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第一話【夢】
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仄暗い、山の中。そこに、彼女は居た。
部屋の中心で、体育座りのように丸まりながら、ゆらゆらと揺れている。
その顔は、ふんわりと火照り、花のような笑顔を浮かべている。時折、ふふ、とこぼれる小さな笑い声は、まるで鈴のように可憐だ。
しばらくそうして誰かを待っていたようだが、ふと顔を上げた。うん、とひとつ頷いて薄着のまま、裸足でそのまま外へと走って行ってしまう。詳しい事はわからないが、寒いし痛いし心細いだろうに、先ほどの笑みを絶やさず、ただひたすら駆けて行く。その跳ねる様に走る姿は、鹿さながらだ。
その彼女の足が、急にびくりと止まる。その大きな瞳が、お目当てのものを捉えたようだ。その先にある何かを凝視して、タイミングを見計らい、一気に飛び出す。
彼女が待っていたのは、袈裟に身を包んだ僧侶らしい青年だ。彼女が飛び出てくるなり、ひどく驚いたような表情をしている。そりゃあそうだ。自分だって森の中から突然少女が飛び出してきたら、変な声を出してしまうに違いない。
けれど、不思議なことに、僧の表情からは恐怖の感情も読み取れる。あの、可憐な少女に恐怖を抱いているのだろうか?
愛しい、あなた。かわいらしい、あなた。大好きな、あなた。
わたし、あなたに言われたから。お家で大人しくあなたのこと、待っていたの。わたし、いい子にしてたわ。あなたの言いつけをちゃんと守っていたわ。
なのに、どうして来てくれなかったの?迷子になってしまったの?
そうね、ここら一帯は少し入り組んでいるもの。慣れていても、仕方ないかもしれないわ。だからね!迎えに来たの。ね、もう安心して、いとしいひと。
『ちっ、が、う...!僕は、**じゃあ、ない...!』
どうしてそんな嘘をつくの?
どうして?真面目なあなたが。嘘が大嫌いだ、とこぼしていたあなたが。それも、よりによってわたしに、見え透いた嘘をつくの? どうして、どうしてそんなひどいことを言うの?
ざわざわと木が騒がしく音を立てる暗闇の中、二つの金色の双眸が彼を、いや違う。こちらを、俺を、痛々しいほど真っ直ぐに見据えた。
部屋の中心で、体育座りのように丸まりながら、ゆらゆらと揺れている。
その顔は、ふんわりと火照り、花のような笑顔を浮かべている。時折、ふふ、とこぼれる小さな笑い声は、まるで鈴のように可憐だ。
しばらくそうして誰かを待っていたようだが、ふと顔を上げた。うん、とひとつ頷いて薄着のまま、裸足でそのまま外へと走って行ってしまう。詳しい事はわからないが、寒いし痛いし心細いだろうに、先ほどの笑みを絶やさず、ただひたすら駆けて行く。その跳ねる様に走る姿は、鹿さながらだ。
その彼女の足が、急にびくりと止まる。その大きな瞳が、お目当てのものを捉えたようだ。その先にある何かを凝視して、タイミングを見計らい、一気に飛び出す。
彼女が待っていたのは、袈裟に身を包んだ僧侶らしい青年だ。彼女が飛び出てくるなり、ひどく驚いたような表情をしている。そりゃあそうだ。自分だって森の中から突然少女が飛び出してきたら、変な声を出してしまうに違いない。
けれど、不思議なことに、僧の表情からは恐怖の感情も読み取れる。あの、可憐な少女に恐怖を抱いているのだろうか?
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ざわざわと木が騒がしく音を立てる暗闇の中、二つの金色の双眸が彼を、いや違う。こちらを、俺を、痛々しいほど真っ直ぐに見据えた。
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