野生児少女の生存日記

花見酒

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一章 森の少女と獣

怖い何か

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 城での会談の二日後、ローニャはカーバッツと護衛兼調査員の王国騎士五名と共に、街の西門に集まり森へ向かう準備をしていた。
 既に準備が出来ているローニャは騎士達を眺めていた。
 ぼーと眺めていると、カーバッツが話し掛けて来た。

「よ!元気か?」
「まぁ…うん…」
「そうでも無さそうだな…やっぱり怖いか?」
「少し…」
「あ~…何だ…安心はできねぇかも知れんが、お前のことは最優先で守る。身を委ねろとは言わんが、その辺は任せてくれ」

 ローニャは静かに頷いた。
 しかしやはり行くのはどうにも気が引けてしまう。ローニャは森に対して何時に無く不安を感じていた。
 数十分後、全員の準備が完了し、馬車に乗り込んで街を出た。森への移動は全くトラブルも無く進んだ。

 夕方頃
 二日掛けて森に辿り着き、奥へと入って行く。一時間時間程で家に着き、ローニャが杖を取りに行った。
 家に入ってローニャは気になった。埃塗れるだ。しかし今はそれ所では無い、掃除したい衝動を抑えて、倉庫に行き、杖を回収して家を出た。

「持って来た…はい…」

 とサンザックに杖を渡すが

「ああ、それは君が持って居てくれ。その方が安全だし。それにそれはまだ君の物だ。」
「あ…うん…」

 と気の抜けた返事をして杖を鞄に仕舞った。

「本当に何でも入るな…それ」

 小声でカーバッツが呟く。

「うん…けどこれで多分結構埋まった。」
「そうか…結構でかいしな。」

 杖を仕舞い終えると再び森の奥へと進んだ。
 休憩を挟みながら進む事一時間程、そこで突然ローニャが立ち止まる。

「どうした?」
「此処から先は出来るだけ物は鞄に入れて…この先に【猿】が居るから…」

 一同が同時に?浮かべる。言われた通り、鞄に入れられる物は出来るだけ詰め込んで先に進んだ。
 
 先程まで後ろに居たローニャが、今は前を歩いている。少し進む方向を大回りしながら進む。しかし結局“奴ら”に見つかってしまった。
 木々が揺れ枝葉が鳴り響く。すると突然、猿が三匹程木から降りて来た。ローニャは愚痴を溢す。

「はぁ~…折角遠回りしたのに…」


 そんな事を言いながら、騎士達が武器を抜く前に鞄から道中集めておいた実を取り出し、思いっきり投げる。
 猿達が実に群がると、一気にその場から走り去った。

「今のは…【トレジャーエイプ】か?」
「うん…多分それ…近くにあいつらの縄張りがあるから遠回りした…でも逸れたのが居たみたい…」
「な…成る程。」
「だが何も餌をやらなくても、あの程度の数なら…」

 とサンザックが言い終わる前にローニャは否定する。

「駄目…下手に刺激したら仲間が集まって来る…今はあれしかない…」
「そ…そうか…すまない」

 サンザックはローニャの言葉に少し納得した。
 その後、ある程度離れると、一行は走るのを止めてゆっくりと進んだ。
 それから一時間程進み、一行はある場所に着く。それは動物達が何故か集まる広場だった。広場の光景にそれぞれが驚きを表す。

「何だ此処!?」
「生き物…が集まっている…どういう事?」
「おい!あれ!スラッシュベアだ!」

 一人の騎士が叫ぶと全員が武器を抜く、がローニャが前に立って止めに入る。

「この場所は戦闘禁止!皆寛いでるだけ…」

 ローニャの言葉に武器を収める。そして一行は広場の中に入る。すると全員が何故か穏やか気持ちになる。

「何だ?何か…落ち着くな…此処」
「ああ…理由は分からんが…此処は心地が良い…」

 騎士達がそんな感想を話すとローニャが口を開く。

「ここ…何故か絶対に動物達が争わないんだ…私も偶に来て寛いだりしてた…だから…私は【安らぎの広場】って呼んでいる…で、あれが【安らぎの木】。」

 そう言って広場の中央に生える木を指差す。すると騎士達はその木に近付いて調査を始めた。
 
 数十分、広場と木を騎士達が調査している間に、ローニャとカーバッツは広場の隅の方でテントを張る。その際ローニャが

「私は木の下で寝る…」

 と言い出したが、全力で止められた。
 その後も調査を待つこと数十分、騎士達がようやく調査を一頻り終えてテントに戻って来た。

 「すみませんお待たせしてしまって…調査の結果ですが。何も分かりませんでした。先ず周囲を調査しましたが、この場所に結界が張って有るという感じでは有りませんでした。それから次にあの木を調査してみました。」

 そう言いながら木を指差しながら続けて説明を続ける。

「ですが…木を入念に調べて見たのですが。多少の魔力は秘めてはいるものの、これと言って【オーラ】が出ているという感じも有りませんでした。なので、ただ単純に、この場所がそういう場所なのだと、一旦結論付る事にしました。でも一応あの木の落ち葉や木屑何かは持ち帰って調査する事にします。恐らく何も分からないと思いますけど。ローニャ君、良いかな?」

 とローニャにサンプルを持ち帰る許可を取ろうとする。

「?…別に良いと思う…別に私だけの森って訳でも無いし。木を傷付けないなら…別に良いじゃないかな?」
「そうか…では少しサンプルを貰って行こう。」

 と話し終わったのを確認し、カーバッツが口を開く。

「よし!じゃあもうだいぶ暗くなって来たし、今日は此処で野営をするか!ただ動物は刺激しない様にしよう」
「ええ」

 こうしてその日は安らぎの広場で寝る事に成った。

 その日の夜。食事を終えて、そろそろ寝ようかという時、ローニャは木の上をぼーっと眺めて居る。サンザックがそれに気付き声を掛ける。

「どうしたんだい?寝ないのか?何か気になる物でも有るのか?」

 とサンザックに聞かれると、ローニャは指を差して言った?

「あれ…【怖い鳥】…」
「怖い鳥?」

 と指差した方向を見ると。木の上に一羽の鳥が居た。それは【フクロウ】だった。

「フクロウが怖いのかい?」
「うん…あれは見て無いと襲って来る…」
「そうか…でも此処では大丈夫だと思うよ。それに見張りもしておくから心配無い。君はもう寝ると良い。」

 と言われると、途端にローニャは眠そうになり、それを見たサンザックはローニャをテントに送った。
 
 翌日 早朝
 野営を終え、再び森の奥へと歩き始める。歩き始めて二時間、特に何のトラブルも無く進む。そして遂に【怖い何か】が居ると感じた場所に着いた。
 そこでローニャが突然立ち止まる。

「どうかしたか?」
「此処から先は私は知らない…進んだ事無い…」
「此処?特に何も無いぞ?」
「足元…そこに線を引いてる…そこから向こうは私は行けない。」

 ローニャにそう言われ、足元を見ると落ち葉などで隠れてはいるが、確かに地面に線が書いてある。

「そうか…では此処からは我々だけで進みます。ギルドマスター殿、ローニャ君をお願いします。ローニャ君案内、感謝する。ありがとう。」
「おう、任せとけ。」

 しかしローニャが不安そうな顔でそう表情をする。

「やっぱり止めたほうが…」
「大丈夫、あまり深くは進まない、少し調査するだけだ。危なくなったらすぐ逃げるさ。」

 しかしローニャの言葉では止められなかった。

「ちが…そうじゃなくて…」

 ローニャは先に進もうとする騎士達を止めようとする。だが騎士達は止まる事は無く、最前列の騎士が線の向こうに片足を踏み入れた。その瞬間だった。
 森中が鳴り響いた。動物達が一斉に何かに怯える様に森から逃げ出した。騎士が警戒態勢を取る。しかしローニャだけは、今まで感じた事の無い様な恐怖と重圧で、押し潰される様にしゃがみ込んで震え始めてしまった。

 (なにこれ…分からない…でも怖い…何かが近付い来る!)

 ローニャはそう感じた。【それ】は見てはいけない。【それ】には遭ってはいけないと。
 皆がローニャを心配して駆け寄り、宥める。しかしローニャはどんどんと近付いて来るそれに恐怖が増すばかりだった。
 すると森の音が止み静かに成った、その瞬間。

「来た!」

 ローニャがそう叫び、向いていた方向に全員が向いて武器を構えた。『ガサガサ』と音を立て茂みから現れたのは、一匹の【狐】だった。

「あれは…狐か?少し大きいが…見た感じ【トリックフォックス】みたいだな…だが一匹だけか?」

〈【トリックフォックス】とは。とても臆病な動物であり、普段は三匹以上の群れで生活する。魔法を扱い、天敵に遭遇すると、相手を幻で分身して惑わす、自分を大きくして驚かす等して身を守る。〉

 茂みから現れたその狐は、大人の腰程の大きさの、ただの狐。全員が少し大きいだけの、何の変哲も無い狐に拍子抜けしている。だがローニャだけがその狐に怯えている。
 そこにお気楽な一人の騎士が、狐に触ろうと近寄ろうとする。

「マジで!?【トリックフォックス】!?俺始めて見た!」
「おい待て!ローニャ君が怯えている、近付かない方が良い、一旦引くぞ!」

 サンザックが止めようとするが、騎士は聞く耳を持たず近付く。

「何言ってんスか?団長。【トリックフォックス】は滅多にお目に掛けれ無いんスよ?会ったとしてもすぐ逃げちゃうし。大丈夫っスよ!子供は知らない物に怯えるもんス。ほらこんな大人しくてかわいい…」
「駄目!」

 ローニャが止めようと声を出すが、遅かった。騎士が狐の頭に触れようとした途端。
 
 狐の頭は不気味な色に染まりそして…巨大化した。

「へ?」

 巨大化し、騎士を見下ろすその顔は…ニタニタと、不敵な笑みを浮かべている様に見えた。
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