パワハラで人間に絶望したサラリーマン人間を辞め異世界で猫の子に転生【賢者猫無双】(※タイトル変更-旧題「天邪鬼な賢者猫、異世界を掻き回す」)

田中寿郎

文字の大きさ
上 下
55 / 85
序章(プロローグ)

第55話 モヤモヤするにゃ

しおりを挟む
◆ガストとエイケ侯爵

一人、街を脱出したガストは、必死で馬を駆り再び隣町のエイケ侯爵領に逃げ込んだ。そして、すぐに侯爵に事態を報告に行ったのだが…

最初、侯爵はガストの話を信じなかった。

確かに、第三騎士団はエイケ侯爵家の戦力の中では三軍扱いではあるのだが、それでもワッツローヴ伯爵の騎士団よりはるかに強いという自負があったのだ。

(ワッツローヴ伯爵は、本人は強い魔力を持っており、先の戦争で活躍した功績で叙爵されたのだが、新興貴族であったため、その騎士団は、騎士のシックスと魔法士のモイラーが優れていただけで、その他の騎士は寄せ集めに過ぎなかった。そのシックスとモイラーだってエイケ侯爵から譲渡した人材なのだ。)

だが、執事がやってきて、騎士団壊滅の報告が入ったと告げた。戦闘に参加しなかった伝令騎士が戻ってきて事態を報告してきたそうだ。

すると、侯爵は極めて不機嫌な顔になった。それはそうであろう、騎士団を貸してやったのに、数日で全滅の報告となったのだから。

とは言え、目の前にいる、いまだ正式に爵位を継いだわけでもない若者の責任とも言えない。

もともと侯爵は、ガストに街を任せられる実力があるとは信じていなかったのだ。そのため、貸し出した第三騎士団の団長ツォズには、独自の判断で街を治めるよう指示していたのだから。

しかし、まさかツォズ達が全滅するとは…。

…何かがおかしい。ボタンの掛け違いのような気持ち悪さをエイケ侯爵は感じていた。最初の掛け違いは、ビレリフ(ワッツローヴ伯爵)であったが、侯爵家も既に巻き込まれている…。今更なかったことにもできまい。

ツォズが負けたというのだから、その獣人の強さは本物なのだろう。

だが、それは非常に忌々しき問題である。それなりに実力のある騎士団を一匹で壊滅せしめるほどの獣人が現れた事になる。そうなると、国内の獣人と人間とのパワーバランスが崩れてしまう。獣人達が調子づいて、ワッツローヴの街以外でも反乱を起こす可能性がある。

特に、隣のワッツローブ領とこのエイケ領は元々獣人の国だった場所で、獣人が非常に多いのだ。万が一、クーデターなどという事になり、そこに件の獣人という強力な戦力が加われば、国をかき回す内乱となりかねない。

ボタンの掛け違いなら、早急に、そして強引に、是正する必要がある。

エイケ侯爵は“第二騎士団”の投入を決意した。

獣人達が浮足立つ前に、件の獣人を処理してしまう事にしたのだ。

それを聞いたガストはもちろん反対した。愚かな判断であると。父はそれで失敗した、と。だが、侯爵は、侯爵家の騎士団を伯爵家の騎士団と一緒にするなと一蹴する。それどころか、下位の身分でありながら上位貴族に愚かなどと言うのは無礼だろうとガストを叱責。ガストは土下座する勢いで謝罪し、部屋から退散したのであった。

第二騎士団は、エイケ侯爵家の戦力の中では最強である。ツォズ率いる第三騎士団は、第二に入れなかった落ちこぼれ騎士の集まりなのだ。(※第一騎士団は儀礼的な行事をこなすための部隊で、戦闘力よりも身分や上品さを主眼において編成されている。)第二騎士団は実力主義で、やや品性に欠ける部分がある荒くれ者も居るが、その実力は国内ナンバーワンであると自負している。

そのような戦力を持っているからこそ、エイケ侯爵は元獣人の国であった場所を領地として任されたのだ。多少強い獣人が暴れたからと言って、逃げ帰っては国王の信頼を裏切る事になってしまう。

第二騎士団を持ってすれば、いかに件の獣人が強かろうとも討ち取れるはず。ワッツローブ伯爵家の騎士団長シックスは王国でも一、二を争う実力と言われていたが、そのシックスを育てた師匠こそが、第二騎士団の団長ワズローなのだ。そして、第二騎士団にはシックスの兄弟弟子が多数在籍している。みな、シックスなどには負けないと矜持を持つ実力者ばかりである。

さらに、エイケ侯爵はエイケ魔法師団も一緒に派遣する事にした。エイケ侯爵家の魔法師団は、国内有数の魔法兵力であり、第二騎士団との連携も良い。第二騎士団と魔法師団が合わされば、他国と戦争になっても負ける事はないはずである。

こうして、侯爵による獣人討伐の命を受けたエイケ第二騎士団とエイケ魔法騎士団が出陣した。



  +  +  +  +



■カイト

勢いで街を出る、と商業ギルドのリアンナには言ったものの……実は未だ、ワッツローヴの街(の近く)に居たりする。

注文していた仕立て服の最後の一着をまだ受け取っていなかったのを思い出したからだ。

別に受け取らずに去っても構わないのだが―――俺が人間だった記憶を持っていなかったらそうしたかも知れないが―――人間だった頃、俺は結構貧乏性な性格であった。(毒親にネグレクトされ、三流中小企業にしか就職できなかったので、決して裕福とは言えない経済状況であったから仕方がない。)変なところでその性格が出てしまい、安くない金を払ったのにそれを捨てていく気にはどうしてもなれなかったのだ。

カイトは街の仕立屋で仕上がりの予定(まだ数日掛かると言う事だった)を聞いた後、防護壁の上に乗り、街の内外の様子をぼーっと見ながら過ごしたりしていた。(近い内に去る事になるのだから景色を見ておこうと思ったのだ。)

※ちなみに上空の結界は俺が空から飛び込んで割ってしまった後、そのまま修復されていないらしいので、カイトが張り直してやった。(俺が張った結界なので、俺には反応しないようになっている。)

使った魔力は俺にとっては微々たるものであったが、それでも以前の結界よりはかなり強度の高いものにしてある。万が一、飛行系の魔物が街に入ってきて街の人間に被害が出たら―――俺のせいだと知っている人間は居ないだろうが―――後味が悪いと思ったからである。

『お前のせいだ』などと獣人に言われて、気にしていないつもりだったが、あまり良い気分であるわけがない。やはり、どこか少し気にしてしまう部分がある。

もしまた俺のいない間に騎士がやってきたら……というか、俺がいなくなれば、いずれまた(確実に)街を取り返しに来るだろう。そうなった時、もしまた獣人に被害が出たら、また逆恨みが残る気がする。

気にする必要はないとは思いつつも、心のどこかにジェムの言葉が引っ掛かっており、せめて自分が居る間くらいは様子を見ようと思った。

……まったく、面倒な話である。助けるなら完全に助ける。放置なら最初から手を出さなければ良かったのだ。中途半端な事をしてしまったものだ。

なんで俺が守ってやらなければならないと疑問の気持ちも同時に浮かぶが、まぁ俺が居る間だけだ。去った後までは知らない。中途半端な線ではあるが、そのあたりが妥当な線引きだろう。

「早速来たにゃ…」

そうして、街の様子を見ていたところ、また騎士団がやってくるのが見えた。俺はもともと目が良いが、さらに【望遠ズーム】の魔法で拡大して見ると、やってきた連中は、先日街に来た連中と同じ紋章を着けている。エイケ侯爵の騎士だとか言っていたか…?

「さて、どうしたものか…」

いきなり戦いを仕掛けるのもどうか。実は、今のところ街の獣人達に再度のクーデターの兆候はない。このまま騎士団が街に入れば、獣人達に戦う意志がないのなら、特にトラブルもなく以前と同じ状態に戻るだけだろう。

いや、ワッツローブの騎士よりエイケの騎士のほうが、獣人の扱いは酷い傾向があるようだ。前より待遇は悪くなるのは確実か…?

ううむ。なんかいつのまにか、獣人寄りの立ち位置に思考が引っ張られている気がする。

もう一度我に返って整理しよう。俺は中立。騎士と戦ったのは攻撃されたから。別に獣人に味方した憶えはない。なんなら獣人相手でも攻撃してくるなら戦うよ? もしまた騎士に獣人が殺されれば、勘違いした奴から俺のせいだとか言われるかも知れないが、獣人達に戦う意志がないのなら、殺されはしないだろう。

と言う事で、俺はモヤモヤ考える事をやめ、様子を見届けた後、街を離れてもいいかと思ったのだが…

『おい、そこの! 城壁の上に座っている獣人!』

やってきた騎士が俺を発見し、声を掛けて来た。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...