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序章(プロローグ)

第49話 獣人共を教育だ

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■応援の騎士イロキ

俺はイロキ。エイケ侯爵家の擁する第三騎士団に所属する騎士だ。今は侯爵の命で隣町であるワッツローヴ伯爵領の応援に来ている。

なんでも、この街では獣人達がクーデターを起こし、領主が殺され、騎士団も全滅したのだとか。

さぞや獣人の軍は手強いのかと期待をしていたのだが、到着してみれば、簡単に街を取り戻す事に成功した。それも、伯爵のあとを継いだ息子が一人でほとんどやったので、俺達の出る幕はなかった。まだ若いが新領主は意外と優秀なようだ。

いや、しかし、弱すぎだろ、クーデターを起こした獣人達。新領主が優秀というよりは、相手が弱すぎただけに見える。こんな程度の相手にこの街の騎士団は負けたのか? 確かこの街の騎士団の団長は王国内では結構名の知れた凄腕の騎士だったはずなのだが…まぁ名前と実力が一致していなかっただけなのかもしれんな。死んだという前伯爵だって、戦争で功績を上げて爵位を得た実力者だったと聞いているのだが。まぁこっちも歳で焼きが回ったのかもしれんな。

まぁこれからは、俺達の、エイケ流のやり方できっちり獣人共を躾てやる、それが俺達の仕事ってわけだ。

難しい事じゃない。獣人を見つけたら、徹底的にかわいがってやる。いや、教育してやる。いつもやってるようにな。





相棒と二人で街を巡回していると、獣人のガキが走ってくるのが見えた。

脇をすり抜けようとしたそのガキを、俺は足を引っ掛けて転ばせてやった。

タブロ「どうしたイロキ? なんだ、獣人のガキか…」

「ああ。人間の街を獣人のガキが走り回ってたらお仕置きしてやるのは当然だろう?」

タブロ「お? なんだ? このガキ…睨みつけてきやがったぞ」

ガキは憎しみの籠もった目で俺を見た。その目は、本気の憎しみ、殺気とも言える感情が籠もった目だった。

「なんだぁその目はぁ?!」

俺は脊髄反射でガキの腹に蹴りを入れていた。

「生意気だぞ?! 何か文句あるのか?!」

何発か蹴りを入れると、俺にもやらせろとタブロも蹴り始めた。

ガキはもう意識もないようだ。

タブロが頭を蹴った時何かやばい音がした気もしたが、別に獣人のガキ一匹死んだところで何も問題ない。街をきれいに掃除してやったのだ、感謝してほしいくらいだな。

だが、突然突風が吹き、俺とタブロはたたらを踏んでしまう。

「うぉっ! なんだっ?」

タブロ「急に突風が…」

「おい! あれを見ろ!」

タブロ「…魔法陣?」

見ると、倒れている獣人のガキの下に魔法陣が浮かび上がっていたのだ。そして、魔法陣が消えると同時に獣人のガキも消えてしまった。

「……転移罠?」

タブロ「転移罠って、ダンジョンの中に時々あるっていう? ここは街の中だぞ? なんでそんなモノが…」

「さぁ……? 自然現象???」



  +  +  +  +



■カイト

騎士に蹴られまくる獣人少年を背に、俺はそのまま立ち去ろうとした。

……俺には関係ない。





…と思ったが、やはり、そうも行かないか…。

騎士の蹴り方が酷かった。
それでなくとも騎士は平民よりはるかに力が強いのだ。
あれでは獣人の少年は死んでしまいそうだ。

多分、蹴られているのが大人の獣人だったら、今の心境なら、そのまま無視して行ったと思うが…

…自分でも意外だが、どうやら俺は子供には甘いらしい。

「やれやれ…。人間達と関わりたくないのだがにゃぁ…」

俺は振り返ると、圧縮空気弾エアボールを騎士に向けて放った。

エアボールが騎士達に着弾して一気に爆発膨張。その風圧に押されて騎士二人は少年から数歩離れる。

なぜ騎士を殺さないかって? 俺が攻撃されたわけじゃないからな。

騎士が離れたその隙に、俺は転移魔法で少年を攫って移動した。



  +  +  +  +



■カイト@スラム街

スラム街に少年とともに転移してきた俺は、少年に治癒魔法を掛けてやる。

少年は重症であったが、俺は治癒魔法も得意なので、死んでいなければ問題ない。

少年の傷はみるみる治っていく。

「おい、起きるにゃ」

ペチペチと肉球で少年の頬を叩いてやると、少年をゆっくりと目を開けた。

少年「ん……ん…! …はっ、お前は!」

「命の恩人に向かってお前とか言うにゃ」

少年は自分の身体を見た。

少年「お前が…? くそ、余計な事するな!」

「あのまま蹴り殺されてたほうが良かったにゃ?」

少年「ああそうさ! そしたら父さんのところに行けた!」

『ジェム!』

そこに、スラムの子供達が俺と少年を見つけて集まってきた。

子供達のあとから、子供達の面倒見役なのだろうか、若い女が現れて、少年に声を掛けた。

ジェム「フアナ…」

フアナ「無事で良かった…どこに行ってたの? みんな心配してたんだよ」

ジェム「……」

フアナ「お腹空いているでしょ? あなたの分もとってあるからこっちへ…」

ジェム「…そんなの食えるか!」

フアナ「どうしたの?」

ジェム「それは、コイツが恵んでくれた食料だろう!?」

フアナ「そうだけど……あ、カイト様、ですよね? いつも食料その他、支援して下さってありがとうございます」

ジェム「こんな奴に礼なんか言うな!」

フアナ「ジェム! なんでそんな事言うの? この人のお陰で私達は飢えずに済むようになったのよ?」

ジェム「…どうせ助けるなら…」

フアナ「…?」

ジェム「助けるなら! なんで俺の父さんを助けてくれなかったんだよ! お前は騎士達を倒せるほど強いんだろ!?」


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