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第三章 アルテミルの街とその領主

第52話 マジックポーチを自作してみた

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コジローは、街に来てから、この世界の金銭感覚を掴むために店を見て回り、価格の調査をした。

この世界の通貨は、金貨・銀貨・銅貨だけで、紙幣はないようだった。

金貨1枚=1G(ゴールド)=1万円

銀貨1枚=1S(シルバー)=百円

銅貨1枚=1C(カッパ)=1円

という感じであった。



さて、転送の依頼であるが、その報酬について・・・転移の利用料金ともいえるが、金額をいくらにすべきなのか、コジローと伯爵、アレキシは頭を悩ませる事ととなった。

コジローは転送一回につき1Gと簡単に提示した。一回、金貨1枚。シンプルでわかりやすくていいとコジローは考えたのだが。

それは安すぎると逆に伯が止めたのであった。転移魔法の価値を理解していないと。

適正な価格がいくらぐらいなのか、コジローには見当がつかないのであるが、一般的にはどうなのであろうか?と考えてみた。

王宮などにあるという転送装置は、数百人がかりで設置・運営しているそうである。一度使うのに、魔法使い数百人が1~2週間も魔力を貯め続けなければならないとか。単純に人件費だけで考えて・・・・一回の使用に1万Gくらい取っても赤字になりそうな計算である。

では1万Gで、とコジローが言ったところ、それは高すぎるとまたしても突っ込まれた。伯爵領も決して裕福ではないので、そんな金額を請求されても困る、できたらもっと安くしてほしいとの事であった。

困ったコジローは別の計算を考えてみた。

馬車一台に護衛の冒険者三人、馬二頭と御者一人を雇って、一日あたり5~20Gくらいだとのこと。ならば、一回10Gという事でどうかというコジローの提案に伯爵も乗った。双方、それが適正な価格なのか半信半疑なところもあったのだが、とりあえずということで、それで様子を見ることになった。

本当は、それでは安いのではないかと伯爵は思っていたのだが、予算が潤沢にあるわけではないため、このへんで手を打たせてもらおうと考えたのである。

ただし、価格については、今後お互いに、随時応相ということになった。

一回で10G、低ランク冒険者の一日の稼ぎとしては高額と言える。月に一度しか利用がないのであれば、それだけで食べていけるほどでないが。月に3~4回利用してくれれば十分食べていける額にはなりそうである。冒険者ならば税金かからないため、二回利用してもらえば、贅沢をしなければ十分生活はしていけるかも知れない。

『そうなると、経路を増やしていく営業努力も必要かなぁ、領内の各都市に行って経路拡大したほうがいいか・・・』

とりあえず、今日の分の転送料は、前金でもらったので、それで少々買い物をする予定であった。



街の雑貨屋。買うのは、巾着袋。コジローはこれに亜空間収納魔法を掛け、マジックポーチとして売ってみるつもりであった。

巾着袋は、店で売られている一番頑丈そうな革製のものを選んだ。

一旦宿に帰り、買ってきた巾着袋に亜空間収納魔法を掛けてみる。

亜空間の収納空間を、コジローはどこにでも作り出すことができる。それを袋の中に作る。

できた巾着袋に手を突っ込んで見た。15cm程度の巾着袋に、腕がどんどん入る。肩まで入ったところで底についた。

あまり深くなると取り出せなくなる。巾着でこれだとちょっと深すぎるかも知れない。
今のところは、コジローの魔法では、自動的に欲しい物を近くに引き寄せるような能力はないのであった。

やり直し。。。

今度は成功。15cmの深さの巾着袋が40cm程度の深さとなった。お手軽バッグとしてはちょうど良さそうであった。

大きさが決まったので、亜空間をそのまま袋に固定化する。魔法陣が浮かび上がり、袋が淡い光に包まれ、消える。数秒で終わる。

普通はこんなに簡単にはできないのだが、ゼフトの術式が優秀であるがゆえ可能なのであった。



それを持って、今度は魔道具屋にコジローは向かった。

店のオヤジに買い取ってくれるか見てもらう。腰を抜かさんばかりに驚く道具屋のオヤジ。是非買い取らせてくれというが、金額が決まらない。

マジックポーチはこの世界では希少品で、かなり高額になるらしい。また、価格が高いので、一般人はあまり買えないらしい。買い取るのはおそらく貴族や、かなり儲けている高ランク冒険者などだそうである。

ただ、これは手を突っ込んでモノを取り出す必要があるし、それほど容量が大きいわけではないので、やや安くなるだろうとのこと。買い手がつくか微妙な性能で、金額がなんともいえない。おそらく50G程度では売れるのではないかと予想したが・・・

買い手をみつけたら、買取価格の1割をもらうと言うことでどうかとオヤジが言い出し、コジローは承諾した。オヤジは紙に手書きで契約内容を書いてコジローに渡し、買い手に心当たりがあると言って、店を閉め裏からいそいそと出かけていった。

コジローも約束の時間が近くなったので領主の屋敷に戻ることにする。
屋敷に着き、執事に案内されて領主執務室に入ると、中に先程の道具屋のオヤジが居た。。。



コジローがマジックバッグも作れると聞いて、クリスはまた頭を抱えてしまった。

空間拡張魔法というのは、優秀な魔道士や錬金術師がたくさん集まって、時間と労力をかけてやっと作れるものなのだが、それを簡単に作られてしまうと、経済への影響が恐ろしいことになる・・・もちろん、それはこの街にとっては悪いことではないのではあるが。。。

やはり、死霊の森の魔術師の弟子というのは、本当だったとクリスは思い知らされるのであった。そもそも、転移魔法が使えている時点で、疑う余地はないのであるが。。。

マジックポーチは50Gで伯爵が買い取ってくれた。下の娘にプレゼントするらしい。



時間になったので、サンテミルの領主の倉庫に転移したコジロー。執務室には既にアレキシが待っていた。アレキシを連れて、再びアルテミルへ転移する。コジローは、まだ初日だが、結構面倒になってきた。転移魔法陣について、さっさとカミングアウトしてしまったほうがよいだろうか・・・?とも思ったのだが、まだそこまで手放しでウィルモア伯爵を信用する気にならず、やはりしばらく様子を見ることにするコジローであった。



その日の夜、いつものように魔力錬成の呼吸法と体操をやっていたところ、カランといつものレベルアップの音が聞こえてきた。

オーブのペンダントを握って確認してみると、魔法陣転移がレベルアップしていた。

魔法陣に、有効期限を設けることができるようになったようだ・・・!

これは、転移魔法陣の販売に都合が良いかもしれない。

転移魔法陣を設置するのはよいが、その利用料金(あるいは設置料金)が問題になるだろう。

最初に一括で大きな金額を貰ってしまう方法もあるだろうが、半永久的に利用できるものであるなら、天文学的な価格になりかねない。

分割払いにしてもらってもよいが、そのうち支払われなくなるという可能性もある。

一定の期間が経つと使用できなくなるというものであれば、都度契約を更新していく方式が取れる。

しばらく様子を見てから、転移魔法陣について伯爵に話してみようと思うコジローであった。



一応、その前に、コジローは実験をしてみた。

宿の室内の床に転移魔法陣を設置

魔法陣が浮かび床に焼き付けられたように固定された。

すぐ隣に対となる魔法陣設置。

マロに試してもらった。

片方の魔法陣に乗って、マロが魔力を込めると、魔法陣が淡い光を放ち、マロの体がすぅっと消える。

同時に、隣の魔法陣にマロの姿が浮かび上がってくる。

逆方向も問題なし。

魔法陣の使用期限は10分に設定してみた。

しばし待つコジロー。

やがて期限の刻が過ぎると、魔法陣は淡い光を放ちながら空中に霧散するように消えていった。

同じように部屋の隅に魔法陣を設置、今度は期限を1週間に設置。部屋の反対側に一ヶ月で設置してみた。

それぞれ、期間の間きちんと設置されているか、期限がきたら消えるか確認できるであろう。

しかし翌日、部屋の掃除に入った宿の人間に、床に落書きするなと怒られてしまった。

期限がくれば消えると説明し、期限までの宿代を前払いするという事で許してもらったのだった。


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