野生児少女の生存日記

花見酒

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三章 野生児少女と野生の王

夜会

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 八月中旬
 午後六時半頃 レオンハール城門前
 城前に沢山の豪華な馬車が集まり次々と貴族達が城へと入っていく。そこへマテリア、アリス、レーナを乗せた場所もやって来た。
 城門前で止まりマテリア、アリスと降りる、然しレーナは降りるのを渋っている。

「何してますの?早くしないと。」
「いや…やっぱ無理、恥ずい。」
「何言ってますの?もう逃げられません早く!」
「わ…わかったよ。」

 マテリアに急かされレーナがゆっくりと馬車から降りた。
 アリスが辺りを見渡しマーリン学園長と他の参加生徒を見つけ駆け寄った。

「学園長!」
「お、コインズ嬢。それとルウ君とくろ…レーナ君か、ローニャは来ないんだよね、なら君等も生徒達と待っていたまえ、まだ来てない子がいるからもう少し待っていてくれ。あ、コインズ嬢は親御さんが来るんだっけ?」
「いえ友達と居たいので待ちます。」
「そうか、ならちょっと待っててね。」

 三人は他の生徒達が集まっている場所で指示があるまでその場で待機する事になった。
 少しして参加生徒が全員集まり学園長が生徒達に声を掛ける。

「よし!参加者はこれで全員だ!良いかい諸君、今回特別に貴族階級でない生徒でも参加できるよう私が国王に持ちかけて、君等は今回は夜会に参加出来たが飽く迄これは貴族の為の催しだから城内にいるのは殆どが御えらいさんだ、呉呉くれぐれも失礼の無いように、それと立入禁止の場所には近付かない事、問題を起こさない事!無闇に貴族に話し掛けない事!これらを守るなら基本は自由だ、しつこく言うが絶対に問題を起こしたり、貴族に失礼の無いように!いいね!」
「はい!」

 生徒一同が大きく返事を返す。

「では私について来て!離れないでね!」

 学園長を先頭に生徒達が城中へと入って行く。場内の景色を始めて目のあたりにする生徒達は興奮し大はしゃぎしている。
 長い廊下を進み大広間に辿り着くとそこには沢山の豪華な飾り付けや食事が用意されております貴族階級の者達がいる。貴族ではない生徒達はその光景に圧倒されその内の何人かは更に興奮し始めた。
 一行は一旦貴族達の邪魔にならない場所に集まり国王のスピーチを待つ。
 数分間待っていると国王と王妃、王子と姫も現れる。そして国王がスピーチを始めた。

「各方、今宵集まってくれた事に感謝する。昨今善くない出来事が重なり皆不安な日々を過ごしていただろう、然し常に心配や不安を抱いて過ごすのは心が擦り減るというもの、故に今宵はそんな諸君の疲れを少しでも取り払おうと企画した。諸君が少しでも日々の疲れや不安、鬱憤が晴れれば余も嬉しい。まぁ長ったらしい話はよそう。とにかく皆楽しんでくれ。乾杯!」 

 国王の乾杯に続いて参加者達が一斉に乾杯をする。そうして会場は一気に賑やかになった。

「よし!それじゃあ生徒諸君、私の言った事をしっかり守り、楽しみたまえ、解散!」

 学園長よ言葉で生徒達が一気に散らばって行く、アリス等三人は飲み物と食事を摂りにテーブルへ向かった。

 そこから三人は豪華な食事を楽しんていた。少ししてレーナが花を摘みにその場を離れようとした時貴族の男に声をかけられた。

「こんにちは綺麗なお嬢さん、楽しい夜会を楽しんで居ますか?もし良ければ少し僕と少しお話しませんか?」

 レーナはいかにも貴族な男に突然話しかけられ困惑している。

「あ…えっと…すみません…お…私学園の生徒でして、平民なので。」
「何と!平民でありながらこんなにも美しい方が居たとは!僕の無知をお許し下さい、良ければ御名前を教えてくださいますか?」
「へ?いや…貴族の方に…名乗れる様な名では…。」
「レーナさん、ここは名乗らないと失礼ですよ、名乗って、本名でね。」

 マテリアが小声で助言をする。

「えっと…み…【ミレオレーナ・クロムウェル】です。すみません変な名前で。」
「とんでもない!とても素敵な名だ、是非この後僕と踊っていただけませんか?」
「え?あ…御免なさい…私…その…た…体調が悪くて!失礼します!」
「あ!待って!」

 レーナはその場から逃げ出した。アリスとマテリアも彼女を追ってその場を後にした。
 レーナは走ってトイレに逃げ込み項垂れて心を落ち着かせた。
 また少ししてトイレから出ると二人が待っていてテラスに向かった。
 外の風を浴び心を落ち着かせながら雑談を始めた。

「あ~…本当に無理、帰りたい。」
「何か…御免なさい。」
「へ?あ~、別にいいよ謝んなくて、実際の飯美味いからそこだけは来て良かったと思うんだけどさ、まさか貴族に声かけられるなんて思わんだろ。」
「レーナちゃんって見た目は良いからね、何と言うか…貴族受けしそうな見た目。」
「嬉しくね~。」
「それにしてもレーナちゃんのフルネーム久しぶりに聞いたな。」
「俺も数年ぶりだよ名乗ったの。本気で口から全部出そうだった。この名前嫌いなんだよ。」
「私は良いと思うけどな、なんだかお姫様っぽい。」
「やめろ、もっと嫌いになりそう。」
「私も好きですわよ?」
「お前もか…もう良いよ、何でも。取り敢えず俺は此処でゆっくりしとくから、二人は会場に戻ったら?」
「うん、そうします。アリスは?」
「私も行く、まだ食べたいのあるし。」
「じゃあまた後で。」
「おう。」

 レーナと別れ二人は会場へ戻った。

 数十分後
 一頻り楽しんで会場の隅で座っている居ると二人は突然声をかけられた、振り向くと王子オルガがにこやかに手を振っていた。

「やぁお二人さんお久しぶりです。楽しんでますか?」
「オルガ殿下!お久しぶりで御座います。」

二人は咄嗟に立ち上がり姿勢を正して頭を下げる。

「そんな畏まらないで下さい、今宵この場は無礼講ですから。ほら頭を上げて。」
「で…では…。」
「よし。今は御二人だけですか?もう一人の方は何処かで休憩を?」
「ええ、そんな所です。」
「そうですか、以前貴族が苦手と言ってましたし仕方ないですね。」
「そうですね…。」
「いや~にしても知っている方が居て助かりました、先程から知らない御令嬢や男爵とばかり話してますから疲れてしまって。」
「殿下も大変ですね。私達で良ければ気休めですが愚痴くらいなら聞きますよ。」
「お二人が良ければ是非。」

 話し始めて数分後

「本当に最近父上は結婚結婚と煩くて。事ある事に名家や適性や天性の才能だとかに恵まれた御令嬢を宛てがおうとしてくるんです。鬱陶しいったらありゃしない。その度に言ってやるんです、「私は私が決めた運命の人と添い遂げるんだ」とね、その人が現れるまで私は女性と関係を持つ気は無い!」
「殿下はとてもロマンチストなんですね。」
「まぁそうとも言えるかな。まぁと言ってもただそういう誰かに縛られるのが嫌なだけの我儘なんですけどね。」
「いいじゃないですか、王子様なんですし少しくらい我儘でも、私も良くお母様とお父様に我儘言ったものです。それが将来添い遂げる方ならより我儘にもなります。」
「そう言ってくれると何だか安心します。おっと申し訳ないもう行かないと随分話し込んでしまった。残りの時間お二人も存分に楽しんでください。」
「こちらこそ有意義な時間でした。殿下も楽しん下さい」
「ええ。それでは。」

 二人は王子に頭を下げてから手を振って見送った。オルガもまたニ人に手を振ってその端を去っていった。

 テラスで夜風に当たって夜会が終わるのを待っていたレーナは街の風景を眺めているとふと城門に目をやる。


 ほんの少し遡り

 夜会が開催され少ししたくらいに城の前に一人の男がブツブツと何かを呟きながら城に向かって歩いて行く。男が門に差し掛かると二人の門番に止められ。

「招待状を見せていただけますか?」
「退け…」
「招待状が無いと入れられません。招待客じゃないならお引き取りを。」
「うるせぇよ…退けっつってんだろ!」

 男は突然剣を抜き門番に斬りかかる。然し男はあっさりと剣を槍で弾き飛ばされる。然し男は諦めず門番に掴みかかる。二人がかりで門番の胸ぐら掴む男を引き剥がそうとするが中々離れようとしない。

「ぶっ殺してやる…クソ王のせいね…俺は!聞いてんのか!クソ国王!」

 男が怒号を発しながら門番の胸ぐらを掴む。門番二人は必死に引き剥がそうとするが中々離れない。だがその時は男が突然離れた。

「あれ?俺…何で王様が憎いんだっけ?」

 そう呟いたのも束の間、男は門番に二人に押さえつけられる。

「待て!待ってくれ!違うんだ!俺でも何が何だか、何で王様を憎んでたのか分かんないんだ!」
「何を訳の分からん事を!」
「何にしろお前の身柄は拘束する大人しくしろ!」
「待ってくれって、違うんだ!」

 必死に抵抗し二人を振り払おうとする男。二人がかりで上から押さえつけられ勝てる筈が無いこの状況だが、男は突然魔法では無い物凄い力で二人を振り払った。

「な!こいつなんて力だ、魔法を使ったのか!」
「違う、何だこれ!?体が…勝手に…俺じゃないんだ!」

 意味不明な事を叫びながら男はポケットに手を入れ何かを取り出す。その手には丸薬が掴まれており、男はそれを口に運んだ。

「やめ…ちが…手が…勝手に!やめろ!こんなもん飲ませるな!」

 そう叫びながら男は丸薬を飲み込んだ。その直後男は苦しみ始めた。地面をのたうち回り体中を掻きむしり喘鳴を上げる。男の体は骨が砕け、肉が裂けるような音を立てながら変形していき、肌の色は黒く変色、段々と巨大になっていく。

「おい…何だこれ?どうなってる?」
「兎に角応援を呼べ!早く!俺が足止めしとくから!」
「はい!」

 門番の一人が門を少し開け城へ向かう。その間にも男は変形し巨大化していく。数十秒後ようやくそれの変形が止まった、するとそれはむくりと起き上がり門番を見下ろす。その姿は人型を保っているが最早人とは呼べない形容し難い化け物だった。
 それは鋭い目で門番を見るやいなやそれは大きく咆哮を上げた。

「ヴオ゛ア゛アァァァーー!!!」

 人とは思えぬ獣の様な咆哮が響き渡る、その声が賑やかな夜会の会場を騒然とさせた。

 城の外から獣の咆哮が聞こえて来て会場は騒然とした。先程まで楽しげな賑やかさから一変パニックを起こす参列者達。一斉に窓の外を見る、外には何十人者騎士達が門前に集まり、その先には暗闇に溶け込む真っ黒な人型の巨大な怪物の姿。参列者達はそれを観た途端更にパニックになり一目散に城の外へ逃げ出そうと走り始めた。
 騎士や城の召使達が参列者達を城の裏口に誘導する。そんな中アリスとマテリアはレーナを迎えに行く。
 二人が廊下を進みレーナの元へ向かっていると偶々会場へ向かっていたレーナと合流し三人で裏口へ向かった。然しその直後会場から轟音が響いた。

 会場の警備に当たっていた騎士団長サンザックが沢山の騎士を引き連れ門前へと向かう。そして門前に到着し化け物を目の当たりにする。その手には体がありえない方向に曲がっている門番が握られている。それは駆け付けた騎士達を睨むと手に持っていた死体を投げ捨て騎士達に咆哮を上げた。そして門を掴み破ろうとする。

「全員戦闘態勢!魔法攻撃部隊!攻撃用意!許可を求める必要は無い!可能な限り魔法を叩き込め!前衛部隊!出来るだけ魔法攻撃部隊に攻撃が向かぬよう注意を逸らせ!隙をがあり次第攻撃しろ!たが攻撃に固執しすぎずにしろ!一撃でも食らえば死ぬと思え!」

 サンザックが号令を掛ける、次の瞬間怪物が門を破る。

「攻撃開始!」

 サンザックの合図で魔法使いが一斉に魔法を放つ。怪物は手でそれを容易く防ぐ。怪物が怒りの表情で魔法使い達を睨みつけるがサンザックが怪物に斬りかかり注意を引く。

「こっちを見ろ!こっちだ!」

 それに続いて他の近接部隊が、攻撃をする。怪物は足元を走り回る騎士達に狙いを変えた。怪物が拳を振り上げ地面を殴りつけようとした途端手が止まった。そして怪物は突然城を見つめ城に向かって走り始めた。

「何!?止めろ!魔法でも何でも良い!止めろ!!」

 魔法使い達が必死に魔力障壁を形成しそれを幾重にも重ねる。然しその努力も虚しく障壁は簡単に破られる、騎士達は怪物を追いかけるもその速度には追い付けない。怪物は城に向かって突き進みジャンプしてニ階の会場の壁を突き破った。

 壁を突き破り現れる怪物に会場は更にパニックになる。騎士達が誘導しようとするがパニック状態の者達は我先にと他の参列者を押し退けながら逃げ惑う。城内に残っていた騎士達も武器を構え怪物に立ち向かう、然し怪物は見向きもせず、逃げ遅れた国王目掛けて走り出す、その時、怪物の体を無数の巨大な氷が貫いた。

「うちの生徒がまだ居るんだ…暴れるな雑魚が。」

 学園長が見た事の無い形相で怪物を睨みつけ二本の指を上に向けている。
 たった一撃で動かなくなった怪物と今の一瞬の出来事を見ていた参列者達が喝采を上げた。
 
 轟音が聞こえ急いで会場に戻って来た三人、然し戻って来た頃には怪物は既に串刺しにされ動かなくなっていた。三人は顔を見合わせホッとして胸を撫で下ろした。学園長が生徒達の元へ向かおうとした振り返ったその瞬間、怪物が再び動き出した。一瞬にして氷を砕き四つん這いで暴れ始めた、その場に居た者達は再びパニックになり逃げ出した。

「ちっ!しつこい!」

 学園長が怪物に向かって手を翳すと同時に怪物は学園の生徒に向かって手を振り下ろした。学園長は咄嗟に手を生徒に向け障壁を張る、障壁は怪物の攻撃を防いだが、学園長は障壁に集中して怪物に攻撃出来ない。だがそこへレーナが怪物に向かって走って行く。両袖の中から金属の棒を落とすように取り出し、突起を押すと尖った杭が棒から飛び出す。レーナは怪物の頭の上に乗り杭を怪物の両目に突き刺した。怪物は悶えて暴れ初めた。
 暴れる怪物によって柱が、粉砕され瓦礫が飛び散る。その内の大きな瓦礫がオルガに向かって飛んでいく。

「え?うわー!!」

 オルガがその場に尻もちをついた瞬間、マテリアが魔法を用いた高速移動でオルガの前に立つ。そして両手を前に掲げ詠唱も名唱ももちいず三つの火球に作り放った。そしてその爆発で飛んでくる瓦礫を全て撃ち落とした。
 オルガはその後ろ姿を見ていた。
 そしてマテリアが振り返りオルガに声を掛ける。

「殿下!立って下さい!逃げますよ!」
「え?あ…うん。」

 オルガは彼女の姿を美しいと心の中で思ってしまった、それからマテリアはオルガだけでなく王族全員を誘導してその場から逃げ出した。

 ほんの数秒だけ戻り怪物側
 怪物が暴れ始めた事によって生徒に向けられた手が離れた。その瞬間に学園長が怪物に手を翳し再び怪物を串刺しにした。

「レーナ君退いて!」

 レーナは瞬時に飛び降りた。その直後に学園長が怪物を指差し、四角を描いた、すると一瞬空間が歪み、怪物の頭が落ちた。それによって完全に怪物絶命した。

 騎士達の誘導の下参列者達が次々と外へ出ていく中学園長は怪物を足蹴にして考え事をしている。そこへサンザックがやって来た。

「マーリン殿、ご協力感謝いたします。」
「うん…。」
「その…言い訳がましいようですが、最初から貴女が出たほうが良かったのでは?」
「私には生徒を守る義務がある。城を守るのはお前の仕事だろう?」
「それは確かにそうなのですが、被害を抑えるという事を踏まえればやはり…」
「言い訳がましいぞ、貴様がそもそも警備態勢もっと強くするなり、この肉団子がここに来る前に仕留めるなりできたろ、失敗した八つ当たりをするな、それに今は私は虫の居所が非常に悪い子、あまり苛つかせるな小童。まあ、確かに私はにも非はあるといえばある。一度目に首を落とさなかったのは確かに失態だな。それでお愛顧って事で説教は終わりにしよう、それよりこの肉団子が何なのかしっかり調べたまえ。」
「はい…」
「声が小さい!」
「はい!」

 学園長が踵を返して城の外へ出て行った。
 参列者達が正面入口前で馬車に乗って次々と去っていく、一代走り去って行くのを学園の生徒達はソワソワしながら待っている。そんな時城の壊れた壁の一部が崩れ落ちた。しかもその下には数人いる、学園長が咄嗟に防ごうとした瞬間、高速で学園長のローニャ横切り、剣で瓦礫を打ち払った。

「何これ?どういう状況?」

 どうやら何も知らず駆けつけたようだ。

「すごい登場の仕方だね、悪いけどもう終わったんだ、今から帰る所だよ。説明はまた今度するよ。」
「あ…そう。」

 ローニャは城の壁を少し眺めた。するとそこへサンザックと女性騎士がやって来た。

「マーリン殿、改めてご協力感謝いたします。」
「うん、まぁ頑張りたまえ。」
「はい。おや?ローニャ君?何故ここに?」
「何か爆発音が聞こえたから。」
「そうか、わざわざ来てくれてありがとう、でももう大丈夫だから気にしないでくれ。」
「そう…。」

 ローニャが、サンザックの横にいる女性を頻りに見つめる。

「この人何処かで…」
「ああ…彼女は以前森の調査の際に同行した者だ。覚えてたのか。」
「何となく…顔は。うろ覚えだけど。」
「とりあえず自己紹介を。」

 サンザックがそう言うと女性騎士が一歩前に出て姿勢を正した。

「は、お久しぶりです、ローニャさん。改めて自己紹介を致します。私は【アリシア・クリネリス】と申します。以前はみっともない姿を見せてしまい申し訳ありませんでした。」
「あ…宜しくお願いします。ローニャです。」
「彼女はあの一件以来長めの休暇をしていてね、本当はもっと前には戻ってたんだけど会う機会がなかったな。」
「そうなんだ、あの時の事トラウマになってたりしない?」
「偶に夢に見ます。ですがもう大丈夫です。この程度で何時までも休んでいては騎士の名折れですから。」
「そうですか。頑張ってください。」
「はい!」
「話はこの辺にしよう。我々も仕事に戻らないと。ローニャ君、ではまた。」
「うん。あ、そうだ貴方の知り合いから伝言を預かってる。」
「知り合い?」
「うん、何か「夢は叶ったか?」だって。」
「!…その質問は…あの人か。」

 サンザックが苦笑いを浮かべる。

「騎士団長さんが夢あるの?」
「子供の頃の話さ、あの人は私の師匠でね、よくその質問をされるんだよ。別に気にしなくていい、ありがとう。」
「そ。じゃあね。」
「では、また。」

 サンザックとアリシアはローニャに敬礼をし、ローニャは二人に軽く手を振って別れた。
 そこからローニャは学園長下へ駆け寄る。

「私も乗って良い?走るの疲れたから。」
「あはは…良いよ、ちょっと待ってて。」

 そしてローニャも他生徒達と馬車に乗り込んだ。そしてその場の殆どが城から退却した。王族も城から避難し残っているのは騎士だけとなった。そして皆が退去していく中怪物の死体を調べていた。

「成る程、丸薬を飲んだら突然こうなったと。」
「はい、決して嘘ではありません、同僚も見てます。…こいつに殺されましたが。」
「まぁこの状況で嘘をつく事も無いだろうし信じるさ、だが問題はその丸薬が何なのかだ。誰が作り何の為に…」

 サンザックが丸薬について考えを巡らせていた頃死体を解剖していた騎士がとある物を見つけた。

「なんだコレ?」
「何かあったか?」
「いや…こいつの腹の中から“羽”が出てきてさ。」
「羽?どうせひもじい生活してて飢えすぎて直前に食ったんだろ、捨てろ捨てろ。」
「へ~い。うわ、こいつ肝臓やばすぎだろ。」
 
 その後も解剖は続いたが判明したのは、丸薬が魔獣化の影響による“皮膚が黒く変色する”という特徴から、魔獣化の薬であったという事だけで、それ以上の事はその場では判明しなかった。

 
 薄い月明かりの下、高場からローブの男が城を眺めている。男は一部始終を見終えると懐から水晶玉を取り出し魔力を込める。すると水晶玉は薄い光を放ち声が聞こえてくる。

「終わったか?」
「ええ、たった今。」
「どうなった。」
「死にました、かなりあっさりと。」
「その者の生死などどうでもいい、薬の効果を聞いてるんだ。」
「はい、服用した瞬間苦しみはじめ、後に変異、姿は人型ではありますが、魔獣化特有の肌の黒色化と巨大化、理性は無い様子でした。姿に関しては近いのはトロールあたりでしょうか。」
「そうか。…ふむ…まぁ使い捨ての薬故に不良品と言ったところか。」
「そうでしょうか、私はそうは…」
「貴様の意見なんぞどうでもいい、また薬を欲するものが現れれば言え。」
「はい。」

 ローブの男が返事を返す前に水晶玉の光が消えた。男は水晶玉を懐にしまい再び城を眺める。

「全く、“教祖様”は何故あの様な狂人を雇おうと思ったのだろうか。まぁ俺には“教祖様”のお考えは理解しきれんだろうな。 」

 男は屋根から飛び降り、闇夜に消えていった。
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