7 / 52
6
しおりを挟む「あの…悪いんだけどついてこないでくれないかな?」
トレーに乗せられた夕食を運びながら志津希はとうとう口を開いた。志津希の後ろをくっ付くように凪都がついてくる。
「俺もそっちに座りたいんだけど、駄目?」
志津希はため息を吐き出して窓際のいつもの席にトレーを置いた。いつもは目もくれない周りの人間がじろじろと見ている。
「あのさ、…伊勢山くん」
「凪都。」
にこりと笑って凪都が志津希の言葉を遮った。この人はどこまでも自分勝手だ。志津希は呆れて口を噤んだ。もうなにも言わない。その方がいい。本能がそう言っている。
「凪都って呼んでよ。志津希。」
志津希は凪都の声を聞き流しながら夕飯を口に放り込む。早く食べて早く部屋に戻りたい。自分の世界に入り込みたかった。しばらく名前を呼ばれたり話しかけられたりしながらも志津希は凪都に応答することなく食事を進めていった。
「ねぇ、志津希。しーづーきー」
「おい。凪都、嫌がってるだろ。やめてあげろよ。」
聞きなれない声が飛び込んできて志津希はちらっと上を向いた。切れ長の目とばっちり目が合う。思わず志津希は目をそらした。
「帰ってくるの明日じゃなかった?」
「無理言って帰らせてもらった。どうもお前が心配でね。」
どうやら凪都の友達らしい。志津希は少しだけほっとした。これで凪都の関心は志津希に向かなくなる。
「この子が同室?」
志津希の安堵はぼろぼろと崩れていく。今度は凪都の友達に関心を向けられてしまった。
「あぁ、河嶋志津希くん。志津希、こっちは多畑 稲瀬。俺の友達。」
「よろしく、河嶋。」
稲瀬からすっと手が伸びてくる。志津希はしばらく迷っておずおずと手を握った。
「よ、よろしく…」
志津希によろしくするつもりは毛頭ないが一応挨拶だから返しておく。稲瀬はそんな志津希を見てくすくすと笑った。
「噂通り控えめだな、河嶋は。凪都は失礼をしなかったかい?」
「なんだよ、失礼って…俺はいつだってジェントルマンだよ。」
「僕は河嶋に聞いてるんだ。お前がジェントルマンかどうかは他が決める。」
志津希に対する凪都はジェントルマンだったのだろうか。失礼なことしかされてない気がするが。断りもなく志津希呼びするし、部屋ではデコピンされてベッドにまで上がってきた。普通今日初めて言葉を交わした人にそんなことしないだろ。志津希は苦笑いを浮かべながら淡々と食事を進めていく。でも今思えば点呼の時わざわざ起こしてくれたし人が多い講堂で志津希が埋もれないように端に逃がしてくれてもいる。まるきり全部凪都が悪いことをしているわけでもない。だけど志津希はこれ以上深く凪都に関わりたくなかった。ただでさえ寮代表だ。凪都は目立ちすぎる。志津希は最後の一口を飲み込んで勢いよく席を立った。
「じゃ、もう食べたから行くね。」
「え、志津希っ」
凪都の言葉を無視していそいそとテーブルを去る。やっとひとりになるチャンスがくるのだ。志津希はほっとしながら足を動かした。後ろから稲瀬の盛大な笑い声を志津希は聞こえないふりをした。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる