無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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確認~現状把握と今後の方針~

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「出来れば動かないで待っていてほしかったんですけど」

 文句を言いながら見習い神様少女シエルが、背中の羽を羽ばたかせながら俺たちの前に舞い降りてきた。

「いやさすがに全裸のままってのは嫌だったから、なにか布でもないかと思って」
「気持ちはお察ししますが変に歩き回って何かあったら私の責任になっちゃうんですよ?」

 俺が死んでしまったこと自体がすでにシエルの責任なんだけど、そこを今ほじくり返しても仕方がないので黙っていることにした。

「背中に羽……天使……様?」

 突然空から舞い降りてきたシエルを見て、エナが信じられないといった表情でつぶやく。

「……もしかして何かすでにやらかしてました?」
「えっと……はい」

 俺の返答に、シエルは頭を抱えた。



 先ほどまでの出来事をかいつまんでシエルに説明していくが、その最中エナはずっと放心したままだった。
 まあ狼に襲われて絶体絶命のところを、謎の全裸男に助けられたと思ったら、突如空から羽の生えた少女が降りてきたんだ……さぞ混乱していることだろう。

「そんなことが……でもよく無事でしたね?魔物に襲われたんですよね?」
「あれって魔物だったの?やけにでかい狼だとは思ったけど……そうか魔物だったのか」
「え?今更そこに気が付くんですか!?」
「餌を食べすぎて育ちすぎた狼なのかと思ってた」
「あの大きさでそれはないと思うんですが……初対面の時から思ってましたが、宗一さんは変な人ですね」

 失礼な。

「でも本当によく無事でしたね?死んでいてもおかしくないと思うんですけど」
「さすがに俺も死を覚悟したけど、なんか全然狼の攻撃が利かなかったんだよね」
「ん~……ちょっとすみません、触らせてもらいますね?」

 そう言ってシエルが俺の頭に手を置いて、目を閉じてなにやら集中し始める。
 10秒くらいそうしていただろうか、目を開けて頭から手を放し怪訝な顔をする。

「特におかしな反応はありませんね?転生の際に何か異変が起きたのかと思ったのですが」
「あの狼の魔物が弱かったとかじゃないのか?」
「そんなことはありません!」

 今まで放心していたエナが、大声とともに俺たちの会話に入り込んできた。

「あのキラーウルフはこの森を通る際に絶対に遭遇してはいけない言われてるくらい、凶暴で凶悪な魔物なんですよ!?」
「えー嘘だー」
「嘘じゃありませんよ!」

 確かに凶暴ではあったけども、俺がちょっと叩いただけで吹っ飛んでしまうような魔物が強いと言われてもにわかに信じられない。
 でもこのエナの様子を見る限り一概に嘘だと切って捨てるのもどうかと思ってしまう。
 あの魔物が弱くなかったのだとすると、考えられるのは俺に何か異変が起きていることなんだけど、そこはたった今シエルに否定されてしまった。

「宗一さん、その時と今でなにか違うことってありますか?」
「違うこと?うーん……あえてあの時と違うと言うなら今はかろうじて全裸じゃないってことくらいかな?」

 そう言って腰に巻き付けた布を指さす。
 正直この布だけでは心もとないけど、全裸でいるよりかはずっと安心感がある。

「……宗一さん、ちょっとその布外してもう一度全裸になってもらえませんか?」
「俺にそういう趣味はないんだけど」
「私だってないですよ!…ごほん!確認したいことがあるのでお願いします」

 本当は凄く嫌だが、確認したいことがあるというなら仕方がない。
 腰布を外し、再び全裸になった俺の頭にシエルが再度手を乗せて目を閉じて集中し始める。

「えっと……確認なんですが、こっちに転生する前に何か変なこと考えたりしました?」
「もう二度と全裸で死ぬのはごめんだとは思ったかな……?」
「このスカポンタン!!!」

 怒号ともに頭を叩かれたが痛くもかゆくもなかった。
 ていうかスカポンタンとはなんだスカポンタンとは。

「転生の際、何も考えちゃダメって言ったじゃないですか!!」
「そんなこと言われてもなぁ」

 シエルは大げさにため息を吐いて、呆れ顔で―――


「宗一さん……あなたには全裸でいる間は無敵になれる能力が備わってしまいました」


 とわけの分からないことをのたまったのだ。

「……全裸になると無敵になる?」

 もう字面がおかしい。なんだ全裸で無敵って?服着たら弱くなるとでもいうのか?

「ちょっと!何私の額に手を当ててるんですか!?熱なんてありませんよ!至って真面目です!!」
「そんな能力、アホすぎて信じられないんだけど」
「私だってこんなアホみたいな能力名を口に出して言う日が来るだなんて思いもしませんでしたよ!」

 じゃあなにか?そのアホみたいな能力のおかげで俺はあの魔物を難なく撃退できたということなのか?
 さすがにそれはないだろうと即座に否定したいところだが、あれだけ噛みつかれたり引っかかれたりしたのに無傷だったせいで、一概に否定できないんだよなぁ。

「ちょっと試してみましょう……宗一さんそこに立ってください、全裸で」

 シエルに言われて、しぶしぶ立ち上がる。
 するとシエルは自分の身の丈ほどある槍をどこからともなく取り出す。

「これは天界から神見習いに支給される護身用の槍なんですが、人間どころかそこに倒れてる魔物くらいなら一撃で消し飛ばせる威力があります」
「あらやだ物騒」
「今からこれを宗一さんに投擲しますから、よけないでくださいね?」
「またまた御冗談を」
「えいっ!!!」

 シエルの細腕から放たれたとは思えない速度で槍が俺に向かって真っすぐ飛んでくる。
 ぶっちゃけよけるなと言われても、こんな速度で投げられたらよけるどころの騒ぎではない。

「ちょっおま!?」

 俺がそう叫ぶのと同時に、槍が俺の胸に突き刺さ―――

 パアンッ!!!

 ―――ることもなく、軽快な音ともに槍が破裂した。
 あたりが静寂包まれる。

「これでわかりましたか?」
「うん……さすがに信じるわ」

 信じられないことに、本当に「全裸になったら無敵になる」能力が俺に備わってしまったようだった。



「これからどうしたらいいのかな?」

 あの後も色々と確認作業をして、一息ついたところでシエルに聞いてみた。

「う~ん……事後確認は終わりましたしぶっちゃけると私の役目はこれで終わりなんですよねぇ」
「そうなの?」
「今回の件の始末書を近日中に書いて上に提出しないといけませんし、こう見えても私もやることいっぱいあるんですよ」

 神様なんて大層な肩書のわりには、そこらのサラリーマンみたいなことを言い出した。

「突き放したみたいな言い方になってしまうんですが、この後は宗一さんの好きにしてもらっていいんですよ」
「好きにしろと言われてもなぁ……」
「もういっそのことその全裸パワーで英雄にでもなったらどうですか?」
「嫌な名前つけんな!」
「じゃあ全裸オブパワーで」

 ネーミングセンス悪っ!!

「あのー」

 俺たちが喧々囂々としていると、今まで事の成り行きを静観していたエナが恐る恐る手を上げる。
 ぶっちゃけ色々とありすぎてちょっと存在を忘れていたのは内緒だ。

「私的には助けてくれたシューイチさんにお礼をしたいんですよ」
「別にお礼なんて……」
「それにさっきから二人の話を聞いてたんですけど、別の世界?から来たんですよね?だったら行く当てもないんじゃないんですか?」
「まあね」
「それならこの森を抜けた先にある町まで一緒に行きませんか?さっきも言いましたけど私その町に手紙を届ける依頼をしてる最中なんですよ。依頼を達成すればギルドから報酬金がもらえますから、そのお金を半分シューイチさんに差し上げますので」

 魅力的な提案ではあるけど、さすがに半分も受け取るのは……。

「そのお金で簡単な装備を整えて、冒険者ギルドに登録しましょう!ギルドに登録して簡単な依頼をこなしていけばお金をもらえますし、宿などもギルド特典で安く泊まれますから、とりあえずの生活基盤はできると思うんです」

 現状、右も左もわからない俺がこの世界で生きるためにはそうするしかないような気もする……ていうかそれしかないんだろうな。
 でもなんか人の好意に付け込む気がしちゃって気が引けるのも確かだ。

「何を迷う必要があるんですか?ここは素直にエナさんの好意と提案に乗っかるべきだと思うんですけど?立ってる物は親でも使えですよ?」

 俺の中でシエルの評価ぐんぐん下がっていく。

「まあでもシエルの言う通りか……じゃあお言葉に甘えようかな?」
「じゃあ早速行きましょう!多分あと一時間も歩けば森を出られると思いますから」

 そう言ってエナが立ち上がったので俺もつられて立ち上がると、エナがとっさに目をそらす。
 なんで?と思ったがよくよく考えると全裸に近い状態なんだよね……ていうかほぼ全裸だこれ。
 この状態がすっかりデフォルトになってしまったせいで自分自身に違和感を感じなくなってしまっていた……いやはや、慣れとは恐ろしい。人間の環境適応能力は高いとは誰が言った言葉だったかな。
 いくら全裸でいれば無敵とはいえ、四六時中全裸でいたらそんなのはもうただの変態だ。早急にエナにお金を分けてもらって服を買う必要があるなこれは。

「じゃあ私はその町まで着いていったら一旦帰りますね」
「えっ?そうなの?」
「さっきも言いましたけど、私だってやることがあるんですよ……個人的には宗一さんの行く末を見守りたい気持ちはあるんですが」

 なんかシエルが遠い目をしながら力なくため息を吐く。
 神様見習いで初日に大失敗をしでかしたということだから、多分それの後始末のことを考えて憂鬱にでもなっているんだろうが、残念ながらそれは自業自得と言う奴だ。むしろ俺被害者だし。
 でもこんなシエルだが、いてくれるなら結構心強い部分もあるので、いなくなるのは心細いな。

「ちょくちょく様子は見に来ますよ?多分しばらくは宗一さんの担当になるでしょうから……ああそうだ」

 シエルがどこからともなく、青いビー玉サイズの玉を取り出す。

「もし緊急で私に連絡を取りたい時があったら、その宝玉を握って心の中で私に話しかけてください」
「それでシエルと連絡が取れるの?」
「よほど特殊な状況でない限りは」

 特殊な状況か……そんな状況になってほしくないなぁ。
 なんて思いながらシエルから宝玉を受け取った。

「……」
「ぶっ!!ちょっと!いきなり宝玉を使って変な念話飛ばしてこないでください!」
「おお!本当に心の中で思ったことがシエルに通じた!凄いなこれ!?」
「次やったら取り上げますからね?」
「……一体に何を言ったんですか?」

 そんなやり取りをしながら、俺たちは森を抜けるために歩き始めるのだった。
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