パワハラで人間に絶望したサラリーマン人間を辞め異世界で猫の子に転生【賢者猫無双】(※タイトル変更-旧題「天邪鬼な賢者猫、異世界を掻き回す」)

田中寿郎

文字の大きさ
上 下
70 / 85
第一章 帝都の賢者

第70話 老獪な老人と意地悪な猫

しおりを挟む
「じゃっ!」

メイヴィス「まて、待て、マテ、MATE~って!」

転移しようとする俺を焦って引き留めようとするメイヴィス。だが先程とは違い、袖が掴めない距離を俺はキープしている。テーブルも挟んでいるしな。メイヴィスは慌てて追跡用マーカーを放ってきたが、その魔力をペシとはたき落とす。

メイヴィス「なっ?! いや、頼む! 待ってくれ!」

「ふ、冗談にゃ。テーブルと椅子出しっぱなしで行かんにゃ。街で買った結構高かった奴にゃ」

メイヴィス「ほっ…。

…てか結構いい性格しとるなお主?」

「まぁにゃ。俺は意地悪な猫だからにゃ」

俺はちょっと調子を取り戻しつつ合った。

実は、今までのやりとりで大体分かったのだ。この程度なら、いざとなったら逃げ切れる。

少し余裕が出てきた。戦っても歯が立たないという事もなさそうだ。

まぁ人間の賢者も老獪だ、手強い事は変わらないだろうが。

メイヴィス「お主に今逃げられるのは非常に困る、頼みがあるのじゃよ~~~!」

「たのみぃ~?」

メイヴィス「そう露骨に嫌な顔をせんでくれ、頼みというのは他でもない、儂を連れて帰ってほしいんじゃよ、帝都に! お前を追いかけるために帰還用の最後の魔石を使ってしもうたから、帰るに帰れんのじゃ」

「にゃにゃ!」

言われてみればそうか、魔石を使い果たして転移できないのなら、自力で歩いて帰る必要がある。だが、ここは魔境と呼ばれる森の奥地である。

メイヴィス「…足が悪い年寄をこんなどこか分からん森の中に置いていったりはしないよな?」

「別に…知らんにゃ。置いていっても気になんかならんにゃ」

メイヴィス「置いていかれて死んだら化けて出るぞ?」
メイヴィス「とはいえまぁ儂も賢者と言われた者、簡単には死ぬつもりはないがな。だが、森から出られたら、お前を見つけ出して仕返ししてやるぞい」

「……仕返しされる前に殺しとくか」

メイヴィス「お主……随分殺伐とした奴じゃな」

「森で狩りをしながら……他の動物や魔物を殺しながら生きてきたにゃ。それに、俺は人間じゃないからにゃ。人間を殺すのにそれほど抵抗感はないにゃよ?」

メイヴィス「前世は人間だったんだろう? 違う種族に転生するとそんなものか? まぁ人間でも人を殺すのが平気な奴はたくさん居るがな。だが……儂と戦うと? さっき自分でも言ってたろうに、転生者の賢者は手強いぞ?」

「【転移】が使えないと分かった時点で、こちらが圧倒的優位になったにゃ」

メイヴィス「……嘘かもしれんぞ? 実はまだ魔石を隠し持っているかも…?」

「にゃにゃ! 老獪な…。今まで、そういうブラフや駆け引きが必要な相手にはこの世界では出会ってこなかったにゃぁ…」

メイヴィス「ふっふっふ、伊達に百五十年も生きとらんでな」

「…でも? 魔石が残ってるなら帰るのに使えるって事だにゃ? つまり、安心して置いて行けるにゃ」

メイヴィス「まってまって! 嘘です、魔石はほんとにもうないんです~! 頼むよ~~ちゃんと謝礼は払うから~!」

「謝礼?」

メイヴィス「うむ、いくら払ったら引き受けてくれる?」

「金はいらんにゃ」

メイヴィス「金以外か……何か欲しいものはあるか? 儂は帝国ではそれなりの地位についておる、大抵のモノは手に入るぞ?」

「今のところ、特に欲しいものはないにゃ」

メイヴィス「うーむ、困ったの……。そうじゃ、これならどうじゃ…?」

「……?」

人間の賢者の老人が提示した謝礼は、意外にも“紅茶”であった。帝都に行ったら美味しい紅茶を飲ませてくれると言うのだ。もっと高価なものを言うだろうと予想していたが肩透かしで俺も少し驚いた。

なんでも、メイヴィスは完璧に地球の紅茶と同じ味がするものを開発したそうだ。

メイヴィス「地球からの転生者なら魅力的じゃろ? 金では手に入らんからな」

茶葉も分けてくれるという。それだけではない、地球の料理を色々再現しているので、それもごちそうしてくれるという。さらに、その材料とレシピも教えてくれると言う。

なるほど……魅力的かもしれない。俺はそれで手を打つ事にした。

まぁ立ち去ろうとしたのは半分冗談だったんだがな。俺も、老人を森に置き去りにして見殺しにするほど冷たくはない。

だが、俺も行った事がない場所に転移でほいほい移動できるわけではない。

(※実はできなくはないのだが、簡単ではない。遠見の魔法のような、遠隔地を見る事ができる魔法などで事前調査が必要なのだ。それも、場所を知らないとどこを見て良いのか分からず、膨大な魔力が必要になるだろう。魔力もそうだが、そもそも、見たこともない場所を遠見で見ても、そこが目的地かどうか分からない。それよりは、自分で飛んで行ってしまったほうが早い。)

そこで、一旦、元の街に戻ってメイヴィスを置いて、自分だけ帝国の王都まで行く事にした。そこから転移で戻ってメイヴィス達を連れ帰ると言う作戦である。

(ちなみにメイヴィスは王都には転移用の目印を置いていると言っていたのだが、その目印システム、俺には使えないし。)

街に戻ったら、グリス達もすでに街に戻っていたようで、徘徊老人メイヴィスを引き渡して任せた。

(余談だが、そこで街の名前がワッツローヴから占領される前の地名【ムサロ】に戻ったと聞かされた。そして、マニブール王国がなくなり、帝国の領地になった事を聞かされたのだった。)


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...