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しおりを挟む心臓が飛び出しそうになる。しばらくすると玄関のドアが開いた。
「奈津?」
顔をだしたのは奈津希の幼馴染の宮塚 春。春の顔を見た奈津希は途端にほっとする。
「ちょ、奈津⁉︎…どうした」
安心して流れてきた涙。奈津希に溜まっていたものが崩れ落ちていくように溢れた。
「…ごめん、春くん……」
「分かったから早く入れよ。寒かっただろ?」
春は心配そうに奈津希の顔を覗き込んで玄関の中に促した。奈津希は体の力が抜けていくのを感じる。肩を支えてくれた春の腕に体を預けた。いつも春は三つ子のお兄ちゃん。隣の家の一人息子で優しくていつも頼れる存在。奈津希たち三つ子と春は産まれた時からずっと一緒だ。親同士仲が良くてよくお互いの家に泊まりに行ったりもしていた。奈津希にとって春は特別で兄弟にさえ春を取られたくなかった。春への恋心らしきものを感じ始めたのは小学五年生の時。ちょうど三つ子の両親が事故で亡くなった時だった。毎日のように泣き毎日のように震える。辛くて悲しくて大切な人がもう戻ってこない絶望がまだ幼い奈津希たちの心を閉ざしていった。だけど春や宮塚のおじさんおばさんが三つ子を救ってくれた。奈津希たちの母方の祖母が家に来てくれるまで毎日のようにご飯を作りにきてくれて一緒に食べてくれた。両親の葬儀の時も祖母を手伝ってくれた。なにもかも失った奈津希たちに手を差し伸べてくれた。感謝してもしきれない。だけどそれ以上に奈津希が忘れられないのは弟たちを心配させまいと気を張っていた奈津希に春がずっと寄り添っていてくれたことだった。なにも言わずただ隣にいてくれた。それから春の存在が奈津希にとってもっと大きなものになる。今でもあまり人間との付き合いは得意じゃないが春だけは自分をさらけ出せる人だ。ずっと奈津希の大切な人。リビングに通した春は奈津希にバスタオルと着替えを手渡した。
「とりあえず風呂入ってこい。体冷えてるだろ。話はそれからだ。」
そう言って春は奈津希を脱衣所に押し込んだ。泣いた腫れぼったい目を擦りながら奈津希はのろのろと着替え始めた。
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