なぜか剣聖と呼ばれるようになってしまった見習い魔法使い異世界生活(習作1)

田中寿郎

文字の大きさ
上 下
73 / 115
第四章 マドネリ村

第73話 剣聖、バトルマニアに迷惑する1

しおりを挟む
コジロー:「どうしてもやるのか?」

男:「無論だ」

森の中、谷間にある、開けた場所。コジローが一人でよく剣や魔法の練習に使う場所である。

そこに、一人の男とコジローは対峙していた。もちろんマロも一緒である。

コジローは今からこの男と決闘をする羽目になっているのである。


────────────────────────



先日のネビルの一件で「剣聖」の噂は益々広まり、コジロー自身さえも市中で噂を耳にするレベルになっていた。

これまでの噂に重ねて、

「サイクロプスとギガンテス、それに数百匹のトロールを相手にたった一人で戦い、ネビルの街を救った英雄」

という新たな伝説が追加されたためである。

しかもその目撃者は多く、公式なギルドの要請による仕事であった事も相まって、公式情報として広まってしまったのである。

そして噂は───伝聞を面白おかしく膨らませて伝えようとするのは人の習性なのだろう───例によって、事実以上に誇張されて広がっていた。トロールの数が数十匹から数百匹に増えているとか、中には、ギガンテスが千匹が押し寄せてきたなどありえない盛り方で話を膨らませようとする輩も居たとか。

過剰な噂が広まったせいで、コジローはやたらと声を掛けられるようになっていたのである。



噂が広まって、評判を聞きつけた者から危険な魔獣の討伐の指名依頼が来たりするようにもなった、それは良い。可能な内容なら受けるし、無理なら無理と断るか、無理が可能になるようにギルドマスターに相談して協力者を募り作戦を考えればよい事である。

だが「腕試し」で試合を申し込まれるのが困るのであった。

コジローは「バトルマニア」ではない。

この世界に来た当初こそ、剣道マンガで得た知識にゼフトの剣と魔法があれば、無双の活躍ができるかも?などと調子に乗っていたコジローであったが、強い奴と戦える事を

「オラ、ワクワクすっぞ!」

などと喜ぶ事は、既にできなくなっていた。

現実を知れば知るほど、自分の実力がごく平凡な一般人レベルを出ていないのを思い知らされるばかりなのである。

次元剣と「加速」と「転移」の魔法のおかげで、結果としては活躍した事もあるわけだが・・・しかし、この世界の人間は、コジローの常識の範囲を上回った超人が多いのを知ってしまった。

道具をしっかり活用するのも実力の内という考えもあるだろうが、それが通用しなかった時、自力・地力がない者は一気に大ピンチに陥るだろう。

たまたま道具の力で勝ちを重ねても、いつ、それを上回る相手が現れてもおかしくない。そんな者(人にせよ魔物にせよ)が普通に居る可能性がある。それを、この世界で経験を積むほどにヒシヒシと感じさせられるのだ。

そもそも、腕試しの試合など、受けても迷惑なだけ、コジローに何のメリットもないのである。

せめて、ギルドを通して指名依頼にしてくれれば、模擬戦であれば検討の余地はないわけでもないだろうが・・・

とは言っても、金を積まれたとしても、基本的には試合を受ける気はコジローにはなかったが。

そもそも、ギルドを通して依頼として申し込んで来る者などほとんど居ない。強者を倒して名を上げようなどと考える者は、たいてい、街中でいきなり声を掛けてくるのである。



コジローは勝負を挑まれてもすべて断って相手にしないようにしていた。だが、そうなると今度は、問答無用で襲いかかって来たりする者も多いのである。

相手が剣を抜いて襲いかかってきたのであれば、正当防衛が成立するのだから、殺してしまってもいいのかも知れないが・・・

殺してしまえば後腐れないかと思いきや、遺族に「仇」呼ばわりされたりする。

手加減しても、もし、大怪我をさせて後遺症など残ろうものなら、それはそれで恨みを買う。本当の実力者であれば、上手く手加減ができるかも知れないが、コジローは手加減は苦手であった。次元剣を使えば、確実に相手を斬ってしまうのだから・・・

それに、もし相手がとんでもない実力を持った「怪物」であったら、自分が怪我をするか殺される事になってしまう。

自分から強い相手を探してまで挑んでくるような者達である。並外れた実力がある者が多いだろう、コジローが絶対勝てるとは言い切れないのである。

ゼフトのくれた、ほぼ鉄壁と言えるマジックシールドがある限りは、そうそう負ける事はないであろうが、しかし、マジックシールドを打ち破る者が絶対に居ないという保証はない。

それに、やはり、奥の手はなるべく隠しておきたい。挑戦されたからといって自分の手の内をほいほい見せて広まってしまえば対策を講じられてしまうだろう。そうなれば、コジローの身がより危険になるのである。

しっかり実力がある強者であれば、弱点などないと動じないかも知れないが、実力のないコジローは、道具を使った奥の手はなるべく秘匿しておきたいのである。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

劣等冒険者の成り上がり無双~現代アイテムで世界を極める~

絢乃
ファンタジー
 F級冒険者のルシアスは無能なのでPTを追放されてしまう。  彼は冒険者を引退しようか悩む。  そんな時、ルシアスは道端に落ちていた謎のアイテム拾った。  これがとんでもない能力を秘めたチートアイテムだったため、彼の人生は一変することになる。  これは、別の世界に存在するアイテム(アサルトライフル、洗濯乾燥機、DVDなど)に感動し、駆使しながら成り上がる青年の物語。  努力だけでは届かぬ絶対的な才能の差を、チートアイテムで覆す!

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!

ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生! せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい! 魔法アリなら色んなことが出来るよね。 無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。 第一巻 2022年9月発売 第二巻 2023年4月下旬発売 第三巻 2023年9月下旬発売 ※※※スピンオフ作品始めました※※※ おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

大地魔法使いの産業革命~S級クラス魔法使いの俺だが、彼女が強すぎる上にカリスマすぎる!

倉紙たかみ
ファンタジー
突然変異クラスのS級大地魔法使いとして生を受けた伯爵子息リーク。 彼の家では、十六歳になると他家へと奉公(修行)する決まりがあった。 奉公先のシルバリオル家の領主は、最近代替わりしたテスラという女性なのだが、彼女はドラゴンを素手で屠るほど強い上に、凄まじいカリスマを持ち合わせていた。 リークの才能を見抜いたテスラ。戦闘面でも内政面でも無理難題を押しつけてくるのでそれらを次々にこなしてみせるリーク。 テスラの町は、瞬く間に繁栄を遂げる。だが、それに嫉妬する近隣諸侯の貴族たちが彼女の躍進を妨害をするのであった。 果たして、S級大地魔法使いのリークは彼女を守ることができるのか? そもそも、守る必要があるのか? カリスマ女領主と一緒に町を反映させる物語。 バトルあり内政あり。女の子たちと一緒に領主道を突き進む! ―――――――――――――――――――――――――― 作品が面白かったらブックマークや感想、レビューをいただけると嬉しいです。 たかみが小躍りして喜びます。感想などは、お気軽にどうぞ。一言でもめっちゃ嬉しいです。 楽しい時間を過ごしていただけたら幸いです。

魔法省魔道具研究員クロエ

大森蜜柑
ファンタジー
8歳のクロエは魔物討伐で利き腕を無くした父のために、独学で「自分の意思で動かせる義手」製作に挑む。 その功績から、平民ながら貴族の通う魔法学園に入学し、卒業後は魔法省の魔道具研究所へ。 エリート街道を進むクロエにその邪魔をする人物の登場。 人生を変える大事故の後、クロエは奇跡の生還をとげる。 大好きな人のためにした事は、全て自分の幸せとして返ってくる。健気に頑張るクロエの恋と奇跡の物語りです。 本編終了ですが、おまけ話を気まぐれに追加します。 小説家になろうにも掲載してます。

処理中です...