明なケースを取り出し、それを見たエナが目を見開いた。
「これって……昨日私がさっきの店で見てたお花の髪飾り……!?」
「ああ……うん」
昨日、旅用の買い物途中でエナがさっきの店を覗いてみたいと言ったので一緒に付き合ったんだが、その時にエナはショーケースに入ったこの髪飾りを見てたからそれが気になって、こうして今日買いに来てしまったわけだ。
「これを買いに行ってたんですか?」
「昨日それをじっと見てたからほしいのかな?と思ってさ……」
俺のその言葉を聞いて、エナが何だか申し訳ない顔をし始める。
「あー……ごめんなさい気を使わせたみたいで……実はこれ、欲しくて見てたんじゃなくて「これと同じものを昔つけてたなー」って思って見てたんですよ……」
そういうオチかーい!
なんだよそれー凹むなぁー。
「そうですか……だからさっきからシューイチさんの様子がおかしかったんですね」
「あーなんかごめんな?それはテレアに上げるからさ?」
花の髪飾りをエナの手から取ろうとしたら、手をあげて逃げられたので俺の手が空を切る。
「私の為に買ってくれたんじゃなかったんですか?」
「いやそうだけど……いらないだろ?」
再度取り戻そうとしたが、今度は手を下げられたせいでまた俺の手が空を切る。
「どうしてこれを私に買おうって思ったんですか?」
「え?それを言わせるの!?」
「ぜひとも」
何その羞恥プレイ!この子Sなの!?
もうさっきから恥ずかしさが限界点突破してて穴を掘ってでも入りたい気分なんですけど!
「ほら……エナにはいつもお世話になってるし、今回のテレアの件だって頑張ってもらったし……それに俺と関わっちゃったせいで面倒ごとに巻き込まれまくってるだろ?だからせめてものお詫びというか……お礼というか……」
こういう時、「非モテ」と「女性関係不慣れ」というステータスが円滑なセリフ回しを妨害してくる。
真っ赤になりながらエナを見ると、なぜかエナも俺に負けないくらい真っ赤になっていた。
「えっと……まさかそんなまっとうな理由が出てくるとは思わなくて……ただの気まぐれとか、テレアちゃんにも同じもの買ってましたーとかいうオチかと思ってて……」
俺を何だと思ってるんだろうか?
「もういいじゃん!返してくれよぅ!」
「どうしてですか?私に買ってくれたんじゃないんですか?」
「そうだけど……だってこういうものはもうつけないって言ったじゃん」
「言いましたけど、いらないなんて言ってないじゃないですか?」
「言ったじゃん!」って言いそうになったけど、よくよく考えると言ってなかったので危うく売り言葉に買い言葉をしてしまうところだった。
「えっと……じゃあその花の髪飾りもらってくれないかな?」
「はい!よろこんで!大事にしますからね!」
俺の言葉にエナが満面の笑顔で返してくれた。
その笑顔が見れただけでどうしようもなく嬉しかったが、照れくささに負けて俺は目を逸らすのだった。
ちなみに結論から言うとエナはこの髪飾りをつけることはなかった。
どうしてかと尋ねたところ―――
「これは私の宝物ですから!誰にも見せないで、一人の時に眺めて幸せな気分に浸るための物ですから……ね?」
―――と悪戯っぽく微笑みながら言われて、またしても俺は照れて目を逸らしてしまうのだった。
それは旅の必需品だったり、友達や親との一時の別れだったり。
エルサイムへの遠征は5日後とした俺たちは、ヤクトさんのご厚意もあり出発の日までそのまま宿に泊まることになった。
実のところ、ヤクトさんからの連絡がいつ来るかわからなかったこともあり、二人して宿にこもりっぱなしだったので、いい機会とばかりに旅の準備と観光も兼ねてマグリドの城下町をエナと二人して練り歩いたのが昨日の話。
そして本題(?)は出発を4日後に控えた今日である。
「う~ん……どうしよう?」
アクセサリーショップのショーケースの前で悩むこと10分。
絶対に似合うと思うんだよなぁ……値段的には全然買えちゃうんだけど……でもなぁ……。
「やはり買おう!」と思ったら、「いややっぱ待てよ?」となりショーケースの前をうろうろしてるのでさぞかし今の俺は怪しい男に見られてることだろう。すいませんねぇこっちもちょっと必死なんですよ。
そうして30分ほど怪しい男の見本であり続けた俺はついに決心し、ショーケースの中の商品を購入するに至った。
「か……買ってしまった……!」
心臓がバクバクと早鐘している。
父親の秘蔵コレクションのエッチなDVDをこっそり拝借する時ですら、クールにこなしたこの俺がなんてざまだ……情けない。
しかし勢いで買ってしまったものの、これどうしようかな?
いやどうするもなにも折角買ったんだから、然るべき人物に渡せばいいだけなんだけど……いいだけなんだけど!
「あれ?シューイチさん、こんなところでなにしてるんですか?」
「違います僕そういうんじゃないです」
「こんなところでなにしてるんですか?シューイチさん」
くそっ誤魔化せなかった。
まさかここでエナに遭遇してしまうとは予想外だった。
「折角「人違いしちゃって恥ずかしい思いしちゃった……次からは気を付けないと!」って気分にさせてあげようとしたのに、なんでスルーするかな?」
「嫌ですよそんな気分になるのは」
「それで?エナはこんなところで何してるの?」
「それを私が聞いたんですけど……」
エナが軽くため息を吐く。
適当なことを言って誤魔化す作戦は失敗してしまったみたいだ。
「暇だったからさ、ちょっとブラブラ~っとね」
「そうだったんですか?実は私もなんですよ」
そうか、エナも暇なのか……暇なのか。
後でエナを探して声をかける予定だったから、これは渡りに船かもしれない。誘うなら絶好のチャンスだ。
ほらいけ!ちょっと軽く「暇なら俺と一緒に行こうぜ?」くらい言えるだろ?ほら言えって!
「良かったらシューイチさんも一緒にどうですか?暇なんですよね?」
ほらぁ!ぼやぼやしてるからエナに先手とられちゃったじゃん!!
「あーうん、そうだな!一緒に行くか!暇人同士さ!」
「なんかその言い方引っかかりますね……まあ確かに暇人なんですけどー」
もう自分のグダグダ加減に嫌気が差してきた。
「昨日も思ったんだけどやっぱマグリドってライノスに比べて都会だよなぁ」
昨日と同じようにエナと連れ立ってマグリドの城下町を散歩する。
努めて冷静に振舞うものの、すれ違う男どもからの「なんであんな可愛い子がこんな冴えない野郎と……」な視線が引っ切り無しに突き刺さってくるものだから、俺の心はすでに弱音を吐き続けている。
ライノスでの時もそうだったが、エナと一緒に歩くといつもこうだ。
「ライノスは王の方針で森などを必要以上に切り開かず、なるべく自然のままを保ち外観をよくするように心がけてるって話ですからね」
そりゃまたエコなことで。
でもその方針のおかげでライノスの空気はとても澄んでいたし、なんだか居心地が良かったんだよな。
とはいえマグリドにはライノスにはない都会っぽさもあるので一長一短って感じだ。
街中を歩く人たちのファッションもライノスよりもおしゃれな感じするし。
「そういや気になってたんだけど、エナってああいうおしゃれな服とか着ないのか?」
「う~ん……着たいって気持ちはありますよ?私だって女の子ですからね」
「それなら着ればいいんじゃないの?」
「だってああいう服って基本的に旅をし続けてる冒険者には耐久度的にも頼りないし、結局丈夫で機能性の高い服を選んじゃうんですよね」
まあバリバリのおしゃれをして冒険者してる奴なんて見たこと……いや探せばそれなりにいると思うけど、少なくとも俺は見たことないしな。
「そっそれならさ?アクセサリーとか……いいんじゃね?」
「そう思って以前可愛いお花の髪飾りをつけてたことがあるんですけど、魔物の攻撃をかわしたときに木にぶつかって壊して以来、つけるのやめました……」
なんでそういうこと言っちゃうかな?渡しづらいじゃん!!
いや、エナに悪気はないんだ……悪いのはこの時代と世界と魔物と木だ。お前ら名前覚えたからな?
「冒険者をやめてどこか静かな町にでも腰を据えるなら、ああいう可愛い格好したいですね」
「一応人並みにおしゃれしたい欲はあるわけね?」
「そりゃありますよー!……でも今のところ冒険者をやめるという選択肢はないですね」
そう言ったエナの顔に心なしか影が差したような気がした。
実のところエナって謎が多いんだよな。
12歳の頃から一人で冒険者をしてるみたいだし、門外不出な魔力の活性化の手段を知っていたり……聞いてみたい気もするけど、まだそう言った事情に踏み込むのは早いんじゃないか?と思う心がその欲求を押しとどめる。
この辺の線引きって難しいところだよな……下手に踏み込んでもしもエナの不興を買ってしまい、もう俺と一緒に行くことはできないなんて言われたら、後悔してもしきれないと思う。
「あのシューイチさん……もしかして具合悪いですか?」
よほど難しい顔でもしていたのだろうか、エナが心配して様子を伺ってきた。
「ごめんごめん!大丈夫全然元気だからさ!」
「でもさっきから心ここにあらずって感じでしたよね?」
やだこの子、俺のことよく見てるじゃない!
エナの顔がだんだん不安で彩られていく。
「えっと……もしかして私邪魔でしたか?何なら私先に帰りますけど……?」
「邪魔じゃないよ!全然邪魔じゃないから!帰らなくていいから!!」
いきなりネガティブスイッチ入れないでほしい!
「そっそうですか……?それならいいんですけど?」
ふう……なんとか誤魔化すことが出来たぞ。
でも「これ」どうしよう……なんかものすごく渡しづらくなっちゃったなぁ……。
「そういえばシューイチさん、さっきアクセサリーショップから出てきましたよね?何か買ったんですか?」
「それ俺じゃなくてショーイチ君っていう俺の友達の知り合いだよ?」
「なにか隠してませんか?」
アクセサリーショップから出てきたところから見られてたのかよ……もう誤魔化しきれないじゃん……。
もういいや、素直に白状しよう。いらないって言われたらテレアにプレゼントすればいいんだし。
「実はこれを買ってたんだ……」
そう言ってエナに紙袋を手渡して「開けてもいいよ?」と目で促す。
「え?なんですかこれ?開けてもいいんですか?」
「うん、エナの為に買ったものだし」
「私に……?」
なんだが壊れ物を扱うような手つきで丁寧に袋を開けていく。
そして中に入ってた透明なケースを取り出し、それを見たエナが目を見開いた。
「これって……昨日私がさっきの店で見てたお花の髪飾り……!?」
「ああ……うん」
昨日、旅用の買い物途中でエナがさっきの店を覗いてみたいと言ったので一緒に付き合ったんだが、その時にエナはショーケースに入ったこの髪飾りを見てたからそれが気になって、こうして今日買いに来てしまったわけだ。
「これを買いに行ってたんですか?」
「昨日それをじっと見てたからほしいのかな?と思ってさ……」
俺のその言葉を聞いて、エナが何だか申し訳ない顔をし始める。
「あー……ごめんなさい気を使わせたみたいで……実はこれ、欲しくて見てたんじゃなくて「これと同じものを昔つけてたなー」って思って見てたんですよ……」
そういうオチかーい!
なんだよそれー凹むなぁー。
「そうですか……だからさっきからシューイチさんの様子がおかしかったんですね」
「あーなんかごめんな?それはテレアに上げるからさ?」
花の髪飾りをエナの手から取ろうとしたら、手をあげて逃げられたので俺の手が空を切る。
「私の為に買ってくれたんじゃなかったんですか?」
「いやそうだけど……いらないだろ?」
再度取り戻そうとしたが、今度は手を下げられたせいでまた俺の手が空を切る。
「どうしてこれを私に買おうって思ったんですか?」
「え?それを言わせるの!?」
「ぜひとも」
何その羞恥プレイ!この子Sなの!?
もうさっきから恥ずかしさが限界点突破してて穴を掘ってでも入りたい気分なんですけど!
「ほら……エナにはいつもお世話になってるし、今回のテレアの件だって頑張ってもらったし……それに俺と関わっちゃったせいで面倒ごとに巻き込まれまくってるだろ?だからせめてものお詫びというか……お礼というか……」
こういう時、「非モテ」と「女性関係不慣れ」というステータスが円滑なセリフ回しを妨害してくる。
真っ赤になりながらエナを見ると、なぜかエナも俺に負けないくらい真っ赤になっていた。
「えっと……まさかそんなまっとうな理由が出てくるとは思わなくて……ただの気まぐれとか、テレアちゃんにも同じもの買ってましたーとかいうオチかと思ってて……」
俺を何だと思ってるんだろうか?
「もういいじゃん!返してくれよぅ!」
「どうしてですか?私に買ってくれたんじゃないんですか?」
「そうだけど……だってこういうものはもうつけないって言ったじゃん」
「言いましたけど、いらないなんて言ってないじゃないですか?」
「言ったじゃん!」って言いそうになったけど、よくよく考えると言ってなかったので危うく売り言葉に買い言葉をしてしまうところだった。
「えっと……じゃあその花の髪飾りもらってくれないかな?」
「はい!よろこんで!大事にしますからね!」
俺の言葉にエナが満面の笑顔で返してくれた。
その笑顔が見れただけでどうしようもなく嬉しかったが、照れくささに負けて俺は目を逸らすのだった。
ちなみに結論から言うとエナはこの髪飾りをつけることはなかった。
どうしてかと尋ねたところ―――
「これは私の宝物ですから!誰にも見せないで、一人の時に眺めて幸せな気分に浸るための物ですから……ね?」
―――と悪戯っぽく微笑みながら言われて、またしても俺は照れて目を逸らしてしまうのだった。
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる