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第四章 マドネリ村

第56話 亜空間魔法を使いこなそう1

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街のスタンピード騒動が終わり、街はその後始末に追われることとなった。

具体的には、街の外にある大量の魔物の死体の処理、それからマロが作ってしまった、正門前のクレーターの埋め立てである。

特に、クレーターの埋め立ては問題であった。全部を埋め立てるとなると、一朝一夕には行かない大きさだったからである。

しかし、街に出入りする馬車が通ることができないと、流通に支障が出る。2~3日ならなんとかなるだろうが、できるだけ早く通行可能にしたい。

クレーターの入口と出口部分だけを削って緩やかなスロープにして、底に降りてまた登るようにするという案も出た。端部を魔法で吹き飛ばして削るほうが、土を運んできて埋め立てるより簡単だからである。

しかし、雨が降れば、クレーターには水が貯まるであろう。溜まった水を排水する方法もないという反論が出、その案は没になったのであった。

とりあえず、クレーターの外周を通れるように道を作ることになった。クレーターを迂回して行く事になるので少し遠回りにはなるが、それならそれほど時間がかからずに開通できる。

穴の両側に通路を作り、往来の方向を決めて一方通行にしてしまえば、混雑も起きないであろう。

道を作るために、いくつか邪魔な木や岩があった。町から木こりや石材加工の職人を呼んでこようという話になったが、コジローが次元剣で切断してしまった。周囲から「さすが剣聖」などという声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

ただ、地面ギリギリに次元剣で切る事はできない。切り株は残る。また岩も根元が残ってしまう。仕方ないので、次元剣を縦に振るい、地面の中まで切り込みを大量に入れて細切れにしてしまい、引っこ抜く事にした。

次元剣ならば、地面の中まで深く切る事も可能なのであるが、それでも地面から引っこ抜くのには力が必要だ。

だが、コジローは重力魔法があることを思い出した。相手の動きを封じるために相手に重力をかけるという使い方しかしたことがなかったののだが、重量を軽くすることもできるので、モノを持ち運ぶときには便利であると気づいた。もちろん、切り株や岩を引っこ抜くのにも使える。

それでも深く食い込んでいる根や岩は、次元剣を斜めに、地面をえぐる様に振るってしまえばよいことに気が付いた。周囲、何方向からか抉ってしまえば、切り株も岩もきれいにとれるようにあるわけである。

あとは、重力魔法でどんどん掘り出して、クレーターの中に放り込んでいく。切った木の上部や岩も中に放り込んでしまった。

あと抉った場所に土を持って平らにならせば道はできる。踏み固めてはいないが、たくさんの人や馬車が通行すれば自然に踏み固められていくだろう。

クレーターに落ちないように柵が欲しくなるが、可及的速やかに埋めてしまう予定なのでなくてもよいという事になった。

しかし、土を運んできて、クレーターに入れて行く。犯罪奴隷も作業に参加させている、レメキとチリッソの姿もあった。ドジル達も素直に自白してくれれば、このような処置だけで済んだのに・・・とコジローは、ゼフトの隠れ家の近くで蠢いているであろうドジルであった食肉植物を思い出していた。。。

しかり、人力では果てしなく時間がかかる作業に思えた。なんとかならないものか・・・

ふと、転移魔法を使って、どこからから土を転送してきたら良いのではないか?と思いついた。だが、大勢の人間が見ている前ではやりたくない。夜中にこそっりやってみるか・・・

城郭都市は、夜は城門を閉めて出入りが禁止される。夜中に出入りする場合は領主の特別な許可がいる。

しかし、転移が使えるコジローは城門を開けてもらう必要はない。とはいえ、一応領主のクリスにやっていいか尋ね、許可をもらっておいたほうがよいかと思い、話しに行った。



夜中、城門の外。

コジローは、事前に聞いておいた、埋め立て用に使う土を用意するために山肌を切り崩している採掘現場を聞いておいたので、そこから転移魔法で土を移動してみることにした。魔物が襲ってこないか、マロに周囲を警戒しておいてもらうが、静かなものであった。スタンピードの時の魔狼の攻撃に恐れをなして、魔物たちは周辺からいなくなってしまったのかも知れない。

ふと見ると、マロ以外に何頭か魔狼が遠巻きに見ていた。彼らが居るから魔物が襲ってこないのか・・・

既に切り出されて山になっている土があったので、それを転移魔法で移動させる。

土置き場の土の山が淡い光に包まれ消え、クレーターの上空に浮かんだ魔法陣から土が落ちてきた。成功だ。

ただ、土が足りない。まだ切り崩されていない山肌から、直接土を転送できるだろうか・・・?
試してみたが、上手くいかなかった、理由はよくわからない。

ちょっとアプローチを変えてみることにした。転移ではなく、亜空間操作を使ってみる。マジッククローゼットはかなりの大きさまで使用可能になっていた。それは、どこにでも好きな場所に作り出すことができる。

例えば・・・土を削り出した時に出てきたのであろう岩が転がっていたので、その上に亜空間を開いてみる。いままでは、人力で亜空間収納の中にモノを出し入れしていたのであるが・・・今回は、岩の上に、入り口を下に向けた亜空間を開き、それを移動して、岩に被せる様にしてみたところ・・・亜空間の中に無事、岩を収納することができた。

クレーターまで転移で移動し、亜空間収納を開いて、無事クレータの中に岩を落とすことができた。

採掘場に戻り、別の岩を同じように亜空間収納で被せてみる。そして、全体を収めるのではなく、半分だけのところで、亜空間収納を閉じてみようとしたが、上半分が消えた状態で動かない。岩は半分亜空間の中、半分この世界の中にある状態になっているようだ。そこから亜空間を動かすことも閉じることもできなかった。

だが、少し無理やり動かすように、いろいろ試していたら、何かの拍子に空間が "閉じた" のを感じた。岩は、残った半分と亜空間の中の半分で、切断されていた。

亜空間とこの空間の接続が、通常は連続しているが、それを切り離してしまうこともできるようだ。なんどか試してみて、切り離す場合と接続したままの状態を維持する場合の使い分けのコツが掴めてきた。

ああ、これが "次元断裂" かと、コジローは急に腑に落ちたような気がした。次元剣=次元断裂剣は、次元、つまり空間を断裂することで切断するとゼフトは言っていた。次元剣は、物質を切断しているのではなく、空間を切断しているのである。

空間が次元ごと切り離されてしまうので、次元と密着して存在している物質は、どんなものでも切断されてしまう・・・

もしかしたら、厳密には違うのかも知れないが・・・、なんとなく、そんなものと理解しておけばよいであろうとコジローは思った。正しく理解していようがいまいが、次元剣を振るえば斬れないものはない。それだけ理解していればOKであろう。


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