野生児少女の生存日記

花見酒

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三章 野生児少女と野生の王

破滅の翼は音も無く

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 夜会での騒動より少し前。寮の裏にある広い庭でラッシュが自前で的を作り、的に向かって魔法の練習をしている。木の槍を飛ばす、草で切り裂く、木の触手を操るなとして夜な夜な訓練に励んでいる、だがラッシュはどうにも浮かない顔をしてい。

「ふぅ…もっと上手く操れないものか。…はぁ…僕が気付かないとでも思ったか?」

 ラッシュはそう言って振り返る、そこにはローニャが立っていた。

「何の用だ。」
「いや別に、眠れないから徘徊してたら音が聞こえたから来てみただけ。」
「は、徘徊ついでに笑いに来たか。」
「そうな事言ってないでしょ、なに?八つ当たり?」
「お前が嫌いなだけだ。」
「そう、私をどう思おうが勝手だけど、変に八つ当たりするのはやめてくれる。」
「そいつは悪かったな、ならとっとと僕の前から消えてくれ。」
「ムカつく言い方、言われなくても行くよ。せいぜい頑張ってね」
「ふん、少し強いからって粋がりやがって、どうせ僕の事を見下してるんだろ。くだらない女だ。」

 ラッシュはボソリと呟いた。

「はぁ…あのさ、言いたい事があるな言えば?」
「ほぅ?なら言ってやる、いつもいつも僕の事を見下してる様なその目が気に食わない、どうせ影で僕の事を嘲笑ってるんだろ?隠したって僕には分かるんだ、ちょっと強いからって僕の事を格下だと思ってるんだろ?」
「被害妄想ばっかり、私はあんたの事は気にした事なんて一度も無い、そもそも…」

 その時はローニャが遠くからの微かな獣の咆哮の様な音を聞いた。

「今のは?」
「は?今の?」
「鳴き声みたいな。城の方から。」
「知らないよ、僕には聞こえなかった。」
「耳悪いからでしょ?」
「減らず口を。気になるならとっとと行けよ目障りだ。」
「はいはい。」

 ローニャは呆れながらラッシュにそう言いかえし寮に急いで剣を取りに行った。

 その後ラッシュは寮室に戻った。『バン!』と強く扉を閉める。溜息を吐き、胸を握る。

「はぁ…どいつもこいつも僕の事を見下しやがって、僕は英雄に成る男だぞ、ふざけやがって。はぁ…はぁ…」

 悪態をつくラッシュの息が次第に荒くなっていく。

「はぁ…はぁ…、なんだコレ、苦しい…気持ち悪い…病気か?」

 ラッシュは辛くなって床に座り込む、すると窓が開き声が聞こえてきた。

「おうおう、随分仕上がっとるの~そろそろ潮時か?」

 ラッシュは窓の方を見る。

「潮時?何を言ってるんだ?これが何か知ってるのか?“ホッホさん”。」
 
 窓枠に佇む梟は不敵な笑みを浮かべながらラッシュを見下ろす。

「その気色の悪い名で儂を呼ぶなクソガキ。ああ知ってるとも、良~く知っている。経験済みだからな。それは“魔暴病”だ。」
「魔暴病?でも僕は最近は…あの実を食べてないぞ?」
「原因は実では無い、儂の“羽”だ。」
「羽?僕に…渡して来たあれか?あんな物で何で…魔暴病に?」
「あれには儂の魔力が微量に含まれている。貴様はそれを肌身離さず持っていた事で儂の魔力が貴様に入った、賢者に分からぬようゆっくり、ゆっくりとな。微量と言えど何年も増え続ければ身体が許容出来る魔力は超えてくる、あやつは貴様の成長に伴って増えただけだと思って見過ごしていたようだが、貴様の魔力は儂の魔力によって少しずつ溢れ、限界を迎えていく。そして今貴様はその限界を迎えた。そして今日貴様は儂とした取引の代価を払う時だ。本来はもう少し待ちたかったが、思いの外早かった。まあ良い、誤差だ。」
「さっきから…何を…意味が…代価?何を言って…」
「貴様が意味を理解できずとも構わん、準備は整っている。」
「何を…する気だ?僕はまだ…何も貰ってないぞ。」
「それはこれからだ。これから儂は貴様の体を頂く。」
「は?何を言っている…何をする気だ、話が違う!」
「違わない。儂は嘘などついていない、まぁ多少誇張したが。貴様はこれから、この世界で最も強い存在になる。それは確実だ。だがその為にその体を儂が使う。“この世界に存在する人類を絶滅させる為に”。そして貴様…いや儂は人類の居ないこの星の管理者となるのだ。」
「は?意味が分からないぞ…そもそも…どうやって体を操るっていうんだ。」
「貴様ら人族は知らんようだが、儂ら魔獣には魔獣となる際突然変異の過程で特異な技能を発現させる。儂は“自身の魔力に触れた者に儂の意識を介入するさせる”。簡単に言ってしまえば儂の魔力に触れた者は儂の思うがまま操れるのだ。まぁ触れた魔力量によって度合いは変わるが、貴様は何年も儂の魔力に触れ、魔暴病を発症するに至った。そこまでいけば儂は意識を完全に乗り移らせ操れる、つまりこれからその体に儂の意識を入れて儂のものにするという事だ、理解したか?」
「ふざけるな…そんな事…させるか…。」
「するしないは儂が決める。じっとしていろ?痛みはない、すぐ終わる。」

 梟は羽撃き横たわるラッシュの目の前に止まる。そしてラッシュの目をじっと見つめる。すると二人は突然気を失った。バタリと床に伏し数秒、ラッシュが起き上がった。ラッシュ?は手を見つめ握る開くを繰り返し、足を見つめて軽く振る。小さくジャンプするなどして体を慣らすような動きをして、ニヤリと笑った。

「ふふふ…完全に人の体に入るのは初めだが案外扱いやすいものだな。」

 ラッシュ?はそう言うと床に転がる梟に目をやる。そして思い切り蹴り飛ばした。

「これはもういらんな!」

 思い切り壁に激突する梟の体。梟はピクリとも動かない。

「あははは!ようやくだ!長い事待ったが、ようやく目的の第一歩を踏み出せる!だが先ずは、この忌々しい苦しみを何とかせねばな。経験済み故慣れて入るがやはり好かん。然らばまずやるべき事は…“妖精国”ヘ向かう。」

 ラッシュ?は窓から身を乗り出し部屋に会った木箱等を操り、形を変え一つの板にし上に乗って座り、空に飛び上がり彼方へと飛び去っていった。


 翌日
 国王は昨夜の出来事をきっかけに国内の各町村からそれぞれ半数ずつ騎士達を王都へ呼び戻し、城の警備を強化した。それが裏で暗躍する者の思惑とも知らず。

 一方学園では、昨夜ラッシュ・ノートンが窓から出て行ったのを隣の室に住む生徒が目撃しており、学園長含む複数人の教員がラッシュの部屋へやって来た。部屋は荒らされていないが窓が開かれたおり、壁際には梟が倒れていた。学園長は学園を飛び出して城へ向かい、王に捜索隊を出すよう願い出たが騎士達を城と王都へ警備に専念させるため却下された。各町村の騎士に国内の調査をさせるようにも言ったが、それぞれの町村の騎士達は半数が王都へ招集された為これ以上人員を割く訳にもいかず、学園長は騎士に捜索させるのは断念した、その後冒険者ギルドで冒険者達に捜索依頼を出した。依頼を受ける者は居たが子供一人を探す為に国内中を探し回る事に乗り気な者は少なくそれ程人数は集まらなかった。ラッシュの両親にもこの事を話し、ラッシュの家族全員が捜索に協力してくれた。
 更に学園長が城やギルドに捜索願を出しに行っていた間梟の状態を確認されたが、結論、梟は死んではいない、肉体自体は生きており脈もありも呼吸もしている、だが意識が一向に戻らず、中身がなくなった様な状態、いわゆる植物状態になっているらしい。

 昨日の騒動で学園が休みになり暇になった四人が寮室で暇つぶしをして居る。

「昨日の今日で色々起こり過ぎだろ、それに生徒一人居なくなっただけでここまで大騒動になるなんてな、ていうか何であの野郎は出てったんだ?学園暮らしに嫌気でも刺したか?」

 休み時間中レーナが言う。

「最近彼イライラしてたみたいだから可能性はあるかもね。」
「もしかしたら私のせいかも。」

 ローニャが呟いた。

「何でだよ。」
「昨日の夜あいつと少し口論?になって少し酷い事言ったから。」
「あ~…まぁならそれもあるかもな。まぁその程度で失踪する何て、あいつもその程度だったて事だ、気にすんな。」
「そうですわ、貴女が気にする必要なんてありません、些細な事で人様に迷惑をかける方がどうかしてます。」

 ローニャは二人の優しい言葉に微笑みながらも俯いている。そして少し窓の外を眺めてもやもやする気持ちを少しでも和らげようとする。そして妙な胸騒ぎに違和感を覚えた。

 それから一週間程、特に何の異変も無く日々が過ぎた、しかしある日王都の大通りをボロボロの男がよろよろと歩いている、そこへ通りかかった騎士が駆け寄ると男は涙ぐみながら叫んだ。

「助けてくれ…妖精王が…妖精国が、陥落した!」

 四日前

 〈妖精国テバヘルシア、他の国々に比べて国土は狭く街が一つあるだけの国だが国全体が植物で覆われており、目を疑うほど大きな樹木から小さな草花まで多種多様な植物に囲まれている。街は空気が澄み渡り穏やかな街である。そんな国を治めるのは妖精族の唯一の生き残りである。〉

 妖精国 王城 玉座の間にて

 玉座に座る妖精王に国内の状況報告や申請を行う為重役人達が並んでいる。

「失礼致します。陛下私から報告とお願いが。」
「良い申せ。」
「は、昨今大陸内各国でマモリの実の異常発生、及びそれに伴った魔暴病の発症事例が激増しております。その為先日より我が国の周囲の樹林でも調査を行ったところ樹林内でマモリの木を多数発見いたしました。なので我が国での魔暴病発症被害を抑える為伐採の許可を頂きたく。」
「うむ、許可する。すぐにでも許可書を発行させよう、だがやり過ぎると逆に自然に悪影響を及ぼしかねん、全て伐採せず必要な分だけ伐採するように。」
「感謝いたします。」
「ご苦労、次。」

 報告を終え男が下がり後ろに控えていた者が前に出てお辞儀、報告をしようとしたその時は。部屋の扉の向こうから声が聞こえて来た。

『なんだ貴様!ここは関係者以外立ち入り禁…』

 次の瞬間グシャ!と肉と骨が裂け潰れるような音がした。

「な!やめ…」

 又は鈍い音が聞こえる。そしてそのすぐ後に扉が開く。開いた扉の向こうで衛生が木に串刺しになっている。その間を不敵な笑みを浮かべながらラッシュ?が歩いて王の前へ行く。

「何者だ!止まれ!」

 衛兵達がラッシュ?を取り囲み武器を構える。その瞬間ラッシュ?は無数の葉をばら撒く、葉は高速で衛兵達に飛んで行き衛兵達の首を切った。衛兵達は首からどくどくと流れる血を押さえ苦しみながらバタバタと倒れる。床が血塗れの地獄絵図にその場に居た者達は戰慄する。そんな状況の中ラッシュ?は玉座前の階段の下で立ち止まりお辞儀をした。

「妖精王陛下、お初にお目にかかります生憎名乗る名は有りませんがお見知りおきを。」
「…何用だ、貴様。」
「いや~実は陛下に折り行ってお願いが御座いまして。」
「…聞いてやろう。」
「陛下!」

 家臣が声をあげる、妖精王から確認を取ったラッシュ?は不敵な笑みを浮かべながら口を開く。

「では改めまして、私が来た理由それは実は陛下に…その玉座を譲っていた抱きたく参りました。」
「そうか、聞いた我が馬鹿であったな、捕らえろ!」

 妖精王の一言で扉からぞろぞろと兵士が入って来る。しかし未だ笑みを浮かべるラッシュ?が再び口を開いた。

「幾ら人員を募った所で無意味、貴様等は負ける。敗因は一つ、この国が“植物に囲まれている事”。」

 次の瞬間城の壁、床、天井、あらゆる所から木の触手が突き破って部屋を侵食する。触手はその場に居る者を絡め取り妖精王と一部の者を除いて押し潰し絞め殺した。

 妖精王は触手に囚われ玉座から引き剥がされる。ラッシュ?はゆっくりと階段を上がり、ゆっくりと玉座に座る。

「ふむ…ま、悪くないな。」
「く…何が目的だ!」

 触手に縛られた妖精王が声を荒げる。

「ん?あ~…そこのお前。」

 ラッシュ?が触手に絡まれず隠れていた一人メイドを指差す。

「はい…なんでしょう。」
「“アレ”をもって来い、あ~…何だっけか?あ!砂時計だ、“天使の遺物”だとかの。」
「へ?」
「知らんなどぬかすなよ、大事な王を殺すぞ?」
「は…はい!只今!」

 メイドは走って部屋を去る、それを見ていた妖精王がラッシュ?に問いかける。

「答えろ…何が目的だ。」
「ん?ん~…まぁ良いだろう、冥土の土産に教えてやろう。儂はな、“この世に居る人類を絶滅させたいのだ”。」
「何?」
「貴様らはな、やり過ぎたのだ。」
「何が言いたい。」
「この世には貴様ら人族はだけでなく、動物や魔物も居る。それらもまた、この星に住む生命だ。だが貴様ら人族はそれらが住む森も海も、侵し奪い、そして殺した。弱肉強食、確かに自然にはそういうルールがある、しかし貴様らはその度を越えた、食う、争うに留まらず、不必要に奪い殺した。儂はそれが許せんのだ!数が多く頭が多少他の生物に勝るというだけで好き勝手する貴様らが!自然に対し理不尽と不条理を振り撒く貴様ら人が!…故に滅ぼす、そして人族等と言う不必要な生物の居ない、本来あるべき自然を取り戻す。それが儂の最終目標だ。」
「どうやって…そんな…。」
「貴様も知っているだろう?この星に滅びをもたらし数多くの種を絶滅させた、かの大厄災“アースグリム”の事を。儂はそれに成る。」
「あれは御伽噺だ!実際には有ったわけでは無い!」
「かもな、ならば儂がその第一号となればよい。」
「失敗するぞ…この大陸には魔族国の騎士団長が居る、かの賢者も!成功などしないぞ!」
「安心しろ、対策は考えてある、その一つとして此処に来たのだからな。あっははは!」
「何なのだ…貴様は何なのだ!」
「今しがた名は無いと言った筈なのだが…ふむ…そうさな~…ふ、良い、ではこれより儂を【メサイア】と呼ぶ事を許す。」
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