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第四章 マドネリ村
第65話 転移ネットワーク完成2
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結局、十七の都市に転移ネットワークを設置し終えるまでに4カ月ほどかかったが、これは、思ったより早いほうであった。
新しい街に行く度、その街の監査を行いながらになるので、時間がかかるのは当然であった。
特に問題なしのところは良いのであるが、問題がありそうなところは監査だけで数日=1~2週間もかかるケースもあったのである。
屋敷の整備もする必要があり、その街で新たに使用人を雇い、教育を行ってから、というケースすらもあった。
そして、屋敷の準備ができてからやっと、転移魔法陣の設置となるわけである。
アレキシもその仕事だけやっていればよいという立場でもなく、このままでは完成までに年単位の時間がかかりそうなペースであった。
しかし、以前から、監査の命を受けて各地を度していたリヴロットが呼び戻され作業に加わる事になり、アレキシと並行して別の街の準備を進められるようになったため、思ったより早く完成したのである。
ネットワークが完成して、領主の移動が楽になった。
とはいえ、今度は、各都市に領主自身が出かけていって監督業務を行う必要がある。移動が楽になったとはいえ、領主の仕事が減るという事はなかったのであるが。
それでも、夜には妻の待つアルテミルに戻って休み、また翌朝転移魔法陣で "通う" という事ができるようになるし、問題があった時にその街へ即座に駆けつけることができる。
これまで放置され問題のあった街の状況も改善に向かったことで、クリスも気分的にはかなり楽になったのであるが。
すべてのネットワークの利用料についてはかなり揉めた。
といっても、コジローの提示する金額が安すぎて、領主側がもっと出すという、利用者側からの値上げ交渉であったのだが。
結局、年間3万G、一ヶ月に2500Gずつ毎月もらうという契約で落ち着いた。庶民の平均的な年収が150G~300Gというところなので、コジローは領主に転移魔法陣を利用させるだけで働かなくとも裕福に暮らせる高給取りとなった。
しかし、もともと引きこもり気質は持っていなかったコジローである。この世界をもっともっと見てみたかったので、それには冒険者として登録して各地を旅するのが一番都合が良い。
コジローは領内の各街に出かけて行く度、その街のギルドに顔を出し、簡単な討伐依頼なども受けたりしていた。その依頼には盗賊の討伐依頼も含まれていた。
たまたま、リヴロットに伴ってノマラクという街に転移魔法陣の設置に行った時、盗賊の討伐依頼があった。
ノマラクという街は、アルテミルの西にある街である。アルテミルノ西にはサンテミルがあるが、さらにその西に70kmほどいったところにあるのがノマラクである。
そのノマラクから、さらに西にジフという街があるが、その間にある街道で、盗賊の被害が多いということであった。
リヴロットはノマラクの財政監査にしばらく掛かるので、その間にコジローが盗賊の情報を探り、後でリヴロットが街の冒険者ギルドから有志を募った討伐隊を出して仕留めるという計画であった。
コジロー一人に偵察を任せて大丈夫か?という意見が当然ギルドでは出たが、盗賊に接近し、もし発見されたとしても、コジローなら即座に転移で逃げる事ができるから大丈夫であろうというリヴロットの判断であった。
コジローの転移魔法の事は秘密であったが、領主の娘であり領内の騎士の団長でもあるリヴロットの言うことなので、ノマラクのギルドマスターもそれ以上反対できなかったのだが、内心は懐疑的であった。
だが、ギルドにいた冒険者から、アルテミルで領主を救った「剣聖」の噂話を聞き、コジローがそうかと黙って納得したのであった。
コジローが剣聖であるという噂は、本人の知らぬところで領内に広まりつつあった。
噂の出本は領主の護衛騎士であったカミールである。領主がリザードマンの大群に襲われたのをコジローが救った時、残って一緒に戦った騎士である。
そのカミールが領主の屋敷で働く者達にコジローの事を語ったのである。
「コジロー殿は、我々に『先に逃げろ』と言われ、笑顔で一人残られたのだ。
そして襲い来る2百匹のリザードマン軍団にたった一人で立ち向かわれたのだ。
命を捨てて我々を逃がすための時間を稼いでくれるつもりなのだろう、そう思った私は領主に志願して残らせてもらった。
彼だけを死なせはしない、私も英雄とともに死ぬ覚悟であった。
だが、そこで私が見たのは、奇跡のような光景であった。
コジロー殿はリザードマンの大群を、彼の獣魔の狼と共にすべて倒してみせのだ。
あれを剣聖と言わずしてなんと呼べばよいのか?」
多少、ドラマチックな表現はあったが、カミールは嘘は語っていなかった。
しかし、それを聞いた屋敷の使用人達や騎士達から人づてに話が伝わっていく。そして、伝わっていく内に話に尾ひれがついていくものである。
コジローが倒したリザードマンは数十匹、残りはマロの雷撃で倒されたのだが、コジローが一人で千匹倒した事になり、勝手に「北の国からやってきた剣聖」という事になっていたのであった。
噂の件はともかく、コジローとしてはリヴロットが気を効かせてくれたのが有り難かった。転移魔法が思い切り使えるので、一人のほうが力が出しやすいためである。まぁ、実際にはマロがいるので、転移を使うまでもなく問題はなく討伐できるとは思うのだが。
コジローは、偵察を引き受けたものの、実はノウハウもなく、どうしていいのか正直分からなかったので、とりあえず問題の街道に行ってみる事にした。
ただ歩いているだけで襲ってくるものか疑問もあったのだが、相手は意外と素直に襲ってきてくれた。
新しい街に行く度、その街の監査を行いながらになるので、時間がかかるのは当然であった。
特に問題なしのところは良いのであるが、問題がありそうなところは監査だけで数日=1~2週間もかかるケースもあったのである。
屋敷の整備もする必要があり、その街で新たに使用人を雇い、教育を行ってから、というケースすらもあった。
そして、屋敷の準備ができてからやっと、転移魔法陣の設置となるわけである。
アレキシもその仕事だけやっていればよいという立場でもなく、このままでは完成までに年単位の時間がかかりそうなペースであった。
しかし、以前から、監査の命を受けて各地を度していたリヴロットが呼び戻され作業に加わる事になり、アレキシと並行して別の街の準備を進められるようになったため、思ったより早く完成したのである。
ネットワークが完成して、領主の移動が楽になった。
とはいえ、今度は、各都市に領主自身が出かけていって監督業務を行う必要がある。移動が楽になったとはいえ、領主の仕事が減るという事はなかったのであるが。
それでも、夜には妻の待つアルテミルに戻って休み、また翌朝転移魔法陣で "通う" という事ができるようになるし、問題があった時にその街へ即座に駆けつけることができる。
これまで放置され問題のあった街の状況も改善に向かったことで、クリスも気分的にはかなり楽になったのであるが。
すべてのネットワークの利用料についてはかなり揉めた。
といっても、コジローの提示する金額が安すぎて、領主側がもっと出すという、利用者側からの値上げ交渉であったのだが。
結局、年間3万G、一ヶ月に2500Gずつ毎月もらうという契約で落ち着いた。庶民の平均的な年収が150G~300Gというところなので、コジローは領主に転移魔法陣を利用させるだけで働かなくとも裕福に暮らせる高給取りとなった。
しかし、もともと引きこもり気質は持っていなかったコジローである。この世界をもっともっと見てみたかったので、それには冒険者として登録して各地を旅するのが一番都合が良い。
コジローは領内の各街に出かけて行く度、その街のギルドに顔を出し、簡単な討伐依頼なども受けたりしていた。その依頼には盗賊の討伐依頼も含まれていた。
たまたま、リヴロットに伴ってノマラクという街に転移魔法陣の設置に行った時、盗賊の討伐依頼があった。
ノマラクという街は、アルテミルの西にある街である。アルテミルノ西にはサンテミルがあるが、さらにその西に70kmほどいったところにあるのがノマラクである。
そのノマラクから、さらに西にジフという街があるが、その間にある街道で、盗賊の被害が多いということであった。
リヴロットはノマラクの財政監査にしばらく掛かるので、その間にコジローが盗賊の情報を探り、後でリヴロットが街の冒険者ギルドから有志を募った討伐隊を出して仕留めるという計画であった。
コジロー一人に偵察を任せて大丈夫か?という意見が当然ギルドでは出たが、盗賊に接近し、もし発見されたとしても、コジローなら即座に転移で逃げる事ができるから大丈夫であろうというリヴロットの判断であった。
コジローの転移魔法の事は秘密であったが、領主の娘であり領内の騎士の団長でもあるリヴロットの言うことなので、ノマラクのギルドマスターもそれ以上反対できなかったのだが、内心は懐疑的であった。
だが、ギルドにいた冒険者から、アルテミルで領主を救った「剣聖」の噂話を聞き、コジローがそうかと黙って納得したのであった。
コジローが剣聖であるという噂は、本人の知らぬところで領内に広まりつつあった。
噂の出本は領主の護衛騎士であったカミールである。領主がリザードマンの大群に襲われたのをコジローが救った時、残って一緒に戦った騎士である。
そのカミールが領主の屋敷で働く者達にコジローの事を語ったのである。
「コジロー殿は、我々に『先に逃げろ』と言われ、笑顔で一人残られたのだ。
そして襲い来る2百匹のリザードマン軍団にたった一人で立ち向かわれたのだ。
命を捨てて我々を逃がすための時間を稼いでくれるつもりなのだろう、そう思った私は領主に志願して残らせてもらった。
彼だけを死なせはしない、私も英雄とともに死ぬ覚悟であった。
だが、そこで私が見たのは、奇跡のような光景であった。
コジロー殿はリザードマンの大群を、彼の獣魔の狼と共にすべて倒してみせのだ。
あれを剣聖と言わずしてなんと呼べばよいのか?」
多少、ドラマチックな表現はあったが、カミールは嘘は語っていなかった。
しかし、それを聞いた屋敷の使用人達や騎士達から人づてに話が伝わっていく。そして、伝わっていく内に話に尾ひれがついていくものである。
コジローが倒したリザードマンは数十匹、残りはマロの雷撃で倒されたのだが、コジローが一人で千匹倒した事になり、勝手に「北の国からやってきた剣聖」という事になっていたのであった。
噂の件はともかく、コジローとしてはリヴロットが気を効かせてくれたのが有り難かった。転移魔法が思い切り使えるので、一人のほうが力が出しやすいためである。まぁ、実際にはマロがいるので、転移を使うまでもなく問題はなく討伐できるとは思うのだが。
コジローは、偵察を引き受けたものの、実はノウハウもなく、どうしていいのか正直分からなかったので、とりあえず問題の街道に行ってみる事にした。
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