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第三章 アルテミルの街とその領主

第45話 領主の招待1

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「それで、礼を言うために彼を呼びに行かせたのに、牢に入れたというのか・・・?!」

街道でリザードマンに襲われた時に助けてくれた青年コジローに、とりあえずは娘から礼を伝えてくれるようにクリスは頼んでいたのだが、いまだに礼を伝えられていないと聞き、クリス伯はさっそくコジローを連れてくるよう指示を出そうとしたのだが、リヴが慌ててそれを止め、レメキがコジローを呼びつけた時の顛末を伝えたのだった。

クリスは頭を抱えてしまった。そんな事が日常茶飯事に行われていたのだとしたら・・・

つくづく、レメキは代官として、どれだけウィルモア家の名前を汚してくれたのか・・・汚名返上には相当な時間がかかるかも知れない。。。

「それでは、また呼びつける、というわけにはいかんか・・・」

とはいえ、慣例上、伯爵ほどの爵位の貴族がわざわざ礼を言いに行くわけにも行かない。クリスは貴族が平民より偉いなどと思い上がっているタイプではないが、それでも、この世界の貴族や王族の慣習というのは厳しいのである。

代わりにリヴロットとアナスタシアの姉妹が直接出向くと言いだした。

だが、それはそれで、許容できないものがクリスにはあった。

前代官の被害者に伯爵が直接謝罪に出向いたのは、例外中の例外である。それだけ伯爵が誠意を見せたからこそ、領民にとりあえず許してもらえたのである。

しかし、妙齢の貴族の令嬢が、男性を自ら迎えに行くとなると、世間には違った意味を持ってしまう。
そこで、妥協案として、クリスの右腕の領政官であるアレキシに行ってもらうという事になった。

しかしその前に、クリスはコジローがどのような人物なのか、アレキシに調べるように命じた。

そして、報告を聞いて、また頭を抱えてしまった。

よりによって、あの、死霊の森の魔術士の弟子とは・・・



実は、ウィルモア伯爵家にとって、死霊の森の魔術士は禁忌であった。

その森は立入禁止、魔術士には触れてはならない、関わってはならない。
森と魔術士は人間の法の外にあるものである。

何代前からか分からないが、絶対のルールが伝えられているのだ。

クリスの祖父がまだ若い頃、そんな言い伝えは迷信・悪しき慣習だとして、死霊の森に手を出そうとした事があると聞いた。じゃまな魔術師など排除し、開拓しようとしたのだ。

ところがその後、祖父は恐ろしい目に遭い────何があったのかは分からないが────計画を断念。死霊の森は立入禁止、決して近づいてはならないと、これまで以上に強く子孫に伝えられるようになったのだった。

そもそも、何代も前からの言い伝えであるとしたら、森に魔術士が本当に存在したとしても、とうに寿命で死んでいるはずである。だが弟子が居て、街に出てきたとなると、魔術士は実在することになる。

もちろん、魔術師が人間ではなくエルフなどの長命な種族であるという可能性もあるが・・・。
魔術士が実はアンデッドであるという噂もあるが、さすがにそれは迷信であろうとクリスは思っていた。

もしかしたら、魔術士は何代か、代替わりしながら引き継がれているのではなかろうか?
だとすると、次の代の魔術士になるべく、弟子がいたとしても不思議ではない。

絶対に触れてはならないと言われているが、向こうから出てきた弟子については接触しても構わないのか?
しかし、禁忌についてはかなり厳しく言われてきている。下手に関わって怒らせてしまったら危険かも知れない・・・どうしたものか。

そもそも、本当にその男は死霊の森の魔術士の弟子なのか?
嘘をついている可能性もあるかも知れない。

とはいえ、助けてもらったのは事実である、礼儀として、礼と謝罪はするべきだろう。
とりあえず、アレキシに、くれぐれも丁重に彼を招待するようにと指示を出した。



そんな訳で、コジローの元に、領主の使いとしてアレキシが訪ねてきたのであった。

コジローが宿に戻ると、昼間、領政官と名乗る男がコジローを訪ねてきて、伝言を残していったと宿の女将に言われた。要件は、コジローを領主の館に招待したいとの事だそうだ。

またか?と一瞬コジローは思った。
領主の館に連れて行かれいきなり牢に入れられたのは記憶に新しい。
また面倒に巻き込まれるのか?さっさと無視して逃げてしまおうか・・・


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