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第三章 アルテミルの街とその領主
第41話 クーデター勃発、付き合わされるコジロー2
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しかし。
始まってみれば、リヴロットの独壇場であった。
リヴロットは領主の娘であるが、その剣の腕は国内でもトップクラスなのだ。冒険者ではないのでランクはないが、比較するならばその実力はランクA超級。もちろんリエはそれを知っていて提案したのである。
一人、また一人、次々降参していく冒険者達。
リヴロットはそれほど動きが速いわけでもないのに、冒険者達の剣は空を斬り、不思議と気がつけば剣を喉元に突き付けられてしまう。
最初は大声て冒険者を応援していた街の人達も、だんだん静かになっていった。そのうち、冒険者たちが手を抜いてるんじゃないかという声まで囁かれ始める。
ついに、残るはコジローだけとなってしまった。
リエは
「リヴ、コジローは私に勝ったのよ、手強いわよ」
と余計な事を言う。
リヴロットも、コジローの名を聞いて、カミールが話していた人物であると気がついた。
「剣聖か・・・私もやってみたいと思っていた!」
とコジローに剣を向けた。
銀色に輝く刀身、ミスリルの剣である。
どこかで見たことがあると思ったら、街道でアルマジリザードをカミールが切り裂いていた時に使っていた剣に似ているのだ。そう、カミールから剣を返された領主は、娘にそれを渡していたのだ。
しかし、正直、コジローは困っていた。
悪代官は懲らしめられれば良いとは思うが、しかしコジロー個人には、代官を私刑に掛けて殺したいと言うほどの恨みはないのである。
できたらコジローは不参加ということにしたい、どうにかならないだろうか?
しかし、街の人の気持ちも分かる。家族や恋人を殺された人の期待がコジローにのしかかってくる。
また、木剣なら良いが、真剣での勝負となると、別の問題もあった。
コジローの武器である次元剣は危険過ぎるのだ。何でも斬れるその刃は、攻撃を受け止めただけで、相手の剣を切断してしまうだろう。ミスリルの剣もおそらくそうなるのは想像に難くない。
斬り付けても同様である、空振りなら良いが、相手が受け止めようとしたら、そのまま武器や防具ごと切断してしまう。
魔物退治とは違う、人に向かってこの剣を使うのは、本気で殺す覚悟がある時だけだろう。
しかし、防風剣女の二つ名を持つリエに勝ったと言う煽り文句に、観客の期待は膨らみ、声援も加熱していく。
なんとか不戦敗に持ち込む方法を必死に考えていたコジローだったが、リエに促され、仕方なく前に出た。
コジローは次元剣を抜いた。刀身は短いまま伸ばさず、片手持ちで構える。
『短剣を武器にする剣士なのか?』
リヴロットは意外に思った。カミールの話では、長剣を使っていたはずであるが・・・
コジローは勝ちたいわけではない、むしろ負けたほうが丸く収まるだろう。
しかし、この相手に、手抜きはかえって危険とも感じていた。
魔法と武器の優秀さで底上げされているが、コジローの実際の剣の腕は大したことはないのである。
相手は真剣を使って本気で斬り掛かってくると思われる。
死にものぐるいでやるしかない、中途半端はかえって怪我をする。
コジローは、短剣に両手を添え、刀を返して峰打ちにすると、すっと後方に引いた。
変形脇構えとでも言おうか、肩に担ぐように後方に剣を引いた構えにより、刀身がコジローの体に隠れてみえなくなる。日本の古流剣術では似た構えが伝承されている流派も多い。コジローは "小次郎が行く" に書いてあったのを憶えていたのである。
その状態で、剣を伸ばす。リヴロットからは剣の長さは見えていないはずである。
短い剣しか持っていないと思わせておいて、遠い間合いから長剣で攻める奇襲戦法である。
剣が伸びたのを見て、横から見ている観客からは驚きの声が上がる。それを聞いて気づかれてしまったかも?と思いながらも、コジローは加速を発動、遠間から高速の水平斬りを放った。
しかし、リヴロットは前に出ながら、あっさりと剣で受け止めてしまった。
まぁ、この程度で通用するとはコジローも思ってはいなかったので全力で打ちかかったのだが。
実は、もしかして次元剣なら峰打ちでも斬れてしまうかも?とちょっとだけ不安だったのだが、大丈夫のようでコジローはほっとした。
「伸び縮みするのか、面白い武器だが・・・奇襲など効果はない!」
リヴロットが一気に前に出て打ち込んでくる。踏み込み・打ち込みの速さは恐ろしいほどであった。
素の打ち込みも恐ろしく速いのであるが、実は、それに上乗せして、脚力を瞬間的に上げ踏み込みを早くする身体強化魔法をリヴロットも使っているのだった。
以前のコジローであったら対応できなかっただろう、しかし、"加速" が8倍速まで進化しているので、速度ではコジローのほうが上回っているようである。これなら行けるかもしれない・・・
しかし、コジローの打ち込みはすべて防がれてしまう。
何かおかしい・・・
相手のほうが明らかに動きが遅いのに、相手に先回りされる・・・
何度か剣を交差させるうちに、なんとなくであるが、コジローは違和感の正体に気がついてしまった。
ちょっと試してみたい。
コジローは、リヴロットが観客たちに背を向ける位置、観客からはリヴロットの体の影になってコジローがよく見えない位置になるように移動し、転移斬をしかけた。
そして、コジローははっきりと見た。リヴロットは、コジローが転移を発動するより前に、コジローの剣撃が来るであろう位置に剣を置いて防御態勢に入ったのだ。
そこに、転移で現れたコジローの剣が、まるで打ち合わせ済みかのように当たりに行った。
自分の考えを読まれた、という感じではなかった。心を読んだだけで、転移後の斬撃の位置まで分かるというのは不自然である。これは・・・
始まってみれば、リヴロットの独壇場であった。
リヴロットは領主の娘であるが、その剣の腕は国内でもトップクラスなのだ。冒険者ではないのでランクはないが、比較するならばその実力はランクA超級。もちろんリエはそれを知っていて提案したのである。
一人、また一人、次々降参していく冒険者達。
リヴロットはそれほど動きが速いわけでもないのに、冒険者達の剣は空を斬り、不思議と気がつけば剣を喉元に突き付けられてしまう。
最初は大声て冒険者を応援していた街の人達も、だんだん静かになっていった。そのうち、冒険者たちが手を抜いてるんじゃないかという声まで囁かれ始める。
ついに、残るはコジローだけとなってしまった。
リエは
「リヴ、コジローは私に勝ったのよ、手強いわよ」
と余計な事を言う。
リヴロットも、コジローの名を聞いて、カミールが話していた人物であると気がついた。
「剣聖か・・・私もやってみたいと思っていた!」
とコジローに剣を向けた。
銀色に輝く刀身、ミスリルの剣である。
どこかで見たことがあると思ったら、街道でアルマジリザードをカミールが切り裂いていた時に使っていた剣に似ているのだ。そう、カミールから剣を返された領主は、娘にそれを渡していたのだ。
しかし、正直、コジローは困っていた。
悪代官は懲らしめられれば良いとは思うが、しかしコジロー個人には、代官を私刑に掛けて殺したいと言うほどの恨みはないのである。
できたらコジローは不参加ということにしたい、どうにかならないだろうか?
しかし、街の人の気持ちも分かる。家族や恋人を殺された人の期待がコジローにのしかかってくる。
また、木剣なら良いが、真剣での勝負となると、別の問題もあった。
コジローの武器である次元剣は危険過ぎるのだ。何でも斬れるその刃は、攻撃を受け止めただけで、相手の剣を切断してしまうだろう。ミスリルの剣もおそらくそうなるのは想像に難くない。
斬り付けても同様である、空振りなら良いが、相手が受け止めようとしたら、そのまま武器や防具ごと切断してしまう。
魔物退治とは違う、人に向かってこの剣を使うのは、本気で殺す覚悟がある時だけだろう。
しかし、防風剣女の二つ名を持つリエに勝ったと言う煽り文句に、観客の期待は膨らみ、声援も加熱していく。
なんとか不戦敗に持ち込む方法を必死に考えていたコジローだったが、リエに促され、仕方なく前に出た。
コジローは次元剣を抜いた。刀身は短いまま伸ばさず、片手持ちで構える。
『短剣を武器にする剣士なのか?』
リヴロットは意外に思った。カミールの話では、長剣を使っていたはずであるが・・・
コジローは勝ちたいわけではない、むしろ負けたほうが丸く収まるだろう。
しかし、この相手に、手抜きはかえって危険とも感じていた。
魔法と武器の優秀さで底上げされているが、コジローの実際の剣の腕は大したことはないのである。
相手は真剣を使って本気で斬り掛かってくると思われる。
死にものぐるいでやるしかない、中途半端はかえって怪我をする。
コジローは、短剣に両手を添え、刀を返して峰打ちにすると、すっと後方に引いた。
変形脇構えとでも言おうか、肩に担ぐように後方に剣を引いた構えにより、刀身がコジローの体に隠れてみえなくなる。日本の古流剣術では似た構えが伝承されている流派も多い。コジローは "小次郎が行く" に書いてあったのを憶えていたのである。
その状態で、剣を伸ばす。リヴロットからは剣の長さは見えていないはずである。
短い剣しか持っていないと思わせておいて、遠い間合いから長剣で攻める奇襲戦法である。
剣が伸びたのを見て、横から見ている観客からは驚きの声が上がる。それを聞いて気づかれてしまったかも?と思いながらも、コジローは加速を発動、遠間から高速の水平斬りを放った。
しかし、リヴロットは前に出ながら、あっさりと剣で受け止めてしまった。
まぁ、この程度で通用するとはコジローも思ってはいなかったので全力で打ちかかったのだが。
実は、もしかして次元剣なら峰打ちでも斬れてしまうかも?とちょっとだけ不安だったのだが、大丈夫のようでコジローはほっとした。
「伸び縮みするのか、面白い武器だが・・・奇襲など効果はない!」
リヴロットが一気に前に出て打ち込んでくる。踏み込み・打ち込みの速さは恐ろしいほどであった。
素の打ち込みも恐ろしく速いのであるが、実は、それに上乗せして、脚力を瞬間的に上げ踏み込みを早くする身体強化魔法をリヴロットも使っているのだった。
以前のコジローであったら対応できなかっただろう、しかし、"加速" が8倍速まで進化しているので、速度ではコジローのほうが上回っているようである。これなら行けるかもしれない・・・
しかし、コジローの打ち込みはすべて防がれてしまう。
何かおかしい・・・
相手のほうが明らかに動きが遅いのに、相手に先回りされる・・・
何度か剣を交差させるうちに、なんとなくであるが、コジローは違和感の正体に気がついてしまった。
ちょっと試してみたい。
コジローは、リヴロットが観客たちに背を向ける位置、観客からはリヴロットの体の影になってコジローがよく見えない位置になるように移動し、転移斬をしかけた。
そして、コジローははっきりと見た。リヴロットは、コジローが転移を発動するより前に、コジローの剣撃が来るであろう位置に剣を置いて防御態勢に入ったのだ。
そこに、転移で現れたコジローの剣が、まるで打ち合わせ済みかのように当たりに行った。
自分の考えを読まれた、という感じではなかった。心を読んだだけで、転移後の斬撃の位置まで分かるというのは不自然である。これは・・・
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