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しおりを挟む「情けないなぁ…」
きっと春にも呆れられた。なんで人の気持ちがこんなにもわからないんだろう。志津希ならきっと葉津希の気持ちを汲んであげて春の信頼も失わないままでいられる。葉津希のそばにいてあげられる奈津希は葉津希から逃げている。葉津希の本心を聞くのが怖い。
「奈津、コーヒー入れたから起きろ」
「んー、ごめん…」
腕が引っ張られて体が浮く。春は奈津希にマグカップを手渡した。隣に腰掛ける春はやはりなにも言わない。しばらく無言でコーヒーをすする。温かさが体に染みた。
「奈津」
名前を呼ばれて春に顔を向ける。大きな手で顔をぐいっと挟まれた。
「ぅっ…にゃに、」
「ごめんな」
春の口から出た言葉があまりにも意外で奈津希は目を見開いた。
「やっぱり俺が付いて行ってやれば良かった。」
心が温かくなるのがわかる。奈津希は頬に張り付いた手を取って首を振る。
「春くんは悪くないでしょ?」
眉を下げる春が可愛く見える。奈津希は春がいつも奈津希にやるように春の頭を撫でた。春がいつも奈津希の頭を撫でる理由がなんとなくわかる気がした。
「なんか、可愛いね。春くん」
「…奈津」
真剣な表情の春が奈津希の手を取る。どきんと心臓が脈打った。距離が近い。春がこれからなにをしようとしているのかわかっているけど頭で必死にわからないふりをする。
「春く、」
ふたりの距離が無くなる寸前、風呂が炊きあがった音が軽快に鳴り響いた。
「…奈津、先入れ。」
少し困ったように笑った春が奈津希から体を離す。奈津希は慌てて立ち上がった。
「う、うん。」
バクバクと脈打つ心臓を抱きしめて奈津希は風呂場へ急いで移動した。
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