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第四章 マドネリ村

第77話 千客万来 マドリー&ネリーの家1

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ある日、若い夫婦が声をかけてきた。

「あの、剣聖のコジロー様でいらっしゃいますよね?」

「いや?!『剣聖』ではないですが!?」

「またか」と思ったコジローであった。

一応、自分は剣聖などではない、ただの見習い魔法使いであると答えたのだが・・・どうやらその魔法使いの師匠に用があると言う事だった。

話を聞いてみると、子供ができない夫婦が、ゼフトが不妊治療ができるという噂を聞いて、力を借りられないか尋ねて来たという話だったのである。

そのような相談にはコジローは一切関わっていなかったので、コジローはマドリー&ネリーの家に行くように教えるだけであるが。

最近は、そのような話でコジローが声を掛けられる事もたまにあるのであった。


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以前から密かに

「森の魔術師が子供ができない夫婦に子供を授けてくれる」

という噂は流れていたのであるが、

「森の魔術師は死霊術を使う魔術師である」

という噂も同時にながれており、訪ねてくる者はあまりいなかった。墓場から呼び出した死霊の魂を子供に入れられるのではないか?という忌避感があったためである。

だが、先日、街が大量の魔物に襲われた(スタンピード)の時に、「死霊の森の魔術師が魔狼を派遣して助けてくれた」と領主から公式に発表があったこと、その弟子が剣聖としてあちこちで活躍しているという噂が広まってきた事などから、忌避感が薄まってきたのである。

そのため、以前より頻繁に、マドリー&ネリーの家に、子供が欲しいという客が尋ねて来るようになっていたのである。ゼフトも研究の一貫なのであろうか、そのような相談も断る事なく引き受けていた。

ゼフトは生命の秘密を解き明かすべく死霊術をさらに研究発展させ異世界からの魂の転生までも成功させていた。必要とあればそのような事も可能ではあるが、実際は、不妊治療としては、特に死霊や異世界の魂を入れたりはしておらず、自然妊娠しやすくする事と流産しなくなるように補助的な魔法を使うだけで十分である事が多かったようであるが。脊髄損傷さえも魔法で治せる世界である、胎児のサポートを魔法で行えるので、地球の不妊治療に比べてかなり成功率は高いのであった。

ところが、何組かそのような客を受け入れていた結果、意外な現象が起き始めた。

宿に、食事を目当てにして泊まりにくる客が現れるようになったのである。



最近コジローは、日本の料理の本が手に入ったこともあり、色々な日本の料理の再現に熱中していた。

協力してもらっていたネリーも当然その料理の作り方をすべて知っている。

そしてネリーはそれを、治療のため尋ねてきた夫婦に振る舞ったのである。

そこで食べた料理の美味しさを街に戻って話したのであろう、噂を聞きつけ、わざわざ料理目当てで訪ねてくる者まで出てきたというわけである。

このような危険と背中合わせの世界であっても、食べるために労力を惜しまない人というのは居るようである。むしろ、食べることくらいしか娯楽がない、という事もあるのかも知れない。



実は、そのような客が増えたのは、護衛を雇わずとも気軽に来られるようになった影響もあったのであるが。

もともとマドリー&ネリーの家までの専用道は、ゼフトの指示で魔狼達に守られていたので、護衛がなくとも来ることができるのであるが、それは街の人は知らない。

しかし、スタンピード以降、魔狼達がアルテミルの街の周辺を縄張りにし、街を守るようになっている。

魔狼達はアルテミルの街の人間と魔狼達も良好な関係を築きつつあった。街の人間も魔狼達に慣れてきて、餌をやったりする者も出てきた。

領主は、護衛の代金をゼフトの代わりにコジローに払うと言ったが、コジローが保留にしたままになっていたため、街の予算として魔狼の保護費用を計上した。食事と専用小屋などを提供し、魔狼達の労働の対価を直接、当事者の魔狼達に支払う形に落ち着いたわけであり、それをコジローも了承した。

そのうち、肉を渡すことで、多少護衛の守備範囲を越えたところまで護衛を頼む商人まで現れていた。どれくらいの肉でどれくらいの仕事がしてもらえるのか、直接魔狼と交渉するのである。魔狼は頭が大変良い。言葉は話せないが、これぐらいの肉で満足か不満か、どこまで護衛するかくらいは、意思疎通が可能なのであった。

ただし、アルテミル周辺で魔狼と協力関係を築いた事で、冒険者たちの仕事が減ってしまったという問題が起きていたりもしたのであるが。。。



コジローは、マドリーに食事目当ての客が来るようになったと聞かされ、地球に宿泊施設を備えた形式のレストランがあると聞いたことがあるのを思い出した。それがオーベルジュという名前であるというところまでは知らなかったのであるが。

もともと、マドリー&ネリーの家はペンションのような業務形態をとっており、客室をいくつも保有している。人を泊めれば食事を出したりも当然していたので、それで困ると言う事はなかった。

むしろ、金を稼ぐことができるのでは、マドリー・ネリー夫妻としても歓迎するところである。

そこで、コジローにもっと料理を教えてくれ、と言う事になるわけであった。



実は、それほど大した料理をコジローが考案したわけでもない。

最初に作ったのはトンカツ、次に挑戦したのはとんかつ用のソースであった。

「とんかつ」は日本でも専門店があるくらいである。しかも、この世界には衣をつけて揚げる料理というのはあまり一般的ではなかったので、それだけでも評判になるには十分かも知れないが。


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