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第一の怪異:突き飛ばし線
1話
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夜 11時頃 田舎路
とある夜の田舎の街灯の少い狭い道を1台の車が走る。人気の無い鈴虫の鳴き声だけが響く道を音楽を聞きなが進んでいる。車内には男性が一人、暗さと静けさから来る恐怖心を音楽で紛らわす。しかしなにか起こる訳も無く車は進む。すると一本の線路が現れる。線路には踏切警報機のみで、遮断桿や柵は無かった。男性はこんな夜中に電車なんて走ってある筈も無いと考えながらも安全の為一時停止する。左右をしっかり確認し電車が来ていない事を慎重に確認をし、車のアクセルを踏む。車が発進し踏切のど真ん中に差し掛かる、すると突然『ガコン!』と大きな音と共に無かった筈の踏切の遮断桿が勢いよく下がる。それと同時に『カン!カン!カン!』と踏切の金が鳴り響く。
「は?!へ?!」
男はパニックに陥った。踏切を突っ切ろうとアクセルを踏むがタイヤが何かに引っ掛りスリップしてしまう。
「くそ!何なんだよ!」
男は車を諦めて降りようとする。しかし扉はロックが掛かっていないにも関わらずびくともしない。
「くそ!くそ!開けよ!開けって!」
男が必至に扉を開こうもしてたその時、窓から線路を猛スピードで走って来る電車が目に入った。
「う、うあぁぁあぁぁ!」
なんとか逃げ出そうと扉を蹴ったり体当たりしたり、窓を割ろうと試みるもびくともしない。その間に電車は猛スピードで向かってくる。気づいた時にはもう数秒で車に衝突する距離にいる。男は手に血が滲む程に扉や窓を殴り付ける。
「くそー!!は…あ…アァァアァァァー!!!」
しかし抵抗も虚しく電車は車に衝突した。車は木端微塵に砕け散り、血飛沫が地面を赤く染めた。しかし電車は止まる事無く走り去っていった。
電車が走り去り見えなくなると踏切の鐘の音が止み、遮断桿が上がると踏切がす~と消えていった。
「お前キモいんだよ!」
「学校来んじゃねぇよ!」
「お前が居るだけでやる気なくなんだよ。」
「…ごめんなさい…」
「いじめ?遊んでるだけだろ。大袈裟に考えるな。そんな事言ってる暇があったら勉強しろ。」
「…ごめんなさい…」
「なんでこんな事も出来ないの?!できて当然のことでしょ?!は?!虐められてる?どうせ被害妄想でしょ?そんなこと考えてるから成長しないのよ。」
「…ごめんなさい…」
はっと目が覚めた。また嫌な夢を見た。小学生の頃の夢。思い出したくもない記憶。目覚めが悪い。ただでさえ毎日しんどい仕事しているのだから寝ている時くらい良い夢を見ていたいのに、何度もあの頃の夢を見る。吐きそうだ。酒は飲まないのに頭がズキズキ痛む。仕事のせいだろうか。いや、どうでもいい。とっとと飯を食って支度をしよう、何を考えていたって、憂鬱な日は始まるんだ。
『〇〇市〇〇町の踏み切りで追突事故が発生しました。現場には大破した車と運転手のものと思われる血痕が残っており悲惨な状態です。現場警察が捜査をしているものの、遺体は発見されておらず、車のナンバーも確認不能で身元を特定出来ておらず、現在は血痕の検査で身元を調査している最中との事です。』
朝食を取りながら何か見ようとテレビを点けてみればこれだ。朝からやめて欲しい、気が滅入る。仕事柄見なきゃいけないとはいえ、流石に朝からストレスが貯まるのは勘弁して欲しい。
『ピンポ~ン』
誰だよ、飯くってんのに。
「は~い…」
チェーンをかけたまま扉を少し開ける。
「よ!仕事だ。」
「おっさん…」
見知った顔が扉を開けた途端眼の前にあった。はぁ…今日も仕事か…。
仕事着に着替えて家を出る。おっさんの後に付いていき車に乗り込んだ。車が発信して直ぐにおっさんは話し始めた。
「ニュース見たか?」
「ああ、見たよ。電車の事故だろ?」
「ああ、それだ。」
「俺の仕事じゃないだろ、どう考えても普通の事故だ。」
「そうなら良かったんだがな。残念だが今回は十中八九【怪異】だ。」
「何でそう思える。」
「先ず時間だ。現場に残ってた血痕から、事故にあったのはおよそ昨日の夜11時頃だ、そしてあの場所にある線路は10時以降は電車は通らないそうだ。」
「その日偶々通ったんだろ?」
「残念ながら会社に問い合わせてもその時間はその場所では運行してなかったそうだ。」
「ふ~ん」
「そして最後に証拠となるのが“遺体が無い事”だ。事故現場から数百メートルの範囲を隈無くそう捜索したが、遺体どころか肉片一つなかった。間違いなく【怪異】だ。つまり“俺達の仕事だ”。」
「はぁ…面倒くせ~。」
「そう言うな、俺達にしか出来ないんだ、報酬弾むからさ。」
報酬云々の話じゃない。そもそも嫌嫌でやってる事だ、俺はこんな“力”最初っから使いたくも無い。
数年前
とある日の、とある中学校の校舎裏での事。虐めっ子の集団が俺を取り囲んで暴力を振るっていた。
「何度言えば分かんだよ!お前は存在価値なんて無いんだよ!せんこうにチクったって無駄なんだよ!」
全身が血だらけに成る程殴られて、蹴られて、俺は数の暴力で成す術も無かった。
「死ね!死ね!」
いじめっ子がそう叫びながら、本当に殺すつもりだったみたいに顔面を蹴った。俺はそれで気を失った。そして【夢】を見た。はっきり覚えてる、悍ましい夢。俺の体中に夥しい数の【針】が突き刺さっている。痛くた痛くて堪らなかった。耐えられない程痛くて、いっそ死んてしまいたかった、でもそれ以上に彼奴等に死んでほしかった。
「死ね!死ね!しね!シね!」
そう叫んだ瞬間、俺の周りに虐めっ子達が現れて、針がそいつ等を串刺しにした。夢の中の俺はその光景を見て高笑いをしていた。
そこで目が覚めた。虐めっ子達は俺を殴るのはやめていたけど、俺が目を覚ましたのを見た瞬間、また囲みだして暴力を振るおうとした、その時俺は立ち上がって立ち向かった。虐めっ子のリーダーに掴みかかって殴り合いになった。俺を引き剥がそうと取り巻きが俺に掴み掛かるが、俺はそれを振り払ってリーダーを殴った。そうして取っ組み合いをしていた時だった。俺はさっき見た夢の中の串刺しになったこいつらを思い浮かべながら『死ね!死ね!死ね!』と心の中で叫んでいた。そして取り巻きがまた俺に掴みかかた時。
「邪魔なんだよ死ね!」
と言って振り払った瞬間。俺の掌から“針”が勢いよく生えた。針は振り払った拍子に掴みかかって来た奴の目を斬った。そいつは絶叫しながらのたうち回っていた。他の奴らは俺の手から生えてる針を見て怖気づいていた。俺も同じ様に自分の掌から生える針が怖くてパニックになったが、それよりも彼奴等の反応が余りにも滑稽で、その針を笑いながら振り回した。虐めっ子達はパニックになって逃げ惑っていたが俺はそれを追いかけて、全員を斬り付けていった。殺すつもりは無いからトラウマを植え付ける程度に深い傷を。必至に俺はそいつ等を怪我させてると先生が何人もやって来て俺を取り押さえた。俺は必死に暴れた。すると今度は体の至る所から針が生えた。それによって何人かの先生が怪我をした。俺はその光景が余りにも可笑しくてずっと笑ってた。でもすぐに冷静になって自分の行いが度が過ぎていると自覚し始めて怪我をした先生に謝ろうとしたが直ぐに取り押さえられて、拘束された。
その後、俺は警察に連れて行かれた。事情を聞かれたか何も信じてくれなかった、虐められてた事すらも。結局俺は少年院に入れられた。数ヶ月後には開放されたけど。
でも帰ったら親にぶん殴られた。それはもう酷く。結局俺は家を飛び出して、あちこち彷徨った。行く宛も無く。ずっと彷徨い続けて、俺はホームレスになった。ゴミを漁りながら毎日を過ごした。そして数ヶ月か経ったある日、突然【化け物】に襲われた。表現のしようが無い悍ましい怪物。俺はそれに殺されかけた。あの日出た針を咄嗟に生やして必死に抵抗した。すると怪物は逃げて行った。その時の俺はもうどうしょうもない感情で一杯だった。泣きながら帰りたい、とか、死にたいとか色々吹き出した。そこにこのおっさんが現れた。
「よお坊主、なに泣いてだ?」
「黙れ…失せろ…」
「酷い言い草だな、俺はお前を探しに来たんだぜ?」
「は?まさかあのクソ共の差し金か?」
「クソども?違う違う。俺はお前の“力”が欲しくて探してたんだ。」
「力…?」
「そ…お前が使った力だ。あれは“夢が具現化した物”だ。お前、前々から似たような夢を見るようになったんじゃないか?」
「ああ…体に針が刺さってて、次に俺を虐めて来る奴らが串刺しになる…夢。」
「そうそれだ。夢ってのは普通は曖昧になるか、忘れ去られるものだが、時に忘れられずに何度も見てしまう夢がある、そういった夢には色んな感情が集まるんだ。例えば怖いとか、楽しいとか、また見てみたいとか、二度と見たくないとか色々だ。そんな感じで感情が積もり積もった夢はたま~に現実に具現化する事があるお前のそれみたいな。」
「これが…夢?」
「ああ、まぁ厳密に言えば実体化した妄想ってところだ。夢ではあるが触れるし、人も殺せる。」
「悪いものなのか?」
「物による。楽しい夢が具現化すれば皆がハッピーになって、ほとぼりが冷めたら消える。悪夢が具現化すれば夢の通りの事が起こって飛び火して無関係の誰かが死ぬ事も有る。お前のは後者だな。
「じゃあ悪いものなのか…」
「いや、俺が知らんだけかもしれんが、俺は幾つも具現化した夢を見てきたが、本人が夢と同化して、尚且つ出し入れ自由な夢何て初めて見た。小僧、その力は悪い物にも良い物にも成りうる、要はお前次第だ。もしその力を有効にかつ、役に立つ物として使いたいなら、俺と来い。もし好き勝手使いたいって言うんなら…」
「なら?」
「お前をその夢が消えるまで隔離、最悪殺さなきゃならん。俺の仕事はそういう仕事だ。善悪関係なく具現化した夢を消す。勿論お前も対象だ。だが有効に使えるなら使う。それ故俺だ。さぁ、どうする?」
それで俺はおっさんに付いて行った。選択肢なんて無かった、死ぬのは怖かったから。それから俺は具現化した夢【怪異】について教えられ、戦う術も教わった。力の使い方も分かっていった。成長して幾つかの怪異を解消して報酬を貰って独り立ちをした。それでもこの仕事は続けてる。別に世の為人の為とかじゃない、やりたくてやってる訳でも無い。ただ単純に何かして死にたいだけ。それだけだ。
「着いたぞ。」
数時間の移動を経てようやく目的地に到着、体を伸ばし慣らしてから、現場へ向かった。
目的地の線路には通行止めのテープが張られ看板がいくつも立てられている。
「依頼されて来ました、【怪異専門家】の【亜夢路 葉九《あむろ はく》】です。こっちは助手の…」
「【馬理 雅有望《はり まさゆみ》】です。」
「現場を見ても?」
「お待ちしておりました。どうぞ、案内します。」
綺麗な姿勢で敬礼し警官は現場へ案内してくれた。
現場は悲惨なものだった。そこら中に車の破片が散乱し、地面は一部血に染まっていた。
「いつ見ても事件現日は気味が悪い。」
「被害者の身元は未だ不明、ナンバーや車種も判っていません。今の所ははっきり言って手詰まりです。」
「連絡があった通り状況からして怪異である可能性は非常に高いでしょう。」
「ええ…」
「しかしかと言ってそうと断定するのは時期尚早、もう少し捜査をお願いします。」
「そのつもりです。」
「雅有望、お前はどう思う?」
「いきなり?どうっつっても…何とも…酷いとしか。」
「もっとあるだろ?こう、同じ怪異の感とかさ?」
「ねぇよ、前にも言ったろうが。でもまぁ、遺体が無いってのは妙だな。前に遺体が発見されなかったっていう電車の人身事故は聞いた事があるけど、こんな開けた場所で見つからないってことは先ず無いだろ?」
「やはりお前もそう思うか。よし、この線路で以前起こった人身事故を調べて下さい、それらをまとめた物を私に送って下さい。」
「了解しました。」
「ああ、後、怪異の事はくれぐれも市民には話さずに。」
「分かっています。失礼します。」
警官は再び敬礼し走って行った。
「さて俺達も調査してみるか。」
「俺は線路沿いに歩いている見る、なんか見つかるかも。」
「おう、気をつけろよ。」
おっさんに手を振って俺は線路に付いた血痕を辿って線路沿いに進んだ。
長く続く線路をとぼとぼ歩きながら観察をする。被害者の物の思われる血痕がかなり長く続いている。数百メートル進んでもまだ続く。しかし二百メートル程すずんだ所で血痕が綺麗に途切れている。まるでそこで消えたかのように。血痕の続き方を見るに恐らく遺体はここまで引きづられて来たが、引きずった電車がこの場所でとまったか、或いは消えたか、どちらにしろ不自然な位置だ。次の駅までまだ何キロも有る止まる理由は車を轢いた事に気づいたからだろう、かと言って轢いた事に気づいて止まったならもっと手前で止まるはずだ。車を轢いて気が付かないなんて事、例え居眠りをしていたとしても有り得ない。衝撃で起きるだろう。ならな考えられる説としては、やはり怪異だ。もし仮に怪異なら明確に“轢く為に”走っていただろうし、轢いても止まる事は無い、そして血痕が途切れている位置、事故現場が怪異の発生場所で、ここまでが夢が実体化していられる限界ならばここで血が途切れて居ても可怪しくはない。しかし解らないのは遺体の行方だ。もし怪異であったとして、この場所で消えたなら、遺体は慣性で吹き飛んでいる筈。もしそうなら血が飛び散っている筈だ。しかしそんな痕跡は何処にもない。いや、見落としてるだけか?もう少しし探してみよう。
やはり無い。おっさんの言う通り、血痕が途切れた位置から更に数十メートルを探してみたが欠片どころか飛び散った血痕すら無い。そしてこの線路に残っていたのが“血痕だけ”で“肉片”は無かったとなると、今回の怪異は“遺体を食う”或いは“遺体ごと消える”類の怪異だ。まぁ間違いなく“悪夢”が具現化したんだろう。一度戻ろう。この事をおっさんに報告しよう。
「なんか見つかったか?」
「文字通り“何も無かった”。少し線路を見てみたか血痕だけで肉片や、遺体は無かった。途中で血痕が綺麗に途切れてる所があったんだが、そこから更に探してみたが何も無かった。今回はおっさんの言う通り恐らく怪異だろうな。」
「やはりか…んじゃ後は誰の、どんな類の怪異なのかだ。何故か血だけが残り遺体が無いのか、そして何故“電車”なのか。それを調べよう。」
「了解。」
走る筈の無い時間帯に起こった電車の人身事故。何故これ程まで悲惨であるにも関わらず遺体が無く血痕しかないのか、そして何故この線路なのか。それらを調べるべく、俺とおっさんは車に乗り込み、俺達の事務所へ向った。
とある夜の田舎の街灯の少い狭い道を1台の車が走る。人気の無い鈴虫の鳴き声だけが響く道を音楽を聞きなが進んでいる。車内には男性が一人、暗さと静けさから来る恐怖心を音楽で紛らわす。しかしなにか起こる訳も無く車は進む。すると一本の線路が現れる。線路には踏切警報機のみで、遮断桿や柵は無かった。男性はこんな夜中に電車なんて走ってある筈も無いと考えながらも安全の為一時停止する。左右をしっかり確認し電車が来ていない事を慎重に確認をし、車のアクセルを踏む。車が発進し踏切のど真ん中に差し掛かる、すると突然『ガコン!』と大きな音と共に無かった筈の踏切の遮断桿が勢いよく下がる。それと同時に『カン!カン!カン!』と踏切の金が鳴り響く。
「は?!へ?!」
男はパニックに陥った。踏切を突っ切ろうとアクセルを踏むがタイヤが何かに引っ掛りスリップしてしまう。
「くそ!何なんだよ!」
男は車を諦めて降りようとする。しかし扉はロックが掛かっていないにも関わらずびくともしない。
「くそ!くそ!開けよ!開けって!」
男が必至に扉を開こうもしてたその時、窓から線路を猛スピードで走って来る電車が目に入った。
「う、うあぁぁあぁぁ!」
なんとか逃げ出そうと扉を蹴ったり体当たりしたり、窓を割ろうと試みるもびくともしない。その間に電車は猛スピードで向かってくる。気づいた時にはもう数秒で車に衝突する距離にいる。男は手に血が滲む程に扉や窓を殴り付ける。
「くそー!!は…あ…アァァアァァァー!!!」
しかし抵抗も虚しく電車は車に衝突した。車は木端微塵に砕け散り、血飛沫が地面を赤く染めた。しかし電車は止まる事無く走り去っていった。
電車が走り去り見えなくなると踏切の鐘の音が止み、遮断桿が上がると踏切がす~と消えていった。
「お前キモいんだよ!」
「学校来んじゃねぇよ!」
「お前が居るだけでやる気なくなんだよ。」
「…ごめんなさい…」
「いじめ?遊んでるだけだろ。大袈裟に考えるな。そんな事言ってる暇があったら勉強しろ。」
「…ごめんなさい…」
「なんでこんな事も出来ないの?!できて当然のことでしょ?!は?!虐められてる?どうせ被害妄想でしょ?そんなこと考えてるから成長しないのよ。」
「…ごめんなさい…」
はっと目が覚めた。また嫌な夢を見た。小学生の頃の夢。思い出したくもない記憶。目覚めが悪い。ただでさえ毎日しんどい仕事しているのだから寝ている時くらい良い夢を見ていたいのに、何度もあの頃の夢を見る。吐きそうだ。酒は飲まないのに頭がズキズキ痛む。仕事のせいだろうか。いや、どうでもいい。とっとと飯を食って支度をしよう、何を考えていたって、憂鬱な日は始まるんだ。
『〇〇市〇〇町の踏み切りで追突事故が発生しました。現場には大破した車と運転手のものと思われる血痕が残っており悲惨な状態です。現場警察が捜査をしているものの、遺体は発見されておらず、車のナンバーも確認不能で身元を特定出来ておらず、現在は血痕の検査で身元を調査している最中との事です。』
朝食を取りながら何か見ようとテレビを点けてみればこれだ。朝からやめて欲しい、気が滅入る。仕事柄見なきゃいけないとはいえ、流石に朝からストレスが貯まるのは勘弁して欲しい。
『ピンポ~ン』
誰だよ、飯くってんのに。
「は~い…」
チェーンをかけたまま扉を少し開ける。
「よ!仕事だ。」
「おっさん…」
見知った顔が扉を開けた途端眼の前にあった。はぁ…今日も仕事か…。
仕事着に着替えて家を出る。おっさんの後に付いていき車に乗り込んだ。車が発信して直ぐにおっさんは話し始めた。
「ニュース見たか?」
「ああ、見たよ。電車の事故だろ?」
「ああ、それだ。」
「俺の仕事じゃないだろ、どう考えても普通の事故だ。」
「そうなら良かったんだがな。残念だが今回は十中八九【怪異】だ。」
「何でそう思える。」
「先ず時間だ。現場に残ってた血痕から、事故にあったのはおよそ昨日の夜11時頃だ、そしてあの場所にある線路は10時以降は電車は通らないそうだ。」
「その日偶々通ったんだろ?」
「残念ながら会社に問い合わせてもその時間はその場所では運行してなかったそうだ。」
「ふ~ん」
「そして最後に証拠となるのが“遺体が無い事”だ。事故現場から数百メートルの範囲を隈無くそう捜索したが、遺体どころか肉片一つなかった。間違いなく【怪異】だ。つまり“俺達の仕事だ”。」
「はぁ…面倒くせ~。」
「そう言うな、俺達にしか出来ないんだ、報酬弾むからさ。」
報酬云々の話じゃない。そもそも嫌嫌でやってる事だ、俺はこんな“力”最初っから使いたくも無い。
数年前
とある日の、とある中学校の校舎裏での事。虐めっ子の集団が俺を取り囲んで暴力を振るっていた。
「何度言えば分かんだよ!お前は存在価値なんて無いんだよ!せんこうにチクったって無駄なんだよ!」
全身が血だらけに成る程殴られて、蹴られて、俺は数の暴力で成す術も無かった。
「死ね!死ね!」
いじめっ子がそう叫びながら、本当に殺すつもりだったみたいに顔面を蹴った。俺はそれで気を失った。そして【夢】を見た。はっきり覚えてる、悍ましい夢。俺の体中に夥しい数の【針】が突き刺さっている。痛くた痛くて堪らなかった。耐えられない程痛くて、いっそ死んてしまいたかった、でもそれ以上に彼奴等に死んでほしかった。
「死ね!死ね!しね!シね!」
そう叫んだ瞬間、俺の周りに虐めっ子達が現れて、針がそいつ等を串刺しにした。夢の中の俺はその光景を見て高笑いをしていた。
そこで目が覚めた。虐めっ子達は俺を殴るのはやめていたけど、俺が目を覚ましたのを見た瞬間、また囲みだして暴力を振るおうとした、その時俺は立ち上がって立ち向かった。虐めっ子のリーダーに掴みかかって殴り合いになった。俺を引き剥がそうと取り巻きが俺に掴み掛かるが、俺はそれを振り払ってリーダーを殴った。そうして取っ組み合いをしていた時だった。俺はさっき見た夢の中の串刺しになったこいつらを思い浮かべながら『死ね!死ね!死ね!』と心の中で叫んでいた。そして取り巻きがまた俺に掴みかかた時。
「邪魔なんだよ死ね!」
と言って振り払った瞬間。俺の掌から“針”が勢いよく生えた。針は振り払った拍子に掴みかかって来た奴の目を斬った。そいつは絶叫しながらのたうち回っていた。他の奴らは俺の手から生えてる針を見て怖気づいていた。俺も同じ様に自分の掌から生える針が怖くてパニックになったが、それよりも彼奴等の反応が余りにも滑稽で、その針を笑いながら振り回した。虐めっ子達はパニックになって逃げ惑っていたが俺はそれを追いかけて、全員を斬り付けていった。殺すつもりは無いからトラウマを植え付ける程度に深い傷を。必至に俺はそいつ等を怪我させてると先生が何人もやって来て俺を取り押さえた。俺は必死に暴れた。すると今度は体の至る所から針が生えた。それによって何人かの先生が怪我をした。俺はその光景が余りにも可笑しくてずっと笑ってた。でもすぐに冷静になって自分の行いが度が過ぎていると自覚し始めて怪我をした先生に謝ろうとしたが直ぐに取り押さえられて、拘束された。
その後、俺は警察に連れて行かれた。事情を聞かれたか何も信じてくれなかった、虐められてた事すらも。結局俺は少年院に入れられた。数ヶ月後には開放されたけど。
でも帰ったら親にぶん殴られた。それはもう酷く。結局俺は家を飛び出して、あちこち彷徨った。行く宛も無く。ずっと彷徨い続けて、俺はホームレスになった。ゴミを漁りながら毎日を過ごした。そして数ヶ月か経ったある日、突然【化け物】に襲われた。表現のしようが無い悍ましい怪物。俺はそれに殺されかけた。あの日出た針を咄嗟に生やして必死に抵抗した。すると怪物は逃げて行った。その時の俺はもうどうしょうもない感情で一杯だった。泣きながら帰りたい、とか、死にたいとか色々吹き出した。そこにこのおっさんが現れた。
「よお坊主、なに泣いてだ?」
「黙れ…失せろ…」
「酷い言い草だな、俺はお前を探しに来たんだぜ?」
「は?まさかあのクソ共の差し金か?」
「クソども?違う違う。俺はお前の“力”が欲しくて探してたんだ。」
「力…?」
「そ…お前が使った力だ。あれは“夢が具現化した物”だ。お前、前々から似たような夢を見るようになったんじゃないか?」
「ああ…体に針が刺さってて、次に俺を虐めて来る奴らが串刺しになる…夢。」
「そうそれだ。夢ってのは普通は曖昧になるか、忘れ去られるものだが、時に忘れられずに何度も見てしまう夢がある、そういった夢には色んな感情が集まるんだ。例えば怖いとか、楽しいとか、また見てみたいとか、二度と見たくないとか色々だ。そんな感じで感情が積もり積もった夢はたま~に現実に具現化する事があるお前のそれみたいな。」
「これが…夢?」
「ああ、まぁ厳密に言えば実体化した妄想ってところだ。夢ではあるが触れるし、人も殺せる。」
「悪いものなのか?」
「物による。楽しい夢が具現化すれば皆がハッピーになって、ほとぼりが冷めたら消える。悪夢が具現化すれば夢の通りの事が起こって飛び火して無関係の誰かが死ぬ事も有る。お前のは後者だな。
「じゃあ悪いものなのか…」
「いや、俺が知らんだけかもしれんが、俺は幾つも具現化した夢を見てきたが、本人が夢と同化して、尚且つ出し入れ自由な夢何て初めて見た。小僧、その力は悪い物にも良い物にも成りうる、要はお前次第だ。もしその力を有効にかつ、役に立つ物として使いたいなら、俺と来い。もし好き勝手使いたいって言うんなら…」
「なら?」
「お前をその夢が消えるまで隔離、最悪殺さなきゃならん。俺の仕事はそういう仕事だ。善悪関係なく具現化した夢を消す。勿論お前も対象だ。だが有効に使えるなら使う。それ故俺だ。さぁ、どうする?」
それで俺はおっさんに付いて行った。選択肢なんて無かった、死ぬのは怖かったから。それから俺は具現化した夢【怪異】について教えられ、戦う術も教わった。力の使い方も分かっていった。成長して幾つかの怪異を解消して報酬を貰って独り立ちをした。それでもこの仕事は続けてる。別に世の為人の為とかじゃない、やりたくてやってる訳でも無い。ただ単純に何かして死にたいだけ。それだけだ。
「着いたぞ。」
数時間の移動を経てようやく目的地に到着、体を伸ばし慣らしてから、現場へ向かった。
目的地の線路には通行止めのテープが張られ看板がいくつも立てられている。
「依頼されて来ました、【怪異専門家】の【亜夢路 葉九《あむろ はく》】です。こっちは助手の…」
「【馬理 雅有望《はり まさゆみ》】です。」
「現場を見ても?」
「お待ちしておりました。どうぞ、案内します。」
綺麗な姿勢で敬礼し警官は現場へ案内してくれた。
現場は悲惨なものだった。そこら中に車の破片が散乱し、地面は一部血に染まっていた。
「いつ見ても事件現日は気味が悪い。」
「被害者の身元は未だ不明、ナンバーや車種も判っていません。今の所ははっきり言って手詰まりです。」
「連絡があった通り状況からして怪異である可能性は非常に高いでしょう。」
「ええ…」
「しかしかと言ってそうと断定するのは時期尚早、もう少し捜査をお願いします。」
「そのつもりです。」
「雅有望、お前はどう思う?」
「いきなり?どうっつっても…何とも…酷いとしか。」
「もっとあるだろ?こう、同じ怪異の感とかさ?」
「ねぇよ、前にも言ったろうが。でもまぁ、遺体が無いってのは妙だな。前に遺体が発見されなかったっていう電車の人身事故は聞いた事があるけど、こんな開けた場所で見つからないってことは先ず無いだろ?」
「やはりお前もそう思うか。よし、この線路で以前起こった人身事故を調べて下さい、それらをまとめた物を私に送って下さい。」
「了解しました。」
「ああ、後、怪異の事はくれぐれも市民には話さずに。」
「分かっています。失礼します。」
警官は再び敬礼し走って行った。
「さて俺達も調査してみるか。」
「俺は線路沿いに歩いている見る、なんか見つかるかも。」
「おう、気をつけろよ。」
おっさんに手を振って俺は線路に付いた血痕を辿って線路沿いに進んだ。
長く続く線路をとぼとぼ歩きながら観察をする。被害者の物の思われる血痕がかなり長く続いている。数百メートル進んでもまだ続く。しかし二百メートル程すずんだ所で血痕が綺麗に途切れている。まるでそこで消えたかのように。血痕の続き方を見るに恐らく遺体はここまで引きづられて来たが、引きずった電車がこの場所でとまったか、或いは消えたか、どちらにしろ不自然な位置だ。次の駅までまだ何キロも有る止まる理由は車を轢いた事に気づいたからだろう、かと言って轢いた事に気づいて止まったならもっと手前で止まるはずだ。車を轢いて気が付かないなんて事、例え居眠りをしていたとしても有り得ない。衝撃で起きるだろう。ならな考えられる説としては、やはり怪異だ。もし仮に怪異なら明確に“轢く為に”走っていただろうし、轢いても止まる事は無い、そして血痕が途切れている位置、事故現場が怪異の発生場所で、ここまでが夢が実体化していられる限界ならばここで血が途切れて居ても可怪しくはない。しかし解らないのは遺体の行方だ。もし怪異であったとして、この場所で消えたなら、遺体は慣性で吹き飛んでいる筈。もしそうなら血が飛び散っている筈だ。しかしそんな痕跡は何処にもない。いや、見落としてるだけか?もう少しし探してみよう。
やはり無い。おっさんの言う通り、血痕が途切れた位置から更に数十メートルを探してみたが欠片どころか飛び散った血痕すら無い。そしてこの線路に残っていたのが“血痕だけ”で“肉片”は無かったとなると、今回の怪異は“遺体を食う”或いは“遺体ごと消える”類の怪異だ。まぁ間違いなく“悪夢”が具現化したんだろう。一度戻ろう。この事をおっさんに報告しよう。
「なんか見つかったか?」
「文字通り“何も無かった”。少し線路を見てみたか血痕だけで肉片や、遺体は無かった。途中で血痕が綺麗に途切れてる所があったんだが、そこから更に探してみたが何も無かった。今回はおっさんの言う通り恐らく怪異だろうな。」
「やはりか…んじゃ後は誰の、どんな類の怪異なのかだ。何故か血だけが残り遺体が無いのか、そして何故“電車”なのか。それを調べよう。」
「了解。」
走る筈の無い時間帯に起こった電車の人身事故。何故これ程まで悲惨であるにも関わらず遺体が無く血痕しかないのか、そして何故この線路なのか。それらを調べるべく、俺とおっさんは車に乗り込み、俺達の事務所へ向った。
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そして、そこで彼らは強制的にライフゲームという5つのゲームに参加させられてしまう。
ライフゲームでの失格は現実での死を意味する。
ただし40人全員は生き残れない。
生き残れるのは所持チップの数が上からで5番目まで。
今ここに40人の生徒たちが繰り広げるデスゲームが開始する。
ツギハギ・リポート
主道 学
ホラー
拝啓。海道くんへ。そっちは何かとバタバタしているんだろうなあ。だから、たまには田舎で遊ぼうよ。なんて……でも、今年は絶対にきっと、楽しいよ。
死んだはずの中学時代の友達から、急に田舎へ来ないかと手紙が来た。手紙には俺の大学時代に別れた恋人もその村にいると書いてあった……。
ただ、疑問に思うんだ。
あそこは、今じゃ廃村になっているはずだった。
かつて村のあった廃病院は誰のものですか?
迷蔵の符
だんぞう
ホラー
休日の中学校で、かくれんぼをする私とふみちゃん。
ただし普通のかくれんぼではない。見つけてはいけないかくれんぼ。
しかもその日に限って、校舎内にはあふれていた……普通の人には見えないモノたちが。
ルールに従い、そのかくれんぼ……『迷蔵』を続けているうちに、私は見えないモノから目をそらせなくなる。
『迷蔵』とは何なのか、そもそもなぜそんなことを始めたのか、この学校に隠されている秘密とは。
次第に見えるようになってゆく真実の向こうに、私は……。
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