無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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侵入~イケメンに生まれたかった~

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「お兄ちゃん……本当にテレアとお父さんたちを助けてくれるの……?」

 エナに犯罪者を見るような目で見られて悲しい気持ちに浸っていた俺に、テレアが恐る恐る聞いてきた。

「当たり前だろ?今日はテレアのおかげでギルドの依頼も上手くいったし、あの槍の男だってテレアが頑張ってくれたから撃退できたんだぞ?今俺たちがここでこうしていられるのはテレアのおかげなんだから、そのお礼をしたいって思うのは当然じゃん?」

 実際のところ、これは建前だ。
 俺の本音はもっと違うものなのだが、実際テレアには感謝してるので今言ったことも嘘でもない。

「そうですよテレアちゃん!シューイチさんの言う通りですよ!私も頑張りますから絶対にテレアちゃんのお父さんたちを助けましょうね!」
「うん……ありがとう二人とも。テレアもがんばるよ!」

 エナの励ましでテレアにも気合が入る。
 最初は気弱そうな子だと思っていたけど、意外なほど芯の強さを持っている。
 これは俺も気合をいれないとだな。

「お兄ちゃん!テレアは何をしたらいいのかな?どうしたらお父さんたちを助けられるのかな?」
「そうだな……多分テレアには一番しんどい役割をやってもらうことになるかもしれないけど、大丈夫か?」

 俺のその言葉に、テレアの表情が一瞬強張るが―――

「お父さんとお母さんを助けられるなら、テレアは頑張るよ!」

 力強く宣言してくれた。

「よしよし!まあ一番しんどい役割とは言ったけど、基本的には俺も一緒だから心配しなくてもいいぞ?」
「え?お兄ちゃんも一緒?」
「テレアばかりに危ない役目を押し付けるわけにはいかないからな」
「私はどうしたらいいんでしょうか?」

 自分も役に立ちたいとばかりに、エナが俺に役割を欲してくる。

「エナはさっき俺に冷たい目をしてきたから役目なんかないぞ?」
「いや、あれは冗談ですよ!?私もテレアちゃんの役に立ちたいんですよ!さっきのことは謝りますから!」
「あはは、冗談だって!エナには俺たちと別行動でやってもらいたいことがあるんだ」

 テレアたちの両親を助けられるかは、エナの働きにかかってると言っても過言ではない。
 そのためにちょっと裏技……というか反則的な手段を使うことになるが、こちとら人命が掛かってるからな。
 それにほら誰かが言ってただろ?「立ってるものは親でも使え」ってさ?




「おーい!誰かいないのかー!?」

 翌日、俺とテレアは二人で町はずれにあるボロボロになった廃墟へをやってきていた。

「おーいっ!!いるんだろ!?出て来いよー!!」

 人の気配は感じるんだが一向に姿を見せないので、さらに大声で呼びかける。

「なんだようるせーな!なんか用か……って、てめーは!?」

 俺の大声に耐えかねたのか、廃墟の入り口からローブを羽織った男がめんどくさそうに出てきて、俺を見るなり驚愕の声を上げる。
 良かった、ちゃんと俺のことを覚えてくれていたようだ。

「なっ何しに来やがったこの化け物!!」

 開口一番ひどい言葉が飛んできた。

「何しに来たとはご挨拶だな?せっかくこいつを連れてきてやったのによ?」
「あうっ!」

 そう言ってロープで縛られ身動きを取れなくなってるテレアを、男に向かって乱暴に突き飛ばした。
 なんだこれ、すっげー心が痛むな。

「こっこいつは……シルクスのガキじゃねーか!?」
「こいつを匿ったせいで変な奴らがこいつを取り戻そうと引っ切り無しに押しかけてきて大迷惑だ!だからこのガキからお前らの居場所を聞き出して、こうして連れてきてやったんだ!感謝しろよ?」

 まあ実際あの槍男なんかと戦う羽目になったから、あながち嘘は言ってない。

「へへっ、なんだよ殊勝なことじゃねーか……てめーには手ひどくやられたが、まあ感謝するぜ?」
「ちょいまち」

 そう言って男がテレアに触れる前にこっちに引き寄せた。

「まさか、ただで渡すと思ってるのか?」
「……ちっなんだよ?金か?」

 男が面倒くさそうな顔でこちらを見てくる。

「お前らリドアードに雇われてるんだろ?今回の件が無事に終わったら報酬たんまりもらうつもりなんだろ?」
「まあそうだがよ……まさかお前?」
「察しがいいな?まあ全部とは言わないからそれを俺にも恵んでくれればそれでいいからよ?」
「……お前顔に似合わずゲスい野郎だな」

 どういう意味だこの野郎。


「あともう一つ条件がある。俺も同行させてもらうぜ?この機会にもしかしたらリドアード家に取り入ることができるかもしれないからな」
「まあいいが……おかしな真似はするなよ?」

 よし、侵入成功!第一段階はクリアだ!
 俺は隣にいるテレアに向けて突き飛ばしてごめんね?という意味合いを込めて、手で「ごめんね?」ポーズを取った。
 それを見てテレアが小さく頷く。
 いくら演技とはいえテレアを突き飛ばしたり口汚い言葉で乱暴な扱いをするのは非常に良心が痛む。
 無事に今回の件が片付いたら、テレアが大好物だというアイスを好きなだけ奢ってあげよう。


 俺たちは廃墟の中の広いリビングのような場所に通された。
 そこには俺たちを出迎えたのとは別の男が二人床に座っていた。

「随分騒がしかったけどなにかあったのか?」
「ああ、目的のガキが手に入ったんだよ」
「シルクスのガキが……ってそいつはあの全裸モンスター!?」

 さっきよりもひどい呼び名を頂いてしまった。
 ていうかモンスターとはなんだモンスターとは?

「こいつがシルクスのガキを連れてきたんだよ」
「そっ……そうか」
「大丈夫かそいつ?いきなりぶん殴ってきたりしねーか?」

 人を猛獣か何かみたいな扱いをしてくる。
 ていうかこいつら三人とも似たような顔してるんで、ローブがあってもなくても誰が誰だかわからなくて混乱しそうになるわ。

「とりあえず、リドアードの旦那に連絡入れろ。シルクスのガキを取り戻したからすぐに行けるってな」
「わかった」

 そう言って男一人が別室へと姿を消す。
 この世界にも通信アイテムが存在してるんだろうか?

「オイお前ら?リドアードの旦那から連絡が返ってきたらすぐに移動するからな?これでも食って準備しとけ」

 なにやら携帯食料のようなものを投げつけられた。
 キャッチしてよく見てみると某カロリーなメイトみたいな奴だった。
 俺知ってるよ?これって飲み物ないときつい奴だよね?
 とはいえせっかくもらったんだし、半分に折って片方をテレアに渡そうと思ったが、今テレアは俺に縛られているので両手がふさがっているんだった。
 どうしたもんかと思案に暮れていると―――

「あーん」

 テレアがその小さい口を一生懸命に開いた。
 これはあれか?食べさせてほしいというあれか?

「おいっ、食わしてやるから口開けろっ」

 気恥ずかしさを乱暴な口調で誤魔化しながら、少しずつテレアに携帯食料を食べさせていく。
 その時に指先がテレアの上唇に触れてしまったのだが、その柔らかさにドキっとしてしまった。
 おいおい何をバカな?テレアはまだまだお子様だぞ?
 ほどなくしてすべて食べ終わると、テレアが俺を見上げて「ありがとうお兄ちゃん」と小さな声で囁いた。
 俺はこみ上げてくる気恥ずかしさを、携帯食料と一緒に胃の中に流し込んだのだった。



「今日の夜、例の作戦を実行するってよ」

 別室から戻ってきた男が開口一番俺たちにそう告げた。

「やっぱり今日やるのか」
「なんかこのガキが戻ってこなくてもやるつもりだったらしいぜ?」
「リドアードの旦那は堪え性がねーからなぁ」

 予想通りテレアの有無など関係なしに、シルクス夫妻を呼び出し始末するつもりだったようだ。
 前もってエナに別行動してもらって正解だったな。

「その作戦ってのはなんだ?どこでやるんだよ?」

 俺がそう質問すると、男たちは面倒くさそうに俺を見たが……。

「ここから半日くらい馬車を走らせたところに古代人の残した古い遺跡があるんだよ」
「そこの遺跡の機能が一部使えるらしくてな」
「シルクス夫妻をそこに呼び出して、そのガキと遺跡の機能を使って始末してしまおうって作戦らしい」

 思ってた以上に色んなことをベラベラと喋ってくれる。
 君らもうちょっと俺のこと疑った方がよくね?

「へぇ~半日馬車を走らせたところにある古代人の残した古い遺跡ねぇ」
「そのガキを連れてきてくれたから、てめーも一応は連れてってやるが、俺たちの邪魔だけはすんなよ?」

 全裸だったとはいえ、俺に手も足も出なかったくせに偉そうですなぁ。
 折角だからもうちょっと情報引き出しておくか。

「その作戦ってお前たちだけでやるの?」
「んなわけねーだろ」
「遺跡の機能があっても俺らが束になったところであの二人には勝てねーよ」
「リドアードの旦那が複数の手下と腕利きの衛兵を一人雇ってるらしい」

 だろうね……正直この三人に全てを任せるのは俺でも嫌だし。

「無駄話してねーでさっさと準備しろ!すぐに出るぞ!」

 もうちょっと情報を引き出したかったけどここらが限界か。
 それから俺たちは馬車の荷台に押し込められて、慌ただしく廃墟を後にした。
 決して乗り心地のよくない馬車に揺られながら、俺は別行動中のエナの安否について考える。
 事が上手く運んでいることは一応わかってはいるものの、決して危険がないわけではないので心配になってしまうものなのだ。

「お兄ちゃん、エナお姉ちゃんのことが心配なの?」

 俺が難しい顔をしていたからか、テレアが心配そうな顔をしながら話しかけてきた。

「ダメだろテレア!気軽に話しかけてきちゃ!」

 小さな声でテレアに注意を促す。

「大丈夫だよ?だってほら?」
「え?……なんだよこいつら寝てるのかよ」

 荷台には俺たちの他に三人の男たちの内の二人が一緒に乗り込んでいたが、その二人はのんきなことに居眠りをしていた。
 まあ半日の距離らしいし移動中は暇だしな、眠くなるのもわかるんだがよくこの揺れの中で寝てられるなこいつらは。

「まあ心配っちゃあ心配だよ」

 エナと出会ってからまだ三日しか経ってないものの、その三日間が濃密すぎたせいでエナに対してはすっかり仲間意識が芽生えてしまっている。
 俺なんかと出会ってしまったばかりに面倒なことに巻き込まれまくってるだろうから、どうしても心配になってしまうんだよな。

「お兄ちゃんとエナお姉ちゃんは、恋人同士なのかな?」
「いやーそれはないわー」

 何を言い出すんだこの子は?
 ちなみ「ないわー」とはエナなんか願い下げ……という意味ではなく、俺がエナに釣り合ってないという意味での「ないわー」である。
 一緒にいると感覚がマヒしてくるが、エナは美少女だから町で一緒に歩いてても結構視線集めるんだよな。

「なんでそんな風に思ったんだ?」
「だって物凄く仲がいいから、そうなのかな……って」
「エナとはそういう関係じゃないよ?ていうか釣り合いが取れないだろ俺とじゃ」

 言っててものすごく悲しくなってきた。
 たはー!イケメンに生まれたかったぜー!

「……テレアはお兄ちゃんのこと、かっこいいと思ってるよ?」
「あはは……ありがとな?嘘でも嬉しいよテレア」

 俺を哀れに思ったのか、慰めてくれたテレアの頭を優しく撫でてあげる。

「……本当なのに……」

 テレアのそのつぶやきは俺の耳には届かず、荷台の揺れる音にかき消されたのだった。
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