君に心を

河嶋 亜津希

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志津希は怯えている。凪都がこれから志津希になにかを伝えようとしていることがわかるからだ。凪都にそれを言われたらもう終わってしまう気がした。 

「志津希、俺を見て。俺から逃げないで。」

「逃げてなんかないっ」

なんだか泣いてしまいそうだ。せり上がってくる涙を我慢する。凪都の手が志津希の頬を包み込んだ。志津希が目を開けると凪都がまっすぐ志津希を見つめている。

「好きだよ。志津希が好き。」

あぁ…だめだ。志津希は心の中でぽつりと呟く。弱々しく首を横に振った。

「凪都、勘違いしちゃだめだよ。凪都は本当の僕を知らないだけなんだ…」

そうだ。凪都はまだ汚くてずるい志津希を知らない。凪都は自分を受け入れてくれたから志津希を好きになっただけなんだ。志津希は自分に必死に言い聞かせた。

「じゃあ本当の志津希を聞かせてよ。俺に隠さないで。」

あまりにも凪都が真剣で志津希は今にもこの場から逃げたかった。だけど志津希には凪都を振りほどけなかった。しばらく沈黙が続いて志津希は泣きそうになる。凪都は志津希が話すのを待っていた。

「ぼ、僕は…」

やっとの思いで口を開く。凪都に諦めてもらうには志津希の本当を話すしかないのだ。

「僕は汚い人間なんだ、だからもう…っ……」

ぼろぼろと涙が零れ落ちた。汚い自分があぶり出されるようなこの感覚はいつまでたっても慣れなかった。

「志津希。」

志津希の涙をはらいながら凪都が名前を呼ぶ。凪都の腕が回されてふたりはぎゅっと密着した。志津希は力が抜けてしまう。凪都は志津希の耳元で優しく囁く。

「大丈夫。俺はここにいるでしょ?」

聞いているから話してと言わないでも伝わってくる。志津希は遠慮がちに凪都の肩に顔を埋めた。小さな声を振り絞る。

「僕には…好きな人がいてっ、でもその人は別の人をずっと見てていつも…いつもなぁちゃんばかりでっ僕はなぁちゃんより春くんを好きなのになぁちゃんより春くんを想ってるのにっ!同じ顔で同じ体で、なのにっなのに、」

うまく喋れない。凪都が奈津希や春のことをよく知らないのもわかっているのに止まらなかった。今まで誰にも話したことのない志津希だけの秘密。葉津希にすら言えなかった。言えるわけなかった。春が奈津希を想い続けていて奈津希が同じ気持ちなのを知っていて葉津希はどちらかの背中を押そうとしているのに志津希にはそれができない。春を奈津希のものにしたくない。汚い自分がどんどん生成されていく。奈津希の身代わりになる勇気も奈津希を裏切って春を奪うことも怖かった。そして志津希は必死で逃げた。

「なんで…なんで僕は春くんを…結局僕は自分が、可愛いだけなんだっ」

凪都にぎゅっとしがみつく。ひとりになってしまう。産まれたときから三人はひとつ。それを志津希自ら壊すことなんてできない。ひとりは怖い。志津希は今までひとりになったことなんかないのだ。 

「志津希。好きな気持ちは捨てなくていいんだよ。志津希が誰かを好きになった気持ちは大事にしなきゃいけないんだ。」

「なぎ、と?…」

しがみつく志津希を凪都は優しく受け入れる。どこまでも凪都は優しい。

「志津希は偉い!なぁちゃんの好きって気持ちを守ってあげたんだよ!俺なら奪い取ってぜーったい返してやんない!」

明るい声で凪都はぎゅっと志津希を抱きしめる。

「な、にそれっ。」

凪都につられて志津希は少し笑ってしまった。体が離れて代わりに志津希の頬を凪都の手が包む。ばっちりと目が合った。

「だから次は志津希が自分の気持ちを自分で守ってあげて?」

まるで春を好きでいていいと肯定されているようだった。いや、実際凪都はそう言っている。早く忘れて早く掻き消そうとしていた志津希はなんだか安心した。

「好きでいて…いいの、かな?」

「うん、いいんだよ。」

涙が止まらなかった。こんな姿本当は誰にも見せたくない。なのに溢れて止まらない。志津希はもう一度凪都にしがみついた。凪都の大きな胸は安心する。ぽんぽんと優しく凪都は背中を叩く。子供あやすみたいで少し恥ずかしいけどそれが心地いい。

「…ありがとう、」

小さな声で志津希は呟く。

「ねぇ志津希。」

「なに?…」

凪都の手が志津希の後頭部に触れる。気づけば静かに唇が重なっていた。

「んっ!」

優しく凪都は志津希に迫る。少しだけ逃げようとしても凪都は志津希をいとも簡単に捕まえて離さない。ふたりの唇が離れると志津希の体は力が完全に抜けていた。触れている部分が熱い。

「捨てなくてもいいけど、新しい気持ちにも早く気づいて、ね?」

にやりと笑った凪都がもう一度志津希に短く唇を落とす。志津希はぶわっと顔が熱くなって思わず手で唇を覆った。そしてもう自分は凪都の手のなかにあるのだと悟ってしまった。
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