なぜか剣聖と呼ばれるようになってしまった見習い魔法使い異世界生活(習作1)

田中寿郎

文字の大きさ
上 下
110 / 115
第六章 ミト

第110話 暗殺者ミト

しおりを挟む
「コジロ、来た。」

アルテミルの門の外、街道から少しはずれた木陰でマロを枕に昼寝していたコジローに、マロが馬車の到着を教えてくれた。

馬車は門の前で止まり、入門手続きに入る。

最後尾の馬車に近づくと、ミトの姿が見えたのでコジローは手を上げた。

「戻ってこないから心配したアル。商人さんからお礼もらったアルよ。」

「なんか、おかしな喋り方がパワーアップしているような……」

「馬車の中で練習したアル。」

「練習?」

「なんでもないアル。」

「お姉ちゃんバイバイ!」

馬車から子どもたちが手を振っていた。

手を振り返すミト。

コジロー:「子供が好きなんだな。」

ミト:「……弟妹達を思い出してしまうアル。。。」

コジロー:「弟妹がいるんだね?」

ミト:「なかなか会えないケド。」

コジロー:「国に残っているのかい?」

ミト:「その話はまぁいいアル。それより、今日はこの街に泊まるアルか?」

コジロー:「いや、村までもう少しだから、行ってしまおうか。」

コジローは街に入らず、そのままマドネリ村に向かうことにした。



村に到着し、門をくぐったら、マロはコジローと別れて狼牧場のほうへ向かう。最近あまり村に帰っていないので、奥さんと子供たちに会うためである。

コジローはミトを連れてマドリー&ネリーの家に行った。

ネリーがコジローを見つけて、おかえりと言ってくれる。

モニカは居ないようだ。

コジローの後から入ってきたミト。ちょうどそこに、客が帰ったテーブルから皿を引き上げるため、シーラとマルスが食堂に入ってくる。

「……シーラ様……」

シーラの顔を見て、呟くミト。

その言葉に反応して、ミトの方を見たシーラは……

「ミト!無事だったのね?!」

駆け寄ってきてミトを抱きしめたのだった。



ミトは、以前、シーラに仕えていた事があったのだそうだ。シーラに、というか、王家に使われていた、護衛やその他特殊任務を引き受ける精鋭部隊だったそうだが。

その中でも、ミトはシーラと関わる事が多く、二人は姉妹のように親しくしていたのだとか。

だが、クーデターが起きた時、王族直属の部隊だったミト達がどうなったのか、王宮を離れていたシーラとマルスには分からなかったので、心配していたらしい。

とりあえず、積もる話もあるだろうからと、シーラとマルスは気を聞かせた別の従業員が仕事を変わってくれ、従業員用・村人用の食堂で食事をしながら話をすることになった。

その従業員用の食堂の隅では、人間に化けたゼフトが食事をしていたのだが

(ゼフトはしょっちゅう、人間に化けてマドネリ村に来て食事をするようになっていた。コジローがネリーに教えた日本の料理が気に入った模様である。。。)

そのゼフトが、ふと顔を上げ、ミトの方を見た。

「あの娘……・」



その日の夜、ゼフトがコジローに、念話(テレパシー)でミトに注意せよと伝えてきたのであった。

とは言っても、あまりゼフトには関係がない事なので、どうなろうとゼフト自身は構わないという事であったが。

コジローは気にするだろうから、まぁ気をつけておけ、と。。。



その日は、従業員用の宿舎の空き部屋にミトは泊まってもらい、少し村でゆっくりしてもらうと言う話になったのだが、特に動きは何もなかった。

翌日も、ネリーが気を効かせて、ミトとゆっくり話ができるようシーラとマルスは休みにしてくれた。シーラは村を案内したりしながらミトとゆっくり話をしたのだが……

ゼフトの忠告通り、人気のない場所でシーラと二人きりになったとき、ミトはナイフを抜き、背を向けているシーラを刺そうとしたのである。

だが、ナイフがシーラの背中に刺さる寸前、ミトの腕は突如現れたコジローによって掴まれていた。



ゼフトの忠告は、ミトがシーラに対して殺意を持っている、と言うものであったのだ。

ゼフトにとってもコジローにとっても、隣国のお家騒動で誰が殺し合おうがあまり関係ないと言えば関係ないのであるが……やはり、マルスとシーラは知り合ってしまった以上、殺させるのも忍びない。

仕方なく、コジローは隠れて影から警戒していたのであった。

とは言え、コジローには殺気など読めないので、マロに協力してもらって、ミトが行動を起こす瞬間を教えてもらったのであったが。

ミト:「まったく接近に気が付かなかったわ……姫様を殺るのに、緊張していたかしらね。。。」

接近に気付かないのは当然であった。コジローは、ミトがナイフを振り上げた瞬間、転移を発動して直近に移動、同時に加速を発動してミトの腕を掴んだのである。

だが、腕利きの暗殺者であるミトは、一瞬の隙を突いてコジローの腕を振り払い、戦闘態勢に入った。

シーラ:「なぜ、こんなことを?!」

ミト:「……仕方がないんです……」

ミト:「問答無用!」

だが、ミトの前にコジローが立ちふさがる。

「姉上!」

トイレにでも行っていたのか、姿が見えなかったマルスが戻ってきて、状況に驚いて立ち尽くしていた。

ミト:「出てこなければ命を失うことはなかったのに……見られたからには、全員殺す……王子も、コジローも。」

マルス:「ミト!どうして?! 師匠、お願いです、命だけは助けてあげてください。きっと何か訳があるんです、お願いします!!」

ミト:「私の命乞い?! コジローの腕では私は止められはしないぞ?」

マルス:「師匠は剣聖ですよ、勝てません。ミトさん、どうか降伏して下さい。」

ミト:「剣聖?それは単なる噂で、実力はないと自分で言ってただろう?」

コジロー:「うーん、確かに、腕は大したことないけど……仕方がない、少し本気出します。」

コジローは、次元剣を出して構えていたのだが、殺すなというマルスの言葉で剣を引っ込め、別の武器に切り替えた。

殺さずに相手を制圧できる武器……

つい先日、ダンジョンの宝箱でみつけた、そう、「ピコピコハンマー」である。

ミト:「……馬鹿にしてるの???」

コジロー:「いや、そう見えるかも知れないが、これはダンジョンから出てきたマジックアイテムだから! これで頭を叩くと、怪我をさせずに気を失わせる事ができるんだ。」

ミト:「そう……でも、当たらなければ意味はないがな。」

その瞬間、ミトが攻撃の気配を見せたが

加速を発動したコジローは、同時に転移を併用しミトの背後に移動、ピコピコハンマーでミトの後頭部を打ったのだった。

コジローの加速は、60倍速まで到達していた。さすがにその速度領域では、どんな達人の動きであっても、もはやスローモーションで動く恰好の標的でしかない。コジローは加えて転移も使用している。いかにミトが腕の立つ刺客であったとしても、対応できる領域ではなかった。

ミト:「バカ……な……」

ミトは、まったく見えなかったコジローの動きに衝撃を受けながら、崩れ落ちていった。

頭など打たないように、倒れていくミトをコジローは支えてやろうと服を掴んだのだが……倒れた拍子に頭を打つのは回避できたのだが、掴んだ服が破れてしまい、胸が開けてしまった。とりあえず、ミトが落としたナイフを回収したコジローであったが、しかし目のやり場に困ることとなってしまった。

慌ててシーラが駆け寄り、ミトをコジローから奪い取る。危険だから下がっているようにとコジローが言ってもシーラは大丈夫と聞かず。マルスに女性の従業員を呼んで来てくれるよう頼んだ。

……だが、ピコピコハンマーによる衝撃を頭に受け、動きを止められたものの、ミトは意識を失っていなかった。

ミトの暗殺者としての「勘」が、コジローの攻撃を直前に察知し、僅かであったが、回避行動を開始していたのである。そのため、当たりが浅くなっていた事に、コジローは気付いていなかった。

コジローは亜空間収納からロープを取り出しミトを縛るように言ったが、大丈夫だと言ってシーラは聞いてくれない。

その時、ミトの手が動いた。ミトの指先には極小の注射器が仕込まれていた。刺された相手は致命的な毒を注入され死に至る。ミトの動きはシーラの影になってコジローには見えていなかった。

もしシーラを刺すことができれば、暗殺は成功である。しかし、針がシーラの体に刺される事はなかった。ミトが刺したのは、自分自身の体だったのだ。

シーラ:「ミト?!」

慌ててコジローが駆け寄り、手に仕込まれていた針を取り上げるが、既に毒は注入完了、手遅れであった。

ミト:「この毒には解毒剤も治療法もない……アル」

コジローに向かって微かに微笑みながら言うミト。

ミト:「シーラ様、ゴメンナサイ……こうするしかなかった……」

ミトはそういうと意識を失った。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

劣等冒険者の成り上がり無双~現代アイテムで世界を極める~

絢乃
ファンタジー
 F級冒険者のルシアスは無能なのでPTを追放されてしまう。  彼は冒険者を引退しようか悩む。  そんな時、ルシアスは道端に落ちていた謎のアイテム拾った。  これがとんでもない能力を秘めたチートアイテムだったため、彼の人生は一変することになる。  これは、別の世界に存在するアイテム(アサルトライフル、洗濯乾燥機、DVDなど)に感動し、駆使しながら成り上がる青年の物語。  努力だけでは届かぬ絶対的な才能の差を、チートアイテムで覆す!

千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶
ファンタジー
とある男爵家にて、神童と呼ばれる少年がいた。 少年の名はユーリ・グランマード。 剣の強さを信条とするグランマード家において、ユーリは常人なら十年はかかる【剣術】のスキルレベルを、わずか三ヶ月、しかも若干六歳という若さで『レベル3』まで上げてみせた。 先に修練を始めていた兄をあっという間に超え、父ミゲルから大きな期待を寄せられるが、ある日に転機が訪れる。 生まれ持つ【加護】を明らかにする儀式を受けたユーリが持っていたのは、【器用貧乏】という、極めて珍しい加護だった。 その効果は、スキルの習得・成長に大幅なプラス補正がかかるというもの。 しかし、その代わりにスキルレベルの最大値が『レベル3』になってしまうというデメリットがあった。 ユーリの加護の正体を知ったミゲルは、大きな期待から一転、失望する。何故ならば、ユーリの剣は既に成長限界を向かえていたことが判明したからだ。 有力な騎士を排出することで地位を保ってきたグランマード家において、ユーリの加護は無価値だった。 【剣術】スキルレベル3というのは、剣を生業とする者にとっては、せいぜい平均値がいいところ。王都の騎士団に入るための最低条件すら満たしていない。 そんなユーリを疎んだミゲルは、ユーリが妾の子だったこともあり、軟禁生活の後に家から追放する。 ふらふらの状態で追放されたユーリは、食料を求めて森の中へ入る。 そこで出会ったのは、自らを魔女と名乗る妙齢の女性だった。 魔女に命を救われたユーリは、彼女の『実験』の手伝いをすることを決断する。 その内容が、想像を絶するものだとは知らずに――

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!

ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生! せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい! 魔法アリなら色んなことが出来るよね。 無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。 第一巻 2022年9月発売 第二巻 2023年4月下旬発売 第三巻 2023年9月下旬発売 ※※※スピンオフ作品始めました※※※ おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

転生霊能者の死霊術 ~不死の魔女に育てられた男は異世界で最強を目指す~

栗原愁
ファンタジー
男は有名な霊媒師だった。 しかし、仕事上のトラブルにより恨みを買ってしまい、不運にも殺されてしまった。 次に目を覚ますと、なんの因果か異世界に転生し、リオンとして生きるようになった。 不死の魔女のロゼッタに育てられたリオンは、死霊術を叩き込まれ、気づけば向かうところ敵無しの強さを身に付けるようになっていた。 やがて、今まで閉鎖的な空間で過ごしてきたリオンは、ロゼッタの命令で外の世界に繰り出すことになる。 男は有名な霊媒師だった。 しかし、仕事上のトラブルにより恨みを買ってしまい、不運にも殺されてしまった。 次に目を覚ますと、なんの因果か異世界に転生し、リオンとして生きるようになった。 不死の魔女のロゼッタに育てられたリオンは、死霊術を叩き込まれ、気づけば向かうところ敵無しの強さを身に付けるようになっていた。 やがて、今まで閉鎖的な空間で過ごしてきたリオンは、ロゼッタの命令で外の世界に繰り出すことになる。 リオンは、外に出て初めて知ることになる。 死霊術が大昔に失われた魔法だということを、そして自分が規格外な力を持っていることを。

大地魔法使いの産業革命~S級クラス魔法使いの俺だが、彼女が強すぎる上にカリスマすぎる!

倉紙たかみ
ファンタジー
突然変異クラスのS級大地魔法使いとして生を受けた伯爵子息リーク。 彼の家では、十六歳になると他家へと奉公(修行)する決まりがあった。 奉公先のシルバリオル家の領主は、最近代替わりしたテスラという女性なのだが、彼女はドラゴンを素手で屠るほど強い上に、凄まじいカリスマを持ち合わせていた。 リークの才能を見抜いたテスラ。戦闘面でも内政面でも無理難題を押しつけてくるのでそれらを次々にこなしてみせるリーク。 テスラの町は、瞬く間に繁栄を遂げる。だが、それに嫉妬する近隣諸侯の貴族たちが彼女の躍進を妨害をするのであった。 果たして、S級大地魔法使いのリークは彼女を守ることができるのか? そもそも、守る必要があるのか? カリスマ女領主と一緒に町を反映させる物語。 バトルあり内政あり。女の子たちと一緒に領主道を突き進む! ―――――――――――――――――――――――――― 作品が面白かったらブックマークや感想、レビューをいただけると嬉しいです。 たかみが小躍りして喜びます。感想などは、お気軽にどうぞ。一言でもめっちゃ嬉しいです。 楽しい時間を過ごしていただけたら幸いです。

処理中です...