野生児少女の生存日記

花見酒

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三章 野生児少女と野生の王

災害襲来

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 緊急避難が開始されてから五時間程、街の住民の大半が街の外へ退避し、離れた別の町に避難して行った。しかし未だ全員が避難てきた訳では無く、今も尚騎士や冒険者による避難誘導が続いている。そして同時に、メサイアが操る木々の大津波は既に街の直ぐ側まで迫っていた。
 サンザック率いる法撃部隊が外壁へ登り、迫り来る津波に対し迎撃態勢を取る。

「魔法砲撃部隊!攻撃用意!」

 サンザックの合図で一斉に魔力を溜める。

「放て!」

 一斉に火球が放たれる。火球は全て命中、木が燃え始める。が燃えた側から燃えた部分が切り離され広がる事は無く、つ国一つ分に相当する広さから成る木々は幾ら燃やし、切り離させようとも無くなる気配は無い。

「撃て!魔力が、ある限り攻撃を止めるな!」

 サンザックが騎士達に呼びかけ、騎士達は絶え間無く魔法を放ち続ける。だがその勢いは衰える事は無い。遂にはメサイアはさらなる攻撃を始めた。
 傍らに浮いた木で出来た蕾が大きく膨れ上がり、数秒後に中から木で出来た物体を吐き出す。それは翼を広げてメサイアの頭上を飛び始めた。

「行け。」

 メサイアが鳥に指示を出すと鳥は街へ向かって行く。

「何だあれは、巨大な…鳥?鷹の様な…ええい何でも良い、あの鳥を撃ち落とせ!決して近付けるな!」

 一部の騎士達が鳥に向かって魔法を放つ、しかしその大きさからは想像出来ない程俊敏しゅんびんな動きで攻撃を躱す、そして騎士達の苛烈な砲撃を掻い潜り、鳥は騎士達の上を通過し街へ侵入した。

「団長!不味いです!鳥が市街地に!このままでは住民に被害が!」
「クソ!あの位置じゃ迂闊に攻撃出来ない、もし外せば流れ弾が逃げ遅れた人に当たりかねない。」

 そう考えている間にも街の奥へと飛んで行く鳥、然しその途中で、下から放たれた巨大な火球が鳥を撃ち落とした。

「今のは!」

 その火球を撃ったのはマーリンだった。

「成る程、街は彼女に任せて良さそうだ。我々は引き続きアレを攻撃する!少しでも勢いを削ぐんだ!」

 サンザックは騎士達に呼びかける。騎士達は火球の他に複数の属性の魔法を撃ち、迎撃する。だがそれでも尚、その勢いは止まらない。

「団長!このままでは、我々が飲み込まれます!退避を!」
「く…!全員!今すぐ壁を降りて避難しろ!」

 サンザックの指示で一斉に壁を降りていく騎士達、騎士達が全員退避したその後、直ぐに壁は津波によって突破される。その光景を見た者達が街と一緒に飲み込まれ死ぬのだと恐怖した、がその瞬間津波に向かって巨大な火球が、何発も放たれる。すると波止まり、中からメサイアが現れ、上から見下ろしながら火球を放ったマーリンに話しかけた。

「今更になって漸く儂を攻撃したか、遅すぎるんじゃないか?」
「街を守るのが私の役目だ。」
「その役目が、己の首を絞めていると何故わからん、貴様は何時もそうだった、あの狐が現れた時も此度の儂の捜索もそうだ、貴様自ら出向けば、早期に解決し被害を最小限に出来たというのに、何時も守る必要があると言って街から出ようとしない、その結果、儂は見事壁を破壊し街に侵入出来た、そしてその時点で貴様は儂を倒せなくなった。」
「何故そう言い切れる?私は何時でもお前を倒せるぞ。」
「そうか?ならやってみろ!さっきみたいな虚仮威しでは無く、もっと確実な攻撃をしてみろ!」

 マーリンは黙り込んだ。

「出来無いよな、この街は貴様の大好きな師とやらの故郷、街を破壊するような攻撃は出来無い、加えてこの体はお前の大事な生徒の体、完全に消滅させてしまっては蘇生出来ない、故に貴様はさっき以上の攻撃は出来ない。そうだよな?儂を甘く見るなよ?妖精王にも、あの日儂が逃亡を図った時にも言った筈だぞ?と。さあどうした?儂を倒してみろ!」

 メサイアが叫んだ次の瞬間、ローニャが上からメサイアに剣を振り下ろした。

「惜しい、もっと殺意を抑えるべきだな。」

 メサイアは木で攻撃を防ぎ、ローニャを弾き飛ばした。
 ローニャは地面に着地し叫んだ。

「何してるの!ダラダラ話してる暇は無い!」

 その言葉で、マーリンはっとして瞬時に攻撃を仕掛けた。それと同時にメサイアの傍らに浮く蕾が膨らみ次々に魔物を産み落とし始めた。

「何をしても無駄だ、儂は一人で来た訳では無い、そもそも儂の目的は貴様らでは無い、よって代わりにこいつらに相手をしてもらおう。」

 次々に地面に落ちて来る魔物達。それらは起き上がると同時にその場に居た騎士や冒険者に襲い掛かった。
 周りの騎士や冒険者が魔物達で手一杯となっている。メサイアはその上を通過しようとしたが、ローニャとマーリンだけがメサイアに攻撃を仕掛けた。
 メサイアは二人の攻撃を全て防いだ。

「鬱陶しい虫が、矮小な小娘と本領の発揮できない長生きしただけの小娘、たった二人だけで儂を倒せると?」
「思ってるからやってんでしょうが!お前こそ!あの大量の木で街ごと轢き潰せば良いんじゃないか?」
「人は全員殺すがこの場所は少しの間の寝床として使うからな、なくなってもらっては困る。」
「それも算段の内の一つか?お前こそ傲ってるんじゃないか?」
「そうかもな、だが勝てるから傲ってるんだ、貴様らと一緒にするな。」
「あっそ、じゃぁその確信、勘違いだったって赤っ恥かかせてやる!」

 マーリンが火と風の二属性の魔法攻撃を他絶え間なく浴びせる。メサイアはそれら全てを防ぎ、マーリンの攻撃に集中して死角からローニャが奇襲を仕掛ける。二人係でメサイアを攻撃しているが、普通ならば防ぎ切れない攻撃もメサイアは全てを防ぎ切っている。がメサイアは二人の攻撃に段々と苛立ちを露わにし始める。

「あぁ…あああ!鬱陶しい!」

 メサイアは木の触手で辺りを薙ぎ払った。

「顔の周りをブンブンと飛び回る羽虫のウザさを知ってるか?知ってるだろう?それと同等の鬱陶しさだ。特に貴様だ!」

 メサイアはローニャを指差す。

「お前は何時も何時も儂の邪魔をする、存在自体が不愉快だ。丁度いい機会だ、この場で殺してやる。」

 メサイアはにやりと笑い一件の崩れた建物を見る。崩れた瓦礫の影に女性と子供が隠れていた。メサイアはその二人に向かって触手を飛ばす。ローニャはそれに気が付き瞬時に二人の前に立ち、魔法障壁を幾重にも重ねて防御した。が触手は何層に重ねた障壁をいとも容易く貫通し、ローニャは咄嗟に剣で触手を防いだ。

「う!」
「ローニャ君!」

 駆け付けたサンザック含む騎士達がローニャに駆け寄る。

「私は良い!二人を!」

 ローニャの指示で騎士達が親子を誘導しその場から逃がした。

「ローニャ君!君も!」
「分かってる…けど…(今防御解いたら確実に死ぬ!なんとか…何とか躱す方法を!)」

 ローニャは触手を防ぎながらこの状況を打破する方法を考えた。その結果、考えているその刹那が仇となり、剣に出来ていた亀裂が広がり、剣は砕け、ローニャの胴体を貫いた。
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