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第一章 帝都の賢者
第73話 猫の目にも涙
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癌で入院した堀川部長。
病気を治して帰ってきてくれると俺を含む彼を慕う社員達は信じていた。
だが、社長の松岡は、手術後、抗がん剤治療で長期療養が必要になった堀川をあっさり解任してしまう。(会社に来ていない間の役員報酬を払いたくないと松岡が言い出し、病院の堀川と揉めたという噂であった。)
会社に戻るつもりだった堀川も怒り、弁護士を立てて法的に戦うと言っていたのだが、その後病状が急変、そのまま亡くなってしまったのだ。
それからである、会社がおかしくなっていったのは。役員の補充で当時課長だった西谷が堀川の代わりに取締役部長になったのだ。
西谷は上には徹底的に媚びへつらうが、自分より下の立場と見た相手にはまるでチンピラのような恫喝でパワハラを繰り返す人物だった。少しでも気に入らなければ相手が言う事を聞くまで恫喝を続ける。社員相手でも酷かったが、下請け会社の人間に対してはさらに酷い態度で、業界内では嫌われ者であった。
社員から見ればかなり有害な人物なのだが、社長の松岡にとっては、西谷に汚れ役・嫌われ役をさせておけば自分は社員に良い顔をできるので便利な存在であったようだ。(もちろん社員からはそんな松岡社長の腹黒さも見抜かれていたが。)
憎まれっ子世に憚るとは良く言ったものだ。あれだけ社員下請け全員から嫌われ憎まれていても、西谷は病気になることもなくどんどん出世していった。
(余談だが、松岡が堀川をクビにした時、性格の悪い西谷でさえ「会社は守ってくれないんだな…」と呟いていたのが記憶に残っている。その後、西谷は自分が体調が悪かったり病気になったりしても、会社に隠して何も言わなくなった。言えば松岡に切られると思ったのかもしれない。)
そして、社員全員が西谷の顔色を伺い媚びるような雰囲気になっていく。(媚びなければ後が面倒くさくなるからである。)
西谷は自分から『俺の事を敬え!』『丁重に扱え!』『俺は偉いんだぞ!』と言って憚らない男だった。
『態度が無礼だ』と西谷に出禁を言い渡された下請けの人間は何人も居たが、その理由は、すれ違った時に挨拶をしなかったと言う程度の事である。相手の作業服から相手の会社に電話をして誰か特定し、出禁を言い渡すのだ。だが、西谷の顔を知らない人間がどうやって挨拶をするのか? と思うが、俺様の顔も知らんのか? という事らしい。
西谷の言動を見る度に、「えっらそうに……」と心の中で俺は何度呟いたか…。西谷を見ていると、人に対して偉そうにするのがどれだけ醜く見えるのかよく分かった。
西谷の増長はその後もエスカレートし、そのうち、社長の松岡ですら「アイツは言い出したら聞かないから。はいはいと言っておくしかない…」とボヤき始め、どっちが社長なのかもう分からない状況にまでなっていく。だが、今更降格させる事もできない。下ろそうとすればまさに“面倒くさい事”になるからだ。
西谷は恫喝は得意だったが仕事は遅く、いつも書類の山に囲まれて残業していた。そして、西谷が帰らないので、他の社員も帰れない。帰ろうとすると「なんだと?!」と怒り出すからだ。
西谷の仕事の仕方は一言で言うと所謂マイクロマネジメントである。社員全員に毎日のスケジュールを全て逐一細かく報告させる、すべてをチェック・把握しないと気がすまないのだ。(おそらく気が小さい事の裏返しなのだろうと影で皆に言われていたが。)
俺はそれに反抗的な態度を取って西谷に嫌われてしまった。なにせ、俺の仕事はいつも突然言われて今日中明日までみたいなモノばかりで、予定など提出できなかったからである。
仕方がないので、本日の予定=営業活動みたいなざっくりした書き方で提出したら、それが気に入らない西谷に怒鳴りつけられ……俺はウンザリして思わず『はいはいワカリマシタ』と返事してしまったが、それがよくなかった。西谷に『失礼だろうが!!』とブチキレられ……とても不愉快な時間を過ごす事になってしまった。
その後、仕方なく適当な予定を書いて提出する事にした。予定通りに仕事が運んだ事は年に一日くらいしかなかったので、嘘しか書いてない予定表である。それを作るために毎日時間を取られるのが実に馬鹿らしかった。
また西谷は、社員が休みを取ろうとすると、理由を自分のところまで説明に来させる。さらには、残業できない日を知りたいからと、女子社員の定時以降の予定まで報告しろと言いだし、怒った若い女子社員が何人も辞めてしまった。
それと、西谷は近くの席の者を秘書代わりに使う。(秘書をつけてやればよいのだが、社長はその気はないらしい。)だが、西谷の雑用をさせられる社員は当然自分の仕事が進まない。そうして、西谷の近くの席に配置された者の多くが嫌気が差して辞めていった。
西谷についての苦情はかなり社長の松岡のところにも上がっていたようだが、それでも松岡が西谷を放置していたのは、自分が社員に良い人を演じる隠れ蓑にできるからでもあるが、西谷が取ってきた仕事が一番多く、会社に利益を齎しているという事実があったからである。
だが、それも間違いである。西谷は、部下達の仕事の成果・手柄を、全て自分のモノにしていただけなのだから……。
良い人だった堀川はガンで死に。
憎まれっ子(松岡と西谷)は世に憚り。
ブラック企業でストレスの中、長時間労働させられた俺は突然死した。
思い出すだに楽しい話ではない……。
メイヴィス「そうか……俺が居なくなった後、そんな事に…。松岡のやつ、何をやっているんだ、全く…」
「堀川部長~~~ど~して戻ってきてくれなかったにゃぁ~~~!」
メイヴィス「……すまなかった……」
俺は色々辛かった事を思い出し、ちょっと猫の目に涙が浮かんでしまった…。
病気を治して帰ってきてくれると俺を含む彼を慕う社員達は信じていた。
だが、社長の松岡は、手術後、抗がん剤治療で長期療養が必要になった堀川をあっさり解任してしまう。(会社に来ていない間の役員報酬を払いたくないと松岡が言い出し、病院の堀川と揉めたという噂であった。)
会社に戻るつもりだった堀川も怒り、弁護士を立てて法的に戦うと言っていたのだが、その後病状が急変、そのまま亡くなってしまったのだ。
それからである、会社がおかしくなっていったのは。役員の補充で当時課長だった西谷が堀川の代わりに取締役部長になったのだ。
西谷は上には徹底的に媚びへつらうが、自分より下の立場と見た相手にはまるでチンピラのような恫喝でパワハラを繰り返す人物だった。少しでも気に入らなければ相手が言う事を聞くまで恫喝を続ける。社員相手でも酷かったが、下請け会社の人間に対してはさらに酷い態度で、業界内では嫌われ者であった。
社員から見ればかなり有害な人物なのだが、社長の松岡にとっては、西谷に汚れ役・嫌われ役をさせておけば自分は社員に良い顔をできるので便利な存在であったようだ。(もちろん社員からはそんな松岡社長の腹黒さも見抜かれていたが。)
憎まれっ子世に憚るとは良く言ったものだ。あれだけ社員下請け全員から嫌われ憎まれていても、西谷は病気になることもなくどんどん出世していった。
(余談だが、松岡が堀川をクビにした時、性格の悪い西谷でさえ「会社は守ってくれないんだな…」と呟いていたのが記憶に残っている。その後、西谷は自分が体調が悪かったり病気になったりしても、会社に隠して何も言わなくなった。言えば松岡に切られると思ったのかもしれない。)
そして、社員全員が西谷の顔色を伺い媚びるような雰囲気になっていく。(媚びなければ後が面倒くさくなるからである。)
西谷は自分から『俺の事を敬え!』『丁重に扱え!』『俺は偉いんだぞ!』と言って憚らない男だった。
『態度が無礼だ』と西谷に出禁を言い渡された下請けの人間は何人も居たが、その理由は、すれ違った時に挨拶をしなかったと言う程度の事である。相手の作業服から相手の会社に電話をして誰か特定し、出禁を言い渡すのだ。だが、西谷の顔を知らない人間がどうやって挨拶をするのか? と思うが、俺様の顔も知らんのか? という事らしい。
西谷の言動を見る度に、「えっらそうに……」と心の中で俺は何度呟いたか…。西谷を見ていると、人に対して偉そうにするのがどれだけ醜く見えるのかよく分かった。
西谷の増長はその後もエスカレートし、そのうち、社長の松岡ですら「アイツは言い出したら聞かないから。はいはいと言っておくしかない…」とボヤき始め、どっちが社長なのかもう分からない状況にまでなっていく。だが、今更降格させる事もできない。下ろそうとすればまさに“面倒くさい事”になるからだ。
西谷は恫喝は得意だったが仕事は遅く、いつも書類の山に囲まれて残業していた。そして、西谷が帰らないので、他の社員も帰れない。帰ろうとすると「なんだと?!」と怒り出すからだ。
西谷の仕事の仕方は一言で言うと所謂マイクロマネジメントである。社員全員に毎日のスケジュールを全て逐一細かく報告させる、すべてをチェック・把握しないと気がすまないのだ。(おそらく気が小さい事の裏返しなのだろうと影で皆に言われていたが。)
俺はそれに反抗的な態度を取って西谷に嫌われてしまった。なにせ、俺の仕事はいつも突然言われて今日中明日までみたいなモノばかりで、予定など提出できなかったからである。
仕方がないので、本日の予定=営業活動みたいなざっくりした書き方で提出したら、それが気に入らない西谷に怒鳴りつけられ……俺はウンザリして思わず『はいはいワカリマシタ』と返事してしまったが、それがよくなかった。西谷に『失礼だろうが!!』とブチキレられ……とても不愉快な時間を過ごす事になってしまった。
その後、仕方なく適当な予定を書いて提出する事にした。予定通りに仕事が運んだ事は年に一日くらいしかなかったので、嘘しか書いてない予定表である。それを作るために毎日時間を取られるのが実に馬鹿らしかった。
また西谷は、社員が休みを取ろうとすると、理由を自分のところまで説明に来させる。さらには、残業できない日を知りたいからと、女子社員の定時以降の予定まで報告しろと言いだし、怒った若い女子社員が何人も辞めてしまった。
それと、西谷は近くの席の者を秘書代わりに使う。(秘書をつけてやればよいのだが、社長はその気はないらしい。)だが、西谷の雑用をさせられる社員は当然自分の仕事が進まない。そうして、西谷の近くの席に配置された者の多くが嫌気が差して辞めていった。
西谷についての苦情はかなり社長の松岡のところにも上がっていたようだが、それでも松岡が西谷を放置していたのは、自分が社員に良い人を演じる隠れ蓑にできるからでもあるが、西谷が取ってきた仕事が一番多く、会社に利益を齎しているという事実があったからである。
だが、それも間違いである。西谷は、部下達の仕事の成果・手柄を、全て自分のモノにしていただけなのだから……。
良い人だった堀川はガンで死に。
憎まれっ子(松岡と西谷)は世に憚り。
ブラック企業でストレスの中、長時間労働させられた俺は突然死した。
思い出すだに楽しい話ではない……。
メイヴィス「そうか……俺が居なくなった後、そんな事に…。松岡のやつ、何をやっているんだ、全く…」
「堀川部長~~~ど~して戻ってきてくれなかったにゃぁ~~~!」
メイヴィス「……すまなかった……」
俺は色々辛かった事を思い出し、ちょっと猫の目に涙が浮かんでしまった…。
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