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序章(プロローグ)
第2話 やめろと言われるとやりたくなる
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男「猿人…だと!! 貴様! 馬鹿にしてるのか?!」
「なんでにゃ? お前らだって猿人の一種だろ?」
男「俺達は人間だ! 毛むくじゃらのエテ公と一緒にすんじゃねぇ!」
まぁ俺も、奴らが猿人と一緒にされる事を嫌うのを知っていて、わざと言ってやったんだが。
「店の主が良いと言ってるんにゃから、問題ないはずにゃが?」
男「…っくそが! にゃぁにゃぁニャアニャアうるせぇんだよ! 人間の言葉くれぇまともに喋れるようになってから言いやがれ」
「う、うるさいにゃ! それは種族的な妙な強制力が働くんにゃからしょうがないにゃ!」
そうなのである。頭で考えている内容は大丈夫なのだが、言葉にすると、“な” と “だ”、そして語尾がなぜか “にゃ” になろうとするのだ。
男「そ、それならしょうがねぇか…」
…納得するとは思わなかった。
この強制力は実は抗えないほどのものでもないのだが。俺は意外とこの喋り方が嫌いではないので、特に直そうとも思っていないので、そういう事にしておこう。
男「だ、だが! だいたい見てみろよ! オメェ以外、人間の客しかいねぇじゃねぇか! 店主だって本心では獣人には来てほしくねぇと思ってんだろ!?」
そう言われて見回してみると、確かに客は俺以外全員人間だった。
俺は店主をもう一度見た。
店主「いっいえ、偶々です、偶々。いつもは獣人のお客様もいらっしゃいますので」
だがそこで、男が訳の分からない事を言い出した。
男「おい店主! 今日からこの店は獣人禁止にしろ!」
店主「……はぁ?!」
男「そうすれば売上が上がるぞ? 俺の故郷ではそうだったんだよ! そのほうが客の受けも良くなる。獣人が居ると、獣臭くて飯が不味くなるからな」
「いや……お前のほうがよほど臭うと思うぞ?」
店内の客もそうだそうだと頷いている。
男はおそらく、森で狩りをした後、風呂にも入らずに直接店に来たのだろう、酷い悪臭がしていたのだ。
男「うるせぇな! 食料が尽きちまって腹ペコで戻ったばかりなんだよ! 先に腹ごしらえしたいだろうが!」
汗と汚れ、魔獣の返り血にまみれており、人間でも臭いと感じるほどである。鼻の効く獣人には堪らない。
俺は店内を進んできたその男に向かって【クリーン】の魔法を放った。魔法が飛んできたのを感じたのだろう、一瞬ビクッとする男。
男「お…? お前! 俺に何かしやがった!?」
「【クリーン】を掛けてやっただけにゃ。さっぱりしたにゃろ?」
ちなみに、キレイ好きな俺は常に【クリーン】で身を清めているので、いつも爽やか清潔な毛並みである。
「てかお前、【クリーン】すらも使えにゃいのか? 魔法も使えにゃいで冒険者などよくやれるにゃ?」
男「う…るせえ! 俺は物理特化型なんだよ! なんなら力を見せてやろうか? 獣だから痛い目見ねぇと分かんねぇんだろ?」
「別に見せなくていいにゃ」
男「いいから表に出ろや!」
「シャー!! 俺に偉そうに命令するんじゃないにゃ! お前が出ていけ!」
俺は男にかかる重力の方向を変えてやった。最近のマイブームの重力魔法である。今、男にとっては、店の出入口の扉の方向が “下” となっているのだ。
突然足場を失った男はどうする事もできず、真っ逆さまに出口へ向かって落ちて行った。(他の者から見れば水平に飛んでいってるのだが。)
男「うおぉぉ? 何だこりゃ??? 一体何が起きてるんだ???」
扉は開いていたので、そのまま外に……と思ったら、男が意外と粘る。扉を通過する際、必死に手を伸ばし、扉の枠を掴んだのである。
男が扉の枠に手を掛け水平にぶら下がっているという、奇妙な絵面となった。
「抵抗するにゃ」
俺は扉に近づいて、開いていた扉をゆっくりと締めていく。
「おい、まさか…、やめろ!」
後少しで完全に締まる、というところで俺は扉を再び大きく開けた。
「やめろと言われると、逆にやりたくなるにゃ!」
俺は一気にドアを締めてやった。
だが男は挟まれる前に手を離したようだ。さすが冒険者、運動神経が良い。
だが、まだ重力はいまだ横を向いたままなので、男はまた(水平に)落ちて行く事になるのだが。
重力の方向が水平に変わったのだから、男は永遠に水平に落下し続けるわけだが……放っておくと、そのうち人工衛星ならぬ人間衛星になるかも知れないな。
まぁ、現実には、途中で何かしらの障害物にぶつかって止まるだろうが。――――ならば、世界で一番高い山の上から水平に落としてやったら、本当に衛星になるだろうか?
そんな事を考えていると、外で何か音がした。締めたドアを開けてみると、道の反対側にある家の壁に男が張り付いていた。
その家の持ち主に迷惑だろうと思い、俺は重力の方向を上に変えてやる。途端に男は空に向かって落ちていった。
このまま宇宙空間に放り出してやる事もできるのだが、それはやめて、数十メートル昇ったところで魔法を切ってやると、男は地面に引っ張られて空中を折り返し落下し始める。そうなると、やがて地面に叩きつけられる事になるわだ。
狙い通り、男が落ちたのは道路の中央付近であった。(誰かの家の屋根にでも落ちたら迷惑だろうと少し重力の向きを調整してやった。)
しかし…
…この世界の人間は頑丈だ。
数十メートルの高さから落ちたら地球の人間なら死んでもおかしくないが、男はダメージを受け苦しそうに呻いてはいるが、死ぬような怪我には見えない。この世界の“人間”は地球の人間よりかなり頑丈なのだ。
それに、この世界には“回復魔法”や“回復薬”もある。このまま放っておけば、自力で回復してくるかも知れない。
そうなってまた暴れられてもうるさいので、俺は植物魔法で地面から蔦を生やし、男が動けないようにぐるぐる巻きにしてやった。
しかし、俺も丸くなったものだと思う。
あの時は、襲ってくる相手は全員殺してしまったからな…。(襲ってくるのが悪いのだ。)
まぁ、その騒動からまさか、国がひとつなくなるところまで行くとは、さすがの俺も思っていなかったが…。
+ + + +
俺は、十五年ほど前、この世界に妖精猫として転生した。
十年ほどは森の中で一人で過ごし、その後、人間の街にも出入りするようになった。
そして、四度目だったか五度目だったか、街に買い出しに行った時、きっかけとなるその事件が起こった。
「なんでにゃ? お前らだって猿人の一種だろ?」
男「俺達は人間だ! 毛むくじゃらのエテ公と一緒にすんじゃねぇ!」
まぁ俺も、奴らが猿人と一緒にされる事を嫌うのを知っていて、わざと言ってやったんだが。
「店の主が良いと言ってるんにゃから、問題ないはずにゃが?」
男「…っくそが! にゃぁにゃぁニャアニャアうるせぇんだよ! 人間の言葉くれぇまともに喋れるようになってから言いやがれ」
「う、うるさいにゃ! それは種族的な妙な強制力が働くんにゃからしょうがないにゃ!」
そうなのである。頭で考えている内容は大丈夫なのだが、言葉にすると、“な” と “だ”、そして語尾がなぜか “にゃ” になろうとするのだ。
男「そ、それならしょうがねぇか…」
…納得するとは思わなかった。
この強制力は実は抗えないほどのものでもないのだが。俺は意外とこの喋り方が嫌いではないので、特に直そうとも思っていないので、そういう事にしておこう。
男「だ、だが! だいたい見てみろよ! オメェ以外、人間の客しかいねぇじゃねぇか! 店主だって本心では獣人には来てほしくねぇと思ってんだろ!?」
そう言われて見回してみると、確かに客は俺以外全員人間だった。
俺は店主をもう一度見た。
店主「いっいえ、偶々です、偶々。いつもは獣人のお客様もいらっしゃいますので」
だがそこで、男が訳の分からない事を言い出した。
男「おい店主! 今日からこの店は獣人禁止にしろ!」
店主「……はぁ?!」
男「そうすれば売上が上がるぞ? 俺の故郷ではそうだったんだよ! そのほうが客の受けも良くなる。獣人が居ると、獣臭くて飯が不味くなるからな」
「いや……お前のほうがよほど臭うと思うぞ?」
店内の客もそうだそうだと頷いている。
男はおそらく、森で狩りをした後、風呂にも入らずに直接店に来たのだろう、酷い悪臭がしていたのだ。
男「うるせぇな! 食料が尽きちまって腹ペコで戻ったばかりなんだよ! 先に腹ごしらえしたいだろうが!」
汗と汚れ、魔獣の返り血にまみれており、人間でも臭いと感じるほどである。鼻の効く獣人には堪らない。
俺は店内を進んできたその男に向かって【クリーン】の魔法を放った。魔法が飛んできたのを感じたのだろう、一瞬ビクッとする男。
男「お…? お前! 俺に何かしやがった!?」
「【クリーン】を掛けてやっただけにゃ。さっぱりしたにゃろ?」
ちなみに、キレイ好きな俺は常に【クリーン】で身を清めているので、いつも爽やか清潔な毛並みである。
「てかお前、【クリーン】すらも使えにゃいのか? 魔法も使えにゃいで冒険者などよくやれるにゃ?」
男「う…るせえ! 俺は物理特化型なんだよ! なんなら力を見せてやろうか? 獣だから痛い目見ねぇと分かんねぇんだろ?」
「別に見せなくていいにゃ」
男「いいから表に出ろや!」
「シャー!! 俺に偉そうに命令するんじゃないにゃ! お前が出ていけ!」
俺は男にかかる重力の方向を変えてやった。最近のマイブームの重力魔法である。今、男にとっては、店の出入口の扉の方向が “下” となっているのだ。
突然足場を失った男はどうする事もできず、真っ逆さまに出口へ向かって落ちて行った。(他の者から見れば水平に飛んでいってるのだが。)
男「うおぉぉ? 何だこりゃ??? 一体何が起きてるんだ???」
扉は開いていたので、そのまま外に……と思ったら、男が意外と粘る。扉を通過する際、必死に手を伸ばし、扉の枠を掴んだのである。
男が扉の枠に手を掛け水平にぶら下がっているという、奇妙な絵面となった。
「抵抗するにゃ」
俺は扉に近づいて、開いていた扉をゆっくりと締めていく。
「おい、まさか…、やめろ!」
後少しで完全に締まる、というところで俺は扉を再び大きく開けた。
「やめろと言われると、逆にやりたくなるにゃ!」
俺は一気にドアを締めてやった。
だが男は挟まれる前に手を離したようだ。さすが冒険者、運動神経が良い。
だが、まだ重力はいまだ横を向いたままなので、男はまた(水平に)落ちて行く事になるのだが。
重力の方向が水平に変わったのだから、男は永遠に水平に落下し続けるわけだが……放っておくと、そのうち人工衛星ならぬ人間衛星になるかも知れないな。
まぁ、現実には、途中で何かしらの障害物にぶつかって止まるだろうが。――――ならば、世界で一番高い山の上から水平に落としてやったら、本当に衛星になるだろうか?
そんな事を考えていると、外で何か音がした。締めたドアを開けてみると、道の反対側にある家の壁に男が張り付いていた。
その家の持ち主に迷惑だろうと思い、俺は重力の方向を上に変えてやる。途端に男は空に向かって落ちていった。
このまま宇宙空間に放り出してやる事もできるのだが、それはやめて、数十メートル昇ったところで魔法を切ってやると、男は地面に引っ張られて空中を折り返し落下し始める。そうなると、やがて地面に叩きつけられる事になるわだ。
狙い通り、男が落ちたのは道路の中央付近であった。(誰かの家の屋根にでも落ちたら迷惑だろうと少し重力の向きを調整してやった。)
しかし…
…この世界の人間は頑丈だ。
数十メートルの高さから落ちたら地球の人間なら死んでもおかしくないが、男はダメージを受け苦しそうに呻いてはいるが、死ぬような怪我には見えない。この世界の“人間”は地球の人間よりかなり頑丈なのだ。
それに、この世界には“回復魔法”や“回復薬”もある。このまま放っておけば、自力で回復してくるかも知れない。
そうなってまた暴れられてもうるさいので、俺は植物魔法で地面から蔦を生やし、男が動けないようにぐるぐる巻きにしてやった。
しかし、俺も丸くなったものだと思う。
あの時は、襲ってくる相手は全員殺してしまったからな…。(襲ってくるのが悪いのだ。)
まぁ、その騒動からまさか、国がひとつなくなるところまで行くとは、さすがの俺も思っていなかったが…。
+ + + +
俺は、十五年ほど前、この世界に妖精猫として転生した。
十年ほどは森の中で一人で過ごし、その後、人間の街にも出入りするようになった。
そして、四度目だったか五度目だったか、街に買い出しに行った時、きっかけとなるその事件が起こった。
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