異世界転生したプログラマー、魔法は使えないけれど魔法陣プログラミングで無双する?(ベータ版)

田中寿郎

文字の大きさ
上 下
147 / 184
第三部 暗殺者編

第147話 俺を捕らえておくなんてできないよ

しおりを挟む
バキン 「言っとくが魔法は使えねぇぞ? お前の手首に嵌ってるのは魔封じの手枷だからな」

クレイ 「なっ、なんだとぉぉぉぉぉ~

…なんてな。もう(演技は)いいか」

わざと大袈裟に驚いて見せたのも、ここまで大人しく従ってきたのも、もちろん全部演技であった。侯爵の部屋で暴れる事もできたのだが、ちょっと悪戯心が湧いてきて、クレイはあえて一度乗って見せたのである。

クレイ 「いわゆるノリツッコミと言うやつだな」

スルリと拘束から脱出して見せるクレイ。

バキン 「馬鹿な! 一体どうやって…魔法は使えねぇはずなのに!」

クレイ 「壊れてるんじゃないのか?」

バキン 「……」

よく見れば、手枷は解錠されていない。クレイは極短距離転移で手枷の外側に移動したのである。ただ、ほとんど移動していないため、転移であるとはバキンには分からなかったのだ。

クレイ 「さて、どうするんだ?」

クレイが指を鳴らしながらにじり寄って行く。

バキンはヨロヨロと後退り、三歩ほど行ったところで段差に躓き尻もちをついてしまった。

クレイ 「なんだよ、さっきまでの威勢はどこいった?」

バキン 「お、俺は、拷問は得意だが、戦闘はからきしなんだ」

クレイ 「なんだ、クズか…」

バキン 「た、頼む、許してくれ! 俺は命令されてやってるだけだ、悪いのは命令した奴だろう?」

クレイ 「まぁそうだな。だが、命令とは言え、お前はこれまで何人も拷問して、それを楽しんできたんだろう?」

バキン 「楽しんでなんかいねぇ! 嫌々やってたんだ、心の中で涙を流しながら…」

クレイ 「…嘘だよな?」

そう言うとクレイはバキンを蹴り飛ばした。床を転がって壁に激突して止まるバキン。

バキン 「ぐ…うぇぇ……頼む、やめてくれ、痛いのは嫌なんだ…」

クレイ 「まぁいい、忙しいから今日のところは見逃してやる。せっかく助かったんだ、これを機に人に憎まれるような仕事は辞めるんだな」

拷問官などという下衆な人種は殺してしまってもいいかと思ったクレイであったが、命令されて仕事でやってるだけと言われると確かにそうなのかも知れないと思ってしまった。自分は(まだ)何もされていないので実感も恨みもないし、それなのに痛めつけて嬲るのは拷問官こいつがやってる事と同じになってしまうかも? とも思った。

それに、侯爵に思い知らせてやる仕事が残っている。ここであれこれ考えていても時間の無駄。やるべきことをやろうと思い、バキンを見逃す事にしたクレイであった。



  * * * *



侯爵の執務室。

トニノフ 「やれやれ。思ったより馬鹿な奴でしたね…」

ダイナドー 「ダンジョン踏破で調子にのっているのだろう。数日牢で教育・・してやれば考えも変わるだろうさ」

クレイ 「悪いがそんなに長々と付き合う気はない」

ダイナドー 「!?」

見れば、ダイナドー侯爵の執務室のソファに、先程連行されたはずのクレイがふんぞり返って座っていた。

ダイナドー 「……どうなっている?」

クレイ 「俺は転移魔法が使えるんだ。俺を捕らえておくなんてできないって事を教えやろうと思ってな」

ダイナドー 「…転移魔法だとぉ?」

トニノフ 「そんなの、ありえない」

クレイ 「黙って出て行っても良かったんだが、まだしばらくこの街に居るつもりだから、釘を差しておこうかと思ってな」

だがここで、どこで合図をしているのか、再び騎士達が部屋に雪崩込んできた。

騎士 「おまえっ!?!? 一体どうやって抜け出した?!」

トニノフ 「おい、魔封じの手枷を持って来い!」

騎士 「はい、ここに!」

問答無用でクレイの体を押さえつけ手枷を嵌める騎士達に、クレイは今回も抵抗しない。

ダイナドー 「念のため、魔封じの結界も使え。それから牢の壁と扉にも結界も張っておけ!」

そうしてクレイは再び連行されていった。



  * * * *



拷問官の控室

バキン 「やれやれ、酷い目にあった…」

控室に戻ったバキンは蹴られた腹を擦りながらボヤいていた。

だが、そこにまた騎士が来て、仕事だと言う。

バキン 「またか、今日はやけに多いな? まぁちょうどいいや、さっきの鬱憤を晴らさせてもらうか…」

だが、地下牢に来てみれば…

バキン 「またお前かぁ!」

騎士 「大丈夫だ、さっきはうまく逃げられたようだっが、今度のはレベル5の魔封じの手枷だ。それに、結界も張る。今度こそ、徹底的に嬲ってやれ!」

それを聞いてバキンはいやらしい笑みを浮かべた。なるほど、さっきは牢に備え付けてあった魔封じの手枷が壊れていただけだったのだろう。

クレイを拷問部屋に押し込むとすぐに騎士達は出ていき、魔法使いが牢の中に向かって何やら魔法を掛け始めると、床に魔法陣が浮かび、そして消えた。魔法使いはさらに、壁と扉にも魔法を掛けていく。

騎士 「これで絶対出られまい。後はバキンの仕事だ」

バキン 「俺も出られねぇじゃねぇかよ」

騎士 「仕事が終わったら出してやるさ…」

そう言うと騎士達は去り、またクレイとバキン二人きりになる。

バキン 「ちっ、まいいか。

…さて、さっきはよくもやってくれたなぁ? たっぷりとお礼を……」

だが、手枷の外れているクレイを見た瞬間、即座にジャンピング土下座に移るバキンであった。

バキン 「すいませんでした!」

クレイ 「言ったよな? 足を洗えと。言う事を聞かない悪い子は…」

バキン 「ひぃぃぃ!」

両手両足がおかしな方向を向いた状態で、小便を漏らしながら寝ているバキンを尻目にクレイは再び転移で部屋から消えていった。



  * * * *



再びのダイナドー執務室

クレイ 「無駄だって分かったろ?」

ダイナドー 「……なぜだ???」

また、いつのまにかソファーに座っているクレイに、ダイナドー侯爵は目を白黒させていた。


しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

処理中です...