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遺跡~ヘイト稼ぎの天才~
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テレアと周りに聞こえないように小声で適当な雑談をしつつも、馬車は休むことなく走り続けて5時間ほどたった頃―――
「おうっ着いたぞ!……って起きろてめえら!!」
すっかり熟睡してしまった男二人を起こすべく、馬車を引いていた男が怒鳴り散らす。
「んあ?着いたのか?」
「くあー!よく寝たぜ」
のんきな奴らだなぁ……さっきも思ったがよく荷台の中の劣悪な環境であそこまで熟睡できるもんだ。
「リドアードの旦那待たせるとうるせーから、早くいくぞ!お前らも早く降りろ!」
俺たちに向けた怒鳴り声にテレアがビクッとなる。
いちいち大声出すなよ、怯えてる子もいるんだぞ?
荷台からテレアと共に降りて周りを見渡す。
そこは森の中だったが、俺がこの世界に転生してきたときにいた森との雰囲気の違いに思わずゾッとする。
あの森は空気も澄んでいてどことなく神聖な雰囲気があったが、この森は空気が淀んでいて、かつまとわりつくような不快な感じがした。
すでに日が暮れかけていることも拍車をかけ、森全体に不気味な雰囲気が漂っている。
こんなところにある古代人の遺跡とか絶対ろくなもんじゃないはずだ。
前方を歩くローブの男たちの後について森の中を進んでいく。
ほどなくしてボロボロになって朽ち果てた、神殿の跡地のような場所に出た。
こんな如何にも感じの柱とか、さすが異世界だとまたもや感心する。
「遅かったじゃないか!三時間で来いって言っただろ!?」
突然聞こえた声に驚いて、柱から声の下方向へ顔を向けると、そこには如何にも貴族といった感じの服装で高級そうなアクセサリーをジャラジャラとさせた、ひょろっちぃ男が立っていた。
もしかしなくてもこいつがリドアードの旦那とか言う奴だろうか?
「そうは言いますがね旦那、あの距離を三時間は無理があるってもんですよ」
「これでも飛ばしてきたんですよ?」
「んん?僕に口答えするなんて、お前ら潰されたいのか?」
「いえいえ!そんなわけないじゃないですか!」
うん、こいつで間違いないみたいだな。
俺がそんな風に一人納得していると、リドアードが俺を見て怪訝な表情を浮かべる。
「おい!なんだこいつは?」
「通信で伝えたじゃないですか?シルクスのガキを捕まえて連れてきてくれた奴ですよ」
アクセサリーをジャラジャラさせつつ、値踏みするような卑しい目で見ながらリドアードが俺のもとに歩いてくる。
こいつ歩くたびにジャラジャラ音が鳴るからくっそうるせーな。
「ふん!如何にも平民って感じだな!いいだろう、あの忌々しいシルクス夫妻を始末したらそのガキを捕まえた褒美をくれてやってもいい」
いらねーちょういらねー。
俺に興味をなくしたのか、リドアードはテレアに顔を向ける。
「いちいち手間取らせやがって!このクソガキ!!」
「あうっ!!」
こともあろうに、典型的なヤクザキックでテレアを蹴り飛ばしやがった。
縛られているせいで、受け身を取ることもできずにテレアが地面に倒れる。
思わず手が出そうになったものの、今ここで俺が騒ぎを起こしてしまったら作戦がすべて水の泡になってしまうので、ぐっと堪えた。
お前?今の覚えたからな?
「はあはあ……今はこのくらいにしといてやる……おいお前ら!あともう30分もしたらあの二人がここに来る!遺跡の中に入って準備するぞ!」
そう言って男が踵を返し、遺跡の奥へと歩いていく。
それを忌々しく眺めながらテレアを助け起こす。
「大丈夫かテレア?」
「うん……ちょっと痛かったけどテレアなら大丈夫だよ」
可哀そうに、綺麗な青髪にほこりがついてしまっている。
俺がそれを丁寧に払ってやるとリドアードがいつまでたってもやってこない俺たちを見て怒鳴り散らす。
「なにやってんだお前らも早く来い!あとそいつは大事な人質だからな?丁重に扱えよ?ことが済んだら僕の愛玩奴隷にするつもりなんだから!」
自分で蹴り飛ばしておいてよく言う……。
なんなんだろうこいつは?俺を怒らせる天才なのかな?そんなに俺からのヘイト集めて何がしたいの?
しかし愛玩奴隷とか日本にいたら絶対に聞くことのない単語だな。
俺の作戦が失敗したらテレアは目の前でシルクス夫妻を殺されて、かつあのクソ野郎の愛玩奴隷にされてしまうのか……こりゃ絶対に負けるわけにはいかないな。
このクソ野郎のせいではらわたが煮えくり返っているが、その分絶対にテレアたちを助けるという決意を強固なものにすることができたので、そのことだけは感謝してやろう。
遺跡の奥には階段があり、俺たちはそこを下って地下へとたどり着いた。
狭い廊下を少し進むと大きな広間に出る。
地上に比べると崩壊は進んでおらず、割と当時の姿を保っているのかもしれない。
床を見下ろすと、なにやら魔法陣のようなものが床一杯に描かれている。
「これが例の遺跡の失われてない機能ってやつですか?」
「ああそうだ!この魔法陣は「弱体化」の魔法陣だ。昔は不用意に足を踏み入れて、この魔法陣を踏んだ盗賊たちを弱体化させて、遺跡のガーディアンがそれを排除するという仕掛けが自動で発動していたらしいが、今はその自動化の機能が死んでるせいで魔力を注ぎ込まないと魔法が発動しない」
いわゆる侵入者撃退トラップか。
「これほどの魔法陣を発動させるにゃ、相応の魔力が必要だと思うんですが……当てはあるので?」
「魔法を使える衛兵どもを10人集めた。魔法陣も起動するのをちゃんと確認してあるしぬかりはない!」
「弱体化の魔法陣ね……ガーディアンってのは一体どんなのなんですか?」
突然会話に入り込んできた俺をリドアードが睨みつけてくる。
「なんだ貴様はいきなり……まあいいだろう教えてやる!ストーンゴーレムが二体出てくるんだ!さすがのあの二人も弱体化の魔法陣の中にいたのでは、ひとたまりもあるまい!」
「ストーンゴーレムが二体……ね」
貴重な情報ありがとさん。
「だがあの二人のことだ……もしかしたらその状況でもストーンゴーレムを倒してしまうかもしれないからな……そのために強力な衛兵を雇ってある。」
リドアードが部屋の奥に目を向けると、何やら強そうな剣を腰にぶら下げた屈強な見た目の男が、壁にもたれながらじっとしてた。
「あの二人が現役だった頃、実力だけならヤクト=シルクスに匹敵すると言われていた魔法剣の使い手ガルムスだ!」
魔法剣……エナが言ってたな、魔法と剣を高い域にまで高めた者が使うことができる技だと。
魔力を活性化させながら剣に魔法を絶えず付与し続けなければならないらしく扱いは難しいとのことだが、その威力は絶大らしい。
しかもテレアのお父さんに匹敵するのか……下手したらストーンゴーレムよりも厄介かもしれないな。
ただの成金クソ野郎かと思っていたけど、ここまで用意周到に準備してるとは正直意外だった。
それだけシルクス夫妻の強さがずば抜けてるってことなんだろうけどな。
「しかし旦那?本当にあの二人は来るんですかね?」
ローブの男の一人がリドアードに疑問をぶつける。
「来るさ?あの二人は引退こそしたがまだギルドに籍を置いているからな?遺跡調査の名目で偽造した依頼をギルド経由であの二人に受注させてある!これで死んだとしても遺跡の罠にかかって死んだことになって怪しまれる心配もない!一石二鳥だ!」
いや思いっきり怪しまれるだろうそれ?
やっぱりただの成金クソ野郎だなこいつ……詰めが甘すぎる。
「リドアード様!シルクス夫妻が来ました!!」
地上を見張っていたらしい手下の一人が部屋へと飛び込んできて、シルクス夫妻が来たことを告げた。
場に一気に緊張が走る。
「くくく……ついに来たか!罠があるとも知らずにノコノコとな!」
もう勝った気になっているのか、リドアードが呑気に笑っている。
果たしてそう上手くいくかな?
そう思っていると二人分の足跡が聞こえてくる。
どうやらシルクス夫妻がおいでなすったようだ。
ほどなくして広間に一組の男女が足を踏み入れてきた。
「リドアード!約束通りちゃんと来たぞ!」
「おっとそこで止まれ!それ以上来るなら、お前らの大事な大事な娘の首を目の前ではねるぞ?」
その瞬間俺の隣にいたテレアが、あのガルムスとかいう衛兵に捕まった。
(え?あれ?いつの間に来たんだ!?)
これはかなり予想外だった。
油断してたわけじゃないのに、やすやすとテレアを相手に渡してしまった。
「テレア!!」
「お父さん!お母さん!!」
マジかよ!?
考えが甘かったのは俺も同じじゃないか!
あのクソ野郎のこと笑えないぞこれ!?
思わず動こうとした俺を、ガルムスが睨みつける。
ダメだ、今動いたら確実に殺される……こいつもしや俺の正体に気が付いてるんじゃないだろうな?
こうなった以上「あの二人」に期待するしかない!
「よーしいいな?動くなよ?よしお前ら!魔法陣を起動させろ!!」
リドアードの号令と共に、10人の魔法使いたちが魔法陣に手を置いて魔力を注ぎ始める。
次第に魔法陣が光を放ち始め、弱体化の魔法が発動した。
「ぐっ……これは……!」
「弱体化の魔法陣……!」
「その通りだ!いくら貴様らでもその魔法陣の上では満足に動くこともできまい!」
魔法陣から発せられる強力な弱体化の魔法を受けて、二人が片膝をつく。
やばい……想定していた最悪のケースだ!
「あの二人」は何やってんだよ!?こうならないためにあらかじめ手を打っとく算段だったはずだろ!?
俺の心が焦りに支配されていくのを尻目に、二人はもう立っていられないのか完全に床にへたり込んでしまった。
「……たしかに聞いていた通りだったわね」
「ああ……あの二人を信じて正解だったな」
そう言ってシルクス夫妻がにやりと笑う。
その刹那―――
「ディスペルマジック!!」
聞き覚えのある声で放たれた魔法が、光と共にシルクス夫妻を包み込む。
その瞬間、テレアの父親……ヤクト=シルクスが弾かれたように飛び出し、腰の剣を引き抜いて魔法陣に魔力を注ぎ込んでいる魔法使いを一瞬で二人も切り伏せた。
「アークバインド!!」
その隙を見逃さないとばかりに、リリア=シルクスが立ち上がり魔法を放つ。
俺とテレア、シルクス夫妻を除いた全員が地面から突如生えてきた土の触手に絡めとられ、動きを封じられた。
「なっ!?ばかな!?その魔法陣の上でなぜ動ける!?」
目の前の光景が信じられないとばかりに、驚愕の表情でリドアードが叫ぶ。
「そんなもの、私の魔法で弱体化を解除したからに決まってるじゃないですか?」
まるで小ばかにするように言いながら、見知った人物が広間に姿を現した。
「エナ!?」
「すいませんシューイチさん、少しだけ計画を変更させてもらいました」
言いながら以前俺がテレアにしたような「ごめんね」ポーズをした。
「はーいちょっとすいませんねー?この子は返してもらいますよー?」
突然なんかやる気のない間延びした声が後ろから聞こえて振り返ると、そこには身動きの取れないガルムスからテレアを難なく取り戻した、これまた見知った人物が立っていた。
「シエル!」
「はーい、シエルさんですよー?」
なんだか久しぶりに見る気がするシエルは、とても不機嫌そうだった。
「おうっ着いたぞ!……って起きろてめえら!!」
すっかり熟睡してしまった男二人を起こすべく、馬車を引いていた男が怒鳴り散らす。
「んあ?着いたのか?」
「くあー!よく寝たぜ」
のんきな奴らだなぁ……さっきも思ったがよく荷台の中の劣悪な環境であそこまで熟睡できるもんだ。
「リドアードの旦那待たせるとうるせーから、早くいくぞ!お前らも早く降りろ!」
俺たちに向けた怒鳴り声にテレアがビクッとなる。
いちいち大声出すなよ、怯えてる子もいるんだぞ?
荷台からテレアと共に降りて周りを見渡す。
そこは森の中だったが、俺がこの世界に転生してきたときにいた森との雰囲気の違いに思わずゾッとする。
あの森は空気も澄んでいてどことなく神聖な雰囲気があったが、この森は空気が淀んでいて、かつまとわりつくような不快な感じがした。
すでに日が暮れかけていることも拍車をかけ、森全体に不気味な雰囲気が漂っている。
こんなところにある古代人の遺跡とか絶対ろくなもんじゃないはずだ。
前方を歩くローブの男たちの後について森の中を進んでいく。
ほどなくしてボロボロになって朽ち果てた、神殿の跡地のような場所に出た。
こんな如何にも感じの柱とか、さすが異世界だとまたもや感心する。
「遅かったじゃないか!三時間で来いって言っただろ!?」
突然聞こえた声に驚いて、柱から声の下方向へ顔を向けると、そこには如何にも貴族といった感じの服装で高級そうなアクセサリーをジャラジャラとさせた、ひょろっちぃ男が立っていた。
もしかしなくてもこいつがリドアードの旦那とか言う奴だろうか?
「そうは言いますがね旦那、あの距離を三時間は無理があるってもんですよ」
「これでも飛ばしてきたんですよ?」
「んん?僕に口答えするなんて、お前ら潰されたいのか?」
「いえいえ!そんなわけないじゃないですか!」
うん、こいつで間違いないみたいだな。
俺がそんな風に一人納得していると、リドアードが俺を見て怪訝な表情を浮かべる。
「おい!なんだこいつは?」
「通信で伝えたじゃないですか?シルクスのガキを捕まえて連れてきてくれた奴ですよ」
アクセサリーをジャラジャラさせつつ、値踏みするような卑しい目で見ながらリドアードが俺のもとに歩いてくる。
こいつ歩くたびにジャラジャラ音が鳴るからくっそうるせーな。
「ふん!如何にも平民って感じだな!いいだろう、あの忌々しいシルクス夫妻を始末したらそのガキを捕まえた褒美をくれてやってもいい」
いらねーちょういらねー。
俺に興味をなくしたのか、リドアードはテレアに顔を向ける。
「いちいち手間取らせやがって!このクソガキ!!」
「あうっ!!」
こともあろうに、典型的なヤクザキックでテレアを蹴り飛ばしやがった。
縛られているせいで、受け身を取ることもできずにテレアが地面に倒れる。
思わず手が出そうになったものの、今ここで俺が騒ぎを起こしてしまったら作戦がすべて水の泡になってしまうので、ぐっと堪えた。
お前?今の覚えたからな?
「はあはあ……今はこのくらいにしといてやる……おいお前ら!あともう30分もしたらあの二人がここに来る!遺跡の中に入って準備するぞ!」
そう言って男が踵を返し、遺跡の奥へと歩いていく。
それを忌々しく眺めながらテレアを助け起こす。
「大丈夫かテレア?」
「うん……ちょっと痛かったけどテレアなら大丈夫だよ」
可哀そうに、綺麗な青髪にほこりがついてしまっている。
俺がそれを丁寧に払ってやるとリドアードがいつまでたってもやってこない俺たちを見て怒鳴り散らす。
「なにやってんだお前らも早く来い!あとそいつは大事な人質だからな?丁重に扱えよ?ことが済んだら僕の愛玩奴隷にするつもりなんだから!」
自分で蹴り飛ばしておいてよく言う……。
なんなんだろうこいつは?俺を怒らせる天才なのかな?そんなに俺からのヘイト集めて何がしたいの?
しかし愛玩奴隷とか日本にいたら絶対に聞くことのない単語だな。
俺の作戦が失敗したらテレアは目の前でシルクス夫妻を殺されて、かつあのクソ野郎の愛玩奴隷にされてしまうのか……こりゃ絶対に負けるわけにはいかないな。
このクソ野郎のせいではらわたが煮えくり返っているが、その分絶対にテレアたちを助けるという決意を強固なものにすることができたので、そのことだけは感謝してやろう。
遺跡の奥には階段があり、俺たちはそこを下って地下へとたどり着いた。
狭い廊下を少し進むと大きな広間に出る。
地上に比べると崩壊は進んでおらず、割と当時の姿を保っているのかもしれない。
床を見下ろすと、なにやら魔法陣のようなものが床一杯に描かれている。
「これが例の遺跡の失われてない機能ってやつですか?」
「ああそうだ!この魔法陣は「弱体化」の魔法陣だ。昔は不用意に足を踏み入れて、この魔法陣を踏んだ盗賊たちを弱体化させて、遺跡のガーディアンがそれを排除するという仕掛けが自動で発動していたらしいが、今はその自動化の機能が死んでるせいで魔力を注ぎ込まないと魔法が発動しない」
いわゆる侵入者撃退トラップか。
「これほどの魔法陣を発動させるにゃ、相応の魔力が必要だと思うんですが……当てはあるので?」
「魔法を使える衛兵どもを10人集めた。魔法陣も起動するのをちゃんと確認してあるしぬかりはない!」
「弱体化の魔法陣ね……ガーディアンってのは一体どんなのなんですか?」
突然会話に入り込んできた俺をリドアードが睨みつけてくる。
「なんだ貴様はいきなり……まあいいだろう教えてやる!ストーンゴーレムが二体出てくるんだ!さすがのあの二人も弱体化の魔法陣の中にいたのでは、ひとたまりもあるまい!」
「ストーンゴーレムが二体……ね」
貴重な情報ありがとさん。
「だがあの二人のことだ……もしかしたらその状況でもストーンゴーレムを倒してしまうかもしれないからな……そのために強力な衛兵を雇ってある。」
リドアードが部屋の奥に目を向けると、何やら強そうな剣を腰にぶら下げた屈強な見た目の男が、壁にもたれながらじっとしてた。
「あの二人が現役だった頃、実力だけならヤクト=シルクスに匹敵すると言われていた魔法剣の使い手ガルムスだ!」
魔法剣……エナが言ってたな、魔法と剣を高い域にまで高めた者が使うことができる技だと。
魔力を活性化させながら剣に魔法を絶えず付与し続けなければならないらしく扱いは難しいとのことだが、その威力は絶大らしい。
しかもテレアのお父さんに匹敵するのか……下手したらストーンゴーレムよりも厄介かもしれないな。
ただの成金クソ野郎かと思っていたけど、ここまで用意周到に準備してるとは正直意外だった。
それだけシルクス夫妻の強さがずば抜けてるってことなんだろうけどな。
「しかし旦那?本当にあの二人は来るんですかね?」
ローブの男の一人がリドアードに疑問をぶつける。
「来るさ?あの二人は引退こそしたがまだギルドに籍を置いているからな?遺跡調査の名目で偽造した依頼をギルド経由であの二人に受注させてある!これで死んだとしても遺跡の罠にかかって死んだことになって怪しまれる心配もない!一石二鳥だ!」
いや思いっきり怪しまれるだろうそれ?
やっぱりただの成金クソ野郎だなこいつ……詰めが甘すぎる。
「リドアード様!シルクス夫妻が来ました!!」
地上を見張っていたらしい手下の一人が部屋へと飛び込んできて、シルクス夫妻が来たことを告げた。
場に一気に緊張が走る。
「くくく……ついに来たか!罠があるとも知らずにノコノコとな!」
もう勝った気になっているのか、リドアードが呑気に笑っている。
果たしてそう上手くいくかな?
そう思っていると二人分の足跡が聞こえてくる。
どうやらシルクス夫妻がおいでなすったようだ。
ほどなくして広間に一組の男女が足を踏み入れてきた。
「リドアード!約束通りちゃんと来たぞ!」
「おっとそこで止まれ!それ以上来るなら、お前らの大事な大事な娘の首を目の前ではねるぞ?」
その瞬間俺の隣にいたテレアが、あのガルムスとかいう衛兵に捕まった。
(え?あれ?いつの間に来たんだ!?)
これはかなり予想外だった。
油断してたわけじゃないのに、やすやすとテレアを相手に渡してしまった。
「テレア!!」
「お父さん!お母さん!!」
マジかよ!?
考えが甘かったのは俺も同じじゃないか!
あのクソ野郎のこと笑えないぞこれ!?
思わず動こうとした俺を、ガルムスが睨みつける。
ダメだ、今動いたら確実に殺される……こいつもしや俺の正体に気が付いてるんじゃないだろうな?
こうなった以上「あの二人」に期待するしかない!
「よーしいいな?動くなよ?よしお前ら!魔法陣を起動させろ!!」
リドアードの号令と共に、10人の魔法使いたちが魔法陣に手を置いて魔力を注ぎ始める。
次第に魔法陣が光を放ち始め、弱体化の魔法が発動した。
「ぐっ……これは……!」
「弱体化の魔法陣……!」
「その通りだ!いくら貴様らでもその魔法陣の上では満足に動くこともできまい!」
魔法陣から発せられる強力な弱体化の魔法を受けて、二人が片膝をつく。
やばい……想定していた最悪のケースだ!
「あの二人」は何やってんだよ!?こうならないためにあらかじめ手を打っとく算段だったはずだろ!?
俺の心が焦りに支配されていくのを尻目に、二人はもう立っていられないのか完全に床にへたり込んでしまった。
「……たしかに聞いていた通りだったわね」
「ああ……あの二人を信じて正解だったな」
そう言ってシルクス夫妻がにやりと笑う。
その刹那―――
「ディスペルマジック!!」
聞き覚えのある声で放たれた魔法が、光と共にシルクス夫妻を包み込む。
その瞬間、テレアの父親……ヤクト=シルクスが弾かれたように飛び出し、腰の剣を引き抜いて魔法陣に魔力を注ぎ込んでいる魔法使いを一瞬で二人も切り伏せた。
「アークバインド!!」
その隙を見逃さないとばかりに、リリア=シルクスが立ち上がり魔法を放つ。
俺とテレア、シルクス夫妻を除いた全員が地面から突如生えてきた土の触手に絡めとられ、動きを封じられた。
「なっ!?ばかな!?その魔法陣の上でなぜ動ける!?」
目の前の光景が信じられないとばかりに、驚愕の表情でリドアードが叫ぶ。
「そんなもの、私の魔法で弱体化を解除したからに決まってるじゃないですか?」
まるで小ばかにするように言いながら、見知った人物が広間に姿を現した。
「エナ!?」
「すいませんシューイチさん、少しだけ計画を変更させてもらいました」
言いながら以前俺がテレアにしたような「ごめんね」ポーズをした。
「はーいちょっとすいませんねー?この子は返してもらいますよー?」
突然なんかやる気のない間延びした声が後ろから聞こえて振り返ると、そこには身動きの取れないガルムスからテレアを難なく取り戻した、これまた見知った人物が立っていた。
「シエル!」
「はーい、シエルさんですよー?」
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