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第六章 ミト

第114話 バネダス革命政府の最後

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バネダス共和国を乗っ取った革命政府大統領バッタは、過ちを犯したのであった。

死霊の森には手を出してはならなかったのである。

ゼフトは、今後さらにバネダス共和国が死の山、死の森に干渉してくる可能性を危惧し、釘を差しておくことにしたのである。

危惧と言うか多少面倒に思った程度なのであるが。どれだけバネダス軍が入ってこようと、ゼフトが本気になったら一秒と持たないのであるから……

ゼフトとしては、国の領土争いや権力争いなど一切興味はない。誰がその国を収めようがどうでも良いことなのである。

ただ、どうせ害はないと放置していた結果、非常に迷惑を被った事態が何度も起きた。調子に乗った権力者が、干渉してくる事があったのである。やはり放置はしないほうが、後々面倒が少ないと学んだのであった。

ゼフトは、自らバネダス共和国の革命政府のある王宮に乗り込んでいった。

アンデッドの姿のままで、その禍々しい魔力を一切隠す事なく発揮しながら。

突然、王宮にとてつもなく強大な、禍々しい魔力が充満し、アンデッドの王とも言うべき存在が現れたのである。

王宮はパニックに陥った。

とは言え、全員、身動きできないように空間制御で体を硬められていたため、精神的にパニックに陥ったというだけなのであるが。。。



部下から報告を聞いていたバッタは、突然、王宮内に充満した禍々しい魔力を感じとり、恐怖感を感じた。肉体が恐れている、本能的な恐怖感である。

部下たちも恐怖の表情を浮かべている。

そして、気がつけば、バッタ達の目の前に、ローブを纏ったガイコツが姿を現していた。。。

ゼフトは、言葉を話せない。心で直接会話するのである。バッタの心に、ゼフトは恐ろしいほどの威圧・恫喝を与える。絶対にかなわない圧倒的な力を感じさせた。そして、警告したのである、死霊の森に近づくな、と。。。

普通であれば、これで、力の差を理解し、恐怖を心の奥に染み込ませ、関わりを持つ事を避けるようになる。

だが、バッタは違った。一人で国を乗っ取ろうと考えただけの事はある、並の胆力ではないと言える。否、あまりに深い負の感情が根底にあり、それがバッタを支えていたのであった。
もしかしたらバッタの心は、既に、闇深くに堕ちていたのかも知れない。

バッタを支えるモノが何なのかは分からないが、バッタは、ゼフトに反抗したのである。自分は絶対に折れない。むしろ、自分を恫喝したオマエを許さない、生きている限りは、いつか必ず攻め滅ぼしてやる、と。

バッタの心を読んだゼフトは、この男が既に救いのない領域に入っていることを見抜き、少しだけ哀れに思った。

だが、この男の言っている事は本当であろう。生かしておけば、いつか、本当の闇に墜ち、やっかいな存在になるかも知れない。この男は生かしておけば、必ずや障害となる。

もう少しゼフトが若ければ、好敵手となる事を期待して生かしておいたかも知れないが……

今のゼフトは、このような深い闇を持つ人間の魂が死後、どこに行くのかに興味があったのである。

バッタの命は、何の前触れもなく消えたのであった。

バッタの肉体を離れた魂が、次元を越え、どこへ行くのかを見届けた後、王宮に居た革命政府の高官達の命も無造作にこの世から分離、昇天させ、自分の研究所へと戻っていったのであった。


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国のトップが突然死亡したバネダス共和国は混乱した。

生き残っていた革命政府の人間が、なんとか政権を維持しようとしたが、強力なリーダーに率いられていた体制は、リーダーを失った時点で崩壊を止める事はできなかった。

残った者たちの間で権力争い、足の引っ張り合いが起き、また、急王族に仕えていた官僚達が息を吹き替えし、旧王族支持派が次々蜂起した。

国が混乱すれば、そこにつけ込んで攻め込んでこようとする国も出てくる。一刻も早く、国をまとめ上げる必要がある。

それには、強力なリーダーシップを持つ者が必要である。

国民の人気の高いシーラ王女は、その輿に乗る存在としてはうってつけである。

旧王族支持派のレジスタンスが王女の居場所=マドネリ村をつきとめ、迎えに来た事で、シーラとマルスは国に帰ることとなったのであった。


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シーラが戻ったことで、バネダス共和国はやがて落ち着きを取り戻すだろう。

コジローは、ミトの弟妹達を救い出すために、バネダス共和国へ入った事で、少し気持ちが変わっていた。

隣国へ入ったと言っても、まっすぐ収容施設に向かい、そのまま戻っただけで、街にはどこにも立ち寄らなかったのであるが……

どうせなら、他国の街に立ち寄って見たかったと思うようになったのである。

これまで、コジローは転移で神出鬼没の移動が可能であると言っても、ウィルモア領の中だけで移動していた。領主のため、転移ネットワークを領土内に構築した関係で、短期間に領内の各街を行き来するようになったが、期間が短かった分、領内の街を見て回るだけで精一杯だったのだ。

だが、そろそろ他の街、他の国を見てみても良いかと思い始めたのである。いずれウィルモア領を出るにしても、最初は同じカデラック帝国内の領土を移動するだろうと予想していたのであるが、シーラとマルスが隣国に戻ったこともあり、まずはバネダス共和国へ行ってみようと思ったのである。

いずれ、世界を見て回る旅をしてみたいと思っていたコジローは、旅立ちの時が来たような気がしていたのであった。。。


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