君に心を

河嶋 亜津希

文字の大きさ
上 下
4 / 52

3

しおりを挟む

志津希はふわふわした気分で膝をつきながら服をクローゼットの中にしまい込んでいた。家族以外に志津希と呼ばれるのは何年ぶりだろう。わからないぐらい前からもう呼ばれていない。あのルームメイトはどういうつもりなんだろう?なによりも志津希はそれが気になって仕方なかった。志津希の通う私立星院せいいん学園は寮生と一般生徒に分かれている。一般生徒は普通の高校と変わりなく自宅から学校に通い普通の高校生活となんら変わりない。だが志津希の所属している寮生という生徒たちはスポーツ万能で全国選抜に選ばれたり、学力が高い生徒だったりなにか他人より秀でたものがある人間しか入れない。校長が言うにうら若き十代の水々しい精神を研ぎ澄ましお互いに切磋琢磨させて成長を狙うというなんとも変態チックな教育方式らしい。たまに金持ちが息子を放り込むことはあるらしいが極めて異例だ。つまりここは狭い狭い世界でそれなりのプライドを持った人間が集まってくる場所なのだ。いい噂も悪い噂も風のように駆け巡る。志津希が幽霊部屋でなんのためらいもなく過ごしていて君悪がられていたことなんて凪都も知っているはずだ。クラスメイトはみんな志津希を避けていた。そんな志津希にやすやすと近づいてくる凪都の気が知れなかった。あまり他人に興味が無いのだろうか。志津希は気怠そうにあくびをする凪都の顔を思い浮かべた。そして首を横に振る。気にしちゃだめだ。関わりを持てばろくなことがない。志津希はさっさとクローゼットに服を詰め込んでばんと勢いよく扉を閉めた。

「雑過ぎじゃない?」

志津希は体をびくっと震わせる。聞いたことのない声が聞こえてきて心臓がばくばくと脈を打った。志津希は恐る恐る後ろに体を向ける。今日は寮に入ってからビクビクしてばかりだ。そこには凪都でもなく知り合いでもない男子生徒が立っていた。襟元の校章は青色で同じ二年だとわかる。

「あの、誰?勝手に入られたら困るんだけど。」

志津希は立ち上がって訝しげに男子生徒を睨む。ノックもしないで入ってきて常識がなってない。全く気づかなかった志津希もどうかと思うがそこには目を瞑る。男子生徒は口の端を上げてにやっと笑った。嫌な笑い方だ。

「ごめんね、凪都の同室がどんな奴か気になって…でも、」

言葉を止めて志津希ににじり寄る。後ずさってもすぐ後ろにクローゼットがあって逃げ場がなくなってしまった。本当になんなんだ、この子。志津希は眉間にしわを寄せながら近寄ってくる相手を見つめていた。

「あははっ!君みたいに野暮ったい奴だったらなんの心配もないか!あーあ来て損しちゃった、」

男子生徒はクスクス笑いながら颯爽と部屋を出て行ってしまった。志津希はしばらく状況が掴めなくてしかめっ面のまま突っ立っていた。嫌な人間。それ以外印象に残らなかった。あの生徒は凪都のなんなのだろうか。志津希はなんだかこの一瞬でどっと疲れてどさっとベッドに倒れこんだ。先が思いやられるよ…。叫びたい気持ちをこらえてそっと目を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...