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しおりを挟む志津希はいつもより早く講堂に来ていた。昨日自分の場所だと凪都が案内したところに座る。点呼の二十分も前じゃ人はまばらだ。化学室を出てからあてもなく校舎を歩き回って志津希は考えた。そしてある答えを導き出した。いや、正しくいえば無理やり答えとして引っ張りだした。とにかく志津希にはこの方法しか思いつかなかった。心臓がどきどきと脈をうっている。凪都を傷つけてしまったのは志津希だ。きちんと謝らないと後味が悪い。志津希はしばらく目を瞑って人のざわつきに耳を傾けていた。
「…、志津希」
びくんと体が震えた。凪都のほうをうまく向けない。志津希は固まってしまった。
「移動したほうがいいね、」
寂しそうな声が聞こえて志津希は慌てて凪都の制服を掴む。驚いた凪都の表情が目に飛び込んできた。
「あっ、いい!…ここは凪都の場所、移動するなら僕がっ」
志津希は少し泣きそうだった。まばらだった人は徐々に増え始めている。
「隣に座ってもいい?」
ゆっくりと凪都が呟く。志津希は黙って首を縦に振った。ぎゅっと掴んだ制服をなぜか離せない。凪都は不快じゃないらしくそれを嫌だとはいわなかった。志津希はなんとなくこの手を離してはいけないような気がしている。心臓は今にも飛び出してしまいそうなのに嫌などきどきではない。むしろ心地よい。二十センチ空いたふたりの空間は志津希の手と凪都の制服で繋がっている。凪都は志津希に怒っていないのだろうか。ちらりと隣を見るとばちっと目があった。志津希は思わず目をそらす。肝心なところで勇気が出ない。ぞろぞろと点呼にやってきた生徒たちのざわめきが志津希にはありがたかった。無言でも気にならない。
「なぁぎとっ!」
志津希の体がびくっと震える。一瞬顔を見合わせてふたりは同じ方向を見る。小柄な身長に可愛い笑顔。志津希は眉を歪めた。暁美は珍しいものを見るようにじっと目線を送っている。暁美の目線の先が志津希の手であることに気づいて慌てて凪都の制服から手を離した。
「なんで影山がいるの?一般生は帰ってる時間でしょ?」
凪都は立ち上がりながら冷静に声を飛ばす。暁美はあからさまに不機嫌を表した。
「凪都、なんでこんな奴と一緒にいんの?」
「質問を質問で返すなよ…」
「、な、ぎと?」
初めて聞く凪都のイライラした声に志津希は怯えた。どうしたらいいかわからない。眉をひそめる凪都を志津希は見上げていた。
「暁美。先生が呼んでる。」
すぱんと空気が変わる。暁美にひとりの生徒が近いてきた。暁美はなおも不機嫌そうな顔をしている。志津希は黙ってその光景を見ていた。なにも言わない凪都が怖い。
「凪都。こんな奴と一緒にいちゃダメだよっ絶対!」
「なっ、」
なんだよ、それ…。暁美は凪都に駆け寄って肩に触れた。反論しかけて咄嗟に口を紡ぐ。侮辱されるのなんか慣れっこだ。黙っていればこの場が治る。ならそれでいいじゃないか。志津希は自分に言い聞かせる。下を向いてぎゅっと手を握った。凪都のとなりに相応しくないのなんかわかっている。
「暁美、もういいでしょ。」
後ろから暁美の友達であろう生徒が声を飛ばす。もう夕方の点呼は始まろうとしていた。暁美はぎっと志津希を睨みつけて踵を返していった。志津希はほっと胸を撫で下ろして振り返る。本当に失礼な人間だ。面と向かって悪口を言ってるなんて。それだけ暁美には凪都という存在が大きなものなんだろうか。暁美はあのことを知っているのだろうか。いろんな疑問が志津希の頭を駆け巡る。
「…ごめん。志津希、俺のせいで」
「いいよ…大丈夫だから。」
しゅんとする凪都に返事を返すとちょうど講堂の鐘が夕方の六時を知らせた。
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