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風邪をひいた女の子と蝉のおじいさん
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「くしゅん、ゴホッ、コン。コン。」
「あれっ、はつみ風邪なの?」
「うん、少し咳が出るし、熱っぽいの。お母さん、風邪薬ある?」
「買い置きがあると思うけど、夏風邪はヘタをするると長びく可能性があるっていうから、病院で診てもらった方がいいわ。」
「わかった。明日、行ってくる。」
「ひとりで、大丈夫?」
「私は、もう中2だよ。子供じゃないわ。病院くらい一人で行けるわよ。」
はつみはここ、藤ノ森町の中学に通う中2の女の子で母一人、子一人で暮らしていたが母の心配よりも、ずっと大人だった。母が仕事で遅くなると夕飯の用意をしたり、風呂の掃除や準備をして、ちゃんと待っていてくれたりしていたからだ。母の初音は介護の仕事をしていたためとても忙しくしていたからだ。
はつみは次の日、近くの藤ノ森病院に出向いた。その帰りのことである。
はつみが病院の外へ出るとベンチに一人のおじいさんが座っていた。おじいさんは、すごく紳士的な身なりをしていてはつみがそばを通るとはつみにこう言った。
「お嬢さん、どこから来なすったね?」
はつみは突然の声かけにびっくりはしたが根が優しい子なのですぐに
「おじいさん、私ははつみといいます。子の近くに住んでいるんです。」
と答えました。すると、又。
「そうかい。私は長く入院していて、いつも時間つぶしに、外に出るんだが何もかわったことは起きないし、相変わらず、病気は治らんのだよ。」
はつみはおじいさんが気のどくに思えたのでこんな提案をしました。
「おじいさん、私にはお父さんがいないの。だから、これも何かの縁だわ。ここへ来てもいいなら話し相手ぐらいにはなれるわ。」
すると、おじいさんは喜んでその提案を受け入れることにしました。こうして、おじいさんと女の子は時々このベンチで話をすることにしたのですが、おじいさんの話が女の子には時々、理解不能になり、困ってしまいました。それは、こんな具合です。
「お嬢さん、お嬢さんはどこから来なすったね。」
「おじいさん、私ははつみ。この近くのアパートにすんでるって、もう何度も話てるわ。」
「そうだったかい。私はちっとも知らないよ。」
「こんなに繰返し同じ話しかできないなんて思わなかった。おじいさん、ひどいわ。」
最後には泣き出してしまう始末で女の子はしばらく会うのをよそうと思いました。でも会わなくなるとなったで気になりはじめ、久しぶりに病院にくるとおじいさんのかわりに看護士さんが待っていてくれたので、あれっ、と思いましたが、その看護士さんからおじいさんが亡くなったことを聞かされました。又、おじいさんは認知症という病気で自分が見聞きしたことはすぐに忘れてしまう病気だったということも聞かされました。
女の子は帰りの途すから、もっとちゃんと話してあげればよかったと少し後悔しました。
「お母さん、私はおじいさんにひどいことをしてしまったのかな?」
「どうして?」
「だって、おじいさんにはどうしても忘れてしまうって病気があるのに、それをひどいわなんて言って、すごく不親切だったわ。」
「そうかしら、私には、はつみはとてもおじいさんに親切にしてあげたと思うけど。そうじゃなかったら、おじいさんはいつもベンチではつみを待ったりはしなかったと思うわ。おじいさんはいつもとても喜んではつみを待っていたんでしょ。それは、半分おじいさんにからかわれていたとしか思えないわよ。」
はつみは、えっと思いました。確かに忘れっぽいおじいさんが自分を待っていてくれたのは、もしかしたらおじいさんの手だったのかもと思うはつみでした。
「あれっ、はつみ風邪なの?」
「うん、少し咳が出るし、熱っぽいの。お母さん、風邪薬ある?」
「買い置きがあると思うけど、夏風邪はヘタをするると長びく可能性があるっていうから、病院で診てもらった方がいいわ。」
「わかった。明日、行ってくる。」
「ひとりで、大丈夫?」
「私は、もう中2だよ。子供じゃないわ。病院くらい一人で行けるわよ。」
はつみはここ、藤ノ森町の中学に通う中2の女の子で母一人、子一人で暮らしていたが母の心配よりも、ずっと大人だった。母が仕事で遅くなると夕飯の用意をしたり、風呂の掃除や準備をして、ちゃんと待っていてくれたりしていたからだ。母の初音は介護の仕事をしていたためとても忙しくしていたからだ。
はつみは次の日、近くの藤ノ森病院に出向いた。その帰りのことである。
はつみが病院の外へ出るとベンチに一人のおじいさんが座っていた。おじいさんは、すごく紳士的な身なりをしていてはつみがそばを通るとはつみにこう言った。
「お嬢さん、どこから来なすったね?」
はつみは突然の声かけにびっくりはしたが根が優しい子なのですぐに
「おじいさん、私ははつみといいます。子の近くに住んでいるんです。」
と答えました。すると、又。
「そうかい。私は長く入院していて、いつも時間つぶしに、外に出るんだが何もかわったことは起きないし、相変わらず、病気は治らんのだよ。」
はつみはおじいさんが気のどくに思えたのでこんな提案をしました。
「おじいさん、私にはお父さんがいないの。だから、これも何かの縁だわ。ここへ来てもいいなら話し相手ぐらいにはなれるわ。」
すると、おじいさんは喜んでその提案を受け入れることにしました。こうして、おじいさんと女の子は時々このベンチで話をすることにしたのですが、おじいさんの話が女の子には時々、理解不能になり、困ってしまいました。それは、こんな具合です。
「お嬢さん、お嬢さんはどこから来なすったね。」
「おじいさん、私ははつみ。この近くのアパートにすんでるって、もう何度も話てるわ。」
「そうだったかい。私はちっとも知らないよ。」
「こんなに繰返し同じ話しかできないなんて思わなかった。おじいさん、ひどいわ。」
最後には泣き出してしまう始末で女の子はしばらく会うのをよそうと思いました。でも会わなくなるとなったで気になりはじめ、久しぶりに病院にくるとおじいさんのかわりに看護士さんが待っていてくれたので、あれっ、と思いましたが、その看護士さんからおじいさんが亡くなったことを聞かされました。又、おじいさんは認知症という病気で自分が見聞きしたことはすぐに忘れてしまう病気だったということも聞かされました。
女の子は帰りの途すから、もっとちゃんと話してあげればよかったと少し後悔しました。
「お母さん、私はおじいさんにひどいことをしてしまったのかな?」
「どうして?」
「だって、おじいさんにはどうしても忘れてしまうって病気があるのに、それをひどいわなんて言って、すごく不親切だったわ。」
「そうかしら、私には、はつみはとてもおじいさんに親切にしてあげたと思うけど。そうじゃなかったら、おじいさんはいつもベンチではつみを待ったりはしなかったと思うわ。おじいさんはいつもとても喜んではつみを待っていたんでしょ。それは、半分おじいさんにからかわれていたとしか思えないわよ。」
はつみは、えっと思いました。確かに忘れっぽいおじいさんが自分を待っていてくれたのは、もしかしたらおじいさんの手だったのかもと思うはつみでした。
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