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序章(プロローグ)
第62話 猫人キター!
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■ワズロー
あの時…
猫人の魔法で退路を断たれ、踏みとどまって攻撃を受け流すのももう限界だった。一つ二つ、三つ、防ぎきれなかった攻撃が俺の体に当たる。そうなるともうどうにもできず、続く攻撃魔法を全て浴びる事となってしまった。
とんでもない奴に喧嘩を売ってしまった。
実はそれは部下たちが全滅した時点で分かっていたが、俺は指揮官であり師匠でもある。部下達を死なせてしまった責任がある、逃げるわけには行かなかったのだ。
奴が魔力切れを起こしているはずだと睨んで攻撃してみたものの、どうやらそれも見込み違いだったようだ。俺がいくら攻撃しても奴の防御障壁はまったく揺るがず。さらに息をつく間もない波状攻撃が返ってきた。
もうダメだ……俺の人生の終わる時だ。さすがにそう覚悟を決め目を閉じたが、その瞬間、攻撃が止んだ。
俺は恐る恐る目をあけてみると、周囲の景色が変わっていた。どこかで見たことがある景色で……そうだ、ここはエイケ侯爵邸の中庭である。
そこでやっと気がついた。侯爵に渡されていた緊急脱出用の魔導具が作動したのだと。今まで作動させた事がないので忘れていたが、公爵邸の中庭に転移させられると言っていたのを思い出した…
だが、一歩踏み出そうとして、俺はそのまま崩れ落ちるように倒れた。見れば当然である、片足がなかった。猫人の攻撃でちぎれてしまったようだ…。
その時、屋敷の救護班が中庭に駆けつけてきて、治療を始めた。そう言えば、魔導具が作動した事を感知する仕組みもあると言っていたか…。
どうやら足だけでなく、片腕もないようだ。それ以外にも傷が多数あり、満身創痍。この場で緊急処置を始めるようだ。
これは……せっかく脱出させてもらったものの、これでは助からないかも知れないな…。まぁここで俺だけ助かっても部下達に申し訳ない。
だが、せっかく助かったのだから、せめて、侯爵に報告だけでも済ませてから逝こう。おそらく侯爵も、そのために魔導具を持たせたのだろうから……もし命を助けるためであったら、死にかけないと作動しないのでは意味がないだろうからな…。
そこに、エイケ侯爵が駆けつけてきた。良かった、俺の命がどこまでもつか、焦っていたところだ。
俺は報告をするために救護班の人間を押しのけ、口を開いた。
+ + + +
■エイケ公爵
中庭に駆けつけると、ワズローが倒れていた。見れば片手片足を失い、医務室に運ぶ余裕もなく、その場で応急処置を受けている。
私の顔を見たワズローが口を開いた。
ワズロー「侯爵閣下! 申しわけありません…お預かりした騎士団、魔法師団は…全滅…しました」
「全滅だと?!」
ワズロー「あれは…ただの獣人ではない…悪魔だ…。敵に回すのは危険です!」
ガスト「だから言ったではないですか! あれは、敵に回してはいけないと…」
しまった、応接室に居たガストとレイゼルも中庭に来てしまっている。
レイゼル「腕が落ちたか、ワズロー?」
ワズロー「…お前は……レイゼル? 戻ってきたのか?」
レイゼル「今はレイゼル将軍だ」
ワズロー「将軍…だと?」
レイゼル「ああ、いつまでも田舎街でうだつの上がらない脳筋猿のお前と違って、私は王都に渡り出生して、ついに国王陛下直轄の軍を任される事となったのだ。というか、なんだそのザマは? 落ちぶれたもんだなワズローよ? 多少強いとは言え、獣人一人が討伐できんとはな…」
ワズロー「奴の事を…知っているのか?」
レイゼル「ワッツローヴの騎士団を壊滅させたという事は聞いているが、まさかエイケ侯爵の騎士団まで全滅しているとは思わなかったぞ」
ワズロー「……」
レイゼル「だが安心しろ。国王陛下より不届きな獣人の討伐命令が下された。不甲斐ないお前達の代わりに、我々が害獣を討伐してやる」
ワズロー「…あれに、手を出せば、殺されるぞ? あれは…普通ではない! 上級種のドラゴンと同じ、化け物だ!」
レイゼル「ふん、国王陛下直轄の騎士団と軍団を舐めてもらっては困る。お前達、格好ばかりの騎士団とは違うのだよ」
ワズロー「…格好ばかり、だと? そうか…お前は第一騎士団に居たんだったな。第一は格好重視だったからな。だが第二騎士団は違う、実力重視だったのだ」
レイゼル「獣人一人に負けておいて実力重視とは笑わせる」
ワズロー「第二騎士団は国王陛下の騎士団にだって劣ってはおらぬ! 我々が勝てなかったなら、誰も勝てはしない」
レイゼル「ああ、分かるよ。ウンウン分かる。そういう事にしておかないと、プライドが保てんだろうからなぁ? まぁ結果はいずれすぐに分かるさ、実力の違いとというものがな…」
その時、騎士が一人急ぎ足でレイゼルに近づき、何かを耳打ちした。
レイゼル「…侯爵様、城門の外で待機させている私の騎士から、猫人が一人、入城の列に並んでいると言ってきている。特徴からして、件の獣人ではないか? と」
「何?! それは…間違いないのか?!」
レイゼル「そもそも、外を出歩いている獣人などこの国にはおらん。しかも先祖返りの猫人だ。間違いようもないだろう?」
ワズロー「…まさか、俺を追ってきたのか? トドメを刺すために?」
レイゼル「随分執念深い猫に目をつけられたようだな、ワズロー? ハハハ侯爵、そんな情けない顔をするな。我々が相手をしてやる」
ワズロー「俺が行きます、俺が狙いなら、俺を殺せば満足するでしょう」
「いや、もうよい、ワズローは休め。せっかく国王陛下が騎士団を使わせてくれたのだ。後はお任せしよう…」
レイゼル「まぁかせておけ! 猫人一人、簡単に片付けてやるさ」
ガスト「やめたほうがいい! あれは、軍隊でも勝てる相手ではない」
レイゼル「んん? なんだ青年? お前は何の権利があって将軍に意見しているのだ?」
ガスト「も…申し訳有りません、閣下!」
レイゼル「閣下だと?! 将軍に任ぜられてから、そう呼んだのはお前が始めてだ。うん、いいね、閣下。いいだろう、発言を許す。意見があるなら言ってみろ!」
ガスト「あれは獣人ではない、妖精族だと殺された父が言っておりました。外見が小柄な猫人なので騙されますが、先ほどワズロー師が言っていたように、ドラゴンと同じと考えて対応すべきです。それも、上級種のドラゴン級であると」
なるほど、第二騎士団が勝てなかったのだから、ドラゴンの、それも上級種と同等と言えるか。確かにもし上級種のドラゴンが街を襲ってきたら、第二騎士団とて勝てはしないだろう。街が、国が滅びる可能性すらある。それと同等に考えて対処すべきという事か…。
ガスト「ですが、私はアレと話をしましたが、攻撃されれば反撃するが、攻撃されなければ、人間と関わる気はないと言っていました。その点もドラゴンと同じ、怒らせれば街が滅びるが、関わらず放置すれば、無用な戦いは避けられるかと…」
レイゼル「なるほど…。ガスト君の意見は分かった。だが、それで引き下がるわけには行かないのだよ。国王陛下は獣人が大層お嫌いでな。この国の貴族を殺した獣人を野放しにはできないのだ」
ガスト「…ですが…あれは…危険です! 国が滅びるかも?!」
レイゼル「父親を殺されているのだ、恐れるのも分かる。まぁ、未だ正式に伯爵位も継いでいない学生の身分だ。安心して大人に任せて見ていたまえ」
レイゼルのその言葉で、逆に私は不安になる。自信満々で第二騎士団を送り出した私が言えた事ではないが、客観的に他人の様子を見ると、確かに、慢心しているように見えるな…。
あの時…
猫人の魔法で退路を断たれ、踏みとどまって攻撃を受け流すのももう限界だった。一つ二つ、三つ、防ぎきれなかった攻撃が俺の体に当たる。そうなるともうどうにもできず、続く攻撃魔法を全て浴びる事となってしまった。
とんでもない奴に喧嘩を売ってしまった。
実はそれは部下たちが全滅した時点で分かっていたが、俺は指揮官であり師匠でもある。部下達を死なせてしまった責任がある、逃げるわけには行かなかったのだ。
奴が魔力切れを起こしているはずだと睨んで攻撃してみたものの、どうやらそれも見込み違いだったようだ。俺がいくら攻撃しても奴の防御障壁はまったく揺るがず。さらに息をつく間もない波状攻撃が返ってきた。
もうダメだ……俺の人生の終わる時だ。さすがにそう覚悟を決め目を閉じたが、その瞬間、攻撃が止んだ。
俺は恐る恐る目をあけてみると、周囲の景色が変わっていた。どこかで見たことがある景色で……そうだ、ここはエイケ侯爵邸の中庭である。
そこでやっと気がついた。侯爵に渡されていた緊急脱出用の魔導具が作動したのだと。今まで作動させた事がないので忘れていたが、公爵邸の中庭に転移させられると言っていたのを思い出した…
だが、一歩踏み出そうとして、俺はそのまま崩れ落ちるように倒れた。見れば当然である、片足がなかった。猫人の攻撃でちぎれてしまったようだ…。
その時、屋敷の救護班が中庭に駆けつけてきて、治療を始めた。そう言えば、魔導具が作動した事を感知する仕組みもあると言っていたか…。
どうやら足だけでなく、片腕もないようだ。それ以外にも傷が多数あり、満身創痍。この場で緊急処置を始めるようだ。
これは……せっかく脱出させてもらったものの、これでは助からないかも知れないな…。まぁここで俺だけ助かっても部下達に申し訳ない。
だが、せっかく助かったのだから、せめて、侯爵に報告だけでも済ませてから逝こう。おそらく侯爵も、そのために魔導具を持たせたのだろうから……もし命を助けるためであったら、死にかけないと作動しないのでは意味がないだろうからな…。
そこに、エイケ侯爵が駆けつけてきた。良かった、俺の命がどこまでもつか、焦っていたところだ。
俺は報告をするために救護班の人間を押しのけ、口を開いた。
+ + + +
■エイケ公爵
中庭に駆けつけると、ワズローが倒れていた。見れば片手片足を失い、医務室に運ぶ余裕もなく、その場で応急処置を受けている。
私の顔を見たワズローが口を開いた。
ワズロー「侯爵閣下! 申しわけありません…お預かりした騎士団、魔法師団は…全滅…しました」
「全滅だと?!」
ワズロー「あれは…ただの獣人ではない…悪魔だ…。敵に回すのは危険です!」
ガスト「だから言ったではないですか! あれは、敵に回してはいけないと…」
しまった、応接室に居たガストとレイゼルも中庭に来てしまっている。
レイゼル「腕が落ちたか、ワズロー?」
ワズロー「…お前は……レイゼル? 戻ってきたのか?」
レイゼル「今はレイゼル将軍だ」
ワズロー「将軍…だと?」
レイゼル「ああ、いつまでも田舎街でうだつの上がらない脳筋猿のお前と違って、私は王都に渡り出生して、ついに国王陛下直轄の軍を任される事となったのだ。というか、なんだそのザマは? 落ちぶれたもんだなワズローよ? 多少強いとは言え、獣人一人が討伐できんとはな…」
ワズロー「奴の事を…知っているのか?」
レイゼル「ワッツローヴの騎士団を壊滅させたという事は聞いているが、まさかエイケ侯爵の騎士団まで全滅しているとは思わなかったぞ」
ワズロー「……」
レイゼル「だが安心しろ。国王陛下より不届きな獣人の討伐命令が下された。不甲斐ないお前達の代わりに、我々が害獣を討伐してやる」
ワズロー「…あれに、手を出せば、殺されるぞ? あれは…普通ではない! 上級種のドラゴンと同じ、化け物だ!」
レイゼル「ふん、国王陛下直轄の騎士団と軍団を舐めてもらっては困る。お前達、格好ばかりの騎士団とは違うのだよ」
ワズロー「…格好ばかり、だと? そうか…お前は第一騎士団に居たんだったな。第一は格好重視だったからな。だが第二騎士団は違う、実力重視だったのだ」
レイゼル「獣人一人に負けておいて実力重視とは笑わせる」
ワズロー「第二騎士団は国王陛下の騎士団にだって劣ってはおらぬ! 我々が勝てなかったなら、誰も勝てはしない」
レイゼル「ああ、分かるよ。ウンウン分かる。そういう事にしておかないと、プライドが保てんだろうからなぁ? まぁ結果はいずれすぐに分かるさ、実力の違いとというものがな…」
その時、騎士が一人急ぎ足でレイゼルに近づき、何かを耳打ちした。
レイゼル「…侯爵様、城門の外で待機させている私の騎士から、猫人が一人、入城の列に並んでいると言ってきている。特徴からして、件の獣人ではないか? と」
「何?! それは…間違いないのか?!」
レイゼル「そもそも、外を出歩いている獣人などこの国にはおらん。しかも先祖返りの猫人だ。間違いようもないだろう?」
ワズロー「…まさか、俺を追ってきたのか? トドメを刺すために?」
レイゼル「随分執念深い猫に目をつけられたようだな、ワズロー? ハハハ侯爵、そんな情けない顔をするな。我々が相手をしてやる」
ワズロー「俺が行きます、俺が狙いなら、俺を殺せば満足するでしょう」
「いや、もうよい、ワズローは休め。せっかく国王陛下が騎士団を使わせてくれたのだ。後はお任せしよう…」
レイゼル「まぁかせておけ! 猫人一人、簡単に片付けてやるさ」
ガスト「やめたほうがいい! あれは、軍隊でも勝てる相手ではない」
レイゼル「んん? なんだ青年? お前は何の権利があって将軍に意見しているのだ?」
ガスト「も…申し訳有りません、閣下!」
レイゼル「閣下だと?! 将軍に任ぜられてから、そう呼んだのはお前が始めてだ。うん、いいね、閣下。いいだろう、発言を許す。意見があるなら言ってみろ!」
ガスト「あれは獣人ではない、妖精族だと殺された父が言っておりました。外見が小柄な猫人なので騙されますが、先ほどワズロー師が言っていたように、ドラゴンと同じと考えて対応すべきです。それも、上級種のドラゴン級であると」
なるほど、第二騎士団が勝てなかったのだから、ドラゴンの、それも上級種と同等と言えるか。確かにもし上級種のドラゴンが街を襲ってきたら、第二騎士団とて勝てはしないだろう。街が、国が滅びる可能性すらある。それと同等に考えて対処すべきという事か…。
ガスト「ですが、私はアレと話をしましたが、攻撃されれば反撃するが、攻撃されなければ、人間と関わる気はないと言っていました。その点もドラゴンと同じ、怒らせれば街が滅びるが、関わらず放置すれば、無用な戦いは避けられるかと…」
レイゼル「なるほど…。ガスト君の意見は分かった。だが、それで引き下がるわけには行かないのだよ。国王陛下は獣人が大層お嫌いでな。この国の貴族を殺した獣人を野放しにはできないのだ」
ガスト「…ですが…あれは…危険です! 国が滅びるかも?!」
レイゼル「父親を殺されているのだ、恐れるのも分かる。まぁ、未だ正式に伯爵位も継いでいない学生の身分だ。安心して大人に任せて見ていたまえ」
レイゼルのその言葉で、逆に私は不安になる。自信満々で第二騎士団を送り出した私が言えた事ではないが、客観的に他人の様子を見ると、確かに、慢心しているように見えるな…。
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