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仲間~新たな旅路へ~
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「えっと……冗談ですよね?」
そう言ってヤクトさんを見るも、とても冗談を言ってるような顔ではなかった。
隣に座るリリアさんも同じような真剣な表情をしてるのを見るに、おそらく突発的に出てきた言葉じゃないなこれは。
「僕は冗談で他人にいきなり大事な娘を預けたりなんかしないさ?勿論ちゃんとした理由があってのことだよ?」
手元のお茶を飲み干して軽く息を吐き一息ついた後、椅子に座り直しヤクトさんがその理由をぽつぽつと話し始める。
「今回の事件を受けてひとつ決心したことがあってね?今まで断り続けてきた爵位と領地の授与を受けることにしたんだ」
「ってことは……貴族になるってことですか?」
俺の言葉にヤクトさんが頷いた。
どういうことだろう?シルクス夫妻は今までずっとその手の話は断り続けていたとのことだったのに。
そこまで思ったところで一つの考えに辿り着いた。
「この国の貴族に対抗するためですか?」
「その通りだよ。君はそうやって自分で色々と察してくれるから実に会話しやすくて助かるよ」
急に褒めないでくれないかな?照れちゃうから。
しかし貴族になるのか……。
「これからテレアのことはテレア様と呼んだ方がいいのかな?」
「普通の呼び方でいいよぉ……」
テレアが微妙に嫌そうな顔をした。
「リドアードの件は氷山の一角だと思うんだ。多分何かしらの手を打たないとあの手の手合いは後を絶たない」
ことあるごとにあんな面倒くさい奴に絡まれてたら、おちおち平和に暮らしてなんていられないだろうしなぁ。
それにこういうのって誰かが先陣切って始めると「じゃあ俺も」と後に続く輩がわんさか出てくるもんだし。
このままそれらをいちいち相手にするよりは、自分たちも同じ立場になり攻められる前にこちらから攻めてやろうって感じかな?
「貴族になることで面倒くさいことも増えるけど、このまま他の貴族たちのいやがらせや脅迫めいた勧誘を断り続けるよりは……ね?それに自慢じゃないけど僕たちのことを支持してる人たちも一杯いるし、冒険者だったころの外部とのつてもあるから、いっそ貴族になってこの国の貴族問題に真っ向から立ち向かってやろうと思ってね」
温和な顔してるヤクトさんだが、どうやら殴られっぱなしは性に合わない性格のようで……。
隣のリリアさんもうんうんと頷いているところを見るに、夫婦揃って似た者同士のようだった。
「だが問題は山ほどある。その問題の中でも僕らが一番に気に掛けないといけないのがテレアのことなんだよ」
ようやくだが、どうしてヤクトさんが俺たちにテレアを預けたいと言ったのかわかってきた気がするぞ。
「情けないことに何に変えても守らないといけないテレアを、リドアードから守ることが出来なかったからね……これから貴族になるということはあの手の手合いと真っ向からぶつかっていくことになるけど、そうなってくると真っ先に狙われるのはテレアだと思うんだ」
なにせリドアードが前例を作ってしまっているからな。
この二人に真っ向からぶつかっても勝ち目はないが、テレアを人質にでもされてしまったら一気に手を出せなくなることは証明されてしまっているわけだし。
テレアという存在はこの二人にとっても心の支えでもあると同時に、貴族問題に立ち向かっていく上では弱点にもなってしまうのだ。
「勿論預ける相手は誰でもいいってわけじゃないんだ。僕が信頼を置けて、かつテレアを守ることが出来る力を持った人じゃないとね……そこで君たちだよ」
「ぽっと出のどこの馬の骨とも知れない若造に対して物凄い信頼感ですね?」
期待値が高すぎて胃に穴空きそう。
「だってテレアが懐いているじゃないか?もうそれだけで僕たちにとっては信頼に足る人たちであると断言できるよ」
判断基準はテレアなのか。
まあライノス国で一人逃げ回ってた時も、誰にも助け求められなかったレベルで人見知りだったテレアが、こんなに心を開いてるのを見たら俺がヤクトさんと同じ立場だとしても信頼を寄せてしまうだろうなぁ……って、つい熱い自画自賛をしてしまった。
「でも一つ間違ってますよ?俺にはテレアを守る力なんてありませんよ」
ぶっちゃけ平常時の俺はテレアに手も足も出ないと思う。
「それこそ何を言ってるんだって思うよ?だって君はあのガルムスを倒したじゃないか?」
「たったしかに?倒し?ました……けど?」
「ガルムスとは現役時代に何度かやりあってるんだけど結局決着がつく前に僕たちが冒険者を引退してしまったからね。テレアの話ではまさに圧倒的な実力で僕でさえ倒すに至らなかったガルムスを完膚なきまで叩きのめしたそうじゃないか?」
うん、あいつのとっておきの奥の手を出させたうえでぶっ飛ばして壁に叩きつけましたが。
でもそれは全裸になると無敵になるという突拍子もない能力のおかげであって……もういっそのことをそれを白状するか?
ああだめだ!例えそれを言ったところで信じてもらえないばかりか、逆に信じてもらえたとしてもガルムスを倒したという事実に何も変化がないから何も変わらないじゃん!
「炎に包まれながらもまるで不死鳥のように蘇って、そこからガルムスに手も足も出させることもなく完膚なきまで叩きのす様が格好良かったと、この三日間ずっとテレアから聞かされていてね」
「おっお父さん!それは言わないでってテレア言ったよね!?」
テレアも何話してくれちゃってんの?
しかもその内容に何の間違いのないところが余計に質が悪い!
「ここまで条件がそろってる相手をみすみす逃せるわけがないだろ?妻も君たちならと言ってくれてるし」
「いやでも……テレアはそれでいいのか?折角苦労して両親の下に戻ってこれたのに俺たちと一緒に行くってことはまた離れ離れになるってことなんだぞ?」
「テレアはお兄ちゃんとエナお姉ちゃんならいいよ?」
うわーお!
「ほら娘もこう言ってる」
「いやでも……あの……」
だって人様の大事な娘さんを預かるんだぞ?ペットの犬猫を一日二日預かるのとはわけが違うわけで、俺の心情も理解してほしいと思うんだが、二人の……この親子の意志は変わらないようだ。
「これは本当に真面目なお願いなんだ。不甲斐ないことに貴族問題に立ち向かいながらテレアを守る力がないことは、今回のリドアードの件で僕らは嫌というほど思い知らされている。この国の貴族問題を粗方片付けて僕たちが安心してテレアと暮らせるようになるまで、どうかテレアを預かってくれないか?」
そう言って立ち上がりヤクトさんが深々と頭を下げてくる。
どうしたもんかと思い、今まで事の成り行きを静観していた隣のエナを見る。
「私は問題ありませんよ?実はこのままテレアちゃんとお別れしてしまうのは寂しいと思ってたので」
エナがにっこりと微笑みながら賛成の意を示してきた。
俺がここまで渋ってるのはテレアと一緒なのが嫌なのではなくて、人様の大事なお子さんを預かるということにそれ相応の責任が発生するのを知っているからであって……ようするに団地で沢山の子供たちの世話を焼いてた頃の記憶が俺の邪魔をしているわけだ。
それなのにエナまでが賛成してしまったらもう断れないじゃないか……。
「……テレア?俺たちと一緒に来るか?」
俺は腹を括った。
「うん!」
俺のその言葉にテレアが満面の笑顔で答えてくれた。
……そういえばテレアの笑顔を見たのはこれがはじめてな気がするな。
一緒に行くことになったのだから、この子のこの笑顔を守っていってあげないとな。
「いやはや良かった良かった!君たちなら安心してテレアを預けることができるよ!」
「テレア……頑張ってね?」
「うん!テレア一生懸命お兄ちゃんたちの役に立てるように頑張るよ!」
大盛り上がりである。
どうでもいいけどリリアさんの「頑張ってね?」にはテレアが意図できない別の意味が含まれている気がした。
「実のところ君が断っていたところでどの道テレアは君たちと一緒に行くことになっていたんだけどね」
「はいっ?」
そう言ったヤクトさんに対し、俺は思わずまぬけな声で返事を返してしまった。
「だって案内もなしに君たちはどうやってエルサイムの僕たちの元拠点に行くつもりだったんだい?」
「うが……やられた……」
どの道俺に選択の余地なんてなかったってことか。
「それにどっちみちこの国にいたら貴族たちに狙われるからね、元々エルサイムにいる僕の友達に頼んで預かってもらう手はずだったよ」
「それを先に言ってくださいよ……」
「僕はテレアの意志を尊重したまでさ?」
この人ほんと食えねえな!
まあこのくらいの図太さがないと王様のご意見番なんてできないんだろうけど。
「テレアだってルカーナよりはシューイチくんたちのほうがいいよね?」
「別にルカーナおじさんのことは嫌いじゃないけど……テレアはやっぱりお兄ちゃんたちがいいよ」
「ルカーナさん良い人ですけど、ちょっと取っつきにくいところありますものね」
なんでそのルカーナって人こんなにディスられてるの?
あったこともないそのルカーナという人に少なからず同情してしまう。
「エルサイムまでは馬車で大体一週間の距離だ。エルサイムについた後はテレアが僕たちの元拠点の場所を知っているから案内してもらうといい。そこからはさっきから話題になってるルカーナという人に話を通しておくから彼の世話になるといいよ」
馬車で一週間か……長旅になりそうだな。
「基本的には街道沿いに馬車を走らせていけば問題なく着けるけど何分距離があるからね。途中にこのマグリドほどの大きさではないけど「リンデフランデ」という国があるから、まずはそこへ行くのを目標にしていけばいいよ。多分四日もあれば着けると思う」
「リンデフランデは今の時期「ルーデンス旅芸人一座」が来てるはずですから、興味があるなら見ていくといいですよ?」
旅芸人一座……サーカスみたいなものかな?
日本にいたころ、一度だけ祖父と一緒にサーカスを見に行ったことがあったが、あれは凄かったなぁ。
「ルーデンス旅芸人一座ですか!楽しみですねテレアちゃん!」
「うん!」
まだ見ぬリンデフランデで待っている娯楽を前に、エナとテレアが盛り上がっているのを横目に俺は今の自分の状況を客観視する。
裸一つで異世界に放り込まれたはずなのに、エナと出会い色々と世話をやいてもらい、あれよあれよといううちにテレアの貴族絡みの事件に巻き込まれて、それをなんとか無事に解決したと思ったらテレアが俺たちの仲間になってしまった。
この異世界ルナティカルに来てからというもの、息もつかせぬ展開の連続で正直目が回りそうだが、日本にいたころとは違う刺激あふれた生活に、俺は少しくらい休みたいと思いつつも心が躍ってしまうのを感じてしまっていた。
そんな自分にため息を吐きつつ、これから始まる長旅に俺は想いを馳せるのだった。
そう言ってヤクトさんを見るも、とても冗談を言ってるような顔ではなかった。
隣に座るリリアさんも同じような真剣な表情をしてるのを見るに、おそらく突発的に出てきた言葉じゃないなこれは。
「僕は冗談で他人にいきなり大事な娘を預けたりなんかしないさ?勿論ちゃんとした理由があってのことだよ?」
手元のお茶を飲み干して軽く息を吐き一息ついた後、椅子に座り直しヤクトさんがその理由をぽつぽつと話し始める。
「今回の事件を受けてひとつ決心したことがあってね?今まで断り続けてきた爵位と領地の授与を受けることにしたんだ」
「ってことは……貴族になるってことですか?」
俺の言葉にヤクトさんが頷いた。
どういうことだろう?シルクス夫妻は今までずっとその手の話は断り続けていたとのことだったのに。
そこまで思ったところで一つの考えに辿り着いた。
「この国の貴族に対抗するためですか?」
「その通りだよ。君はそうやって自分で色々と察してくれるから実に会話しやすくて助かるよ」
急に褒めないでくれないかな?照れちゃうから。
しかし貴族になるのか……。
「これからテレアのことはテレア様と呼んだ方がいいのかな?」
「普通の呼び方でいいよぉ……」
テレアが微妙に嫌そうな顔をした。
「リドアードの件は氷山の一角だと思うんだ。多分何かしらの手を打たないとあの手の手合いは後を絶たない」
ことあるごとにあんな面倒くさい奴に絡まれてたら、おちおち平和に暮らしてなんていられないだろうしなぁ。
それにこういうのって誰かが先陣切って始めると「じゃあ俺も」と後に続く輩がわんさか出てくるもんだし。
このままそれらをいちいち相手にするよりは、自分たちも同じ立場になり攻められる前にこちらから攻めてやろうって感じかな?
「貴族になることで面倒くさいことも増えるけど、このまま他の貴族たちのいやがらせや脅迫めいた勧誘を断り続けるよりは……ね?それに自慢じゃないけど僕たちのことを支持してる人たちも一杯いるし、冒険者だったころの外部とのつてもあるから、いっそ貴族になってこの国の貴族問題に真っ向から立ち向かってやろうと思ってね」
温和な顔してるヤクトさんだが、どうやら殴られっぱなしは性に合わない性格のようで……。
隣のリリアさんもうんうんと頷いているところを見るに、夫婦揃って似た者同士のようだった。
「だが問題は山ほどある。その問題の中でも僕らが一番に気に掛けないといけないのがテレアのことなんだよ」
ようやくだが、どうしてヤクトさんが俺たちにテレアを預けたいと言ったのかわかってきた気がするぞ。
「情けないことに何に変えても守らないといけないテレアを、リドアードから守ることが出来なかったからね……これから貴族になるということはあの手の手合いと真っ向からぶつかっていくことになるけど、そうなってくると真っ先に狙われるのはテレアだと思うんだ」
なにせリドアードが前例を作ってしまっているからな。
この二人に真っ向からぶつかっても勝ち目はないが、テレアを人質にでもされてしまったら一気に手を出せなくなることは証明されてしまっているわけだし。
テレアという存在はこの二人にとっても心の支えでもあると同時に、貴族問題に立ち向かっていく上では弱点にもなってしまうのだ。
「勿論預ける相手は誰でもいいってわけじゃないんだ。僕が信頼を置けて、かつテレアを守ることが出来る力を持った人じゃないとね……そこで君たちだよ」
「ぽっと出のどこの馬の骨とも知れない若造に対して物凄い信頼感ですね?」
期待値が高すぎて胃に穴空きそう。
「だってテレアが懐いているじゃないか?もうそれだけで僕たちにとっては信頼に足る人たちであると断言できるよ」
判断基準はテレアなのか。
まあライノス国で一人逃げ回ってた時も、誰にも助け求められなかったレベルで人見知りだったテレアが、こんなに心を開いてるのを見たら俺がヤクトさんと同じ立場だとしても信頼を寄せてしまうだろうなぁ……って、つい熱い自画自賛をしてしまった。
「でも一つ間違ってますよ?俺にはテレアを守る力なんてありませんよ」
ぶっちゃけ平常時の俺はテレアに手も足も出ないと思う。
「それこそ何を言ってるんだって思うよ?だって君はあのガルムスを倒したじゃないか?」
「たったしかに?倒し?ました……けど?」
「ガルムスとは現役時代に何度かやりあってるんだけど結局決着がつく前に僕たちが冒険者を引退してしまったからね。テレアの話ではまさに圧倒的な実力で僕でさえ倒すに至らなかったガルムスを完膚なきまで叩きのめしたそうじゃないか?」
うん、あいつのとっておきの奥の手を出させたうえでぶっ飛ばして壁に叩きつけましたが。
でもそれは全裸になると無敵になるという突拍子もない能力のおかげであって……もういっそのことをそれを白状するか?
ああだめだ!例えそれを言ったところで信じてもらえないばかりか、逆に信じてもらえたとしてもガルムスを倒したという事実に何も変化がないから何も変わらないじゃん!
「炎に包まれながらもまるで不死鳥のように蘇って、そこからガルムスに手も足も出させることもなく完膚なきまで叩きのす様が格好良かったと、この三日間ずっとテレアから聞かされていてね」
「おっお父さん!それは言わないでってテレア言ったよね!?」
テレアも何話してくれちゃってんの?
しかもその内容に何の間違いのないところが余計に質が悪い!
「ここまで条件がそろってる相手をみすみす逃せるわけがないだろ?妻も君たちならと言ってくれてるし」
「いやでも……テレアはそれでいいのか?折角苦労して両親の下に戻ってこれたのに俺たちと一緒に行くってことはまた離れ離れになるってことなんだぞ?」
「テレアはお兄ちゃんとエナお姉ちゃんならいいよ?」
うわーお!
「ほら娘もこう言ってる」
「いやでも……あの……」
だって人様の大事な娘さんを預かるんだぞ?ペットの犬猫を一日二日預かるのとはわけが違うわけで、俺の心情も理解してほしいと思うんだが、二人の……この親子の意志は変わらないようだ。
「これは本当に真面目なお願いなんだ。不甲斐ないことに貴族問題に立ち向かいながらテレアを守る力がないことは、今回のリドアードの件で僕らは嫌というほど思い知らされている。この国の貴族問題を粗方片付けて僕たちが安心してテレアと暮らせるようになるまで、どうかテレアを預かってくれないか?」
そう言って立ち上がりヤクトさんが深々と頭を下げてくる。
どうしたもんかと思い、今まで事の成り行きを静観していた隣のエナを見る。
「私は問題ありませんよ?実はこのままテレアちゃんとお別れしてしまうのは寂しいと思ってたので」
エナがにっこりと微笑みながら賛成の意を示してきた。
俺がここまで渋ってるのはテレアと一緒なのが嫌なのではなくて、人様の大事なお子さんを預かるということにそれ相応の責任が発生するのを知っているからであって……ようするに団地で沢山の子供たちの世話を焼いてた頃の記憶が俺の邪魔をしているわけだ。
それなのにエナまでが賛成してしまったらもう断れないじゃないか……。
「……テレア?俺たちと一緒に来るか?」
俺は腹を括った。
「うん!」
俺のその言葉にテレアが満面の笑顔で答えてくれた。
……そういえばテレアの笑顔を見たのはこれがはじめてな気がするな。
一緒に行くことになったのだから、この子のこの笑顔を守っていってあげないとな。
「いやはや良かった良かった!君たちなら安心してテレアを預けることができるよ!」
「テレア……頑張ってね?」
「うん!テレア一生懸命お兄ちゃんたちの役に立てるように頑張るよ!」
大盛り上がりである。
どうでもいいけどリリアさんの「頑張ってね?」にはテレアが意図できない別の意味が含まれている気がした。
「実のところ君が断っていたところでどの道テレアは君たちと一緒に行くことになっていたんだけどね」
「はいっ?」
そう言ったヤクトさんに対し、俺は思わずまぬけな声で返事を返してしまった。
「だって案内もなしに君たちはどうやってエルサイムの僕たちの元拠点に行くつもりだったんだい?」
「うが……やられた……」
どの道俺に選択の余地なんてなかったってことか。
「それにどっちみちこの国にいたら貴族たちに狙われるからね、元々エルサイムにいる僕の友達に頼んで預かってもらう手はずだったよ」
「それを先に言ってくださいよ……」
「僕はテレアの意志を尊重したまでさ?」
この人ほんと食えねえな!
まあこのくらいの図太さがないと王様のご意見番なんてできないんだろうけど。
「テレアだってルカーナよりはシューイチくんたちのほうがいいよね?」
「別にルカーナおじさんのことは嫌いじゃないけど……テレアはやっぱりお兄ちゃんたちがいいよ」
「ルカーナさん良い人ですけど、ちょっと取っつきにくいところありますものね」
なんでそのルカーナって人こんなにディスられてるの?
あったこともないそのルカーナという人に少なからず同情してしまう。
「エルサイムまでは馬車で大体一週間の距離だ。エルサイムについた後はテレアが僕たちの元拠点の場所を知っているから案内してもらうといい。そこからはさっきから話題になってるルカーナという人に話を通しておくから彼の世話になるといいよ」
馬車で一週間か……長旅になりそうだな。
「基本的には街道沿いに馬車を走らせていけば問題なく着けるけど何分距離があるからね。途中にこのマグリドほどの大きさではないけど「リンデフランデ」という国があるから、まずはそこへ行くのを目標にしていけばいいよ。多分四日もあれば着けると思う」
「リンデフランデは今の時期「ルーデンス旅芸人一座」が来てるはずですから、興味があるなら見ていくといいですよ?」
旅芸人一座……サーカスみたいなものかな?
日本にいたころ、一度だけ祖父と一緒にサーカスを見に行ったことがあったが、あれは凄かったなぁ。
「ルーデンス旅芸人一座ですか!楽しみですねテレアちゃん!」
「うん!」
まだ見ぬリンデフランデで待っている娯楽を前に、エナとテレアが盛り上がっているのを横目に俺は今の自分の状況を客観視する。
裸一つで異世界に放り込まれたはずなのに、エナと出会い色々と世話をやいてもらい、あれよあれよといううちにテレアの貴族絡みの事件に巻き込まれて、それをなんとか無事に解決したと思ったらテレアが俺たちの仲間になってしまった。
この異世界ルナティカルに来てからというもの、息もつかせぬ展開の連続で正直目が回りそうだが、日本にいたころとは違う刺激あふれた生活に、俺は少しくらい休みたいと思いつつも心が躍ってしまうのを感じてしまっていた。
そんな自分にため息を吐きつつ、これから始まる長旅に俺は想いを馳せるのだった。
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